エルフさんの協力を得て、門の迷宮に辿り着いた。
普通に目指しても辿り着けない封印の地。魔法によって隠された神代の門に早々に足を踏み入れることができたのは、何処からかエルフさんが連れてきた行商人さんに協力してもらえたからだ。
「ええ、ええ!お気になさらず!ただ少しの商品を買っていただけりゃあ、あっしとしては充分でさぁ」
お得意様には、よぉくしておかなきゃならねぇもんで。
不思議な喋り方の行商人さんは、お礼を言う私に鷹揚に答えて、すぐに姿をくらましてしまう。
神出鬼没というのだろうか。飄々とした、掴みどころのない人だった。お礼のつもりで購入したお守りを懐にしまい、隣で真剣な目をしたエルフさんに向き直る。
「む。ここでこの剣を手に入れられるとは、彼奴やりおる」
手にしている片手剣は、そんなに凄いものには見えないけど、エルフさんが言うには聖剣という伝説の武器らしい。ふーん、すごい。
そんなものを売っている行商人さんは何者なんだろう。疑問を口にしようとして、視界の端に少女が佇んでいるのに気がついた。
「迷宮に武器は持ち込めないよ。それの出番はなさそうだね」
綺麗な黒の髪に、黄金の瞳。
エルフさんから聞いていた特徴を全て備えた少女の登場は、極めて自然で。自分で言うのもなんだけど、もっと、こう、運命の瞬間!みたいな感じだと思っていたんだけど。割と因縁の相手のはずなのに、とても不思議な感じ。
エルフさんに親しげに話しかけながら歩み寄ってくる女の子は、お姉ちゃんが自分を省みずに命を掛けて守った、お姉ちゃんの相棒。
門の迷宮、その管理者を勤めるすごい魔法使いであるらしい。ど、どうしよう。何か言わなきゃいけないのに、気持ちの準備ができていないっ!
「そう緊張しないでおくれ。はじめまして、妹ちゃん。門の迷宮へようこそ」
優しく慈しむような笑顔に、どこか他人とは思えないような感覚と、懐かしさを覚えて、私は会えたら伝えようと思っていたことも、挨拶もちゃんと返す事すら忘れて見惚れていた。
「むー、やはり本物。この手に馴染む感覚。──聖剣よ、あたしを主人と認めたか」
・・・・・・エルフさん?
▶︎
冒険者君と同じ亜麻色の髪をした少女を一目見て、ぼくは全てを思い出した。
ああ、何で忘れていてしまったのだろう。
この子はぼくの半身だ。
封じた迷宮に人が立ち寄らないように、世界から門ごと隠すための結界。その楔となった魂の片割れ。
・・・・・・いや、今はやめておこう。
冒険者君が本当に守りたかった女の子は、とても可愛い普通の少女だ。魂の出自なんて関係ない。ぼくが奪ってしまった幸せを享受すべきだった女の子に、ぼくがするべきことは明白だ。
まずは、しっかり謝るんだ。
「本当に、ごめんなさい」
彼女がこの地を訪れた理由は、推測できる。
おそらく、エルフ君から全てを聞いたんだろう。
冒険者君が人でなくなってしまったことも、そうなってしまった原因がぼくである事も、全てを知った上でここを訪れたはずだ。
自分も迷宮の被害者だなんて開き直ることは絶対にしない。彼女が望むなら、喜んでこの魂を差し出そう。
ぼくさえ消えてしまえたならば、冒険者君が迷宮の主人でいる必要はなくなる。
そうなれば、冒険者君を元に戻す手段なんて幾らでもあるはず。魂を返した後に協力することは出来なくなるけど、魂と一緒に力と知識を譲渡すれば、その礎にならなれるはずだ。
だから、
「まって、待って下さい!さっきから何を言っているんですか」
慌てて言葉を遮る妹ちゃんに、自分の言動を省みて、冷静じゃなかったと反省する。
困惑する妹ちゃんに、まずはぼく達の関係から説明するのだった。
▶︎
はじめましてなのに、とんでもないことを言い出した女の子に私のキャパシティは一気に限界になってしまった。
魂?封印?私は別にそんな事はどうでもよくて。
ただ、お姉ちゃんが大変なことになっているのなら、力になりたいなって。
「・・・・・・なるほど。なら、それこそ君は知るべきだ。ぼく達のことも、迷宮の事も。そして、君のお姉さんの事も」
そうして、私が今まで知る由もなかった出自と、門の迷宮と大昔の勇者達の物語、お姉ちゃんがどうなっているのか。その全てを教えてもらった。すべてを語った管理者を名乗る女の子は、覚悟を決めた顔で言う。
「だから、ぼくは君にこの魂を返さなきゃいけない」
うわあ、この子ってもしかして。
「お馬鹿さんですか?」
え、と鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をする女の子に私は続ける。
「だって、魂を半分こしたのはわかるけど、それでも私と貴女はそれぞれ違う人生を歩いてきた別々の人間でしょう?」
お姉ちゃんはお姉ちゃんのやりたいように行動しているだけだし、私はお姉ちゃんの役に立ちたいなって思ってるだけ。
貴女はお姉ちゃんを解放したいって思っているのなら、ほら、私達が今更一つになる意味ってあるのかな。
それに、ここで勝手に消えちゃったらお姉ちゃんが頑張った意味がなくなっちゃうし。
「それは、そうかもしれないけど」
うん。だから、ここで提案があります!
「提案?」
一緒にお姉ちゃんのところに行きましょう。
こう見えても、私はお姉ちゃんの妹なのです。お姉ちゃんから色んなお話を聞いて、ちゃんと冒険については勉強してます!実際にはちょっと頼りにならないかもしれないけど。
でも、お姉ちゃんは私の事が大好きなので、きっとお願いすれば聞いてくれます。だから大丈夫!
「え、え?」
ふふ、魔王と化した姉を救う慈愛の妹とその相棒の冒険譚!いいじゃないですか!
そうですね、私はさしずめ聖なる乙女。聖女ってどうでしょうか?
聖女と魔法使い!これは素晴らしい冒険譚になりますよ、最高の土産話ですっ。
「あたしを忘れてる」
そうですね。最強の剣士様も居ます!
これは勝ったな、間違いないです。だから、ねえ、消えちゃうなんて言っちゃダメ。
「・・・・・・ふふ、そう、だね。ごめんよ。そしてありがとう」
仕方なさそうに頷く彼女の笑顔は、お姉ちゃんが守りたいと思ったのが理解できるほど愛らしかった。
「じゃあ早速、この聖剣の冴えを見せてあげる」
「だからそれは持ち込めないよエルフ君」
「なん、だと」
【Tips】
《管理者と名もなき聖女》
・迷宮の封印に際してその身を捧げた大魔法使いは己の魂をふたつに分けて迷宮の内と外に配置した。
外の魂は輪廻を巡り、その生涯は封印の地を隠す結界の楔として用いられる。──ごめんね、僕にはこれが精一杯。でも、いずれ必ず君の願いは叶うから。
《聖剣》
・紛う事なき偽物。例によって名剣なのは変わりなく、人気を博した為、様々な形状のものが造られた。──呼び方なんて好きにすりゃあいいさ。どうせなら、あんたも一本どうだい?