戦いが始まってどれくらい経っただろう。
無限湧きのいやらしいところは、普通にやったら敵の勝利が確定している事だと思う。
一帯を更地にする勢いで焼き払ってしまえば一旦は楽が出来るけれど、それでもこっちのリソースは徐々に削られていく。
攻撃に魔力を振り続ければ妹ちゃんの守りが薄くなるし、押し寄せる敵は手を止めてくれたりはしない。
何体目かもわからないリビングアーマーを吹き飛ばして、精彩を欠きはじめた自分の魔法に苛立ちを覚えた。
「しつこい」
辟易した様子で剣を振るうエルフ君も剣の冴えが鈍る事こそないけれど、動きに少しばかりの疲れが見られる。──これは、本格的に不味くなってきたぞ。
エルフ君の個としての力は誰よりも強い。おそらく世界で最強と言っても過言じゃないと思う。でもそれは一対一で真価を発揮する強さだ。
集団を相手にして遅れを取らずとも、それが延々と続くような持久戦は彼女の長所を封じてしまう。
ぼくもエルフ君も、このままでは遠からず擦り潰されるのが目に見えている。
妹ちゃんの方も守りの結界は強固とは言え、この状況はかなりのストレスのはず。
あの子はつい最近まで殆ど外出すら出来ていなかった身だ。すぐ目の前を敵が蠢くこの状況は、精神を削るのは勿論のこと、心の疲弊は体から力を奪ってしまう。
どうにかして早く決着をつけなければ、このままでは・・・・・・。
最悪の未来を予見して背筋に冷たい汗が流れた。
戦いの最中では繊細な転移の魔法を使う余裕もない。一旦退いて体制を整える手はこの状況じゃ使えない。
考えなければ。
どうする、どうすればいいんだ。
『──あいつを倒して!』
妹ちゃんの声が、戦場の雑音を切り裂いた。
▶︎
結界を抜け出して足元に転がっていた小石を力いっぱい投げつけた。
狙ったのは、常にエルフさんと魔法使いちゃんから一定の距離を保つように立ち回っていた一体の甲冑。
手にした武器を振るうこともなくコソコソと仲間達の陰に隠れる姿は、常に攻撃の手を止めない敵の群れにあって異質に思えた。
二人に絶え間なく仲間を充てがって注意を逸らしても、私の視線までは考慮してない。──お姉ちゃんの教えは間違いじゃなかった。ここが運命の分かれ道だ。
「妹ちゃん!」
魔法使いちゃんが焦った声を上げるけれど、私だって二人の仲間なんだ。守られてるだけのか弱い女の子じゃいられないよ。
馬鹿なことをしているのは承知の上で、それでも私にしか出来ないことをやるって決めた。
ごめんなさいもありがとうも、この戦いが終わらない事には伝えられない。お説教は後でいくらでも聞いてあげる。
動くべきタイミングを、我が身かわいさに逃せないから。
カツン、軽い音を立てて頭部に小石が当たる。
目印代わりににキズをつけるつもりだったけれど、私の非力な腕ではそれも叶わない。
でも、彼女にはそれで充分だった。
「任せて」
まるで瞬間移動でもしたのかと錯覚するほどの素早さで近づいて、甲冑が反応する前にあっさりと切り伏せてしまう。
近くにいた取り巻き達が一斉に崩れ落ちて、他の甲冑達も後を追うように倒れていく。
油断なく全ての敵が消え去ったのを確認して、エルフさんは剣を鞘に納めた。
「お見事。頑張ったね」
抱きついてくる魔法使いちゃんに揉みくちゃにされながら、カッコいい剣の女王様の凛とした佇まいに自分の顔が少し熱くなるのを感じる。
「はい!なんせ私は聖女を自称してますからねっ」
笑顔で戯けて、私は熱を誤魔化した。
▶︎
うおおん!危ないことはやめておくれぇ!
妹ちゃんが結界を飛び出した時、ぼくはもう気が気じゃなかった。
全く、上手くいったから良かったものを、これで見当違いだったらどうするつもりだったんだい!
ただでさえ戦う術を持たない君が、万が一でもあいつらに攻撃されでもしたら大変な事になっていたんだぞっ!
冒険者君があんな事になってしまって、君にまで何かあれば、ぼ、ぼくは、ぼくは!!
「うん、ごめんなさい。でも大丈夫」
困ったような笑顔でぼくの頭を撫でながら妹ちゃんは言う。大丈夫だって知っていたから無茶できたんだよって。
冒険者君の面影を感じさせる微笑みに、一瞬絆されそうになったけれど、ぼくはここで引くわけにはいかない。
みっともなく見えたっていい。小煩いと疎まれても、鬱陶しいと嫌われたっていい。
短い付き合いなのは分かっている。魂の半身とか、冒険者君の妹だとか、そんな事は関係ない。──ぼくは、君が傷つくのが堪らなく怖い。
「うん、うん。ありがとう。でもごめんね。私もそうなの」
あなたが私を案じてくれるように、私も魔法使いちゃんやエルフさんが傷つくところは見たくないんだよ。
妹ちゃんの言葉に、ぼくはそれでもと言い返そうとして、急に背後から妹ちゃんごとぼくを抱きしめたエルフ君に止められた。
「はいはい、わかってる。あたし達は皆かけがえない仲間。だからおあいこ。お互い様」
あやすような物言いに、言いたかった言葉は勢いを失って消えていく。
これは、少し卑怯じゃないかな。
こんな事されたら、ぼくは何にも言えなくなっちゃうじゃないか。
「いい。雄弁は銀、沈黙は金だから」
なんだい、それ。
戯けるエルフ君に釣られて、つい笑ってしまう。
お説教は、もうできそうもないや。
▶︎
──何故、お前がそこにいる?
【Tips】
《リビングアーマー・アーミー》
・死霊の騎士達は指揮官の命に従って編隊を組んで現れる。
仲間を最期まで一人にはしないと厚い絆で結ばれた誇り高き騎士達は、その在り方すら迷宮に歪められ、今や少数を狩る為だけの卑劣な罠と成り果てた。