ローグライクダンジョンアタックもの   作:いとあと

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冒険者 3

 

 

 哀れな少女の形をとる魔性を除いた後、周囲を散策し、脅威が無いことを確かめた上で少し休むことにした。

 迷宮に入ってどれ程の時間が過ぎただろうか。己の感覚に従うのなら、もう夜は明けても良い頃合いである筈だが、いつまでも月が天に座しているのを見るに、この迷宮に時間の概念は適応されていないと考えるべきか。

 

「疲れた」

 

 先の出来事は、精神を削った。

 アレがひと目見て明確な姿形をした敵だったなら、あからさまな殺意を向けてくれてさえいたのならば、消耗する事はなかった。

 斬って捨てて、使えそうな物を拾い、それがなければ次に向かうだけで済むのだから。

 助けてと泣きじゃくる少女の、首が落ちる寸前に見せた信じられないという表情が、私に要らぬ想像をさせる。何か、私は思い違いをしていなかったか?

 本当に屠るべき敵だったのか、あまりにも手応えが無さすぎないか、あれが迷宮の悪意であったなら、呪いの一つでも遺して逝くのではないのか。──否。

 

「この思考こそ呪いか」

 

 足を止めさせ、思考を乱し、己を疑わせ、混乱を誘い、刈る。成る程、嫌らしくも有効な手だ。 

 事実、私は休むという選択を取った。取らされた。本来の私なら、次の瞬間には何が起こるか見当も付かない迷宮内で腰を下ろすなど、発想すらしない。

 

「恐ろしいことだ」

 

 とは言え、脅威の気配がないこともまた事実。

 己の索敵の技能に絶対の信頼がある訳ではないが、少なくとも信用には足る。精神に消耗が見られる状態は、体を損傷する事よりも恐ろしい。

 急ぐべきだ。しかし焦るべきではない。

 今は精神の安定を優先するとしよう。暫し休んで、また歩き始めればよい。何、迷宮は逃げはしない。その腹の中に既に獲物はいるのだから。

 

 次の悪意に、備えよう。

 

 

 

 ▶︎

 

 

 

 うう、えぐ、うぇえ(大泣)

 

 こ、怖かった!

 何百年も此処にいて、こんな事は今までなかった!死だなんて体験、もう二度と味わう事なんてないだろうと思ってたのに!

 魔力で練った体じゃなかったら確実に漏らしてた自信があるよ!命だけじゃなくて尊厳まで失う確信しかないよ!

 最近の子って皆あんなんなの?どうしてお話も聞かずに首を落とすの?ぼくのことそんなに嫌い?

 ぼくが何をしたって言うんだよう。

 

 もしかして、そもそも助けなんて要らない子なのかな。すっごく強いし。魂の強度が高すぎる。竜も素手で倒してたし、あんなん最早戦神とか闘神の類だよ。そうでなければ修羅か魔王だね。

 なーんだ!それならもういいや(安堵)

 正直、ぼくはぼくでやる事がある中わざわざリソース割いてサポートしてるんだからさ。助けがいらないくらい強い子なら、そのうち勝手に帰っていくよね!

 よしよし、もうこの話はおしまい!

 最後にちょっとだけ様子を見てあげて、ささやかながら守りの加護をこっそりつけてあげよう。

 あっはっは!我ながらサービス精神旺盛だなあ!

 

 

 

 

 ん?

 え、息してない・・・・・・。

 

 

 

 ▶︎

 

 

 

「転移か」

 

 油断した。休息など取るべきではなかった。

 瞑想の為に瞼を下ろし、そして開いた矢先にこれだ。

 月明かりの街並みは燦々と日が照らす闘技場に変容し、眼前にはアンデッドが複数。各々が槍や剣を構え、中には魔法使いのような杖を持つ者もいる。状況を見るに、モンスターハウスにでも飛ばされたか。

 一際目立つのは、豪奢な鎧とマントを身につけた大柄な個体。

 振りかぶる様に掲げた巨大剣は刃先を天に向け、姿勢を低くし強襲に特化した構えは、歴史に名高い亡国の戦士達が好んで扱った物だ。そして、山と見間違う体躯と得物、何より鎧に刻まれた紋章は。

 

「戦士長プレスキン」

 

 四百年程前の大英雄、竜狩りの物語の原点。

 冒険者でなくとも知らぬ者はいない御伽噺の登場人物。その豪腕の一振りで堅牢な砦を叩き潰し、剣を握れば流星を打ち返したという。

 あれがプレスキンならば、周りのアンデッドは恐らく彼が率いた戦士団。只の取り巻き、雑魚と侮る事は出来ないだろう。

 迷宮の猿真似か、本物の英雄の成れの果てか。真偽の程はどうでも良い。ただ、今は。

 

「気晴らしだ」

 

 丁度むしゃくしゃしていた。

 雄叫びを上げて襲いかかる敵を殲滅すべく、私もまた雄叫びを上げて斬り掛かるのだった。

 

 

 

 ▶︎

 

 

 

 うわああっ!

 やっぱり助けなきゃ駄目じゃないか!

 

 くそ、精神だけどっか別の領域に飛ばされてるぞ。これは、物理的に排除が難しい獲物を狩るためのトラップだ。

 強すぎる個体の精神だけを閉じ込めて、心の抜けた身体を徐々に衰弱させる鬼仕様!回復できる仲間がいるならともかく、単独で掛かったらまず助からない!

 四百年前もこれに掛かった大きな体の子がそのまま死んじゃったんだ!あの子もとても強かったけど、それでも帰って来れなかった!

 とてもこんなところにあるような罠じゃない。深淵でも滅多に見ないぞ。もしかして、迷宮側もこの子の異常な強さに気付いたな!?手っ取り早く取り込んで封印の楔を緩める気だ!

 駄目だ、こんな介入は認められない。

 いくらここ数回はあっさり踏破されてるからって、こんなインチキ!冒険者君は確かに怖いけど、こんな仕打ちを見過ごすなんて神が許してもぼくが許さないぞ!

 越権行為なんて知らないっ、そっちが先に仕掛けてきたんだからなっ!!

 

 

 

 うおお!待ってておくれ冒険者君、今ぼくが助けに行くぞーっ!!!

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