「それにしても、よくあの土壇場で外法の反転など出来たものだな」
ボロボロになった玉座の上で足を組んだお姉ちゃんが言う。
正面に並んで正座した私達は、各々がもにょもにょした表情でその言葉に耳を傾けた。
お姉ちゃんが目を覚まして、もう数刻が経つ。
本当は今頃みんなでお互いの健闘を讃え合っている筈なのに、お説教モードになったお姉ちゃんはそんな事お構いなしに詰問を続けた。
弁明するのは吝かではないんだけど、妹はそろそろ足が痺れてきたから許して欲しいかなー、なんて。
「・・・・・・反省しているのか?」
はい! 勿論です!
魔法使いちゃんもエルフさんも、ちゃんと反省しました!
「全く。・・・・・・わかった。もういい」
呆れたようにため息をついて、楽にしろだなんて言っている。ふふ、隙を見せたな?
お姉ちゃんだって急にいなくなったり説明も碌にせずに魔法使いちゃん泣かせたりエルフさんに私の面倒を押し付けたりしてるんだからね?
お説教は、しっかり受けてもらうよ!
「妹ちゃん、その前にあたしもあの魔法について詳しく聞きたい」
むむ、エルフさんが言うなら仕方ないなあ。
足が痺れたーって悶える魔法使いちゃんを抱き上げて、私は二人に向けて説明を始めるのだった。
▶︎
意気揚々と説明しよう!と胸を張った妹ちゃんは、暫く口をパクパクとさせて、結局ぼくに泣きついた。
妹ちゃん、感覚派なところがあるから自分が理解するのは得意でもそれを理論立てて説明するのは苦手なんだね。
「ふぬぬ、ちゃんと分かってるんだよ。本当だよ!」
はいはい。
誰も疑っていないから、安心しておくれ。
さて、先ずはぼくと妹ちゃんの魂の統合についてなんだけど──
「冒険者君は初耳だろうから最初から説明するね。まず、前提としてぼくと妹ちゃんは同じ魂をふたつに分けた半身同士なんだ」
正確には、かつての大魔法使いが迷宮を封印する為に自らを礎にして築いた大魔法、その一部がぼくの本体であり門の要だ。
知っての通り、迷宮の力を削いで封印をし続ける役割を持つぼくの魂は、輪廻の輪に加わる事なく数百年の間ここにとどまっている。
妹ちゃんの魂は封印の外側から門の迷宮を隠す魔法の起点として、輪廻の輪を巡る事で何回も生まれ変わってきた。
なんでそうなったかって言うと、迷宮を隠す役割を持つ者が万が一にも時の権力者や迷宮を利用しようとする者達に囚われないためさ。
こう言うことをあんまり言いたくはないんだけど、そう言う理由もあって、外側の魂を持つ子達は代々短命だった筈だ。妹ちゃんの体が弱かったのもこれが原因だと思う。
「霊薬のお陰で、それもかなり抑えられてるみたいだけどね」
ぼくの言葉に冒険者君の眉が僅かに上がる。
妹はまだ完治していないのか、ね。
大丈夫、その問題は解決しているよ。
魂が一つに戻った事で、役割に込められた呪いは外れた。
だから、妹ちゃんの体は元気そのもの。寿命だって一般の人よりちょっと長くなったくらいさ。
さてさて、それで、なんで妹ちゃんがあんな複雑な魔法を一発で完成させられたかについてだけど、これは仕掛けがあったからさ。
ぼくが魔法の構築と補佐を担って、妹ちゃんはそれに指向性を持たせて放つ。つまりは役割を分担していただけなんだ。
術式自体は冒険者君の先立ちの外法を流用させてもらったよ。
君が迷宮の主となって眠りについていた数ヶ月の間、調べる機会はいくらでもあったからね。
だけど、魂が歪んでそこに迷宮の残骸が癒着してたあの時の君にそれを使うことは出来なかった。
単純にリソース不足って理由もあるんだけどね。
「つまり、あの状況は怪我の功名というか、色々と条件が整っていたからそこできた芸当ってことなのです!」
ドヤ顔の妹ちゃんが言葉を引き継ぐ。
「あの時お前が消えたのは、その構築とやらに力を注いだからなのか」
冒険者君の疑問に首肯する。
うん、あの時は管理権限も取られちゃってたから、ぼくの体を維持しながらあれをやる余裕がなかったんだ。
なんやかんやで身代わり人形に取り憑いて、妹ちゃんが管理権限を奪取した瞬間にその一部を借り受けて魂を固定したから、色々と綱渡りの作戦だったのは否めないよ。
「じゃあ、妹ちゃんは今までの妹ちゃんじゃない?」
エルフ君の疑問も尤もだよ。
冒険者君はそのあたり察してそうだけど、一応言っておくと妹ちゃんが特に変わったところはないかな。
強いていうなら、魔法の適性が天才レベルに上がったくらい。
「魔眼は、どうなる」
ああ、君はあれを魔眼だと思ってたんだね。
厳密には魔眼の一種と言っていいと思うけど、あれは管理権限を持つ証明みたいなものであの瞳に特別な力はないよ。
実は君に管理権限を奪われた時、ぼくの瞳も金色じゃなくなってたんだぜ。
ともかく、迷宮が完全に死んだ今、妹ちゃんの瞳はただのオシャレで綺麗な瞳って感じだよ。
魂の再統合を起点に何か新たな力を持った可能性はあるかも知れないけど、それは詳しく調べてみないとわからないかな。
「人を辞めた訳では、ないのだな」
うん。そこは保証する。
安堵の溜め息を漏らす冒険者君の横で、エルフ君がぴこぴこと耳を動かす。
「迷宮は、どうなったの?」
うん、それも気になるよね。
そこも説明するよ。
結論から言うと、門の迷宮は完全に死んだ。
もう魔物が湧くこともないし、迷宮が仕掛けた罠もその力を失っているよ。
馬鹿みたいに複雑化した領域は直ぐには消えないけれど、核があったこの領域以外の階層は、長い時間をかけて自然と消滅していく筈さ。
あのお守りごと残骸を魔法の燃料にして使い切っちゃってるからもう復活することはない。
お陰で、冒険者君の魂も元通り。
もう輪廻の輪から外れて亡者になる心配はないよ。行商人君様々だね。
「奥の手の代償を知っていたのか」
気不味そうに問う冒険者君の肩に飛び乗って頬を撫でてあげる。
「知らなかったよ。全く、そんな事だろうとは思っていたけど!」
わざと大きな声を出してやれば、嫌そうな顔はしていても振り落とされはしなかった。
「あー!そういえばお守りに記録してた思い出きえちゃった!?」
・・・・・・あー、ごめんよ。
そこだけは如何とも。他に迷宮を一時的にでも閉じ込められる媒体がなかったんだ。
「うおおお、やっぱりそうなんだ!お姉ちゃんに見せたかったのにぃ」
項垂れる妹ちゃんに玉座から降りた冒険者君が近づいて、優しく頭も撫でながら言った。
「思い出など、これからいくらでも重ねていける。お前も、この子も、剣王も」
その横顔に引っ付いて見上げるぼくは、やっぱり血の繋がったお姉ちゃんは違うなって感心した。
「そうそう。あたし達とまた冒険すればいい」
エルフ君も楽しそうだ。
「・・・・・・うん、そうだよね」
顔を上げた妹ちゃんは、今まで見たどんな顔より輝く満点の笑顔で頷いた。
【Tips】
《ハッピーエンド》
・ああ、ああ!これですこれでさあ!