戦士長プレスキン、そして彼が率いた戦士団との戦いは、苛烈を極めるものとなった。
元が優秀な戦士達だ。いくら屍に成り下がったとはいえ、伝承に違わぬ技量をもって私を責め立てる。アンデッド戦で最も嫌な事は、倒しても暫くすると立ち上がる継戦能力にある。一方的に消耗を強いてくる戦いは、非常に厄介だ。
竜の爪に宿る魔力で焼いても、細切れになるまで切り刻んでも、敵の魔法に巻き込んで粉微塵にしても。何度でも蘇る。敵の数は一向に減らず、体力と気力ばかりが削られていく。
聖職者の祈りの加護さえあれば、面倒な事などないのだが。
「・・・!」
付け加えて、大英雄の一撃。
流星を打ち返すという逸話は、誇張されたものと思っていたが、成る程、実際に目にするとその威力は凄まじい。劣化した姿でこのレベルだ、全盛期であれば確かに星も打ち返せよう。
余波だけで避けた先のお仲間が数体纏めて砕け散っているあたり、頭はそれなりに腐っているのだろうが。万全の状態で立ち会わなかったのは、果たしてどちらにとっての不幸であるのか。
背後から突き出される槍を、避けたついでに叩きつける。姿勢の崩れた敵を振り向くと同時に殴りつけ、その勢いを殺さぬ様に回転する。
遠心力を乗せた刃先を持って切り込めば、剣を構えた敵をそのまま両断する。
魔法は敵の影に駆け込んでやり過ごし、投げ物は盾で弾き、斬り掛かるものは返す刃で斬って捨てる。
脅威はやはり戦士長プレスキン。
独特な歩法により大質量が瞬きの間に距離を詰め、剛力によって振るわれる巨大剣の一撃は回避を決して許さない。それが二の太刀三の太刀と息つく間もなく振るわれるのだから、対処法は射程に入らぬよう距離を取る他ない。
防御など無意味だ。受けようとすればそのまま押し潰される。隙があるとすれば、彼の扱う流派には大上段からの振り下ろししか型がないというところか。いずれにせよ、正面突破は無謀極まる。
対して此方の手札は手製の大鎌。薙ぐ、斬る、引く、掛ける。特異な形状ゆえに動きが読まれ難く、巨大剣程ではないが射程も長い。弱くはないが、単純故に強力無比を誇る相手には何枚か劣る。
「埒があかんな」
このまま無限に蘇る戦士達を相手にしていれば、自分の限界が来る前に確実に武器が潰れる。
いかに竜の素材とは言え、作ったのは素人だ。打ち合うなどもっての他で、数合も刃を合わせれば接合部からガタが来る。
とは言え、無手で挑むのも効率が悪い。
さて、どうしてくれようか。いっそ奴等の武器を奪うか、それとも、やりたくはないが奥の手を切るか。一瞬の思考の末、それでいいかと奥の手を切る事を決めて、その刹那。
『まてーい!』
脳内を揺らすだけだった筈の声が、闘技場全体に響き渡った。
▶︎
あああっ!やっと入れた!
迷宮め、面倒くさい術式組みやがって!外から干渉できないように隔離空間に精神だけ持ってくだけでもかなり厄介なのに、デコイやらブービートラップを何重にも設置してやがった!
仮に仲間がいたとしても、これじゃ助かる前に持ってかれた精神が嬲り殺されるじゃないか。これがたった1人相手にやる事なの?ほんとに性格が悪いな!ガチのマジで殺しにきてる!
「お前は」
何やら不穏な気配を纏った冒険者君が僅かに目を見開いている。
あ、えへへ。さっきぶりです(汗)
実はぼく、あなたを助けに馳せ参じた次第でして、あの、敵とかじゃないんで、ほんと、首だけは勘弁してやって下さいと言うか、あの、その、っていうか今っ、君何しようとしてたの!?
絶対、碌でもない外法の類の何かだよねそれ!そんな馬鹿デカくて禍々しい魔力見たことも聞いたこともないんですけど!?
それにだよ!君、ぼくの事無視するのやめてよねっ!そもそも素直にぼくが用意した魔法陣使ってればこんな事になってないんだよ?
さっきも、く、首をいきなりっ!!
ひどいじゃないか!確かに状況的には怪しかったかもしれないけど、それでも話し合うのが人間ってものだろう?
ちょっとでもぼくの話に耳を傾けてくれていれば、今頃こんな大変な思いなんてしてないんだよ!迷宮っていうアウェイの中で気が張ってるのもわかるけどさ、もう少し──
ひゅん(鼻先を刃が掠める音)
あああーっ!怖い!
こ、こらっ!そういうところだよ!先ずは話を聞いてって!って言うかそれどうやってるの!?今アンデッド達が攻撃できないようにしてるから君も動けない筈なのに!
あーもう、落ち着いてって言ってるでしょ!人の話はちゃんと聞かないと駄目なんだからね!
「・・・・・・そうか」
あ、聞いてくれる?
わかってくれたかい。よしよしいい子だよ。その調子で少しだけ待ってておくれ。今おねーちゃんがコイツらの復活権限停止してあげるからね!そしたらもう復活しないから、普通にやっつけちゃって大丈夫!
全部倒せたらちゃんと戻してあげられるから!君の体は保護してある。魔除けの呪いも置いてきたからこれ以上の襲撃はないはずだよ。──よし、これでもう大丈夫!
ぼくもそこそこ戦えるから、さっさと2人で片付けちゃおうね!
ふふ、腕がなるぜ。これでも昔は名の知れた魔法使いだったんだよ。賢者だなんて呼ばれてた事もあったんだから!まあ、名乗ったところで誰も覚えちゃいないだろうけどさ。
こうやって体を使うのは本当に久しぶりなんだ。ふふ、何、心配はいらないさ!君が前衛で、ぼくが後衛。ちょっと時間を稼いでくれれば、この程度の軍勢まとめてぶっ飛ばす、すっごい魔法をお見舞いしてあげよう!
さあ、タッグマッチだ!
「もう終わった」
お、おう(驚愕)
▶︎
戦場に現れたのは、私が首を刎ねた少女だった。
あまりにも予想外の事態に驚愕するが、戦闘中で呑気に棒立ちするような鍛え方はしていない。即座に首を刎ねに掛かるが、容易く避けられた。
いや、これは避けたというよりは。
「怖いっ!」
目測がズレた?違うな、身体が異様に重い。
なるほど、道理で先ほどからアンデッド共の攻撃が飛んでこないわけだ。動きを阻害する、何か高度な魔法を使っているのだろう。
助けに来たなどと宣う少女の思惑がどこにあるのかさっぱりわからないが、少なくともこの場において排除するのは下策と判断して、武器を下げる。──人の話はちゃんと聞かないと駄目なんだからね、そう言って指を指すその姿が、帰りを待つあの子と重なったからでは、多分ない。
「これでもう大丈夫」
重ねて魔法を行使した少女が言う。
自分も戦えるから一緒に、などと言う事を口走っているが、足の止まった木偶の坊を殺すだけでいいのなら、その言葉が終わる前に済ませよう。例え相手が大英雄でも同じ事だ。
そんな事よりも聞かねばならぬ事がある。
「もう終わった」
狐に摘まれたような顔をする少女に向きなおり、改めて問うた。──お前は一体。
「何者だ」