話は済んだ。もうこの少女に用はない。
敵ではないというという事が知れたのならば、これ以上、この場にとどまる理由もない。
迷宮の攻略を再開すべく腰を上げようとした私は、横合いから伸びる手に引き留められた。
「待ってよ!君がこのまま進むのは止めはしないけど、せめてぼくを連れて行くべきだ」
分からん。何故そういう話になる。
「君は強い。そんなことはわかっているよ。それでもこの迷宮は他とは違う。強さだけじゃどうしようもない事だってたくさんあるんだ」
さっきのトラップも、そうだったでしょ?
そう続けて問われれば、確かに先程は窮地と言っていい状況だったのだろうと思い至る。
この少女が介入してこなければ、面倒な事になっていたのは明白だ。手間を省いてくれたという点で、有難いという気持ちはある。
だが、あの程度ならばどうとでも処理できる手札は持っている。私は、ひとりでこの迷宮を踏破できる。
「んあーっ!分からず屋だなあ!そんなにぼくは信用ならないかい?」
癇癪を起こすな。
お前の力を侮っているのではない。これは矜持の問題だ。
「・・・・・・どうしても、駄目?」
然り。
そうして暫し睨み合い、やがて毅然とした態度に折れたのか、少女は掴んでいた手を離す。
泣きそうな顔をするな。敵ではないと知れた以上、幼い少女を泣かして悦ぶ趣向は持たん。
「わかったよ。どうしてもひとりで行きたいと言うなら、これを持って行って」
そう言って渡されたのは、少女の瞳と同じ色をした宝石があしらわれたペンダント。
魔道具の類か、手にした途端、一瞬だけ体を淡い光が包む。──不思議な感覚だ。力が漲る。
気をつけてねと見送る少女に礼を述べて、白亜の城に向かって足を踏み出す。
迷宮に悲劇は付きものだが、なればこそ此れを除かねばならない。過去の英雄達の無念を晴らし、この地に縛られた少女の荷を軽くしてやる。
迷宮を殺した後に少女がどうなるのか。私には分からぬが、悪辣な箱庭から抜け出せれば良いと、そんな望みを得て、改めて迷宮の完全攻略の意思を固めたのだった。
▶︎
冒険者君を見送って、ちょっとだけ凹んでる自分を自覚する。
泣くなって、ぼくそんな顔してたんだ。
やっぱりこの姿だと、庇護欲は誘っても探索の相方には遠慮しちゃうんだろうな。
ぼくは冒険者君が心配だ。
それは、この迷宮に招かれた全ての子に同じ事が言える。
今までここを訪れたどの子供もそうだけど、彼等は自分の力に絶対の自信を持っている。実際、外の世界じゃ名だたる英雄なんだからそれは当たり前だと思う。
だけど、そんな子達でも生きて此処から出られたのは少数なんだ。
多勢に無勢で押し潰された子がいた。
罠にかかって力を振るえないまま命を落とした子がいた。
強力な魔物に正面から挑んで敗れた子がいた。
瘴気に気付かずに何も分からない中で衰弱した子がいた。
特殊な魔物に精神を乗っ取られた子がいた。
あの子も、この子も、皆この迷宮に殺された。
冒険者君をそんな目に合わせたくない。──だから、小細工を打たせてもらったよ。
あっはっは!迂闊だったね冒険者君!
疑いもせずにペンダントを受け取ってしまったねえ!
それはぼくの分身だ!
ぼくを連れ歩くのが嫌なんだったら、それを身に付けて貰おうねえ!
本当は一緒にいるのが一番だけど、そのペンダントさえ肌身離さず持っていてもらえれば、いつだって助けてあげられるからねえ!
君の矜持なんて知った事じゃないんだ。君が知ろうが知らまいが、君をむざむざ死なせるような真似、ぼくがするわけないんだよなあ。
そもそも迷宮の完全攻略なんて危険な真似、君がやらなきゃいけない事じゃない。
いいこと思いついた!
ふふ、冒険者君の意思は汲んであげよう。
攻略したって思えるような良さそうなシチュエーションを用意して、ファンファーレでも流してそのままエンドロールに直行さ!
これなら冒険者君も満足してくれるよね。
君の魔力の波長はもう覚えたから、二度と迷宮に呼ばれないようにロックかけて出禁にしてやるぜ!
くくく、後から気づいても再挑戦は出来ないねえ!
「絶対に君を生かして帰すぞ」
決意を胸に、ぼくは虚空に身を溶かすのだった。
[ステージクリア!!!]
◀︎リザルト▶︎
【ダンジョン】
・門の迷宮
【ステージ】
・月下の城下街(高難易度)
【キャラクター】
・冒険者(女) ヒューマン Lv.100
【装備】
・竜爪の大鎌 ⭐︎⭐︎⭐︎
・赤い鱗の盾 ⭐︎⭐︎
・とても強いロープ ⭐︎
・骨のナイフ ⭐︎
・天の声のペンダント ★
【技能】
・近接戦闘 Lv.30(MAX)
・鉄の意志 Lv.15
・力こそパワー Lv.28
・冷徹な心 Lv.10
・乙女の心 Lv.8
・現地調達のススメ Lv.17
【討伐ボス】
・火を吹く竜
・囚われた大戦士
【イベントスチル解放】
・初見殺し
・亡霊少女
・深淵の罠
・黄金の瞳を持つ少女
【インフォメーション】
おめでとうございます!
貴方は門の迷宮にてレアイベントの開放、隠しボスの討伐、神話級アイテムの入手を達成しました!
報酬として難易度の上限を解放いたします!
次のステージではより脅威度を増した迷宮の真髄をご体験いただけます。
スリリングな冒険をお楽しみ下さい!
また、別途素敵なプレゼント《万能の霊薬》を付与させていただきます。是非ともご活用ください。
【Tips】
《冒険者(女)》
・彼女は冒険者であり、冒険者とは彼女を指す言葉だ。
・病に伏せる薄幸の妹の為に世界を巡り、得た見聞を語って聞かせるのが彼女の生き甲斐であり迷宮に挑む理由のひとつである。
・妹が作ったシチューを好物としている。
《天の声》
・門の迷宮にのみ存在する事象。
・迷宮に足を踏み入れた者に行き先を示し、時には役立つ情報やアイテムの在処を示してくれる。
・脳内に声をかけてくるという仕様上、強い意思を持てばスキップ可能。
《門の迷宮》
・神代の時代より存在する迷宮。
・入場は必ず1人、武具の持ち込み不可、ステージランダム生成という環境の高難易度な迷宮。しかし特殊なのは、迷宮から招かれなければ入場すら困難な仕様であるという点である。
▶︎帰還しますか Y/N
「こんなもので騙されると思ったか」
『!?!?!?』