もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ 作:らんかん
◻️チーム・シャンバラ
◻️その他
ローエングリン……遺産を管理していたAI。
今回の探索はシシュウ1人でやってきた。
ナダレに問題はなかったが、ゴスペルのデータを入れてた四足歩行のサーバーに無理が生じているのでその改良のため依頼を受けて向かうのは彼女一人という体を取ったらしい。
「私一人で良かったかもしれないな」
引き笑いするシシュウの目の前には、四足歩行の巨大な雲のような移動砲台がひしめいていた。
大きな実験場跡に踏み込んだ時点で後悔はするかもしれないと踏んでいたのもあって心にダメージはなかったが、それでも全員倒さなければ逃げることも進むこともできないだろう。
「仕方ない、一人でしばくか!」
腹括って突撃するのもハンターだ!
故にシシュウに撤退の文字なし、撃てば壊せる代物が弊所にひしめいてるなら都合がいい。
そうして彼女は何も考えることなく、突入開始し________
いつの間にか最下層までに辿り着いていた。
彼女が手に持っていた【雷雨】も【雪霰】も、獲物の軋みを聴いてもっとよこせと武器を持つ手に張り付く。
そして目の前には________
《遅かったですね》
白鳥の羽ばたく音、落ちた羽、全て電子で作られた泡沫の幻影に過ぎない。
高く伸びる円柱の内側、電影の神殿のような実験場の真ん中。
大きな縁に佇む、ホログラムの少女が一人。
白い肌、緑色の目、そして白くて豪華なドレス。
《あれ?》
そんな少女が首を傾げてる。
《
「お目当ての王子様ならお前らを使う前に失脚して卒業しちまったよ、そしてお前らの争奪戦が始まってるのが今だ」
《まってください! それでは私はいつ目覚めて》
「おおよそ二年後だ、雷帝の失脚からな」
スマホを見せて説得すると、納得……していない。
《我らが雷帝がそんなあっさり》
「あっさりじゃなかったぞ。少なくとも、ずいぶん頑張った後だ。お前の主もな」
《恨んではないのですか?》
「私は歴史の主流にはいない、誰がどれだけ頑張ろうが頑張ってる程度でしか評価はできないんだ」
シシュウは無表情のまま返す。
彼女に取ってはどんな政治であろうと命の危機に瀕しない限りはどれも同じだと考えている、雷帝時代のゲヘナを過ごしていた時ですら目につかないものだから彼女視点はマコトだろうが雷帝だろうが誰が頭でも関係ないほどにつまらない生活を送っていた。
《こ、こほん……いえ、つい取り乱してしまいました。そうでしたか……では、ここに来たのはおよそその遺産目当てのトレジャーハンターってことですね?》
「話が早くて助かる。試練をしっかり突破したんだ、ちゃんとよこせよ」
《でもいつか我らが雷帝が帰ってくるかもしれないし》
「なら見てみろよ」
ここに来るまでに倒してきた蜘蛛のような銃座の山を見せる。
《え……?》
「ここに来る前にちゃんと遺産を二つ持ってきたからな。備え付けのサブマシンガンからマガジンを抜き取った【雪霰】と、最初からレールガン使用した【雷雨】で二度と動けないくらいに痛めつけといた」
《う、嘘っ!? 全部やられてる!》
データアクセスしても、全員反応がロストしてて使い物にならず、それ以外の警備システムも悲しいかな老朽化の影響で作動しなかった。
《えへ、えへへ……ごめんなさい我らが雷帝、私はもうダメみたいです》
「その雷帝がもういないっつってんだ」
《じゃあ、もう何をしてもダメなんですね……とほほ……》
「おとなしく宝を差し出しな。お前だったらお前を連れて行く」
少女は観念したのか、おとなしく立ち上がって中央のステージに立つ。
するとステージの底が開いて、競り上がってくるものが。
《あなたのことをよく知らないままに奪われるのは釈然としませんけれども……仕方ない。あげちゃいましょう、私のカラダ》
「いやらしい言い方をしないでくれるか……ってなんだこれ!?」
驚くのも無理はない。
丁寧に漆塗りされて光沢を放っている深い色の木材を基準に、装飾かつ補強された金具によって荘厳かつ華麗な十字架が出来上がっていた。
十字架は厚く大きく、まるで法具のようだ。
「こ、これなんだ!?」
《少しばかり、調べさせてもらいました。あなた達の言うところの、これは”雷帝の宝具”です》
雷帝の宝具。
遺産のうち世界への影響が大きいもの、完成度が高すぎる兵器がそう呼ばれる。
《紹介が遅れました。私は、ローエングリンと申します。白鳥の騎士の名を関する、雷帝の侍女だと思ってください》
ローエングリンは、スカートをつまみ、そのまま礼をした。
十字架を背景に礼をする彼女は、さながら舞台俳優と言っていい。
《私はこの宝具に宿る霊でもあります。故にこの十字架にもローエングリン、正式な名は》
《【
十字架の横から板が倒れ、飛び出し絵本のように様々な銃器が姿を表す。
雷帝が作った時代のせいか少し古めで、整備もされてないので使用はできない。
「
《我らが雷帝が、私をお作りになる時。あの方はオペラに強く興味を持っていたようです。それと同時に、中華のファンタジーにも強く影響を受けていて……雷帝の遺産を、動けない時でも自由に動かして敵に打撃を与えるためのウェポン・フルレンジ・プラットフォームという役目を持って、私は生まれました》
随分ファンタジーでファンシーだな、と雷帝に対して内心バカにするような笑いが出かけるが相手は本気で信じていたその敬意を踏み躙る真似はするまいとシシュウは心の中で耐えた。
「それでワーグナーのラインの黄金から
《ご存じなのですか》
「一時期羽沼マコトが気ぶって話してたのを覚えていたのが前者、そして後者は単純な趣味だ。ああいうものがあるかもしれないという希望を持って遺産ハンターは楽しく仕事しているんだからな」
《まあなんて馬鹿な人達。そんなものよりも影響力のあるものとか、探せば宝具でなくてもごまんとあるのに》
ローエングリンが気の毒に、と思っているところに彼女が口にする。
「例えばエインヘリャル計画とか?」
《……!》
一瞬で箱にあった銃が飛び出して、シシュウを捕らえた。
《それをどこで!》
「数日前に探したらあったんだよ。面白そうなことを書いていたな」
《どうしたのです、それを!》
「燃やしちまったよ」
雷帝の宝具に収まっていたものを向けられて、なお余裕に満ち溢れるゲヘナの末裔は胡座をかく。
《あれだけは誰の手にも渡してはならないものなのです、我らが雷帝でさえ運用に難色を示した死の弾丸を手に入れず目の前にあった相手の運命を握る強大な力を欲さずに焼いたと!?》
「ああ焼いた! いらないからなあんなもの!」
強く、強く言い放つ。
《どうしてなのですか! ハンターは遺産目的なら、それで世界を転覆するすることだって》
「ああいう冗談じゃ済まないものはな、この世から消えちゃってもらわないと困るんだよ!
私らが持っていたら永遠に狙われるし、使って人の命を奪ったらそれこそ取り返しがつかない。だけど他の奴らが同じように思ってくれるという保証もない!
だから周りに嘘ついてまで燃やしたんだ、しっかり同封されてたライトマシンガンもな!」
膝にそこそこ重量があるはずの【雷雨】を置いて、不動を保つシシュウ。
「
目を閉じ、ローエングリンへと説教するような口ぶりで彼女は続けた。
「だがエインヘリャルみたいなのは”手を出しちゃいけない”んだよ。命を奪うだけ奪っておいて、その実態は何も証明できるない高次元かつ仔細不明の魔術。効果がないと分かりきってるならともかく、それが不明で効果もあるだろう、お前の口ぶりからして人を殺せたのは事実だ。なら尚更、残しておいては新たな禍根を生む」
目を細め、目の前の少女を諭す、かつて雷帝の下で生きていた少女。
「私は雷帝のことを根っからの悪人だとは思ってない。だが、人々は正義に駆られた瞬間悪を見出せるようになり、その基準がやがて時間が経つほどに悪辣な独裁者にしてしまう。雷帝は天才で、お前達を作りながら政治をできた才媛だ。革命が成功したが、勇者が出るまでは誰も止められなかった。それが政治の過ちだ________」
《枯墨 シシュウ……》
「だから、私はそう言ったものは消し去る。あの時代に何もできなかったとしても、今は何かできる。雷帝の良いところも悪いところも、全部見つけ出して記録する。どうしてもダメなものは決して……一市民として、出来ることをするつもりだ。歴史は熱意と悪意で生まれて紡がれる、それが永遠に続くように」
そう言い切ったシシュウの目の前には、銃口が一個も並んでいなかった。
ローエングリンはその言葉に嘘を見出せず、狼狽えた。
だがその戸惑いも、数分経てば消えている。
《……ああ、なんてことでしょう》
彼女は、優しい声で告げる。
シシュウは立ち上がった。
《我らが雷帝が目指したゲヘナのあるべき華が、ちゃんと芽吹いていたなんて》
漆の木造によって生み出された少女は、ホログラムのローエングリンとは違い深く落ち着いた色に若干のアクセントの金色の縁取りその大きなスカートの骨組み代わりに銃が収納。
そして顔は人間を模したものでなく、大きな碧眼と形以外は統一された木製の肌、そして金属のティアラとホログラムと布の混じった髪のようになって、そしてシシュウへ片膝をついて見上げた。
《この
「よろしく頼む」
新たな力を持っても、その力を誰かの支配のためになんて微塵も考えていなかったシシュウ。
改めて仕えるべきと決断したローエングリンも、その心が自分以外にも向いていたことを知っている。
ならば誰にその意識を向けていたのか?
答えはもうすぐ、積雲と共に明かされることとなるだろう。