レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】   作:ヒツジ(ラム肉

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重い!!

硬い!!

動かない!!

競技ゴーレム、グラン!!

真正面から殴っても効かない!
持ち上げようにも持ち上がらない!
ならばどうする!?

崩せ!!

膝を狙え!!

そして最後は――

相手の重さを、そのまま使え!!

「投げたァァァァァァ!!」

巨大ゴーレムを宙へ送った、
まさかの巴投げ!!

そして勝利したスライムは――

敗者を梱包した!!

グラン
「当機は貨物ではない」

観客
「ブハハハハハハ!!」

さらに先割れスプーン!!

ぷす。

グラン
「当該行為、意味を要求」

実況
「我々も知りませぇぇぇん!!」

こうしてまた一つ、
意味の分からない勝利を積み重ねた大型スライム!

だが!!

次にリングへ上がるのは――

巨大な怪物ではない!

英雄でもない!

王者と呼ぶには、
あまりにも小さい!!

弱い!

小さい!

どこにでもいる!

冒険者なら駆け出しでも相手にする!!

その種族の名は――

ゴブリン!!


第五章 最弱対最弱
第21話 『看板は、ゴブリン』


「合同興行?」

 

興行主が聞き返した。

 

机の向こうで、一人の男が頷く。

 

地方を回る小さな興行団。

 

大都市に立派な常設会場を持っているわけではない。

 

町の広場。

 

村の祭り。

 

時には倉庫。

 

時には酒場の裏庭。

 

客が集まり、

縄を張れる場所があれば、

そこが彼らのリングだった。

 

そんな興行団の主が、

わざわざ《跳ね鹿亭》の近くまでやってきていた。

 

「最近、あんたのところが面白いって聞いてな」

 

興行主は少しだけ胸を張った。

 

「まあ、それなりには」

 

「人間」

 

「はい」

 

「オーガ」

 

「はい」

 

「獣人」

 

「はい」

 

「ゴーレム」

 

「……はい」

 

相手の興行主が腕を組んだ。

 

「節操がねえな」

 

「カードの幅が広いと言ってください」

 

「褒めてるよ」

 

「褒め方!」

 

男は笑った。

 

そして。

 

「だから一度、うちともやらねえか」

 

「合同興行を?」

 

「ああ」

 

興行主の目が少し鋭くなる。

 

これは面白い。

 

これまでは、

基本的に自分たちの興行へ挑戦者を迎える形だった。

 

だが今回は違う。

 

別の興行団。

 

別の客。

 

別のレスラー。

 

違うリング文化同士をぶつける。

 

「ぜひ」

 

即答だった。

 

男も頷く。

 

「よし」

 

「それで、そちらの選手は?」

 

「もう連れてきてる」

 

男が親指で後ろを示した。

 

興行主はそちらを見る。

 

そこには。

 

小さな影があった。

 

「……」

 

「ギャ」

 

興行主は瞬きをした。

 

ゴブリン。

 

それも、大柄ですらない。

 

人間の腰より少し高い程度。

 

細い。

 

腕も脚も短い。

 

筋肉がないわけではないが、

オーガや獣人と比べれば見るべくもない。

 

防具もない。

 

豪華な衣装もない。

 

腰布。

 

簡素な肘当て。

 

膝当て。

 

使い込まれたブーツ。

 

それだけ。

 

「……この子が?」

 

「看板だ」

 

「看板?」

 

「うちの」

 

興行主はもう一度ゴブリンを見る。

 

ゴブリン。

 

「ギャ」

 

軽く手を上げた。

 

どう見ても。

 

強そうではない。

 

男はそんな興行主の顔を見て笑った。

 

「その顔、何度も見たよ」

 

「いや、その」

 

「強いやつなら他にもいる」

 

男は椅子にもたれた。

 

「うちにもオークがいる」

 

「獣人もいる」

 

「元傭兵もいる」

 

「力だけなら、こいつより上のやつはいくらでもいる」

 

そして。

 

ゴブリンの頭を軽く叩いた。

 

「だがな」

 

「誰とでも試合を作れる奴は」

 

「こいつが一番だ」

 

ゴブリン。

 

「ギャ♪」

 

胸を張る。

 

興行主の目が変わった。

 

「……何試合くらい?」

 

「数えちゃいねえ」

 

「百は?」

 

「とっくに」

 

「二百?」

 

男が笑う。

 

「たぶんな」

 

ゴブリンは指を折ろうとして、

 

三本目くらいで諦めた。

 

「ギャ」

 

「本人も数えてねえ」

 

「でしょうね」

 

だが。

 

興行主はもう笑っていなかった。

 

百戦を越える。

 

地方巡業。

 

毎回違う相手。

 

違うリング。

 

違う客。

 

新人とも戦う。

 

怪力とも戦う。

 

自分より大きい相手とも戦う。

 

怪我人が出れば急遽カード変更。

 

時間が押せば短く。

 

客が冷えていれば盛り上げる。

 

相手が下手なら支える。

 

相手が上手ければ乗る。

 

勝つだけではない。

 

試合を成立させる。

 

それを何年もやってきた。

 

興行主。

 

「なるほど」

 

男。

 

「分かったか?」

 

「ええ」

 

口元が上がった。

 

「面白い」

 

そしてその日の夕方。

 

《跳ね鹿亭》。

 

「ぷるちゃん、お客さんだよ」

 

「ぷる?」

 

ぷるちゃんが厨房の奥から出てくる。

 

ずる。

 

ずる。

 

大きな身体。

 

その前に。

 

ゴブリン。

 

「ギャ」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

二匹。

 

見つめ合う。

 

片や、

この世界で最弱の魔物として知られるスライム。

 

片や、

群れなければ脅威にもならないと言われるゴブリン。

 

周囲の冒険者たちも、

なんとなく二匹を見比べる。

 

「……弱そう」

 

誰かが言った。

 

ゴブリン。

 

ぴく。

 

ぷるちゃん。

 

ぷる。

 

同時にそちらを見る。

 

冒険者。

 

「ご、ごめん」

 

興行主が笑った。

 

「決まりだな」

 

合同興行。

 

看板レスラー。

 

ゴブリン。

 

対するは。

 

大型スライム。

 

そして数日後。

 

会場。

 

客席は満員だった。

 

いつもの客。

 

相手興行団の常連。

 

噂を聞きつけた者。

 

もちろん。

 

いつもの実況もいた。

 

興行主

「……今回もいる」

 

実況

「さあああああ!!」

 

興行主

「誰が呼んだ!!」

 

観客

「俺たちだァァァ!!」

 

興行主

「もういい!!」

 

リング上。

 

ゴブリンが軽く跳ねる。

 

ぽん。

 

ぽん。

 

ロープへ。

 

身体を預ける。

 

戻る。

 

止まる。

 

また走る。

 

今度は途中で急停止。

 

くるり。

 

反対側へ。

 

観客席の一角から歓声。

 

相手興行団の常連だ。

 

「行けぇぇぇ!!」

 

「見せてやれぇぇぇ!!」

 

「ギャー坊ォォォ!!」

 

ゴブリン。

 

「ギャギャ!!」

 

片手を上げる。

 

完全に慣れている。

 

対角。

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

いつもの先割れスプーンが、

体内から少しだけ覗いた。

 

カァァァン!!

 

開始。

 

ゴブリン。

 

すっ。

 

低く構える。

 

ぷるちゃん。

 

ずる。

 

前へ。

 

まずは。

 

グラン戦で覚えた崩し。

 

相手の足を止める。

 

膝裏。

 

狙う。

 

身体の一部を硬化。

 

ぶん!!

 

ゴブリン。

 

ひょい。

 

「ぷる?」

 

もういない。

 

速い。

 

いや。

 

違う。

 

実況

「かわしたァァァ!!」

 

ゴブリンは一歩しか動いていない。

 

大きく逃げたわけではない。

 

必要な分だけ。

 

そこから。

 

ぺちっ!!

 

ぷるちゃんの横腹へ低い蹴り。

 

「ぷる」

 

すぐ離れる。

 

ぷるちゃん。

 

右へ振る。

 

ゴブリン。

 

左へ。

 

今度は。

 

右を見せて。

 

本命は左脚。

 

ぶん!!

 

だが。

 

ゴブリンの左脚は、

すでに引かれていた。

 

実況

「読んでいる!!」

 

「速さじゃない!!」

 

「打つ場所へ行ってから避けているんじゃない!!」

 

「打つ前から!!」

 

「そこにいないィィィィ!!」

 

レグとは違う。

 

レグは速かった。

 

見えてからでも避けられた。

 

このゴブリンは。

 

来る場所を知っている。

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

少し止まる。

 

なら。

 

待つ。

 

レグ戦で覚えた。

 

追わない。

 

相手が来るまで待つ。

 

ゴブリン。

 

「ギャ?」

 

ぷるちゃん。

 

じー。

 

ゴブリン。

 

じー。

 

観客。

 

「……」

 

五秒。

 

十秒。

 

ゴブリン。

 

にや。

 

「ギャ♪」

 

座った。

 

観客

「座ったァァァァ!?」

 

実況

「来ない!!」

 

「このゴブリン!!」

 

「相手が待つなら自分も待つゥゥゥ!!」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる……」

 

ちょっと前へ。

 

ゴブリン。

 

立つ。

 

ぷるちゃん止まる。

 

ゴブリンも止まる。

 

「ギャ♪」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷるる……」

 

観客から笑いが漏れる。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

ゴブリン。

 

走った。

 

速い。

 

真正面。

 

ぷるちゃん。

 

待っていた。

 

身体を広げる。

 

捕まえる。

 

――はずだった。

 

ゴブリン。

 

直前。

 

ロープへ方向転換。

 

ばいん!!

 

反動。

 

斜め後ろから戻る。

 

「ぷる!?」

 

肩へ飛びつく。

 

くるっ!!

 

小さな身体が回る。

 

ぷるちゃんの重心がわずかに傾く。

 

そのまま。

 

ころん!!

 

丸め込んだ。

 

レフェリー

「ワン!!」

 

観客

「え!?」

 

「ツー!!」

 

興行主

「待て待て待て!!」

 

「ス――」

 

ぷるちゃん。

 

ぶるん!!

 

肩を上げる!!

 

レフェリー

「ツー!!」

 

大歓声。

 

実況

「危なァァァァァい!!」

 

「何も食らってない!!」

 

「殴られてない!!」

 

「投げられてない!!」

 

「なのにィィィ!!」

 

「負けかけたァァァァァァ!!」

 

ゴブリン。

 

離れる。

 

くるり。

 

着地。

 

「ギャ♪」

 

指を二本立てる。

 

ツー。

 

ぷるちゃん。

 

「……ぷる」

 

ゆっくり起きる。

 

観客席。

 

相手興行団の常連たちが笑っている。

 

「いつものだ!!」

 

「それだそれ!!」

 

「気をつけろスライム!!」

 

実況。

 

「これが!!」

 

「地方巡業を何百試合も生き抜いてきた!!」

 

「看板レスラー!!」

 

「ゴブリンのリングだァァァァァァ!!」

 

ぷるちゃん。

 

少しだけ。

 

沈む。

 

ゴブリン。

 

「ギャ」

 

構える。

 

怪力はない。

 

速さもない。

 

重さもない。

 

だが。

 

リングのどこにいればいいか。

 

いつ動けばいいか。

 

いつ止まればいいか。

 

いつ相手を転がせばいいか。

 

全部知っている。

 

最弱対最弱。

 

ただし。

 

片方は。

 

弱いまま。

 

何百回もリングへ上がってきた。

 

カァン――!!

 

 

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