レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】 作:ヒツジ(ラム肉
第五章!
最弱対最弱!!
次なる相手は――
ゴブリン!!
小さい!
細い!
怪力なし!
圧倒的な速さもなし!
特別な魔法もなし!
だが!!
試合数――数えるのをやめるほど!!
地方巡業!!
新人!!
怪力!!
巨漢!!
飛び入り!!
カード変更!!
全部まとめてリングにしてきた!!
興行団の看板レスラー!!
ゴブリン
「ギャ♪」
そしてぷるちゃん!!
グラン戦で覚えた膝崩し!!
空振り!!
フェイント!!
読まれる!!
レグ戦で覚えた待ち!!
ならば――
ゴブリンも待つ!!
「ギャ♪」
座ったァァァァ!!
観客
「戦えェェェェ!!」
そして一瞬!!
ロープ!!
方向転換!!
背後!!
くるっ!!
丸め込み!!
レフェリー
「ワン!!」
「ツー!!」
「ス――」
ぷるちゃん
「ぷるっ!!」
ギリギリ!!
何も食らっていない!!
何も効かされていない!!
なのに!!
負けかけた!!
これが技巧!!
これが経験!!
これが――
リングを知っているということだ!!
ぷるちゃん。
「ぷる……」
ゴブリン。
「ギャ♪」
二匹の距離が開く。
先ほどまでとは違う。
ぷるちゃんが動かない。
ゴブリンも動かない。
だが。
今度は。
ただの我慢比べではなかった。
ぷるちゃんの身体。
ぐに。
右へ傾く。
ゴブリンの目。
ちら。
ロープ。
コーナー。
リング中央。
相手。
全部を見る。
ぷるちゃん。
ずる。
一歩。
ゴブリン。
一歩。
ずる。
一歩。
すっ。
一歩。
観客。
「おお……?」
実況
「慎重だァァァ!!」
「大型スライム!!」
「いつものように突っ込まない!!」
「さっきの丸め込み!!」
「効いているのは身体じゃない!!」
「頭だァァァァ!!」
ぷるちゃん。
「ぷる」
前へ。
ゴブリン。
「ギャ」
下がる。
だが。
真正面には下がらない。
斜め。
斜め。
ほんの少しずつ。
ぷるちゃんを。
リング中央から。
ずらしていく。
興行主。
「……あ」
相手興行主。
にや。
「気づいたか」
「誘ってる」
「ああ」
ぷるちゃん。
前。
ゴブリン。
斜め後ろ。
前。
斜め後ろ。
そして。
ゴブリンの背中がロープへ近づく。
観客。
「追い詰めた!」
「行けスライム!」
ぷるちゃん。
ぐっ。
身体を縮める。
一気に。
ぶん!!
質量を乗せた突進!!
ゴブリン。
「ギャ!」
直前。
身体を横へ。
ロープを掴む!!
ぐいっ!!
自分の身体を。
すぽん!!
外側へ逃がす!!
ぷるちゃん。
「ぷる!?」
どぼん!!
ロープへ突っ込む。
びよぉぉぉん!!
巨体が押し返される!!
実況
「ロープを避けるためじゃない!!」
「使ったァァァァ!!」
その瞬間。
ゴブリン。
もう戻っている。
ロープを握ったまま。
足をリング内へ。
身体を滑らせる。
低い。
低すぎる。
ぷるちゃんの下。
ずざぁぁ!!
足元を通過!!
そのまま反対側。
ロープへ!!
ばいん!!
戻る!!
ぷるちゃん。
振り向く。
遅い。
ゴブリン。
跳ぶ!!
ドロップキック!!
ばぁん!!
ぷるちゃんの背中。
ぐにゃ!!
「ぷるっ!」
前へ転がる。
ゴブリン。
着地。
すぐ立つ。
「ギャギャ!!」
観客
「うおおおおお!!」
実況
「止まらない!!」
「いや違う!!」
「止まる!!」
「走る!!」
「曲がる!!」
「また走る!!」
「全部ゴブリンが決めているゥゥゥ!!」
ぷるちゃん。
むく。
ロープを見る。
「ぷる」
ゴブリン。
「ギャ?」
ぷるちゃん。
ずる。
ロープへ。
観客。
「お?」
身体を預ける。
ぐにゅ。
ロープが伸びる。
ぷるちゃん。
さらに押す。
ぐぐぐ。
そして。
離す。
ばいん!!
「ぷるっ!!」
飛んだ。
いや。
飛ばされた。
リング中央を通過。
ゴブリン。
「ギャ!?」
ぷるちゃん。
そのまま反対側へ。
どぼん!!
またロープ!!
ばいん!!
さらに加速!!
実況
「速い!!」
「速いがァァァ!!」
「止まれないィィィィ!!」
ぷるちゃん。
「ぷるるるるる!?」
右。
左。
右。
左。
巨大な緑色の塊が。
リングを。
往復!!
観客
「ブハハハハハ!!」
「誰か止めろ!!」
「ロープの使い方違うぞォォォ!!」
興行主。
顔を覆う。
「学習の第一段階が雑すぎる……!」
娘。
「ぷるちゃん楽しそう」
「そう見えます?」
「うん」
ぷるちゃん。
「ぷるるるるるる!!」
興行主。
「楽しんでるな……」
ゴブリン。
真ん中で待つ。
ぷるちゃん接近。
「ギャ!」
横へ避ける。
ぷるちゃん通過。
ゴブリン。
逆のロープを見る。
そのまま走る。
ぷるちゃん。
反対ロープ。
ゴブリン。
別のロープ。
交差。
一度。
二度。
三度。
実況
「リングが広い!!」
「いや同じ広さだ!!」
「だがこのゴブリンが使うと!!」
「リングが何倍にも広く見えるゥゥゥ!!」
ぷるちゃん。
「ぷる!」
身体の一部を伸ばす。
捕まえる。
ゴブリン。
急停止。
ぴた。
触手。
空振り。
ぷるちゃん。
「ぷる?」
ゴブリン。
一歩後ろ。
ロープへ。
背中を当てる。
ほんの少し反動。
前へ。
低い蹴り。
ぺちん!!
ぷるちゃん。
反撃。
ぶん!!
ゴブリン。
また止まる。
届かない。
「ギャ♪」
実況
「速さじゃない!!」
「距離だ!!」
「こいつ!!」
「自分がどこにいるかだけじゃない!!」
「スライムがどこまで届くかまで知っている!!」
ぷるちゃん。
「ぷるる……」
身体が。
少し低くなる。
ゴブリン。
にや。
来る。
そう思った。
だが。
ぷるちゃん。
動かない。
「ギャ?」
その代わり。
身体の一部。
にゅ。
ロープへ。
巻きつく。
ぐる。
「……ギャ?」
ぷるちゃん。
もう一本。
反対側。
にゅ。
ぐる。
実況
「何をする!?」
左右。
ロープに身体を伸ばす。
引っ張る。
ぐぐぐぐぐ……。
興行主。
「待て」
相手興行主。
「おい」
ゴブリン。
「ギャ?」
ぷるちゃん。
ぱっ。
ばぃぃぃぃん!!
「ぷるるるるるるる!!」
発射。
ゴブリン
「ギャァァァ!?」
観客
「飛んだァァァァァ!!」
リング中央へ。
一直線!!
ゴブリン。
ぎりぎり。
しゃがむ!!
ぷるちゃん。
頭上を通過。
べちゃ!!
コーナーポストへ。
「ぷる」
沈黙。
実況
「だからそうじゃなァァァァい!!」
観客、大爆笑。
ゴブリン。
膝を叩いて笑う。
「ギャギャギャギャ!!」
ぷるちゃん。
コーナーから剥がれる。
ぬる。
「ぷる……」
娘。
「ぷるちゃん、ロープは飛ぶ道具じゃないよ」
ぷるちゃん。
「ぷる」
興行主。
「たぶん今ので理解した……と思いたい」
再開。
ゴブリン。
走る。
ぷるちゃん。
追う。
ゴブリン。
ロープ。
反動。
ぷるちゃん。
今度は。
その場で止まった。
ゴブリン。
戻る。
ぷるちゃん。
待つ。
ゴブリン。
直前。
止まる。
「ギャ♪」
ぷるちゃん。
「ぷる」
両者。
じっ。
一瞬。
ゴブリン。
右。
ぷるちゃん。
右へ反応。
ゴブリン。
左。
ロープ。
ばいん!!
反対へ!!
ぷるちゃん。
今度は。
追わない。
身体を。
反対側へ向ける。
ゴブリン。
ロープから戻る。
そこへ。
ぷるちゃん。
ぶん!!
「ギャッ!」
ゴブリン。
初めて。
大きく避けた。
観客
「おおっ!!」
実況
「読んだァァァ!!」
「ロープから戻ってくる場所!!」
「大型スライムが!!」
「初めて先回りしたァァァ!!」
ゴブリン。
着地。
表情が変わる。
さっきまでの笑顔。
消える。
「ギャ」
ぷるちゃん。
「ぷる」
もう一度。
ゴブリン。
走る。
ロープ。
反動。
ぷるちゃん。
今度は。
身体を広げる。
ゴブリン。
戻る。
触れる。
瞬間。
ゴブリン。
両足。
ぷるちゃんの身体へ。
ぐっ。
そのまま。
後ろへ倒れる!!
ぐるん!!
ぷるちゃん。
前へ転がされる!!
「ぷる!?」
ゴブリン。
その勢いで。
さらに回る!!
ぷるちゃんの上へ!!
押さえる!!
レフェリー
「ワン!!」
観客
「まただ!!」
「ツー!!」
ぷるちゃん。
ぶるん!!
返す!!
「ツー!!」
ゴブリン。
即座に離れる。
ぷるちゃん。
起きる。
ゴブリン。
もうロープ。
ばいん!!
跳ぶ!!
今度は高い!!
コーナーへ足を掛ける!!
一歩!!
二歩!!
身体をひねる!!
実況
「走ったァァァ!!」
「コーナーを駆け上がったァァァァ!!」
ゴブリン。
背中から。
宙へ!!
リバース・クロスボディ!!
「ギャァァァァ!!」
ぷるちゃん。
「ぷる!?」
どん!!
二匹。
倒れる!!
ゴブリン。
そのまま。
身体をひねる。
ぷるちゃんを。
丸める!!
レフェリー
「ワン!!」
「ツー!!」
興行主。
「またか!!」
「ス――」
ぷるちゃん。
ぐにゃ!!
身体を伸ばす!!
肩。
浮く!!
レフェリー
「ツー!!」
観客
「うおおおおおお!!」
実況
「二・九ィィィィィ!!」
「また二・九!!」
ゴブリン。
転がって離れる。
膝立ち。
ぷるちゃんを見る。
「……ギャ」
息が。
少し。
荒い。
ぷるちゃん。
ゆっくり。
戻る。
「ぷる……」
ゴブリンの目。
細くなる。
さっきまで。
遊んでいた。
リングを教えていた。
だが。
ぷるちゃんは。
覚えている。
ロープを。
位置を。
戻ってくる場所を。
まだ下手だ。
まだ雑だ。
だが。
最初とは違う。
相手興行主。
「……早いな」
興行主。
「ええ」
「お前んとこのスライム」
「あいつ」
「リングそのものまで食いやがるのか」
ぷるちゃん。
ロープへ。
身体を当てる。
今度は。
深く沈まない。
ほんの少し。
ばいん。
一歩。
前。
止まる。
「ぷる」
ゴブリン。
「ギャ」
笑う。
今度は。
少しだけ。
嬉しそうに。
実況。
「覚えたァァァ!!」
「まだ一つ!!」
「たった一つだ!!」
「だが!!」
「リングの中央だけで戦っていたスライムが!!」
「ついに!!」
「ロープを!!」
「リングの一部として使い始めたァァァァァ!!」
ゴブリン。
指。
くいっ。
来い。
ぷるちゃん。
身体。
ぐっ。
沈む。
観客。
ざわ。
ゴブリン。
走る。
ぷるちゃんも。
走る。
二匹。
それぞれ。
反対のロープへ。
ばいん!!
ばいん!!
戻る!!
リング中央。
真正面。
実況
「今度は逃げない!!」
ゴブリン。
跳ぶ!!
ぷるちゃん。
身体を固める!!
二匹。
激突――
寸前。
ゴブリン。
身体を丸める。
下へ!!
ぷるちゃんの脇を。
すり抜ける!!
背後!!
腕代わりの体表へ絡む!!
くるっ!!
丸め込み!!
レフェリー
「ワン!!」
「ツー!!」
「ス――」
ぷるちゃん。
どん!!
身体を広げる!!
ゴブリン。
弾かれる!!
レフェリー
「ツー!!」
ゴブリン。
転がる。
起きる。
「ギャギャ!!」
ぷるちゃん。
「ぷるるる!!」
観客。
総立ち。
実況
「まただァァァァァ!!」
「分かっていても!!」
「捕まる!!」
「覚えても!!」
「その先がある!!」
「これが!!」
「何百試合もリングを使い続けてきたゴブリンだァァァァァ!!」
ぷるちゃん。
ロープを見る。
コーナーを見る。
ゴブリンを見る。
そして。
ほんの少し。
身体を揺らした。
「ぷる」
ゴブリン。
口角を上げる。
「ギャ♪」
まだ。
リングは。
ゴブリンの方が広い。
だが。
その差は。
少しずつ。
少しずつ。
縮まり始めていた。