レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】 作:ヒツジ(ラム肉
最弱対最弱!!
相手は――
地方巡業を何百試合も生き抜いてきた!!
看板レスラー!!
ゴブリン!!
速いんじゃない!!
強いんじゃない!!
ただ――
リングを知っている!!
ロープ!!
コーナー!!
距離!!
止まる場所!!
戻ってくる場所!!
全部使う!!
全部読む!!
ぷるちゃん!!
ロープを真似る!!
飛ぶ!!
飛びすぎる!!
コーナーに刺さる!!
観客
「使い方が違ァァァう!!」
だが!!
失敗して!!
覚える!!
もう一度!!
ロープ!!
反動!!
今度は止まる!!
ゴブリン
「ギャ」
ぷるちゃん
「ぷる」
そして――
二・九!!
また二・九!!
何も効かされていない!!
なのに!!
負けかける!!
これが技術!!
これが経験!!
そして!!
ぷるちゃんは!!
そのリングまで!!
食い始めたァァァァァ!!
カァン!!
試合は続く。
ぷるちゃん。
「ぷる」
ゴブリン。
「ギャ」
二匹。
リング中央。
向かい合う。
さっきまでとは違う。
ぷるちゃんは、
もうただ追わない。
ロープを知った。
反動を知った。
戻ってくる場所を知った。
だが。
ゴブリンは。
それを見て。
にやり。
「ギャ♪」
観客席。
相手興行団の常連。
「あ」
「出た」
「何が?」
「悪い顔」
興行主。
「……悪い顔?」
相手興行主。
「気をつけろ」
「何を?」
「あいつ、真面目にやって勝てそうになると」
「なると?」
「遊び始める」
興行主。
「最悪じゃないですか」
「看板だぞ」
「もっと最悪だ」
リング上。
ゴブリン。
じり。
下がる。
ぷるちゃん。
追わない。
ゴブリン。
さらに下がる。
ロープ際。
観客席へ。
ちら。
ぷるちゃん。
「ぷる?」
ゴブリン。
手を伸ばす。
客席最前列。
そこに置かれていた。
木製の小さな杯。
すっ。
持った。
観客
「おい!!」
興行主
「早い早い早い!!」
実況
「取ったァァァァァ!!」
「試合中に!!」
「観客の杯を!!」
「このゴブリン!!」
「取ったァァァァァ!!」
ゴブリン。
「ギャ?」
何もしてません。
そんな顔。
レフェリー。
「おい」
ゴブリン。
「ギャ?」
「何持ってる?」
ゴブリン。
背中へ。
すっ。
「ギャ」
レフェリー。
「後ろ見せろ」
ゴブリン。
右を向く。
杯も右へ。
レフェリー。
左へ。
ゴブリンも左へ。
観客
「ブーーーーーー!!」
実況
「古い!!」
「古典的だ!!」
「だが腹立つゥゥゥゥ!!」
ぷるちゃん。
じー。
ゴブリンを見る。
その目。
いや。
身体の前面。
ほんの少し。
持ち上がる。
「ぷるるるる!!」
一本。
伸びる。
指のように。
ゴブリンを指す。
観客
「告げ口したァァァァ!!」
レフェリー。
「お前か!」
ゴブリン。
「ギャ!?」
ぷるちゃん。
「ぷるる!」
杯。
指す。
ゴブリン。
「ギャギャギャ!!」
ぷるちゃん。
「ぷる!」
観客。
「お前が言うなァァァァァ!!」
興行主。
頭を抱える。
「こいつ今まで何回客の物取ったと思ってるんだ……!」
娘。
「いっぱい?」
「数えたくない……」
レフェリー。
「返せ!」
ゴブリン。
「ギャ……」
しぶしぶ。
客へ。
杯。
返す。
客。
「お前後で覚えとけよ!」
ゴブリン。
「ギャ♪」
手を振る。
観客
「反省してねぇぇぇぇ!!」
その間。
ぷるちゃん。
静かに。
リング脇。
ずる。
手を伸ばす。
実況。
「あ」
興行主。
「あ」
娘。
「あ」
別の客が置いていた。
木の小皿。
ぬる。
体内へ。
消える。
相手興行主。
「……お前んとこのもやってるぞ」
興行主。
「見なかったことにしたい」
レフェリー。
振り向く。
「よし! 続け――」
ゴブリン。
じー。
ぷるちゃん。
「ぷる」
ゴブリン。
じー。
ぷるちゃん。
「ぷる?」
ゴブリン。
指。
すっ。
ぷるちゃんを指す。
「ギャギャ!!」
観客
「今度はそっちが告げ口したァァァァ!!」
ぷるちゃん。
「ぷる!?」
レフェリー。
「お前も何か持ってるのか!?」
ぷるちゃん。
「ぷる」
何もありません。
そんな丸い顔。
いや。
顔はない。
身体全体で。
無実を主張。
ゴブリン。
「ギャ!」
ぷるちゃんの胴体。
ぺちぺち。
中。
こん。
音。
観客。
「入ってる!!」
「絶対入ってる!!」
ぷるちゃん。
ぴたり。
ゴブリン。
にやり。
「ギャ♪」
ぷるちゃん。
「ぷるるるる……」
レフェリー。
「出せ」
ぷるちゃん。
「ぷる」
「出せ」
「ぷる……」
ずぶ。
小皿。
出る。
レフェリー。
「返せ!!」
ぷるちゃん。
「ぷるぅ」
客へ。
返す。
客。
「洗って返せよォォォ!!」
観客、大笑い。
そして。
二匹。
向かい合う。
ゴブリン。
「ギャ」
ぷるちゃん。
「ぷる」
一瞬。
静止。
次。
ゴブリン。
右足。
すっ。
ぷるちゃんの足元へ。
引っかける。
ぷるちゃん。
ぐら。
「ぷる?」
レフェリー。
ゴブリンを見る。
ゴブリン。
「ギャ?」
知らない。
ぷるちゃん。
じー。
次。
ぷるちゃん。
身体の端。
にゅ。
ロープ際。
ゴブリンの足首。
ちょん。
引く。
ゴブリン。
「ギャ!?」
ずるっ。
レフェリー。
ぷるちゃんを見る。
ぷるちゃん。
「ぷる?」
知らない。
観客
「二匹とも怪しいィィィィ!!」
実況
「レスリングをしろォォォォ!!」
ゴブリン。
立つ。
ぷるちゃん。
構える。
ゴブリン。
走る。
ロープ。
ばいん!!
ぷるちゃん。
迎撃。
ぶん!!
ゴブリン。
直前。
ロープ掴む。
急停止!!
ぷるちゃん。
空振り。
ゴブリン。
そのまま。
足を伸ばす。
ぺち。
ぷるちゃんの身体。
「ぷる!」
観客。
「うまい!!」
ゴブリン。
戻る。
ぷるちゃん。
追う。
ゴブリン。
コーナー。
ぷるちゃん。
詰める。
今度こそ。
逃げ場なし。
ゴブリン。
「ギャ♪」
ぷるちゃん。
「ぷる?」
ゴブリン。
上を見る。
コーナーポスト。
一歩。
二歩。
上る!!
ぷるちゃん。
「ぷる!」
身体を伸ばす!!
ゴブリン。
その瞬間。
横へ。
ぽん!!
トップロープ。
軽く踏む。
反対へ!!
ぷるちゃんの伸びた身体。
空振り!!
ゴブリン。
着地!!
ぷるちゃん。
「ぷるる!」
振り向く。
ゴブリン。
もう背後。
腕を取る。
くるっ!!
スクールボーイ!!
レフェリー。
「ワン!!」
「ツー!!」
ぷるちゃん。
ぶるん!!
返す!!
「ツー!!」
ゴブリン。
即離脱。
「ギャ!」
観客
「またァァァァ!!」
実況
「隙があれば丸める!!」
「狙う!!」
「逃げる!!」
「そしてまた何か盗む!!」
興行主。
「最後はいらない!!」
その時。
ゴブリン。
リング脇へ。
すっ。
何か掴む。
木のお玉。
観客。
「おい」
実況。
「あああああ!!」
興行主。
「嫌な予感しかしない」
ゴブリン。
リング中央。
お玉。
口元へ。
「ギャ」
観客。
ざわ。
ゴブリン。
片手を広げる。
そして。
「ギャギャギャギャギャギャァァァァ!!」
観客
「ブーーーーーー!!」
実況
「マイクパフォーマンスだァァァァ!!」
興行主
「それお玉だろ!!」
ゴブリン。
観客席。
指す。
「ギャギャ!!」
観客。
「何言ってるか分かんねえぞォォォ!!」
別の客。
「『お前ら全員帰れ』だ!!」
「いや『俺が看板だ』だろ!!」
「『スライムなんか敵じゃねえ』って言ったぞ!!」
興行主。
「なんで解釈できるんだ!?」
相手興行主。
「うちでも毎回こうなる」
「毎回!?」
ぷるちゃん。
じー。
ゴブリンを見る。
お玉を見る。
そして。
ずる。
リング脇。
手を伸ばす。
別の木べら。
取る。
観客。
「あっ」
興行主。
「ああ……」
ぷるちゃん。
木べら。
掲げる。
「ぷる」
口元。
いや。
体表前面へ。
そして。
「ぷるるるるるるるるるるる!!」
観客
「ブーーーーーー!!」
実況
「受けて立ったァァァァ!!」
「マイク対決だァァァァァ!!」
興行主
「マイクじゃない!!」
ゴブリン。
「ギャギャギャギャ!!」
ぷるちゃん。
「ぷるるるるる!!」
ゴブリン。
指差す。
ぷるちゃん。
指差す。
観客。
「やれやれェェェェ!!」
「言い返せゴブリン!!」
「負けるなスライム!!」
「どっちも何言ってるか分かんねえぞ!!」
実況。
「舌戦!!」
興行主。
「舌あるのかあいつら!?」
レフェリー。
額を押さえる。
「……返せ」
二匹。
止まる。
ゴブリン。
「ギャ?」
ぷるちゃん。
「ぷる?」
レフェリー。
「それ、返せ」
ゴブリン。
「ギャ……」
ぷるちゃん。
「ぷる……」
二匹。
観客席を見る。
お玉。
木べら。
そして。
同時に。
すっ。
返す。
観客。
「お?」
実況。
声が少し落ちる。
「……返した」
ゴブリン。
リング中央。
歩く。
ぷるちゃん。
中央へ。
ずる。
二匹。
向かい合う。
さっきまでの。
笑い。
挑発。
告げ口。
全部。
消える。
ゴブリン。
肩を回す。
一度。
二度。
ぷるちゃん。
身体を。
低くする。
ゴブリン。
「ギャ」
ぷるちゃん。
「ぷる」
相手興行主。
腕を組む。
「遊びは終わりだ」
興行主。
「……ですね」
ゴブリン。
走る。
ロープ。
ばいん!!
戻る。
反対。
ばいん!!
さらに加速!!
観客。
立つ。
実況
「走る!!」
「今度は止まらない!!」
ゴブリン。
腕。
左右へ広げる。
両手。
胸元。
交差!!
興行主。
「来る!」
相手興行主。
「得意技だ!」
ゴブリン。
跳ぶ!!
「ギャァァァァァァ!!」
実況
「クロスチョップゥゥゥゥ!!」
真正面。
ぷるちゃん。
動かない。
いや。
一歩。
後ろ。
ロープ。
身体を預ける。
ぐっ。
反動。
前へ!!
身体の一部。
太く。
伸びる。
硬化。
腕のような塊。
興行主。
目を見開く。
「まさか――」
実況
「スライムも走ったァァァァ!!」
ぷるちゃん。
「ぷるるるるるるるる!!」
硬化した腕。
横薙ぎ!!
相手興行主。
「斧みてえだ!!」
実況
「アックスボンバァァァァァァ!!」
ゴブリン。
クロスチョップ。
ぷるちゃん。
アックスボンバー。
二匹。
同時に。
跳ぶ。
空中。
真正面。
ゴブリン。
「ギャァァァァァァァ!!」
ぷるちゃん。
「ぷるるるるるるるるる!!」
バッッッゴォォォン!!
衝突。
一瞬。
止まる。
次の瞬間。
ゴブリン。
吹っ飛ぶ。
ぷるちゃん。
反対へ。
飛ぶ。
どん!!
べちゃ!!
二匹。
リング。
左右。
転がる。
観客。
「…………」
静寂。
ゴブリン。
動かない。
ぷるちゃん。
動かない。
レフェリー。
二匹を見る。
「おい!」
反応なし。
実況。
ゆっくり。
「……相打ち」
そして。
一気に。
「相打ちだァァァァァァァァ!!」
観客
「うおおおおおおおおおお!!」
ゴブリン。
仰向け。
「……ギャ……」
ぷるちゃん。
潰れたまま。
「……ぷる……」
レフェリー。
中央。
両手を見る。
「両者!!」
「立てるか!!」
反応。
ない。
笑わせた。
騙した。
盗んだ。
煽った。
そして。
全部返した。
最後は。
真正面。
逃げずに。
ぶつかった。
最弱。
二匹。
リングの上。
同時に。
倒れる。