レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】   作:ヒツジ(ラム肉

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――前回までの『レスリングスライムが現れた!』!!

第五章!!

最弱対最弱!!

怪力なし!!

圧倒的な速さなし!!

巨体なし!!

魔法なし!!

あるのは!!

リング!!

ロープ!!

位置!!

技術!!

経験!!

そして!!

何百試合もリングへ上がり続けた!!

地方興行の看板レスラー!!

ゴブリン!!

「ギャァァァァ!!」

対するは!!

人間を受け!!

オーガを極め!!

獣人の速さを捕らえ!!

ゴーレムの重さを投げた!!

大型スライム!!

ぷるちゃん!!

「ぷるるるる!!」

だが今回は!!

殴っても!!

投げても!!

極めても!!

決まらない!!

上!!

下!!

上!!

下!!

くるっ!!

ばん!!

くるっ!!

ぺち!!

そしてついには!!

ぐる……。

ばん……。

ぐる……。

ぺち……。

遅い!!

苦しい!!

もう二匹とも残っていない!!

それでも!!

丸める!!

返す!!

二・七!!

二・八!!

二・九!!

レフェリー
「ロープ!!」

ゴブリン
「ギャ!」

スライム
「ぷる!」

観客
「そこだけ二匹とも真面目ェェェェ!!」

そして――

最後。

二匹は並んで倒れた。

もう大技はいらない。

あと一度。

ただ一度だけ。

上と下が入れ替われば。

勝負は終わる!!


第25話 『最弱の一番強いところ』

リング。

 

静かだった。

 

ゴブリン。

 

「……ギャ」

 

ぷるちゃん。

 

「……ぷる」

 

二匹。

 

倒れたまま。

 

互いを見る。

 

立て。

 

観客の誰もがそう思っている。

 

だが。

 

簡単には立てない。

 

ゴブリン。

 

両手。

 

マットへ。

 

ぐっ。

 

腕が震える。

 

ぷるちゃん。

 

身体。

 

集める。

 

ぐに。

 

いつもなら一瞬で戻る形が。

 

今日は。

 

遅い。

 

実況も。

 

もう叫ばない。

 

「……ここまで」

 

「二匹とも」

 

「全部使いました」

 

「速さも」

 

「技も」

 

「ロープも」

 

「ずるさも」

 

興行主。

 

「最後のは使わなくてよかったと思うけどな……」

 

相手興行主。

 

「うちの看板なんで」

 

「そっちも大概でしょう」

 

「否定できません」

 

リング。

 

ゴブリン。

 

片膝。

 

立つ。

 

「ギャ……!」

 

観客。

 

「立て!!」

 

「行けぇぇぇ!!」

 

ぷるちゃん。

 

ぷる。

 

高さ。

 

戻る。

 

「ぷる……!」

 

娘。

 

両手を口元へ。

 

「ぷるちゃん!」

 

二匹。

 

立った。

 

いや。

 

立っているようなものだ。

 

ゴブリン。

 

ふら。

 

ぷるちゃん。

 

ぷるぷる。

 

距離。

 

三歩。

 

ゴブリン。

 

一歩。

 

ぷるちゃん。

 

一歩。

 

ゴブリン。

 

拳。

 

構える。

 

ぷるちゃん。

 

身体。

 

沈める。

 

誰も動かない。

 

一秒。

 

二秒。

 

ゴブリン。

 

「ギャ」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

そして。

 

同時。

 

前へ。

 

ゴブリン。

 

右。

 

ぷるちゃん。

 

身体の端。

 

ぶん。

 

ゴブリン。

 

避ける。

 

だが。

 

さっきまでとは違う。

 

大きい。

 

余計な一歩。

 

ぷるちゃん。

 

追う。

 

ゴブリン。

 

ロープ。

 

背中。

 

当たる。

 

ばいん。

 

戻る。

 

ぷるちゃん。

 

待つ。

 

ゴブリン。

 

真正面。

 

来る。

 

実況。

 

「スライムはもう知っている!!」

 

「ロープから戻る場所を!!」

 

ぷるちゃん。

 

腕状。

 

硬化。

 

横薙ぎ。

 

ゴブリン。

 

「ギャッ!」

 

しゃがむ。

 

避ける。

 

そのまま。

 

足元。

 

滑り込む。

 

ぷるちゃんの後ろ。

 

腕。

 

いや。

 

身体を掴む。

 

くるっ!!

 

丸める!!

 

レフェリー。

 

飛ぶ。

 

「ワン!!」

 

観客

「ワン!!」

 

「ツー!!」

 

ぷるちゃん。

 

身体。

 

広げる!!

 

ゴブリン。

 

持ち直す!!

 

「ギャァァァァ!!」

 

深く。

 

さらに深く!!

 

実況

「来たァァァァ!!」

 

「最後も丸め込み!!」

 

「このゴブリンが!!」

 

「何百試合も使ってきた!!」

 

「勝つための技だァァァァ!!」

 

レフェリー。

 

手。

 

上がる。

 

「ス――」

 

ぷるちゃん。

 

動かない。

 

観客。

 

息。

 

止まる。

 

レフェリー。

 

手。

 

落ちる――

 

その瞬間。

 

ぷるちゃん。

 

ぐにゃ。

 

形。

 

崩す。

 

ゴブリン。

 

「ギャ!?」

 

押さえていたはずの身体が。

 

ない。

 

いや。

 

そこにある。

 

だが。

 

掴んでいた形が。

 

変わった。

 

ゴブリンの腕。

 

空を切る。

 

ぷるちゃん。

 

身体の端。

 

ゴブリンの腰。

 

巻く。

 

もう一本。

 

脚。

 

巻く。

 

ゴブリン。

 

目。

 

見開く。

 

「ギャ――」

 

ぐるん!!

 

上下。

 

反転。

 

ゴブリン。

 

下。

 

ぷるちゃん。

 

上。

 

だが。

 

完全ではない。

 

ゴブリン。

 

即座に。

 

脚。

 

引っ掛ける。

 

返す!!

 

ぐる!!

 

ぷるちゃん。

 

下!!

 

観客

「返したァァァ!!」

 

ゴブリン。

 

押さえる!!

 

レフェリー。

 

「ワン!!」

 

「ツー!!」

 

ぷるちゃん。

 

また。

 

形を変える!!

 

今度は。

 

身体を薄く。

 

ゴブリンの下へ。

 

滑り込ませる。

 

巻く。

 

回す。

 

ぐるん!!

 

ぷるちゃん。

 

上!!

 

レフェリー。

 

「ワン!!」

 

「ツー!!」

 

ゴブリン。

 

腰。

 

ひねる!!

 

肩。

 

上げる!!

 

「ツー!!」

 

実況

「まだだァァァァ!!」

 

ゴブリン。

 

離れない。

 

ぷるちゃんも。

 

離れない。

 

二匹。

 

絡まったまま。

 

転がる。

 

ぐる。

 

ぐる。

 

ぐる。

 

止まる。

 

ゴブリン。

 

上。

 

ぷるちゃん。

 

下。

 

また。

 

ぐる。

 

ぷるちゃん。

 

上。

 

ゴブリン。

 

下。

 

また。

 

ぐる。

 

ゴブリン。

 

上。

 

そして。

 

ぴた。

 

観客。

 

「……!」

 

ゴブリン。

 

息。

 

荒い。

 

腕。

 

ぷるちゃんへ。

 

巻く。

 

最後。

 

もう一度。

 

丸め込みへ。

 

相手興行主。

 

「行け!!」

 

ゴブリン。

 

「ギャァァァァァ!!」

 

身体。

 

ひねる。

 

だが。

 

その瞬間。

 

ぷるちゃん。

 

動かなかった。

 

ゴブリンの力。

 

そのまま。

 

受ける。

 

一瞬。

 

沈む。

 

そして。

 

その回転。

 

全部。

 

利用する。

 

ゴブリン。

 

「ギャ!?」

 

自分で。

 

回った。

 

自分で。

 

下へ入った。

 

ぷるちゃん。

 

その上。

 

べちゃ。

 

広がる。

 

腕。

 

脚。

 

肩。

 

全部。

 

押さえる。

 

実況。

 

「返した!!」

 

「技を返したんじゃない!!」

 

「回る力を!!」

 

「そのまま返したァァァァァ!!」

 

レフェリー。

 

滑り込む!!

 

「ワン!!」

 

観客。

 

「ワン!!」

 

ゴブリン。

 

身体。

 

動く。

 

「ツー!!」

 

観客。

 

「ツー!!」

 

ゴブリン。

 

脚。

 

震える。

 

腕。

 

動く。

 

ロープ。

 

遠い。

 

あと。

 

少し。

 

指。

 

伸びる。

 

届かない。

 

ぷるちゃん。

 

押さえる。

 

強くではない。

 

重くではない。

 

ただ。

 

逃げる方向へ。

 

少しずつ。

 

身体を置く。

 

ゴブリン。

 

「ギャァァァァ!!」

 

レフェリー。

 

手。

 

上がる。

 

一瞬。

 

世界。

 

止まる。

 

「スリー!!」

 

バァァァァン!!

 

カァァァァァァァン!!

 

鐘。

 

観客。

 

爆発。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

「決まったァァァァ!!」

 

「スライムだァァァァ!!」

 

「ゴブリン惜しかったぞォォォォ!!」

 

「二・九何回やったんだァァァ!!」

 

実況。

 

立ち上がる。

 

「決着ゥゥゥゥゥ!!」

 

「怪力じゃない!!」

 

「速度じゃない!!」

 

「重量じゃない!!」

 

「最後に!!」

 

「ほんの少しだけ!!」

 

「上にいたァァァァァ!!」

 

ぷるちゃん。

 

動かない。

 

レフェリー。

 

「離れろ!」

 

ぷるちゃん。

 

「……ぷる」

 

ぱっ。

 

離れる。

 

観客。

 

「最後まで真面目ェェェェ!!」

 

ゴブリン。

 

仰向け。

 

「……ギャ……」

 

ぷるちゃん。

 

隣。

 

べちゃ。

 

「……ぷる……」

 

二匹。

 

しばらく。

 

そのまま。

 

動かなかった。

 

やがて。

 

ゴブリン。

 

手。

 

上げる。

 

ぷるちゃん。

 

身体の端。

 

上げる。

 

ぱし。

 

触れる。

 

観客。

 

拍手。

 

大きい。

 

ゴブリン。

 

ゆっくり。

 

起きる。

 

ぷるちゃんも。

 

戻る。

 

向かい合う。

 

ゴブリン。

 

拳。

 

差し出す。

 

「ギャ」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

ぽす。

 

拳と。

 

柔らかな身体。

 

当たる。

 

実況。

 

少しだけ。

 

静かな声。

 

「強い相手ではありませんでした」

 

「いや」

 

相手興行主。

 

首を振る。

 

「違うな」

 

実況。

 

見る。

 

男は。

 

リングのゴブリンを見ていた。

 

「力なら弱い」

 

「速さなら普通」

 

「魔法なんぞ使えない」

 

「種族で言えば」

 

「最弱だ」

 

ゴブリン。

 

観客へ。

 

片手を上げる。

 

歓声。

 

「だが」

 

男。

 

笑う。

 

「リングの上じゃ」

 

「誰よりしぶとい」

 

「誰とでも試合ができる」

 

「何度負けても」

 

「次の町じゃ、また看板だ」

 

興行主。

 

黙って聞く。

 

「それが」

 

「こいつの一番強いところだ」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

ゴブリンを見る。

 

ゴブリン。

 

「ギャ♪」

 

その時。

 

ぷるちゃん。

 

身体。

 

むく。

 

ゴブリン。

 

「ギャ?」

 

両脇。

 

にゅ。

 

伸びる。

 

ゴブリン。

 

「ギャ?」

 

がし。

 

抱える。

 

「ギャ!?」

 

持ち上げる!!

 

高く!!

 

観客。

 

「…………」

 

ゴブリン。

 

頭上。

 

ぷるちゃん。

 

掲げる。

 

まるで。

 

獲物。

 

まるで。

 

戦利品。

 

「ぷるるるるるるるるるるる!!」

 

観客

「ブーーーーーーーー!!」

 

実況

「やりやがったァァァァァァ!!」

 

興行主

「終われ!!」

 

「綺麗に終われたでしょうが今!!」

 

ゴブリン。

 

高々と掲げられたまま。

 

「ギャギャギャギャ!!」

 

脚。

 

ばたばた。

 

観客。

 

「降ろせェェェ!!」

 

「看板だぞォォォ!!」

 

「スライム最低ェェェ!!」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷるるるるる!!」

 

そして。

 

体内。

 

もぞ。

 

興行主。

 

「あ」

 

娘。

 

「あ」

 

実況。

 

「ああああああ!!」

 

白い。

 

先割れスプーン。

 

ぬる。

 

出る。

 

ゴブリン。

 

「……ギャ?」

 

ぷるちゃん。

 

掲げる。

 

ゴブリン。

 

目。

 

見開く。

 

「ギャ!?」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

ぷす。

 

「ギャァァァァァァァァ!!」

 

観客

「出たァァァァァ!!」

 

実況

「恒例の!!」

 

「意味不明!!」

 

「勝利の先割れスプーンだァァァァ!!」

 

レフェリー。

 

「降ろせ!!」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

即。

 

すと。

 

ゴブリン。

 

降ろす。

 

観客

「そこは従うんかァァァァ!!」

 

ゴブリン。

 

床。

 

いや。

 

マット。

 

立つ。

 

ぷるちゃん。

 

スプーン。

 

体内へ。

 

ずぶ。

 

ゴブリン。

 

ぷるちゃんを見る。

 

「ギャ」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷる」

 

もう一度。

 

拳。

 

ぽす。

 

今度こそ。

 

終わり。

 

ぷるちゃん。

 

観客席へ。

 

身体を向ける。

 

ゴブリン。

 

一歩。

 

後ろ。

 

レフェリー。

 

二匹の間。

 

観客。

 

拍手。

 

その瞬間。

 

ゴブリン。

 

ちら。

 

レフェリーを見る。

 

レフェリー。

 

ぷるちゃん側。

 

ゴブリン。

 

にや。

 

「ギャ♪」

 

ぺち。

 

ぷるちゃんの後ろ。

 

蹴った。

 

「ぷる!?」

 

ゴブリン。

 

「ギャギャギャギャギャ!!」

 

走る!!

 

ロープ。

 

ばいん!!

 

そのまま。

 

リング外!!

 

逃走!!

 

観客

「ブハハハハハハハ!!」

 

実況

「最後にやり返したァァァァァ!!」

 

ぷるちゃん。

 

「ぷるるるる!!」

 

追おうとする。

 

レフェリー。

 

「終わり!!」

 

ぷるちゃん。

 

ぴた。

 

「ぷる」

 

観客

「やっぱりレフェリーには従うゥゥゥゥ!!」

 

ゴブリン。

 

場外。

 

胸を張る。

 

「ギャ♪」

 

相手興行団の客。

 

大歓声。

 

「ギャー坊ォォォォ!!」

 

「負けてもお前だァァァ!!」

 

「次もやれェェェェ!!」

 

ゴブリン。

 

両手。

 

高く。

 

上げる。

 

負けた。

 

だが。

 

看板は。

 

看板のままだった。

 

その夜。

 

《跳ね鹿亭》。

 

ぷるちゃん。

 

いつもの場所。

 

「ぷる♪」

 

娘。

 

料理。

 

置く。

 

「今日は頑張ったね」

 

「ぷる」

 

「でも最後に持ち上げるのはどうかと思う」

 

「ぷる……」

 

興行主。

 

少し離れた席。

 

机。

 

突っ伏す。

 

「なんで毎回最後に余計なことするんだ……」

 

入口。

 

開く。

 

相手興行主。

 

そして。

 

ゴブリン。

 

「ギャ」

 

興行主。

 

「あれ?」

 

相手興行主。

 

「飯食わせてもらおうと思ってな」

 

娘。

 

「どうぞー」

 

ゴブリン。

 

ぷるちゃんを見る。

 

ぷるちゃん。

 

ゴブリンを見る。

 

「ギャ」

 

「ぷる」

 

ゴブリン。

 

隣。

 

座る。

 

料理。

 

来る。

 

食べる。

 

ぷるちゃんも。

 

食べる。

 

何も起きない。

 

今度こそ。

 

本当に。

 

何も。

 

――翌朝。

 

新聞。

 

『大型スライム、地方興行看板ゴブリンに勝利』

 

その下。

 

『両者、二十回を超える丸め込み合戦』

 

さらに。

 

一番大きな見出し。

 

『敗者を高々と掲げ、謎の白匙』

 

興行主。

 

新聞。

 

握りつぶす。

 

「そこが一番大きいのかァァァァァ!!」

 

そのころ。

 

別の町へ向かう馬車。

 

ゴブリン。

 

座っている。

 

「ギャ♪」

 

手には。

 

小さな木べら。

 

相手興行主。

 

見る。

 

「……何してる?」

 

ゴブリン。

 

木べら。

 

口元。

 

「ギャギャギャギャギャ!!」

 

興行主。

 

「お前そんなこと前からやってたか?」

 

ゴブリン。

 

止まる。

 

木べらを見る。

 

「……ギャ?」

 

首を傾げる。

 

そして。

 

また。

 

「ギャギャギャギャ!!」

 

馬車。

 

進む。

 

誰も。

 

まだ。

 

気づいていなかった。

 

リングの上で起きたことが。

 

ほんの少しだけ。

 

リングの外へ。

 

ついてきていることに。

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