レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】 作:ヒツジ(ラム肉
第六章!!
拳闘家はなぜロープを走った?
昨日の拳闘大会王者!!
エルフの賢者!!
対するは!!
形なし!!
骨なし!!
関節なし!!
大型スライム!!
ぷるちゃん!!
「ぷる!!」
打つ!!
組む!!
投げる!!
極める!!
総合対総合!!
そして賢者!!
スライムに投げる形がないなら!!
「作ればいい」
ぐにゅ!!
ぎゅっ!!
持ち上げる!!
ドォォォォン!!
実況
「無理やり投げられる形にしたァァァァ!!」
だが!!
ぷるちゃんも!!
足首!!
背中!!
身体そのものを支点に!!
投げ返す!!
投げる!!
返す!!
さらに返す!!
昨日の王者と!!
噂の粘体!!
リング中央で!!
投げの答え合わせだァァァァ!!
だが。
試合の途中。
賢者は。
気づいてしまった。
投げた。
倒した。
追撃できた。
なのに。
止まった。
相手が立つまで。
待った。
賢者
「……なぜだ」
まだ。
小さな違和感。
ただの一度なら。
偶然。
二度なら。
判断。
そう思えた。
だが――
今日。
このリングには。
もっと分かりやすいものが。
用意されていた。
ぱん!!
賢者の掌底。
ぷるちゃん。
ぐに。
受ける。
そのまま。
身体。
巻く。
賢者の腕。
「ぷる!」
賢者。
肘。
曲げる。
方向。
合わせる。
極まらない。
すぐ。
ぷるちゃん。
別の身体。
足首。
絡む。
賢者。
跳ぶ。
片足。
抜く。
着地。
その瞬間。
ぷるちゃん。
硬化。
ぶん!!
賢者。
腕。
受ける。
どん!!
一歩。
下がる。
観客。
「おおおおお!!」
「賢者様ァァァ!!」
「押し返せェェェ!!」
完全。
敵地。
いや。
ぷるちゃんからすれば。
そんなことは。
どうでもいい。
「ぷる」
賢者。
前。
拳。
蹴り。
組み。
ぷるちゃん。
受ける。
返す。
投げる。
賢者。
受け身。
転がる。
すぐ。
立つ。
実況。
「まだまだ続くゥゥゥゥ!!」
「拳闘祭王者!!」
「押している!!」
「だがスライムも倒れない!!」
「投げられて!!」
「潰れて!!」
「それでも戻るゥゥゥゥ!!」
エルフ観客。
当然。
賢者側。
「賢者様ァァァ!!」
「もう一発!!」
「投げろォォォ!!」
ぷるちゃん。
客席。
見る。
「ぷる」
大歓声。
賢者。
少し。
笑う。
「気にするな」
ぷるちゃん。
「ぷる?」
「ここは私の街だ」
「君への声援が少ないのは仕方がない」
ぷるちゃん。
「ぷる」
賢者。
「理解したのか?」
興行主。
「たぶんしてません」
娘。
「ぷるちゃん、気にしてないと思う」
「ですよね」
リング。
賢者。
踏み込む。
拳。
右。
左。
ぷるちゃん。
受ける。
三発目。
来る。
ぷるちゃん。
身体。
低く。
潜る。
賢者。
「!」
胴。
包む。
そのまま。
ぐっ!!
持ち上げる。
観客。
「おっ!?」
ぷるちゃん。
身体。
反る。
賢者。
宙。
ドォン!!
投げ!!
観客。
「うおおお!!」
ぷるちゃん。
覆う。
賢者。
即。
肩。
上げる。
抜ける。
立つ。
ぷるちゃん。
追う。
賢者。
下がる。
ロープ。
背中。
触れる。
そこで。
ぷるちゃん。
止まった。
「ぷる」
賢者。
「?」
ぷるちゃん。
見る。
賢者ではない。
その向こう。
リング脇。
昨日の拳闘祭。
表彰用の壇。
そこに。
飾られている。
一本の杖。
白木。
細い。
先端。
銀の輪。
葉を模した装飾。
アルヴェリア中央聖樹から。
自然落下した枝のみを使って作られる。
拳闘祭。
優勝者。
祝福の儀。
そのために。
三百年以上。
使われてきた。
儀礼杖。
賢者。
ぷるちゃんの視線を追う。
「……まさか」
ぷるちゃん。
「ぷる」
リング。
降りる。
レフェリー。
「おい!」
興行主。
「嫌な予感」
娘。
「あ」
ぷるちゃん。
壇。
ずる。
ずる。
儀礼杖。
見る。
「ぷる」
係員。
「待て」
ぷるちゃん。
にゅ。
取る。
係員。
「待て待て待て!!」
観客。
ざわ。
賢者。
リング上。
額。
押さえる。
「それは」
ぷるちゃん。
持ち上げる。
「ぷる?」
「昨日」
賢者。
ゆっくり。
言う。
「私が優勝祝福を受けた祭具だ」
ぷるちゃん。
「ぷる」
一拍。
そして。
口元。
いや。
体表前面。
儀礼杖。
構える。
興行主。
「やめろ」
ぷるちゃん。
吸う必要は。
ない。
なのに。
なぜか。
間。
取る。
そして。
「ぷるるるるるるるるるるるるる!!」
エルフ観客。
「…………」
一瞬。
完全。
沈黙。
次。
「貴様ァァァァァァァァァァ!!」
「それを何に使っている!!」
「返せェェェェェ!!」
「三百年だぞォォォォ!!」
実況。
木製漏斗。
振り上げる。
「出たァァァァァ!!」
「スライム!!」
「今度はァァァ!!」
「エルフ伝統の祭具で!!」
「マイクパフォーマンスだァァァァ!!」
興行主。
「マイクじゃねえええええ!!」
「しかも今回は本当に怒られるやつ!!」
ぷるちゃん。
観客席。
指す。
「ぷるるるる!!」
観客。
「何言ってる!!」
「『賢者なんぞ敵じゃない』だ!!」
「違う!!」
「『俺が昨日出てたら優勝してた』って言ったぞ!!」
「もっと悪いじゃねえか!!」
興行主。
「なんで分かるんだよ!!」
娘。
「ぷるちゃん、そんなこと言ってるのかな」
「お願いだから否定してください!」
リング。
賢者。
耳。
ぴく。
「……」
ぷるちゃん。
今度は。
賢者。
指す。
「ぷるるるるるるる!!」
観客。
「ブーーーーーー!!」
賢者。
腕。
組む。
「言いたいことがあるなら」
「言葉を覚えてからにしてもらおう」
観客。
笑う。
ぷるちゃん。
「ぷる」
そして。
リングへ。
戻る。
儀礼杖。
持ったまま。
現地レフェリー。
近づく。
「それを返せ」
ぷるちゃん。
「ぷる?」
「試合道具ではない」
「ぷる」
背中。
いや。
身体の裏側。
すっ。
隠す。
レフェリー。
「隠しても駄目だ」
右へ。
ぷるちゃん。
右へ。
杖。
反対側。
レフェリー。
左。
ぷるちゃん。
左。
観客。
「後ろォォォ!!」
「右だ右!!」
「違う左!!」
レフェリー。
「見せろ!」
ぷるちゃん。
「ぷる?」
レフェリー。
また右。
ぷるちゃん。
くる。
観客。
大笑い。
興行主。
笑っていた。
最初は。
だが。
途中。
止まった。
「……あれ?」
娘。
「どうしたの?」
興行主。
現地レフェリーを見る。
昨日まで。
エルフ拳闘祭の審判。
今日。
初めて。
レスリング形式の試合を裁いている男。
なのに。
ぷるちゃんの小道具隠し。
それを探す。
見失う。
観客に教えられる。
また探す。
まるで。
何度も何度も。
ヒールレスラーを裁いてきたような。
完璧な。
やり取り。
興行主。
「……誰か」
隣の現地担当者。
「はい?」
「今日のレフェリーに」
「こういう時の動きまで教えた?」
「?」
「反則小道具を隠された時の」
「いや」
担当者。
首。
振る。
「そのような説明は」
リング。
レフェリー。
「後ろだ!」
ぷるちゃん。
くる。
また隠す。
観客。
「ブーーーー!!」
担当者。
笑う。
「でも、自然では?」
興行主。
「…………」
その言葉。
なぜか。
耳に残った。
自然。
リング。
レフェリー。
とうとう。
ぷるちゃんの身体。
掴む。
「返せ!」
ぷるちゃん。
「ぷるぅ」
その時。
娘。
「ぷるちゃん」
ぷるちゃん。
ぴた。
娘。
「それ、大事なものみたいだよ」
ぷるちゃん。
儀礼杖。
見る。
「ぷる?」
賢者。
「非常に」
ぷるちゃん。
「ぷる」
すっ。
出す。
観客。
「あ」
レフェリー。
手。
差し出す。
だが。
ぷるちゃん。
そちらではない。
賢者。
見る。
「ぷる」
にゅ。
儀礼杖。
差し出す。
賢者。
「……私に?」
「ぷる」
賢者。
一瞬。
迷う。
そして。
受け取る。
「返却は受け取ろう」
ここで。
終わればよかった。
賢者。
儀礼杖。
持つ。
本来なら。
係員へ返す。
そのはずだった。
だが。
手。
止まる。
「…………」
観客。
なぜか。
静かになる。
賢者。
儀礼杖。
見る。
先ほど。
ぷるちゃんが。
どう持っていたか。
思い出す。
何の意味もない。
音を拾う機構などない。
儀礼杖。
ただの。
祭具。
なのに。
賢者。
ゆっくり。
口元へ。
持ち上げた。
興行主。
「……え?」
現地担当者。
「賢者様?」
ぷるちゃん。
「ぷる♪」
賢者。
杖。
口元。
一拍。
そして。
ぷるちゃん。
指す。
「このリングの上で」
観客。
ざわ。
賢者。
声。
張る。
「貴様を」
一歩。
前。
「投げ潰す」
瞬間。
大歓声。
「うおおおおおおおおお!!」
「賢者様ァァァァァ!!」
「言ったァァァァ!!」
実況。
立つ。
「返したァァァァァ!!」
「賢者!!」
「スライムのマイクパフォーマンスに!!」
「真っ向から返答ォォォォ!!」
賢者。
「…………」
歓声。
響く。
儀礼杖。
手の中。
賢者。
見る。
「…………?」
興行主。
「いいですねえ!」
そして。
すぐ。
「あれ?」
賢者。
まだ。
杖。
見る。
「私は」
レフェリー。
「?」
「今」
ゆっくり。
「何をした?」
観客。
まだ。
盛り上がっている。
現地担当者。
「宣戦布告……でしょうか」
賢者。
「そうではない」
杖。
見る。
「なぜ」
「これを」
口元。
視線。
「こう持った?」
誰も。
答えない。
ぷるちゃん。
「ぷる」
賢者。
見る。
その身体。
一瞬。
白いもの。
見える。
体内。
先割れスプーン。
賢者。
目。
細くなる。
だが。
試合中。
考える時間は。
ない。
儀礼杖。
係員。
返す。
「保管してくれ」
「は、はい」
賢者。
構える。
ぷるちゃん。
「ぷる」
レフェリー。
「続行!」
再び。
動く。
賢者。
前。
ぷるちゃん。
組む。
賢者。
腕。
巻く。
投げ。
ドォン!!
ぷるちゃん。
倒れる。
賢者。
今度は。
追う。
ぷるちゃん。
身体。
伸びる。
賢者。
足。
避ける。
ぷるちゃん。
別方向。
巻く。
賢者。
回る。
二人。
ロープ際。
ぷるちゃん。
身体。
賢者の腰。
包む。
賢者。
ロープ。
背中。
触れる。
レフェリー。
見る。
そして。
反射。
「ロープ!」
ぷるちゃん。
ぱっ。
離す。
賢者。
一歩。
下がる。
レフェリー。
「よし!」
試合。
続く。
二秒。
三秒。
レフェリー。
止まる。
「…………」
自分。
口。
触る。
「今」
誰も。
聞かない。
ぷるちゃん。
再び。
賢者へ。
賢者。
拳。
構える。
レフェリー。
小さく。
「私は」
ロープ。
見る。
「何と言った?」
賢者。
その声。
聞いた。
一瞬。
目。
動く。
レフェリー。
「ロープ……?」
昨日まで。
拳闘祭。
円形闘技場。
ロープなど。
存在しない。
今日。
レスリングの説明。
押さえ込み。
降参。
危険時の停止。
それだけ。
誰も。
ロープブレイクなど。
教えていない。
賢者。
「あなた」
レフェリー。
「試合中だ」
言葉。
遮る。
それすら。
妙に。
自然。
賢者。
「…………」
ぷるちゃん。
来る。
賢者。
反応。
掌底。
どん!!
ぷるちゃん。
受ける。
巻く。
投げる。
賢者。
受け身。
立つ。
観客。
「おおおおお!!」
実況。
「素晴らしい投げ合いィィィィ!!」
何も。
変わっていない。
拳。
蹴り。
投げ。
組み。
歓声。
昨日の王者。
大型スライム。
いつもの試合。
だが。
賢者の中。
一つ。
増えた。
疑問。
なぜ。
自分は。
祭具を。
マイクとして使った。
なぜ。
この審判は。
知らないはずの言葉を。
知っていた。
そして。
なぜ。
誰も。
それを。
不自然だと。
思わなかった。
賢者。
ぷるちゃんを見る。
ぷるちゃん。
「ぷる?」
その体内。
白い。
安っぽい。
先割れスプーン。
ほんの一瞬。
見える。
賢者。
初めて。
その物を見る目から。
笑みが。
消えた。