レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】   作:ヒツジ(ラム肉

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――前回までの『レスリングスライムが現れた!』!!

投げた!!

絡んだ!!

潰した!!

最弱魔物スライム!!

ついに人類へ牙を――

生やしてない!!

そもそも牙がない!!

だがァ!!

《鉄壁のガルド》を投げ!!

足へ絡み!!

そのまま押さえ込み!!

まさかの――

ツーカウントォォォォ!!

誰が予想した!!

誰が教えた!!

そもそも誰がこいつをリングへ上げた!!

興行主だ!!

事故だった!!

もうどうでもいい!!

観客は立った!!

ガルドも立った!!

そしてスライムも――

たぶん立っている!!

拳!!

投げ!!

組み!!

リングの上に残ったのは!!

衛士でも!!

最弱魔物でもない!!

ただ二人!!

いや一人と一匹!!

いやもう数え方なんかどうでもいい!!

対戦者だァァァァァ!!

さあ第三幕!!

ガルドが見せる!!

スライムが受ける!!

そして――

覚える!!


第3話 殴れ! 蹴れ! ぷるれ!

ガルドは息を吐いた。

 

一度。

 

深く。

 

その顔から、もう油断は消えている。

 

拳だけではない。

 

組み付いても投げられる。

 

足を取られる。

 

上から潰される。

 

おまけに、妙にしぶとい。

 

「……なら」

 

ガルドが両拳を上げた。

 

「もっと分かりやすくいくか」

 

スライム。

 

「ぷる?」

 

ガルドの左足が滑るように前へ出る。

 

まず。

 

左拳。

 

バン!

 

スライムの表面がへこむ。

 

右。

 

ドン!

 

今度は大きく横へ歪む。

 

ガルドは止まらない。

 

左。

 

右。

 

左。

 

右。

 

一定ではない。

 

速い。

 

遅い。

 

軽い。

 

重い。

 

観客がざわめく。

 

「さっきと違うぞ!」

 

「打ち方変えてる!」

 

「ガルド、本気だ!」

 

スライムは。

 

避けない。

 

受ける。

 

「ぷるっ」

 

バン!

 

「ぷるるっ」

 

ドン!

 

身体が右へ潰れる。

 

左へ揺れる。

 

後ろへ押される。

 

戻る。

 

また受ける。

 

ガルドの拳が入るたび。

 

スライムの身体が。

 

大げさなくらいに。

 

揺れる。

 

「効いてる!」

 

「押してるぞ!」

 

「ガルド行けぇぇぇ!」

 

ガルドも調子に乗る。

 

否。

 

調子に乗せられている。

 

「これならどうだ!」

 

右拳。

 

スライムが沈む。

 

そこへ。

 

ガルドの腰が回った。

 

右脚。

 

横薙ぎ。

 

バァン!!

 

スライムの側面へ蹴りが叩き込まれる。

 

「ぷるぉっ!?」

 

身体が横へ。

 

ぐにゃあ。

 

ロープまで吹き飛ぶ。

 

びよぉぉぉん!!

 

ロープがしなる。

 

スライムも伸びる。

 

観客総立ち。

 

「蹴ったァァァ!!」

 

「飛んだァァァ!!」

 

「今のは効いただろ!!」

 

ガルド。

 

「まだだ!」

 

ロープの反動で戻ってくるスライム。

 

そこへ。

 

前蹴り。

 

ドン!!

 

再び吹っ飛ぶ。

 

「ぷるるるっ!」

 

今度は身体が上下に潰れた。

 

そのままマットへ。

 

べちゃ。

 

一拍。

 

二拍。

 

誰も声を出さない。

 

ガルドも拳を下ろさない。

 

レフェリーが近寄る。

 

「おい」

 

酒場の娘がリング下から身を乗り出す。

 

「ぷるちゃん?」

 

ぷる。

 

僅かに。

 

震えた。

 

観客のどこかから声。

 

「……立て」

 

別の声。

 

「立て!」

 

また一人。

 

「立てぇぇぇ!!」

 

気づけば。

 

会場中。

 

「立て!!」

 

「スライム!!」

 

「立てぇぇぇぇ!!」

 

べちゃっと広がっていた身体が。

 

少しずつ。

 

集まる。

 

ぷる。

 

ぷるる。

 

ぷるん。

 

元の形へ。

 

そして。

 

ガルドを見る。

 

「ぷるるるるるる!!」

 

会場爆発。

 

「立ったァァァァァ!!」

 

「まだやれるぞォォォ!!」

 

「ガルドもう一発だァァァ!!」

 

ガルドが笑った。

 

「……お前」

 

少し肩で息をする。

 

「本当に効いてんのか?」

 

スライム。

 

「ぷる?」

 

観客が笑った。

 

だが。

 

ガルドの目は笑っていない。

 

スライムの身体。

 

さっきまで殴られた場所。

 

蹴られた場所。

 

確かにへこんだ。

 

歪んだ。

 

吹っ飛んだ。

 

だが。

 

戻っている。

 

あまりにも。

 

きれいに。

 

「まさか」

 

ガルドが呟く。

 

「……見せてたのか?」

 

その言葉を。

 

誰かが拾った。

 

「見せてた?」

 

「何を?」

 

「ガルドの攻撃を?」

 

観客がざわつく。

 

興行主がリング下で目を細める。

 

「いや」

 

「そんなわけが」

 

言いかけて。

 

止まった。

 

リング中央。

 

スライムが。

 

揺れた。

 

右へ。

 

左へ。

 

右。

 

左。

 

さっきまで。

 

ガルドの拳を受けるたび。

 

そうなっていた。

 

今度は。

 

自分から。

 

揺れている。

 

「……おい」

 

ガルドが構え直す。

 

スライムの表面。

 

右側。

 

僅かに。

 

硬くなる。

 

観客には分からない。

 

だが。

 

ガルドには分かった。

 

今までの柔らかい身体とは違う。

 

一部だけ。

 

ぎゅっと。

 

締まっている。

 

「来るか?」

 

スライム。

 

「ぷる」

 

身体が右へ大きく膨らむ。

 

そして。

 

戻る。

 

その反動。

 

その質量。

 

そのすべてを。

 

左方向へ。

 

バチィィン!!

 

「ぐおっ!?」

 

ガルドの胸へ。

 

スライムの身体の一部が。

 

拳でも。

 

腕でもない。

 

巨大な塊として叩き込まれた。

 

ガルドが二歩下がる。

 

観客。

 

沈黙。

 

スライム。

 

右へ潰れる。

 

その潰れた身体が。

 

今度は。

 

反対へ戻る。

 

バチィィン!!

 

左から。

 

「うおっ!」

 

ガルドが腕で受ける。

 

また。

 

スライムが左へ潰れる。

 

戻る。

 

バチン!!

 

右。

 

戻る。

 

バチン!!

 

左。

 

「ちょっ」

 

バチン!!

 

右。

 

「待っ」

 

バチン!!

 

左。

 

観客が。

 

一斉に立つ。

 

「なんだこれぇぇぇぇ!!」

 

「左右から来るぞ!!」

 

「止まらねえ!!」

 

「ぷるぷるしてる!!」

 

「そのままだァァァ!!」

 

誰かが叫んだ。

 

「ぷるぷるコンボだァァァァ!!」

 

別の客。

 

「誰が名付けた!?」

 

「今!!」

 

採用された。

 

「ぷるぷるコンボォォォ!!」

 

会場が叫ぶ。

 

ガルドは腕で受ける。

 

一発。

 

二発。

 

三発。

 

四発。

 

だが。

 

ただ殴られているわけではない。

 

「調子に――」

 

スライムの右打。

 

ガルド。

 

踏み込む。

 

正面から。

 

肩で受ける。

 

「乗るなァァァ!!」

 

左拳。

 

ドゴン!!

 

スライムの中央へ叩き込む。

 

「ぷるっ!」

 

スライムが大きく後ろへへこむ。

 

だが。

 

その反動。

 

そのまま前へ。

 

バァン!!

 

ガルドの胸へ。

 

「ぐっ!」

 

今度はガルドが下がる。

 

観客。

 

「返したァァァ!!」

 

ガルド。

 

「まだだ!」

 

右ローキック。

 

バン!

 

スライムの下部が大きく歪む。

 

「ぷる!」

 

スライム。

 

少し止まる。

 

そして。

 

身体の下側を。

 

細長く。

 

伸ばした。

 

「……ん?」

 

ガルド。

 

嫌な予感。

 

スライム。

 

さっきの蹴りのように。

 

身体を横へ。

 

回す。

 

「待て」

 

表皮硬化。

 

質量。

 

回転。

 

バァァァン!!

 

ガルドの腿へ。

 

「いっっってぇぇぇ!!」

 

観客。

 

「蹴ったァァァァ!!」

 

「脚ないぞ!!」

 

「生やした!!」

 

「いや伸ばしただけだ!!」

 

「どっちでもいい!!」

 

スライム。

 

「ぷるるるる!!」

 

今度は反対側。

 

バン!!

 

ガルド。

 

「お前それ気に入ったな!?」

 

再び右。

 

ガルドが跳ねて避ける。

 

「そう何度も――」

 

着地。

 

スライム。

 

待っていた。

 

身体が下から伸びる。

 

ガルドの腹へ。

 

ドン!!

 

「ぐぉっ!」

 

身体が浮く。

 

ほんの僅か。

 

だが。

 

その瞬間。

 

スライムが全身を縮めた。

 

そして。

 

跳んだ。

 

「は?」

 

ガルドの目の前。

 

青緑色。

 

全部。

 

べちゃあああああ!!

 

「ぐあああああ!!」

 

ガルドごと倒れる。

 

リングが揺れた。

 

観客が揺れた。

 

酒場の娘まで。

 

「おおー」

 

と声を上げた。

 

スライムがガルドの上で広がる。

 

レフェリー。

 

「フォール!」

 

滑り込む。

 

「ワン!」

 

観客。

 

「ワン!!」

 

「ツー!」

 

「ツー!!」

 

ガルド。

 

「ぬおおおお!!」

 

身体を捻る。

 

肩が上がる。

 

レフェリー。

 

「ツー!!」

 

大歓声。

 

スライムが転がる。

 

ガルドも起きる。

 

二人とも。

 

リング中央へ。

 

ガルド。

 

汗だく。

 

息も荒い。

 

スライム。

 

ぷるぷる。

 

だが。

 

身体の揺れが。

 

さっきまでとは違う。

 

明らかに。

 

楽しそうだ。

 

「……お前」

 

ガルドが笑う。

 

「俺の技見て覚えてやがるな?」

 

スライム。

 

「ぷる?」

 

「とぼけんな!」

 

観客が笑う。

 

そして。

 

その笑いの中。

 

突然。

 

声が響いた。

 

「さあ両者再び中央ァァァ!!」

 

全員。

 

振り向いた。

 

リング脇。

 

一人の男が立っていた。

 

いつからいたのか分からない。

 

どこから来たのかも分からない。

 

手には。

 

なぜか木製の漏斗。

 

口元へ当てている。

 

「ガルドの拳!!」

 

「蹴り!!」

 

「それを受け!!」

 

「見て!!」

 

「覚えたァァァ!!」

 

興行主。

 

「……誰?」

 

男。

 

「そして今ァ!!」

 

聞いていない。

 

「最弱魔物が!!」

 

「打撃戦へ!!」

 

「殴り込みだァァァァァ!!」

 

観客。

 

「うおおおおおお!!」

 

興行主。

 

「いや誰!?」

 

男。

 

「実況です!!」

 

「頼んでない!!」

 

「今からやります!!」

 

「勝手に生えるな!!」

 

だが。

 

観客はもう。

 

受け入れていた。

 

「実況もっとやれー!」

 

「ガルド行けぇ!」

 

「スライム殴れぇ!」

 

「ぷるぷるコンボもう一回!!」

 

実況。

 

「聞こえるか両者ァァァ!!」

 

ガルド。

 

「聞こえてるよ!!」

 

スライム。

 

「ぷるるるるるる!!」

 

「王者候補も聞こえているゥゥゥ!!」

 

「まだ王者じゃねえ!!」

 

鐘も鳴っていないのに。

 

会場の熱だけが。

 

どんどん上がっていく。

 

ガルドが拳を構える。

 

スライムが身体を左右へ揺らす。

 

拳と。

 

質量。

 

蹴りと。

 

弾性。

 

技術と。

 

模倣。

 

そして。

 

観客。

 

ガルドが踏み込む。

 

「来い!!」

 

スライム。

 

「ぷるるるるるる!!」

 

実況。

 

「さあァァァ!!」

 

「殴れ!!」

 

「蹴れ!!」

 

「受けろ!!」

 

「返せ!!」

 

「魅せろォォォォォ!!」

 

リング中央。

 

人間とスライムが。

 

真正面から。

 

殴り合った。

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