レスリングスライムが現れた!【マットの上では格は不要!】 作:ヒツジ(ラム肉
アルヴェリア賢学院。
臨時観測報告書。
件名。
《白色先割れ匙の材質・構造・保存状態に関する第一次調査》
報告責任者。
アルヴェリア拳闘祭優勝者。
賢学院所属。
賢者。
なお。
報告書冒頭には。
すでに。
訂正線が三本。
引かれていた。
第31話 『白い匙は、何でできている?』
《対象》
大型粘体生物が常時携行する白色器具。
用途。
不明。
形状。
匙状。
先端部のみ複数に分岐。
興行主。
「先割れスプーンです」
賢者。
筆。
止まる。
「その名称に意味は?」
「スプーンの先が割れてるから」
「…………」
賢者。
書く。
《通称:先割れスプーン》
研究員。
横から。
「そのまま書くんですか?」
「他に名称がない」
机。
中央。
白い。
小さな器具。
昨日。
拳闘祭王者を。
ロープへ走らせ。
知らない技を使わせ。
最後には。
自ら負けることを。
美しいと判断させた。
疑いのある。
物体。
見た目。
安い。
非常に。
安い。
研究員。
一人。
手袋。
つける。
慎重。
持ち上げる。
「軽い」
「重量を」
測定。
記録。
次。
硬度。
弾性。
耐熱。
魔力伝導。
精霊反応。
呪詛。
神聖性。
霊魂付着。
順番に。
調べる。
一時間。
二時間。
三時間。
結果。
「……何もない」
賢者。
「何も?」
「魔導具としては」
「何も」
「呪物?」
「該当なし」
「神器?」
「論外です」
興行主。
「言い方」
研究員。
先割れスプーン。
見る。
「むしろ」
「物質としての方が」
「異常です」
賢者。
「続けろ」
拡大術式。
展開。
先割れスプーン。
表面。
何十倍。
何百倍。
観察。
研究員。
顔。
寄せる。
「均一です」
「どの程度」
「不自然なほど」
断面。
同じ。
内部。
同じ。
密度。
ほぼ一定。
木。
違う。
繊維。
ない。
骨。
違う。
微細孔。
ない。
角。
違う。
成長層。
ない。
陶器。
違う。
粒子。
ない。
金属。
違う。
結晶。
ない。
天然樹脂。
近い。
だが。
違う。
研究員。
「天然物では」
「説明できません」
賢者。
「人工物」
「おそらく」
「製法」
「不明」
別の研究員。
形。
測る。
厚み。
曲率。
先端。
柄。
「精度が高い」
「職人技か?」
「いえ」
研究員。
首。
振る。
「逆です」
「逆?」
「手作業の癖が」
「なさすぎる」
賢者。
見る。
「大量生産」
「その可能性が」
「極めて高い」
研究室。
静か。
興行主。
「そんなに変です?」
研究員。
振り向く。
「これを」
持ち上げる。
「大量に?」
「まあ」
興行主。
肩。
すくめる。
「元の世界じゃ」
「普通だったんじゃないですかね」
「これほど均質な物体を」
「日用品として?」
「匙ですから」
研究員。
「……匙」
娘。
「しかも」
みんな。
見る。
「たぶん」
「使い捨てだったんじゃない?」
沈黙。
賢者。
「もう一度」
「使い捨て」
研究員。
先割れスプーン。
見る。
「これを?」
娘。
「たぶん」
「食べたら捨てるやつ」
賢者。
椅子。
背もたれ。
少し。
沈む。
「異界文明」
「恐るべし……」
興行主。
「そこじゃない気がする」
研究。
続く。
火。
近づける。
賢者。
「破壊するなよ」
研究員。
「分かっています」
温度。
少し。
上げる。
先割れスプーン。
わずか。
柔らかくなる。
研究員。
「熱可塑性……?」
賢者。
「何だそれは」
「仮称です」
冷やす。
戻る。
魔力。
通す。
ほぼ。
反応なし。
精霊。
呼ぶ。
精霊。
見る。
逃げる。
研究員。
「……嫌われています」
興行主。
「素材が?」
精霊術師。
「たぶん」
「生き物由来の気配が」
「ほぼないので」
賢者。
「人工物だからか」
「ここまで自然から」
「切り離された物質は」
「珍しいです」
先割れスプーン。
机。
ころ。
転がる。
白い。
無機質。
軽い。
そして。
その表面。
小さな。
傷。
賢者。
見る。
「昨日の試合でついたものだな」
研究員。
「記録済みです」
「深さ」
測る。
記録。
その後。
娘。
「もういい?」
賢者。
「一旦」
ぷるちゃん。
「ぷる!」
待ってました。
身体。
伸びる。
先割れスプーン。
ぬる。
取り込む。
ずぶ。
体内。
「ぷる♪」
研究員。
「あ」
賢者。
「何だ」
「収納時」
「魔力反応」
「ありません」
「転送でも」
「亜空間収納でもない?」
「はい」
ぷるちゃん。
中。
白い。
先割れスプーン。
ぼんやり。
見える。
ただ。
体内に。
入っているだけ。
賢者。
「……消化されないのか」
娘。
「されないみたい」
「いつから?」
「拾ってからずっと」
「どこで拾った」
「土手」
賢者。
目。
閉じる。
「それは聞いた」
翌朝。
研究室。
ぷるちゃん。
「ぷる」
娘。
「出してあげて」
「ぷる」
ぬる。
白い。
先割れスプーン。
机。
置く。
研究員。
昨日の記録。
見る。
拡大。
そして。
止まる。
「……賢者様」
「何だ」
「傷が」
「浅くなっています」
全員。
集まる。
昨日。
記録した。
小傷。
確かに。
減っている。
賢者。
「誤差」
「記録結晶と照合しました」
画像。
並べる。
昨日。
今日。
明らかに。
違う。
「修復」
研究員。
「そのように見えます」
賢者。
「単独保管時は?」
「変化なし」
「つまり」
全員。
ぷるちゃん。
見る。
ぷるちゃん。
「ぷる?」
賢者。
「体内収納中のみ」
「修復されている」
娘。
「ぷるちゃんが直してるの?」
賢者。
「本人に聞いてみよう」
全員。
ぷるちゃん。
見る。
ぷるちゃん。
「ぷる」
賢者。
「……何も分からん」
興行主。
「でしょうね」
さらに。
三日。
微細傷。
入る。
もちろん。
安全な範囲。
体内。
戻す。
翌日。
減る。
繰り返す。
同じ。
研究員。
「対象物自体に」
「自己修復機構は確認できません」
賢者。
「粘体側の再生能力が」
「異物にまで及んでいる?」
「可能性はあります」
「理由は」
「不明です」
賢者。
「つまり」
紙。
書く。
《白色先割れ匙は》
《単独では自己修復性を示さない》
《大型スライム体内に収納された場合のみ》
《表面損傷が徐々に回復する》
筆。
止まる。
「……これ」
興行主。
「はい」
「長く使えるな」
「そうですね」
沈黙。
二人。
先割れスプーン。
見る。
使い捨て。
だったはずの。
物。
異世界。
土手。
拾われた。
そして。
壊れにくく。
なった。
賢者。
「最悪だな」
娘。
「お気に入りだからね」
「そういう意味ではない」
最後。
報告書。
まとめ。
《第一次調査結論》
一。
対象物は。
既知の天然素材に。
該当しない。
二。
高度に均質な。
人工物。
三。
形状および加工痕から。
大量生産品。
推定。
四。
魔術的加工。
なし。
神聖性。
なし。
呪詛。
なし。
五。
単独での。
異常作用。
現時点。
確認できず。
六。
大型スライム体内では。
損傷が。
修復される。
七。
発見地点。
土手。
八。
発見者。
大型スライム。
九。
発見理由。
不明。
推定。
拾得。
研究員。
「七番から急に研究報告らしくなくなりますね」
賢者。
「事実だ」
「削除します?」
「しない」
賢者。
最後。
一文。
追加。
《付記》
《対象物が》
《物質的に》
《危険性を示さないことと》
《安全であることは》
《同義ではない》
筆。
置く。
研究員。
「次は」
賢者。
別の紙。
出す。
「昨日の試合」
「現地審判」
「観客」
「実況」
「そして」
一瞬。
自分の手。
見る。
最後の。
三カウント。
思い出す。
「私自身を」
「調べる」
題。
書く。
《第二次観測報告》
《我々はなぜ》
筆。
一度。
止まる。
そして。
続ける。
《ロープを走ったのか》
ぷるちゃん。
隣。
先割れスプーン。
体内。
収納。
「ぷる♪」
賢者。
それを見る。
「……君は」
「本当に」
「何を拾った?」
ぷるちゃん。
「ぷる?」
答え。
なし。