――――"童話竜"
「 嘘。なに、あれ? 」
「 先輩、あれって虚? 」
「 わからない。そんなの私が知ってる訳ない・・・! 」
後輩の疑問に、紅はただ首を横に振る他なかった。彼女自身虚のこと、現世のことは授業できっちり勉強していた筈であるが、今回のようなモノを見たのは初めての経験だ。
「 ――――――!! 」
薔薇の花弁のような黒い羽毛の生えた翼。鋭利な爪。大蛇のように細長い尾。
それらすべてが巨大だ。そして、そのワニのような顔の、自分たちを見下ろしているはずの眼は瞼を閉じている。
それでも咆哮を上げ、こちらに顔を向けている以上は、この一見して一切の視界が絶たれているであろう"彼女"はこの少女たちを認識しているとみて間違いないと考えるべきだろう。
虚か?見たところはNOだ。そう分かる理由は単純明快。
孔がないのである。整が虚に転じる際に、必ず生じる孔。欠けた心の跡。それが見受けられない。
この思わず見上げるほどの巨躯で、見つけられないなどということは無いはず。例外といえばほとんど無きに等しい。孔の無い虚など、中流階級の出である紅には見たことも聞いたこともない。つまり、これは"虚ではない"。
類似した別のなにかではあるのだろうが、いずれにせよ脅威であることに変わりない。
少女たちは、それに気づいてより一層強い恐怖心に駆られる。
中でも一番、この異形を目の当たりにして焦りを禁じ得なかったのは、言わずもがな紅自身である。
年長者として後輩たちを護らねばならない。しかし相手は得体の知れないなにか。自分が叶うはずがなければ、助けが来るかどうかだって知れたものじゃない。
ご自慢の発明品も今は持ってきていない。
つまるところ、絶体絶命だ。
そしてあちらも、こちらの事情など知ったことでは無いようだ。
「 ―――――― 」
"彼女"が天高く吼える。その甲高くも地の底から響くようなその咆哮は、そしてそれに呼応して現れた黒雲は、そこから放たれる眩い雷とその雷音は学徒たちの恐怖をさらに煽った。
すぐ近くながら着弾点の土を深く抉っている様を見るに、相当な威力に違いないだろう。
しかし何故、それで自分たちを直接狙って撃たなかったのか。
その答えは、すぐに分かった。
「 あ、あぁ・・・! 」
抉れた大地から、長く伸びるもの。長く、そして刺々しいもの。それの正体はすぐに分かった。茨、である。
それらは彼女たちが逃げるよりも早い速度で伸びて、取り囲んだ。
なんと言うことだ。ただでさえ、未知の存在との邂逅に混乱しているのに、退路まで絶たれてしまった。
あの雷を飛ばした場所に、こうして茨を生やして獲物を拘束し、仕留めるという生態なのだろうか。
こんな回りくどいことなどせずに直接仕留めた方が合理的であろうに、かの異形の怪物はよほど良い性格をしているのだろうか。それとも種族単位でこういう性質なのだろうか。
どうあれ生徒たちに、逃れられぬ絶望が牙を剥いているという事実に変わりなかった。
彼らはただ、眼前の恐怖に怯えるばかりだった。
その開いた大口には、熱が篭もり、発光して収束していく。大虚が放つという虚閃ではないようだが、あれを喰らってしまったら、自分たちはもう日を望むことはできないだろう。
「 先輩!どうしよう!? 」
「 嫌だ!こんな、こんな!! 」
後輩たちが、自分に寄る。無理もない。こんな状況である。なにかに縋りたくもなろう。彼らの中には誰一人としてこのような結末を望むものはいないだろう。
嫌だ、死にたくない。そんな言葉が漏れてくる。護廷に入ってすらいないのに、このような終わりなど、あってはならない。だがどうすればいいのか。
かくしてなにも分からぬまま、死神基準でうら若き少年少女たちは、名も知れぬ怪物の餌食に、
「 顕現せよ アドナイェウスの威光 四方に別ちて護りを成せ 」
「 裏縛道 九の道 明剣護法陣 」
なることは無かった。東西南北に黄色に輝く剣が刺さり、地面もまた黄色に輝いたかと思うとそれらが自分たちを取り囲み、茨を消し去り、怪物の炎を防いだからだ。
「 な、何・・・? 」
紅にはやはりそれがなんなのかよく分からなかった。ただ、あの化け物よりはよっぽど理解できたものではあるらしいようだ。鬼道だ。彼女も授業で習った。
だが、誰が?それに裏縛道といった。鬼道は破道縛道纏めて百九十八個。こんな縛道は聞いたこともない。
さらに不可思議はまだ続いた。
「 狂い咲く絢爛の華 帷を行く夜の蝶
茜に煌めき 欲に踊り 色に染めよ 」
「 裏縛道 十八の道
今度はオレンジ色の蝶である。詠唱にあるように、夜闇に映える綺麗な色合いだ。
それらは怪物に纏わりつくと、途端にそれは暴れ出す。
そしてその翅はより明るく煌めいて、鱗粉を何処かに飛ばしている。まるで、生命を吸い上げているようだ。
さらに・・・
「 銀濡れの翅 あら無惨
憎き般若よ鬼よ 劫火にて燃えよ 」
「 裏縛道 十八の道 其の二 怨浄業火 」
綺羅びやか蝶たちが、燃え盛る。それはまたたく間に炎となって怪物のその巨躯を燃やした。
「 ――――――― 」
怪物の雄叫びが木霊する。それは先のものと違って苦悶に満ちた声だった。
そして、自分の前に人影が降りてくる。
見覚えのある姿だ。白いマント、髑髏の仮面。そして手には斬魄刀。
「 助けに来たぞ、紅。 」
その顔を見た紅の表情からは、恐怖は消えていった。
もちろん、まだ怖いという感情は残っている。だが彼、悟のその眼差しは、今この場において、なによりも安心できるものだったのだ。
「 さてと、化け物。お前から大分霊圧を貰った。これで一つ大技を見せてやるとしよう。 」
「 裏破道 十二の道
天から振り下ろされた巨腕の鉄槌が、怪物を地に沈めた。
平伽紅
学生時代に、ピンチのところを悟に助けられる。
紅の後輩たち
同様。誰にも言うなと悟に口止めされるが、何人かは密かに彼に憧れる。
檜佐木悟
学友のピンチということもあって、個人的に表立って使いたくない裏鬼道を進んで行使し、異形の存在、童話竜と対峙する。
オサレ版マレ様(+ブラ◯クローズドラゴン)。遥か昔になにかに惹かれて西方より飛来した怪物、
薔薇の花びらのような鱗を有していて、眼は常に閉じられている他、
雷を飛ばしたり、茨を生やしてそれを自在に操ったり、ドラゴンらしく火を吐いたりする。
複数体、そしてまた別の竜が、まだ現世に潜んでいるのかも知れない。
これからみたい要素は?
-
悟の同級生
-
裏破道
-
その他