王位を継ぎそうにない好みのショタ第3王子を成長するまで愛でて放流する気だったのに気付いたら王妃にされて囲われてしまったんだけれども(白目) 作:ステラ
つれぇ
起き抜けの頭だからかぼぅっとする。
今日は特別な日だからね、って王子がわたくしの額にキスをする感触を覚えた。
今日で14歳の誕生日なの?
……そうですか、もう出会ってから6年も経っていますか。
瞼を閉じれば今でもあなたは幼いままなのに、どうしてわたくしを看病しているあなたは違うのですか?
簡単に切り捨てられると思っていた。
今は毎日が苦痛で仕方ありません。
わたくしに構わないで欲しい。
だって嫌いになるには……あなたはあまりにも面影を残し過ぎている。
もうこうなると早く成長して欲しい。
わたくしの心を虜にしたあの少年の姿がこの世から完全に消えてしまう程に。
「……ひとりにさせてください」
体調はもう良いはずなのに気怠さが抜けない。
魔力が前ほど扱えなくなっている事が原因なのだろうか。
分からない……最近は頭がふわふわする。
そうだ肖像画を見に行こう。
こんなふうに一日中ベッドで横になってるから健康に悪いんだ、昔の王子ちゃまを見て癒されよう。
足取りは軽いけれど体が重い。
風で浮かせて無理やり体を運んだ。
「かわいらしい……」
そうだった。
初めてお会いした時はわたくしよりも遥かに小さかったのだ、描いてもらっていて良かった。
何度観ても飽きない。
いいな。
もうちょっとここに居ようかな。
そうして少しの間だけ絵を眺めていた。
「……お嬢様」
気まずそうに現れたショコラへと振り向く。
大きく目を見開いたあとニッコリと微笑んで静かにわたくしの手を取って誘ってくれる。
力が強くなりましたわね。
本当に子どもの成長の早いことったらない。
すれ違うメイドたちからの視線を感じながら部屋に戻ると、いつの間にか日が沈んでいる事に気付いた。
おかしいな。
部屋を出る前までは朝だったのに……体感だとほんの30分くらいしか経ってないと思うのだけれど。
「きょうはひがしずむのがはやいのね」
「……! そ、そうみたいですね」
「おなかすいちゃった」
「お食事、ご用意してありますよ……ゆっくり、食べましょうね?」
うん、そうするわ。
ゆっくりパンをちぎってスープに浸して食べる、時々零しちゃうけどその度にショコラが拭いてくれる。
いつも手伝ってくれてありがとう。
「身体を拭かせて頂きますね」
温かなタオルで丁寧に全体を拭いてくれる、少しくすぐったいけど我慢しなきゃね。
ついでに下着と服も着替えて就寝準備は万端だ。
もう眠くなってきちゃった。
「すこし、ねるわね……」
「はいお嬢様、おやすみなさいませ」
今日はいっぱい動いたからかな、心地よい微睡みに飲まれてすぐに意識が溶けていった。
夢の中は好き。
だって小さな頃の王子ちゃまと遊べるから。
シンシアの体調は一向に良くならなかった。
起きていられる時間は日に日に短くなり、夢遊病のような症状で離宮内を徘徊している。
身近に侍る者たちはその姿を見る度に、悲しくなり目を合わせることすら出来ないでいた。
その症状に正確な名前を付けるなら【ショタ欠乏症】というしょうもない病名であるという事を、真実を知る極身近な側近達も敢えて教えはしない。
よく似た症状である精神的な病の一種であると診断、周知されていた。
「お嬢様は殿下が健やかに育たれますよう毎日を、とてもお忙しく過ごしておられました。暗殺者への対応、貴族や御実家からの圧迫。その全てを自分お独りでこなしておられました。精神的な負担は(普通なら)とんでもないものだった事は想像にかたくありません」
「それは……知らなかった。あんなに毎日笑ってくれていたのに、本当はとても(精神的に)辛かったんだね?」
「はい。私には時折でしたが、とても(面倒くさくて)辛かったと申しておりました。ですがその全ては殿下の為になればこそと、寧ろ喜んでおりましたよ」
「そうか……僕はシンシアが抱えていた苦労も知らずに、ただ護られていただけだったのか」
「そうなります、ね」
いいえ『あ〜王子ちゃまの笑顔を見るだけで何もかもが癒される〜♪』と結構楽しそうでしたよ、とは告げないのが従者としての矜持である。
シンシアから同年代の友達として接してくれる様頼まれているからという理由もあるが、流石のショコラにも友達と思っている相手に真実を告げる勇気は持てなかったのだ。
項垂れながら黙って全ての話(全てでは無い)を聞き届けたクレスは、ゆっくりと頭を上げた。
そこには覚悟の籠った“男の目”が輝いていた。
(あ、そういう目はお嬢様好きじゃないですよ……)
心の中だけでアドバイスを送り立ち上がったクレスを見上げた。
「決めた。僕はシンシアの為にも、この国の王とならねばならない」
「それは……本気でしょうか? 次期国王はほぼ第1王子殿下で方向性が決まっておられます」
何をどう結論付けたのか分からないので取り敢えず覚悟の程を試す事にした。
こいつは自分の発言の恐ろしさを理解しているといえのか?
私が忠臣だから良いものを。
「ここからは友達として話すわ。お嬢様がお倒れになった今もあなたがこうして平穏無事に生きていられるのは、お嬢様が王宮の乱で目覚しい活躍をされた事を国王陛下が直々に感謝されその功績を称えられたからなのよ!?」
それなのにあなたが王位を狙おうものなら何をされるか分かっているのか?
強い言葉で叱咤するも、クレスはその決意を揺らがす事は無かった。
「確かに僕はシンシアに……シアに助けて貰ってばかりで何も出来なかった、だからこそ。だからこそ! 今度は僕がシアの為にしてやりたいんだ! だからお願いだ、僕にこの国の歴史や統治の仕方を教えて欲しいんだ! 頼むよ!」
恥も外聞もなく己の未熟を認め、本当に護らなくてはならない物のために他者へと頭を下げられる。
素晴らしい資質である。王として祭り上げていくのならばこういう人にしたい、そうショコラは思った。
心が少し揺らぐ。
忠誠と友情の秤の上で。
(どうしましょう、このまま放っておけば洗脳済みの第1王子が国王になって将来お嬢様がこの国を裏から操れる様になる。しかし第3王子がもし本当に国王になれるほどの才覚を見せ付けたら、お嬢様をこの国の正妃として祭り上げる事が出来る……!)
どちらも魅力的に映る。
ここでシンシアが細かい将来設計を特に考えておらず、当然ながら最後に交わした情報共有も細かい所まで伝え切れていなかったことが裏目に出た。
王妃の地位に興味が無いということをショコラは知らなかった、もし知っていればクレスに協力するという手段は取らなかった事だろう。
そう、どちらの未来になるにしろ主が主権を握れるというのならショコラにとってはどうでも良い事であったのだから。
「わかりました。不肖ショコラ、クレス殿下の為に最適な人材をご用意する事をお約束しましょう!」
「ありがとうショコラ!」
2人が共に差し出した手のひらは友情に包まれた。
互いに大切な相手であるシンシアの為を思って。
物事は往々にして思い通りにはいかない。
なぜなら地獄までの道のりというものは善意で舗装されているものなのだから。
これからはシンシア視点以外が増えていきます