王位を継ぎそうにない好みのショタ第3王子を成長するまで愛でて放流する気だったのに気付いたら王妃にされて囲われてしまったんだけれども(白目) 作:ステラ
確かにそう思っていたのだ。
冬が来て服がモコモコになった王子ちゃまと健全に雪遊びをして、2人きりで同じベッドの中で新年を迎えて(遂に
ハイ……とうとうわたくしは戦時召集され前線へと向かうこととなりました。
あーだりぃー、部下を全員魔力暴走状態にして突っ込ませれば
戦争なんだから仕方ないでしょう。
「シンシア様……お気をつけて、行ってらっしゃいませ……っ!」
「行って参りますわ殿下。ああもう、泣かないで下さいまし……今生の別れではございませんのよ?」
ここでジタバタ暴れてヤダヤダ行かないで〜! ってしてくれた方が可愛いから良かったのですけれど?
王子ちゃまったらこういう時しっかりしてるからダメかぁ。ちぇっ。
わたくしの魔法士服の裾を弱々しく掴み、涙を零している王子ちゃまの顔をぺろぺろ……は流石に不味いからハンカチで拭って(後で舐める)から胸元から(勿論挟んでおいた♡)人肌のネックレスを取り出して首に掛けてあげる。
「殿下、わたくしが居ない間コレを手離さないでくださいませ。危険な時はコレを強く握ってわたくしの名を呼んでください、何かあれば直ぐに飛んで行きますから」
何かあれば
伊達に学園を主席で卒業してねーんですのよわたくしは、行軍でひと月半程度の距離なら全力を出せば30分で着きますから。
本当なら空間転移が使えれば良いのだけれど、
こんな事になるのなら
わたくしの血を混ぜて大量の魔法陣を刻んだ魔法石を組み込んだこのネックレスは対大軍用魔法を10連射されても耐えられる障壁を張れる優れもの。
この国の魔法士でコレを破れる者は皆無。
もちろん私は別だけれど?
主要な魔法士はみな前線に駆り出されるから残された低級魔法士を何百人と集めた所で壊しようがない。
うん! これで対策はバッチリでしょう♪
「さあ、あなた様のシンシアが出立します。笑顔で見送ってくださいませんか?」
「うん、分かった。行ってらっしゃい! シンシア様!」
「ハイ! 行ってきますわ♡」
最後にぎゅ〜っ!
って力いっぱい抱き締めて貰ってから私は戦場へと向かった。
まぁ仮にも侯爵令嬢で部隊長のわたくしは専用の魔馬車で1人きりです。
小さな肖像画の中の王子ちゃまに毎日キスしながらだらだらと
まぁ、この時に既にわたくしやらかしていたのですけれど。
それが分かるのはもう少しあとの話。
「まーだわたくし達は出られませんのー?」
「は、ハヒッ! 現在もまだ戦線は膠着状態であり、我々はここで待機せよとの事ですゥ!!」
「ハァ……またです、のっ!」
バシンっ!
何度も本隊へと遣わしてその度に不愉快な報告を持ち帰る副官の顔を叩いてたら顔中腫れ上がって元の顔が分からなくなってしまいましたわ。ワロ。
このわたくしに対して
然しまぁ、ほんの少し先に敵の軍勢が見えてると言うのに悠長なものですわねぇ?
「勝手に始めちゃうおかしら、勝てば良いだけですものねぇ」
「そ、それはお辞めになったほうが、よろしいか「フンッ」ブフォ!」
「だーれもてめぇの意見なんか聞いてねぇですのよ」
独り言に勝手に口を挟んでくるとか怖いですわ。
これだから非ショタは嫌なんですのよ。
ハァ……せっかくやる気満々だったのに魔法士は全員待機とか、剣と槍で戦う前時代的なロマンスを何時まで戦場に持ち込んでますの?
そんなセンチな感情丸出しで戦ってるから死人が増えるんですわよ。
むーだー死にですわ。
遺族が哀れですわねぇ、犠牲者も浮かばれませんわ。
「はぁ、わたくしは寝ます。何かあったら起こしなさい」
「了解いたしましたぁっ!!」
何が起きても問題ない様に魔力は節約しませんと。
ああ王子ちゃま……今頃あなたはどう過ごしていますの?
元気で居てくれれば良いのですけれど───ッ!
チイッ!
狙ってやがるなら流石のタイミングと言った所でしょうか、わたくしが何があっても間に合わないこのタイミングで仕掛けてきましたか!
そして万が一わたくしがこの戦場を離れて救助に行っても、このノロノロとした戦況を見るにわたくしが離れた瞬間に戦闘を止めて敗北の責任をわたくしに押し付けるつもり!
ハッ、そうは上手くいかせませんわよ!
王子ちゃまを助ける!
この戦争も勝たせる!
両方やるなんて私には朝飯前でしてよ……!?
「お待ちなさい、気が変わったわ。あなた名前は!」
「は、ハッ! ビスマルク・ギィーセーシャであります!」
「ではビスマルク、あなた……
「は……はぁ、英雄でありまs「そうよ」あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
頭を掴みわたくしの魔法式を直に脳へと流す。
ええ嘘はつきませんわ! これに耐えられず廃人にならなければ、お前を確かに英雄にして差し上げましょうとも!
エンチャント
エンチャント
エンチャント
エンチャント
「さあ、我が下僕ビスマルクよ。お前がこの戦争を終わらせるのです、良いですね?」
「かしこまりましたわがあるじ」
わたくしの全魔力の3分の1を付与したこいつなら半日もあれば勝てるでしょう、さあ急がなくては!
早く
「はぁ……はぁ……!」
死んだ……人が死んだ。
シンシアが戦場に向かってから早2ヶ月弱。
今頃は敵国との領土戦を行っている頃だった。
毎日起きる度に無事を祈っていた。
本の中での知識しかないクレスであったが、その聡明さで彼女が置かれている状況の不味さは理解していた。
しかしこうして。
自分の命が狙われているという自覚はあまりにも薄かった。
「探せぇ! まだ近くにいるハズだ!」
「あのガキ妙な魔法具を持ってやがった、気を付けろ!」
「全員殺せ! 目撃者は逃がすなよ!」
先ず最初にメイドが犠牲になった。
胸の奥から生えてきた剣がいつも食事を運んできてくれていた彼女を殺したのだ。
あまり話したことはなかったけれど、嫌な事をしてきた人達と違って優しく見守ってくれていた人だった。
なのに死んだ。
次に死んだのもメイドだ。
いやメイド達、身の回りの世話をしてくれていた者たちが侵入者を食い止めようとその身を次々と投げ出し凶剣に斬られその命を散らされていく。
逃げてください殿下!
誰かの声に促されて慌てて逃げ出した(いったい何処に?)
扉を固める様に使用人たちが慌てて集まり、逃がしてくれる度に悲鳴が轟いた。
早く逃げないと死んでしまう(何処に逃げろと?)
遂に追い付かれた。
剣が振り下ろされ、反射的に目を瞑り……よく知っている暖かな温もりに包まれ襲撃者は声を上げる事も出来ずに倒れ込んでいた。
命は助かった。
しかし何処に逃げれば良いというのだろう?
この離宮に居る限り。
何処にも逃げ場など無いというのに。
(お姉ちゃん……おねえちゃんっ……!!)
彼女の笑顔が心に浮かんだ。
何時だって朗らかに笑ってくれている人。
お母さん以外で初めて優しくしてくれた人。
婚約者になってずっと一緒に居てくれると約束してくれた人。
何があっても助けてくれると誓ってくれた人。
大好きな……特別な人。
「シンシア様、助けて……たすけて……僕を助けて……お姉ちゃん、助けて!」
強くネックレスを握り締める。
展開された魔力障壁は襲撃者のあらゆる攻撃を通さなかった、クレスの周囲2メートルに張り巡らされたソレを何とかする手段を彼らは持ち合わせていない。
「くそっ! ガキが、そこから出て来やがれ!」
「オイ、ここは任せた……俺は援軍を呼んでくる」
「早くしろよ! こいつを殺すだけで100万ゴールドなんだ、これだけボロい依頼があるかよ……!」
しばし無意味な攻撃を続けていた襲撃者は、無駄な事を悟ったのか思い思いに散らばり物色を始めていた。
恐怖に身を支配されながら薄目を開けて周囲を探るクレスの瞳に、自分を殺すことしか考えていない輩の視線がモロに浴びせられた。
「!!!!」
「はぁー、よう王子さまぁ! もう少しだけ待ってろよ、殺してやるからなぁ!! ハハッ!」
恐ろしかった。
小さな頃から命を狙われていた、ロクな食べ物を与えられず育ってきた。
だからこんな事には慣れていると思っていた。
とんだ勘違いだった。
今まで感じていた死の恐怖など、今この瞬間に感じている恐怖に比べればおままごとに等しかった。
(やだよ……お姉ちゃん)
ガチガチと歯が震える。
下腹部が濡れている、いつの間にか恐怖で漏らしてしまっていたのだ。
(怖い……怖いよぅ……助けて……)
障壁がある事など関係がなかった。
恐ろしくて仕方がなかった。
段々と温もりの失せていくネックレスが悲しかった。
このまま殺されてしまうのか。
もう会えないのかな?
「へっ、このままじゃ済まさねぇからなガキ。そこでビビってな、コレが無くなったら俺様が甚振って殺してやるからよ」
バタン。
男の背後から扉の開く音がした、先程出て行った男たちの言葉を思い出す。
援軍を呼んでくる───確かにそう言っていた。
怖い……怖い……怖い……!
もう無理だった、これ以上は目を開けていられない。
(死にたくないよ……!)
カツ、カツ、カツ。
特徴的な足音がフロアに響いている、甲高いその音はゆっくりと……だが確実に近付いてきていた。
「遅かったじゃねぇか、待ちくたびれたぜ」
ドサッ。
重たい音がした。
足音は止まることなく此方へと向かってくる、そして優しく抱き抱えられた。
ギュッと目を瞑っていたクレスは反射的にその手を押し退けようとして……違和感に気付いた。
まだ障壁は展開されている。
血が出るほど握りしめているネックレスは一際熱くなりその存在感を主張し続けている。
ふわり……と鼻腔に嗅ぎなれた匂いがした。
とても懐かしくて、とても優しいその匂い。その正体にようやく気付いたクレスは閉ざしていた瞳を開いて「……お待たせしましたね、殿下」そこには大好きな人の、何よりも大切な人の笑顔が広がっていた。
「助けに参りましたわ……ごめんなさい」
「……おねえちゃん……っ!」
「はい、わたくしですよ」
「……!! おねえちゃん、おねえちゃんっ! お゛ね゛え゛ち゛ゃ゛ん゛っ!!」
「はい……怖かったですわね……もう大丈夫ですわ、わたくしは此処に居ますわよ」
今一番会いたかった人がそこに居る。
恐怖に震え張り詰めていた少年の意識はそこで限界を迎え、意識を手放した。
「…………」
くぅくぅと眠りだしたクレスを抱き抱え、メイドや執事たちの死体の傍を慎重に通り過ぎ……そして襲撃者達の死体を踏み躙りながら通り過ぎる。
「これは流石に」
その表情には普段の締まりのないだらしない笑みは浮かんでいなかった。
そこにはかつて魔帝シンシアと呼ばれ味方からも恐れられていた魔法の申し子としての姿だけがあった。
「わたくしの落ち度ですわね」
その顔には後悔が滲んでいた。
命を救うことばかり考えて。
心に傷を負うことまで考えていなかった。
これには流石の重度ショタコンも猛省。