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新世界。青々とした大航路の海を裂き、ロジャー海賊団の『オーロ・ジャクソン号』と、白ひげ海賊団の『モビー・ディック号』が、ある豊かな無人島の海岸線で鉢合わせた。
「グララララ! 相変わらず景気の良さそうな面構えだな、ロジャー!」
モビー・ディック号の船首像の上に立ち、巨大な薙刀『むらくも切』を肩に担ぐ男――“白ひげ”エドワード・ニューゲート。その背後にはマルコやジョズ、ビスタといった若き幹部たちがズラリと居並び、圧倒的な圧迫感を放っている。
「わははは! お前もなニューゲート! 命が惜しくば持ってるお宝を全部置いていきな!」
ロジャーが愛刀『エース』を抜いて笑い飛ばし、両陣営の覇王色の覇気が激突。天の雲が巨大な円を描くように裂けていく。
クルーたちが武器を手に飛び出し、まさに大激突が始まろうとしたその時――。
「待て、ロジャー」
重厚で低い声が、戦場の空気の密度を一変させた。
黒い髪をなびかせ、黄金の瞳を怪しく光らせた男――ミラが、ロジャーの前にスッと進み出る。
「ミラ? どうした」
「ロジャー……白ひげとの一騎打ち、俺にやらせてくれないか?」
「この間の神のなんたらでは物足りなかったからな」
ミラの言葉に、場が静まり返る。白ひげ海賊団の若手たちが「正気か!? 親父に一人で挑むだと!?」と色めき立つが、白ひげは黄色い眼光を鋭く光らせ、不敵にニヤリと口角を上げた。
「グララララ……! 面白いガキが入ったと噂には聞いていたが……ロジャー、お前の部下は随分と威勢がいいじゃねぇか」
「わははは! いい度胸だミラ! よし、白ひげの頭は最初はお前に譲る! 存分に暴れてこい!」
ロジャーが大きく手を振って下がると、ミラは腰の愛刀『政宗』を引き抜き、白ひげの前に一人立ち塞がった。
「白ひげエドワード・ニューゲート……全身全霊で確かめさせてもらう」
「グラララ! 後悔するなよ、小僧――ッ!!」
ズガァァァァンッ!!!
一瞬で間合いが詰まった。
白ひげの『むらくも切』と、ミラの『政宗』が正面から交差する。
接触していない刃と刃の間から、黒紫の覇王色の雷霆と激しい火花が吹き荒れ、島全体の木々が一瞬で押し倒された。
「ぬぅ……ッ!」
ミラの腕に伝わるのは、これまで経験したことのない途方もない「重量」と「密度」。
素の腕力、身体のスケール、そして纏う覇気の厚み――すべてにおいて白ひげは次元が違っていた。
「グラララ! どうした小僧、踏ん張りが足りねぇぞ!!」
白ひげが腕をひと引きし、薙刀を大旋回させて上空から叩きつける!
「――『破滅・断空刃(スラッシュ・ルイン)』――ッ!!」
ミラは間一髪で体を捻り、覇王色を纏わせた極大の飛ぶ斬撃を近距離から放った。だが白ひげは避ける素振りすら見せず、左拳を握り締め、空気を「叩いた」。
ヒビィィィィンッ……!!
空中にガラスが割れるような亀裂が走り――ドゴォォォォォンッ!!!
『グラグラの実』による振動の衝撃波!
ミラの放った渾身の『断空刃』が、白ひげに届く前に空中でもろくも粉砕され、そのまま巨大な振動波がミラの全身を直撃した。
「ガハッ……!?」
内臓を直接揺さぶられるような強烈なダメージ。ミラは数百メートルの砂浜を削りながら吹き飛ばされ、荒野の岩山へと激突した。
「ミラさんッ!?」
オーロ・ジャクソン号の甲板からシャンクスやバギーが悲鳴を上げる。
だが、煙の中から静かに立ち上がる影があった。ミラの身体を漆黒の鱗が覆い始め、頭部から途方もなく巨大な二本の角が生え伸びる。
半人半龍の『人獣型』。
「……ハァ……ハァ……なるほど。『世界を滅ぼす力』とは伊達ではないな……ッ!」
ミラの全身から高熱の黒炎と覇王色が溢れ出す。黄金の瞳がギラリと光り、残像を残す超高速の踏み込みで白ひげの懐へ侵入した。
「――『破滅・連斬(ルイン・ラッシュ)』――ッ!!」
「グラララ! 遅ぇッ!」
白ひげは未来視すら交えた見聞色の覇気でミラの超高速連斬を『むらくも切』の柄で完璧に受け止め、いなし、隙が開いたミラの胸板へ、振動の威力を宿した左拳を直接叩き込んだ!
ドガァァァァンッ!!!
「ぐあぁぁぁぁッ!!」
地平線が歪み、島の一角が海へ崩落する。
人獣型の強靭な皮膚と覇気による防御をもってしても防御しきれず、ミラは血を吐きながら大地へと膝をついた。
圧倒的なまでの格の差。白ひげという男は、ただの悪魔の実の能力者ではない。極限まで鍛え上げられた覇気とフィジカル、そして豊富な実戦経験が完璧に融合した「理不尽の塊」だった。
「どうした小僧! ロジャーの船に乗って満足していたか? 世界の頂点はこんなもんじゃねぇぞ!!」
白ひげが薙刀を突き立て、威風堂々とミラを見下ろす。
倒れ伏すミラ。視界が赤く染まり、体内の血液が沸騰するような強烈な敗北感と悔しさが胸を焼き尽くす。
(負ける……? この俺が……まだだ。まだ……俺は終わらん!」
胸の奥深く、ミラの「龍の核心(コア)」で、何かが激しく弾けた。
(ふざけるな……! 相手が誰だろうと……俺の前に立ち塞がる者は……すべて焼き尽くすのみ……ッ!!)
ドクンッ!!
ミラの身体から解き放たれていた炎が、異変を起こし始めた。
それは単なる火ではない。地球の底から湧き上がるような、どろりと熱い超高熱の「緋色のマグマ」――そして紅蓮の劫火。
「ぬ……? 何だ、この熱気は……!?」
白ひげが眉をひそめた。周囲の砂浜が熱で一瞬にしてガラス化し、空気が歪み、島の気温が狂ったように急上昇していく。
ミラの黒かった鱗の一部が、赤熱した鉄のように紅く発光を始めた。
角の先から紅蓮の稲妻が迸り、胸元の逆鱗が太陽のごとく眩い光を放つ。
黒龍のもう一つの姿――**【紅龍】**への、部分的な覚醒(進化)であった。
「オァァァァァァァァッ……!!!」
ミラが天を仰ぎ、咆哮を上げる。
その声はただの衝撃波にとどまらず、空を赤く染め上げ、雲を蒸発させ、大地を赤熱化させていく。
「グラララ! 面白い……! 殻を破りやがったか小僧ッ!!」
白ひげが笑い、グラグラの力を全開にして拳を突き出す。
龍化し紅蓮の力をやどした巨大な翼で上空高く跳躍、巨体の質量と炎を纏って敵陣へ流星のごとく急降下する
「破空阿」
「破滅の滑空(カタストロフィ・ダイブ)』――ッ!!」
背中の巨大な翼をはばたかせ、地面を破壊しながら低空を超高速で滑空!
紅蓮のマグマを纏ったミラの突進と、白ひげの全開の振動拳が正面衝突した!
ドドドッ……ドカァァァァァァァァンッ!!!!!
島全体が天変地異に見舞われたかのような爆破と振動。
海がめくれ上がり、空が裂け、灼熱の熱波と巨大な津波が周囲を襲う。
白ひげの圧倒的な振動波がミラの紅蓮の突進を押し返し、爆風と共にふたりは大きく距離を取った。
「ハァ……ハァ……ハァ……ッ!」龍化は解けた
ミラは半身を紅く発光させたまま、息を吐く。紅蓮の覚醒はまだ不完全であり、全身の体力を激しく消耗していた。
一方の白ひげも、着物の袖が黒く焼け焦げ、薙刀を握る手に微かな熱気を感じながら、楽しそうに目を細めていた。
「グラララ……素晴らしい熱量だな小僧」
白ひげが薙刀を納め、威厳たっぷりに笑う。
「おいロジャー! いい部下を持ったな! このガキの将来が恐ろしいぜ!」
「わははは! だろうニューゲート! うちのミラを甘く見てもらっちゃ困るな!」
ロジャーが嬉しそうに前に飛び出し、ミラと白ひげの間に割り込んだ。
ミラは覚醒した熱気を静かに収め、元の姿へと戻りながら『政宗』を鞘へと納めた。
「……負けたな。一騎打ちは俺の負けだ、白ひげ」
「グラララ! 謙遜するな。お前がその『赤』を完全に使いこなした時、もう一度勝負してやるよ!」
白ひげの豪快な笑い声が響く中、ミラは拳を固く握りしめた。
世界最強の男・白ひげとの死闘によって芽生えた、新たな力**『バルカン(紅龍)』**の兆し。
己の秘められたポテンシャルの高さを実感しながら、ミラの瞳はさらなる強さへの渇望で激しく燃え上がっていたのだった。
白ひげとミラの規格外の一騎打ちが終わると、さっきまでの張りつめた死闘の空気が嘘のように霧散した。
「わははは! 決闘は終わりだ! 野郎ども、宴だ宴ぇぇぇッ!!」
ロジャーの豪快な一声で、両陣営のクルーたちから「おぉぉぉッ!」と大歓声が上がる。
オーロ・ジャクソン号とモビー・ディック号から大量の酒樽と肉が運び出され、無人島の海岸線は一瞬にして巨大な宴会場へと変貌を遂げた。
「グラララ、 マルコ肉を持ってこい! ミラにもでかい杯を渡してやれ!」
「わかってるよいオヤジ……ったく、さっきまで島を沈める勢いでやり合ってたとは思えねぇ呑気さだよい」
マルコが呆れ顔で巨大な肉と酒樽を運んでくる。
ミラは砂浜に腰を下ろし、身体の奥に残る「異様な熱気」を感じながら、渡された大杯の酒を一気に飲み干した。
「……ふぅ。身体に沁みるな」
「おいおいミラ、大丈夫かよい? さっきお前さんから溢れてたあの赤黒い炎とマグマ……ありゃただの悪魔の実の能力じゃねぇだろ。周囲の空間が一瞬で溶け落ちそうになってたぞ」
マルコが興味深そうにミラの全身を覗き込んでくる。
ミラは己の左手を見つめた。爪の先が微かに熱を帯び、発光の余韻を残している。
(……炎だけではない。極限の悔しさと闘志が高まった時、俺の奥底にある『紅龍』の力が引きずり出された……)
伝説の災厄たる黒龍の力が、死闘の中で一段階上の形態へと進化しようとしていたのだ。
「……あぁ。あれは俺の中にあるもう一つの『可能性』だ。まだ完全には制御しきれておらんがな」
「へぇ……『可能性』ねぇ。恐ろしい力だよいまったく」
マルコは苦笑しながら酒を煽った。
宴が佳境に入り、月が天高く昇る頃。
ミラは一人、酒瓶を抱えて波打ち際に立ち、静かに海を見つめていた。
そこへ、巨大な影がゆっくりと近づいてくる。
「グラララ……一人で黄昏れてる場合か、小僧」
その手には巨大な酒樽。白ひげはミラの隣にドサリと座り込むと、豪快に酒を飲み干した。
「……白ひげか」
「あの土壇場で出した『赤』……ありゃあお前の血統か、それとも秘められた怨念の類か? 普通の人間どころか、魚人や巨人族でも持ち得ねぇ『災厄の気配』だったぞ」
白ひげの鋭い眼光がミラを捉える。
世界最強と称される男の直感は、ミラの異質さを正確に見抜いていた。
「……さあな。俺自身、己の力の底をまだ理解しきれておらん。だが一つだけ分かったことがある」
ミラは『政宗』の柄に手を置き、白ひげを見据えた。
「お前の『グラグラの実』による振動と、極限の覇気……あれは文字通り『世界を滅ぼす力』だ。俺が目指すべき頂の一つとして、最高の手本になった」
「グララララ! 言ってくれるじゃねぇか!」
白ひげは愉快そうに髭を揺らして大笑いした。
「気に入ったぜミラ。ロジャーの船に置いておくには惜しいくらいだ。どうだ? ロジャーの船を降りて、俺の『息子』にならねぇか?」
「断る。俺は誰かの『息子』になるつもりはない。俺は俺の足で立ち、ロジャーと共に世界の頂点を見届ける」
「がははは! 言うと思ったぜ!」
断られると分かっていても誘わずにはいられなかった白ひげは、大満足そうに酒樽を打ち鳴らした。
「覚悟しておけ小僧。次に会う時、その『赤』を完全に使いこなせていなければ……俺が叩き潰してやるからな!」
「フン……望むところだ。その時はお前を越えて見せる」
ふたりは巨大な杯と酒瓶を打ち合わせ、静かに酒を飲み交わした。
宴は三日三晩続き、ついに別れの時が訪れた。
「わははは! 楽しかったぞニューゲート! また何処かで会おうぜ!」
「グラララ! 勝手なことを言ってんじゃねぇよロジャー! 航海の無事を祈ってるぜ!」
オーロ・ジャクソン号とモビー・ディック号がゆっくりと距離をとっていく。
甲板に立つミラへ、白ひげ海賊団の若者たちが手を振る。
「ミラ! 今度会う時はもっと強くなってろよー!」
「また酒飲もうぜー!」
ミラは無言で片手を高く突き上げ、応えた。
「……さて、ミラ」
ロジャーがミラの隣に並び立ち、地平線を見つめる。
「白ひげとの戦いで掴んだあの力……『赤き龍』の感覚はどうだ?」
「……悪くない。だが、体力の消耗が激しすぎるし、何よりあれはまだ未完成だが今の俺では、数分間発動させるのが関の山だ」
「わははは! なら鍛え甲斐があるってもんだ! 世界の頂点に立つには、それくらいの切り札がなくっちゃな!」
ロジャーが嬉しそうにミラの肩を叩く。
ミラは黄金の瞳を輝かせ、胸の中で秘やかに燃える紅蓮の炎を確かめた。
(白ひげ、ロジャー、そしてこれから出会う世界の強者たち……。すべてを喰らい、俺は真の『災厄』を超える)
オーロ・ジャクソン号は、さらなる強敵と世界の真実が待つ大海原へと、勢いよく進路を取ったのだった。