異能社会で人間の可能性を求めて 作:笑門来福
上機嫌に仕事を終えた俺こと鴉羽 陣は今現在、
「貴様!どういうつもりだ!」
バチクソに怒られていた。
執務室で今回の任務で起きた出来事を口頭で報告にしに行ったわけだが、そのことを偶々別の任務の報告で来ていた幹部様にも聞かれてしまい俺はそのことで問い詰められていた
「どうもこうも報告した通りですよ。標的2人及びその護衛6人の始末完了、標的の子供2人の内1人は異能力を覚醒、危険を感じたため気絶させ無力化、現場に放置。もう1人は意識不明の重体のため治療の必要を感じ組織の医療施設に運び込みました。異能の覚醒は確認しておりません以上」
「ふざけるな!なぜ覚醒した子供をその場で放置した!なぜ部外者の子供を組織内に入れた!」
「なぜって、子供は対象リストに入ってなかったし、それに子供が傷ついて今にも死にそうなんですよ?それを見捨てるなんて真似俺にはとてもとても」
「貴様がそんな性格か!!」
幹部様ことポレクス殿は組織にいる5人の最高幹部の1人で組織内ではまあまあの古参の方で、なんでも先々代の頃から組織に貢献しているとか
身長が2mを超えた大男で体は服越しにでも分かるぐらい鍛え上げられており近くにいるだけでも圧迫感を感じる
頭は完璧に剃りあげられており毛一つない、しかし口元には立派なカイゼル髭が生しており自慢の一品だとか
身体能力は高く攻撃型の異能も合わさって、戦闘面では組織内でも上位に位置し真面目なこともあってボスの信用も高く軍務を任されているがしかし、性格が直情的かつ感情的、組織への忠誠心自体は高いが頭が固く性格も災いし想定外なことが起きた際の柔軟性がないのが玉に瑕
そんなクソ真面目なポレクス殿は頭に血管を浮かび上がらせ顔は興奮で真っ赤になっていた、剃髪した頭も相まってまるで茹で上がったタコの様だ(笑)
「貴様!何を笑ってる!状況を分かっているのか!!」
「分かってます分かってますよ、取りあえずまあ落ち着いて下さい。あ、ほらお茶飲みます?」
「貴様ッ!」
ポレクスの怒りが我慢の限界を超えたのか、拳を握りワナワナ震えだした。
その拳は通常では考えられないほど真っ赤になり、シュー、シューと人間の構造からは到底出ないであろう音とともに煙を噴き昇らせていた。少し焦げ臭い。
「貴様も10年前のこと聞いてはいただろ」
「ええまあ、今回の対象はその原因でしたし」
「ならば、なぜ子供を2人態々生かした!危険分子を残すような真似をした!」
「それは先ほども言いましたが、子供の命を見捨てることなんて、」
「貴様!図に乗るのもたいがいにっ」
ポレクスが怒りに身を任せ俺に殴りかかろうとしたその時、
「
ひどく落ち着いた静かな声が場を支配した。
この執務室にはポレクスの他にもう一人、報告を聞いていた人物がいた
俺が現在所属している組織『Vesper』のボスその人だ
声の持ち主は落ち着いた風貌の男で皴一つない顔はとても30過ぎとは思えない、20代といわれても信じられそうだ。
表情は常に穏やかに笑みを浮かべ、その目は一見笑っているように見えるが瞳の奥は冷たく何の感情も映していないように思える。
ボスは穏やかな表情を崩すことなく言葉一つでポレクスを行動を押さえ込んだ
ポレクスはボスの言葉で冷静さを取り戻したのか、しばらく黙り込み感情を抑え込んだようで
さっきまで真っ赤にしていた顔が少しはマシになり、拳も煙を上げることなく通常の状態に戻った
しかしそれでも彼は言いたいことがあったのか口を開きボスに意見しようとした
「ボス!しかし、これは」
「陣」
しかし、ボスはそんな彼を無視し俺に質問を投げかけた
「ポレクスの意見は尤もだと僕の思う、君はなぜこんなことを?」
「はい、必要だと感じたからです」
「必要に感じた?何に?」
「私の目的のために」
「君の目的のために…」
「はい」
「それだけ?」
「はい、それだけです」
「そうか」
普通なら殺されてもおかしくはないふざけた答え
しかしこれは俺にとって最も重要なことだ
「貴様、いい加減に
「ならしょうがないな」
ッボス?!」
「聞いた話じゃその娘はひどい怪我みたいじゃないか、後遺症が残っては大変だしっかりと治療してあげよう」
「ボス、それでは組織に、」
「ポレクス」
ボスはひどく落ち着いた声でポレクスを説得し始めた。
「今回、彼は命令自体はしっかり遂行したんだよ。対象は異能者が2名、護衛を含めれば8名。その中でも『銀翼』は元とはいえA級に認定された異能力者、それを迅速かつ被害なく対処したことはちゃんと評価すべきだよ。それに宮山は僕たちを裏切った後しばらく『銀翼』の所属していた傭兵団に身を置いていて現在も交流があったらしい、もしかしたらあの娘は彼らへの交渉カードに使えるかもしれない」
「ボス、彼らはいくつもの戦場を渡り歩いた歴戦の傭兵達。交渉にそう簡単に応じるとは思えません逆にこちらを攻め込まれる要因になるのでは?それにそれならもう一人の方も回収していれば確実だったのでは?」
「もう一人は異能に目覚めたんだろ?あの陣が子供とはいえ気絶させる必要がある程の異能、それなりに強力なんだろう、そんな者が施設内で暴れられてこちらの居場所を知られるわけにはいかないし、傭兵達に関しても人間の感情はそこまでたやすく切り替えられないよ。とくに彼らは今時珍しく正義なんてものを掲げているんだ子供の命を人質に取られては無茶な要求をしない限り大丈夫なはずだよ」
「し、しかしですな」
「もちろん、陣にも罰則なしって訳にはしないよ。陣にはしばらく謹慎してもらうし、今後任務に出る際にも制限を掛ける。それで良いかい?」
「…分かりました。今回はそれで納得致します。しかしその男に対して態度には目に余るものがあります。今後その男に対する態度はぜひ改めて戴きたい。」
「はは、気を付けるよ」
ボスはポレクスに対し苦笑交じり答え、
「陣もそれで良いかな」
「問題ありません。寛大なご対応感謝致します」
「じゃあ、この話題はこれで一旦終わり。報告の続きを聞こうか」
「はっ、では今後の作戦につきまして例の件については…」
その後、ポレクスと俺はそれぞれ報告を行い、ボスはそれをいつもの余裕を持った態度で聞いていた。
ポレクスは他に予定があるのか報告後一礼し速やかに退出した。執務室には俺とボスの2人だけになった
「…で、ボス他に他に何か御用で?」
「さっきの話を蒸し返すようだが、何を考えているんだい
「…」
ボスは先程まで浮かべていた穏やかな表情を崩し、厳しめな視線で此方を睨みつけた
「正直、僕もポレクスと同意見だ。10年前、宮山の裏切りで当時の幹部が一人死亡、組織も全体の2割という損害を受け、しばらく表舞台から身を隠すことになった。立て直しにも数年の歳月がかかった。なのに君はその宮山の娘を生かし、あまつさえ親の仇である我が組織内に受け入れたんだ。当時を知るポレクスが10年前の悲劇が再び起きるかもしれないと思うのも仕方ない」
「…」
「なぜだ?レオ、答えてくれ」
それに対し俺は近くにあった観賞用の植物を弄りながら答えた
「ボス、俺はね最近まで退屈してたんだ」
「…」
「紛争も少なく平和ボケした敵、単純な仕事、俺の予想を超えられないつまらない相手ホント退屈だった」
「…退屈、ね」
そんなことでとでも思っている顔だな、いつものポーカーフェイスが崩れている分表情も読み易い
「なあボス、俺があんたに初めて会ったときの言葉覚えているだろ」
「…人の可能性が見たいだっけ」
「ああ、そしてあんたは俺にそれを見せる手助けをすると言ってくれた」
「そうだったね」
昔のことを思い出しているのか彼は目を細めていた
「で、君はそれを彼女に見たと?」
「ああ、正確には姉の方にだけどな」
「へえ姉の方にね、ならなぜ妹の方も助けようと?」
「そっちの方が面白くなると思ったから」
ボスは再度此方を睨みつけ
「面白くなると思った?君はそんなことで組織を危険にさらすつもりなのか」
「ああ」
「君は一応僕の部下なんだよ。組織人として責任はないのかい?」
「問題ない。何か起こっても俺が対処する」
「対処するって君ね…はぁ~」
ボスは表情を崩し、何かすべてを諦めたかのように盛大に溜息を吐いた。
「分かったよ、今回の件は君に任せる。それと今回の報告とは別に報告書はちゃんと送ってね。」
「悪いね」
「あと、さっきのポレクスの態度でも分かってると思うけど幹部内での君への不満が高まってる。インデクスとメディウスがある程度抑えていてはくれているがそれでも限度がある。今後は君の方でも行動を慎んでほしい」
「はいはーい」
「…ほんとに分かってる?頼むよ?」
「分かってる分かってる」
分かってるって言っているのにいまだに疑いを持った目でこちらを睨みつけてくる今のボスの姿はポレクスに対応していた時とは違い、いやに人間臭い
「ああ、それと君が連れてきた娘だけど君がしっかりと面倒見てね」
「えー、俺がしなきゃ駄目?」
「当たり前だろ、君が連れてきたんだから」
「でも、あいつにとって俺は親の仇であると同時に傷を負った原因だトラウマもんだぜきっと、それに今回の出来事で精神が壊れていてもおかしくないし」
「いま組織内で精神が病んだ子供を育てる余裕はないよ、謹慎を食らった君以外にね」
「でもよ、」
「人の可能性を知りたいんだろいい機会じゃないか子供を育てながら探してみればいいじゃない、それに君がトラウマだとしても君のお得意の変装で何とかできるだろ、何なら今もしている変装をとってしまえばいいんじゃない?」
「えー」
「これも経験だよ、なに手が空いた時はサポートするし僕も同じ年頃の娘を持つ身だ相談くらいは乗るよ、それで駄目ならもう表の専門施設の人に任せるしかないよ」
「うーん」
「拾った責任は取らないと駄目だからねそれにさっきも言ったけど君はもう少し責任感って持つべきだよ。この間の任務の時だって、ってねえちゃんと話聞いてる?ねえ?」
グチグチと俺に説教を垂れるボスの言葉を聞き流しつつ、俺も色々と考えた
このまま放っておいても、同じ年頃の娘を持つボスはなんだかんだ言いつつ面倒を見る方針にするだろう
だがボスも暇じゃない基本的な育児は組織内の誰かになるだろう、そんでもってその誰かがあの娘に好意的に接するとは限らないあいつは裏切者の娘だ。むしろ憎いとすら思ってる奴も多いだろう。陰険にイジメるだけならまだしも変な実験に使われあの姉へ送る報酬としての価値が無くなってしまうのは流石に駄目だな、仕方ない
俺は面倒だと考えつつも、覚悟を決めた
めんどくさいけどやってみるか
「…分かったよ、育てりゃいいんだろ育てりゃ」
「なんか、仕方なく折れてやったって雰囲気出しているけど、当たり前のことだからね?」
「そんじゃあボス、あいつが目覚めるまでしばらく自室で大人しくしてるよ」
「報告書の方もよろしくね」
「ああ、後で送るよ」
「子育ての方もぜひ頑張ってね」
そんな、ボスの簡単な激励を背に俺は部屋を後にした。
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「子育ての方もぜひ頑張ってね」
そんな僕の激励に彼は返事はせず片手を挙げ軽く応じ部屋を後にした。
それからしばらく彼が去った扉を見つめ
僕は、
「はあーーーーーーー」
彼の前で吐いた溜息以上の溜息を吐いた
彼と出会って早6年
未だに慣れないな
彼とは年こそ離れているが友人と呼べる程の中になったと思う
初めの頃はよく吐きそうになり、彼から変な目で見られていたが今では大分慣れ、気やすく接せれるようになった
がそれでも彼と2人きりなるのは緊張してしまう
あのふざけた態度で隠されてはいるが、何か見定めているような自分のすべてを見透かしているようなあの視線。
僕が何かを誤ったもしくは彼から使えないものと判断されたとき彼は容赦なく僕を見捨てるだろう
彼は確かに異能者ではない所謂無能力者といわれる存在だろう
だが、ただの無能力者が異能持ちを不意打ちとは8人を無傷で葬れるか?
しかも相手はあの『銀翼』、通常ならうちの攻撃型の異能持ち5人以上で対処させるべき相手だ
だがあの男にこの任務を任せた際必要な人員について聞いたが、「後処理を出来るメンバー2人いれば問題ない」といい実際にその人員でやってのけた
あれは世間一般的な無能力者では決してない、むしろ能力者以上に恐るべきナニカだ
あの男とは敵対してはいけないし、見限られてもいけない。
今は何とか彼を『鴉羽 陣』という存在に抑え込んだはいるが
彼がいつ気分を変え、器を放り投げるかわからない
もしかしたら敵対するかもしれない
そうなってしまったら今までの努力はすべてが水の泡だ
先祖代々から続く我が組織も簡単につぶされるだろう
だから僕はそうならないよう彼の機嫌を伺いつつも重に行動していき
そして、最後には必ず僕の目的を果たしてみせよう。
しかし、今は目の前の雑務を片付けよう。
人の時間は有限なのだから。
ただ願わくは彼が拾ったあの子供、久我山シオリが彼への楔になってくれればよいのだが
その後、ボスは届いた鴉羽からの電子報告書で彼があの娘たちにやらかした所業を知り、本当に任せてよかったのかと後悔し、しばらく頭を抱えることになった