異能社会で人間の可能性を求めて 作:笑門来福
俺は執務室を出たあとそのまま自室に戻って、今回の報告書を作成しボスに提出した
提出してしばらくした後、ボスから本が送られてきた。
電子ではなく実物で
【誰でもわかる 人権と道徳について 全5巻セット】
ボスが何を考えてそれを送ってきたかは容易に想像出来たがあまり面白くなさそうだな、まあ態々送ってきてもらったものなので暇つぶしも兼ねそれを読みながら時間を過ごしていると数週間後に医療部門から娘について話があるから医務室に来て欲しいと連絡がきた。
ボスからの命令で面倒を見ることになったから呼ばれなくても様子は見に行くつもりだったので添付された資料を確認してから俺は医務室に向かった。
ここの医療部門は組織内でも特殊な立場にある。
組織図から見れば医療部門は総括機関の直轄であり、最高幹部の1人であるインデクスの部下という立ち位置なのだが
組織の創設時に当時の医師長が「命を預かる立場として医療に関しては口出しはさせん」と言い放ち断固たる姿勢をみせたらしい。
話し合いの結果、医療部門は基本的には総括機関の部下として扱われるが医療に関わることについては最高幹部と同等の権利を持つことが許された。
という訳で俺はそんな最高幹部とほぼ同じ立ち位置にいるこわ~い医師長に呼び出され医務室の前に来たわけだが、ここに辿り着くまでにすれ違う医療関係者達の視線が冷たい。
今も近くで作業している女性スタッフが隠そうともせず此方を睨みつけてくる。
大方、川島がこちらに運んだ時になにがあったのか大体の事情を説明したのであろう。
俺は特に気にすることなく医務室の扉をノックした。
コンコンコン
「鴉羽だ。入っても良いか?」
「来たか、入れ」
「失礼するよ」
扉を開け、最初に目に飛び込んできたのはこちらに向けて投げれたナイフの先端だった
不意打ち気味に投げつけられたそれを左手で受け取り、手元で弄びながら改めて部屋の中を確認した。
部屋の中には3人おり、
椅子に座り机の上で何かの書類を書きあげている眼鏡をかけた細身の男と
眼鏡の男の傍でナイフを投げつけたであろう女性が舌打ちをし此方を睨みつけていた。
それとなぜか川島がおり、目を丸め此方を見ていた。
眼鏡の男は書類を書く手を止め、俺の顔を見るなり開口一番、
「よく来てくれた、この外道」
と罵倒をくれた。
「わお、それは新手の誉め言葉として受け取っても?」
「そんな訳ないだろ、君には耳か頭の検査が必要かもしれないな」
「残念ながら俺の耳と頭は大分優秀な方でね、検査は必要ないと思うぜ」
「少なくと頭には異常があるようだが?」
「まさか」
男は俺の言葉に溜息を吐き、目頭を押さえつけた。
この男の名は
歳は31で白髪混じりの黒髪に銀縁の眼鏡を掛けており目つきが鋭い。
現在の医師長であり医療部門トップとして、メディクスのコードネームが授けられた組織の幹部の1人である。
ただし、彼はコードネームで呼ばれることを好まず平時では本名で呼ぶことを周りに強要している。
「まったく、なぜお前みたいな奴があの子の教育係に」
「先生、私は今でも反対です。今からでも何とか上に掛け合って教育係を変えてもらうことはできないのですか?」
「言うな、これはボスからの勅令だ」
「しかし、」
「レナ君」
「…はい、すみません」
尾形に説き伏せられた後、また此方を睨みつけてきた女性の名はレナ・シュミット。
顔立ちは切れ長の目に蒼い瞳を持ち、髪は茶色に近い金髪を肩まで伸ばし綺麗に切り揃えている歳は21。
現在こそは尾形の助手兼護衛役として彼に付き従っているが元々はうちの暗殺部隊で大隊長にまで上り詰めた女性でどうやらある任務で受傷した際、尾形に手当てしてもらいそこで彼に惚れ怪我を理由に暗殺部隊から医療部門に移籍、彼の護衛についたのだとか。(ついでに怪我自体はすでに完治自体ており戦闘に影響はないとのこと)
俺の見立てではもう数年もすればくっつくんじゃないか?尾形の方もレナの気持ちに気付いているみたいだし
まあそんなことはどうでもよくて。
「で、川島お前なんでいんの。お前もあいつの事情説明で呼ばれた感じ?」
「いえ、自分はたまたまあの子の様子を見に来たら尾形先生から鴉羽さんが来るからお前も付き合えって」
「ふーん」
「って、今の何処からツッコめばいいんすか!」
「おい、近くに患者がいるんだ静かにしろ」
「うっ、先生すいません」
「まあ気にすんな、彼女なりの俺への挨拶だよ」
「おい」
「ほら、これ返すよ」
「…チッ」
俺が川島へ適当な冗談を言うと彼女に睨んできた。
俺はナイフの刃先を持ち、柄をレナの方に向けナイフを渡すと彼女は舌打ちをしながらもそれを受け取った。
昔、俺は彼女と模擬戦を行ったことがあり、その際に彼女を泣くまでイジメた結果、
彼女から俺への当たりが強くなり、会う度に敵意を向けられるようになった。
まあ表向きの立場では俺の方が上なので流石にナイフを投げられたのはこれが初めてだったが。
「ところで例の彼女は隣の部屋に?」
「ああ、今はベッドの上で安静にしてもらっている。これから会って貰う予定だが、その前にお前カルテは確認したか?」
「ああ連絡がきた時、一緒に送らてきた奴ね。見たよ」
「それを見てどう思った?」
「大変だなぁって」
「貴様のせいだろ、なぜ他人事なんだ。で、どうするつもりだ」
「まあ、そこは対面してみてどう反応するかによるんじゃない?」
「下手したら壊れるぞ」
「かもね」
「貴様っ」
「まあまあ、実際問題そこは俺も祈ることしか出来ないよ」
添付された資料には彼女の
簡単に言うと手術自体は成功し、後遺症及び傷跡も残らず完治したという旨が記されていた。流石優秀だね。
しかし、身体の方には問題がなくても精神の方には問題があったらしい。
彼女の精神は例の件で強烈な精神的ショックを受け感情の起伏が乏しくなり、記憶が一部欠落したらしい。
その一部とは自分に関わるすべての事象。
つまり、彼女はあの事がきっかけで友人や家族、自分自身の事を全て忘れてしまったらしい。
一般常識や質疑応答には答えられるし、感情自体も乏しいだけで反応はするらしいので生活するには問題はないが、何がきっかけで彼女の記憶が戻るのかが分からないため今は、余計な影響がないよう様子見しているとのこと。ほんと大変だねお医者さんは。
「とにかく彼女は今、非常に危うい状態だ。そこを十分理解してくれ」
「OK♪」
「おい、本当に頼むぞ」
「分かってるよ。それじゃあ、そろそろご対面と行きますか」
俺は尾形からの忠告を受け取り、件の少女がいる部屋の扉の前に行った。
コンコンコン
「入っても良いかい?」
「………どうぞ」
俺が入室の確認をしたら、中から少し間をおいて少女の声で許可が下りた。
「失礼するよ」
「…」
部屋の中には小さなテレビが1台とシングルサイズベットが1台。ベットの近くには椅子と花瓶が置いてあり花瓶にはガーベラやカスミソウ等の花が活けてあった。
そして、ベットも上には一人の少女がいた。
髪は黒く、癖毛のない直毛を腰まで伸ばしており、瞳は母親と同じ青色。顔立ちはまだ幼いがこちらも母親似で整っている。姉のカオリとは双子なだけあって同じ風貌をしているがあちらは確か髪を後頭部で一つにまとめ垂らしていた。
そんな少女いや久我山シオリは上体を起こし感情が薄い目で此方を見ていた。
「シオリ君、こちらがこの前説明した、」
「先生、ここからは俺が話すよ」
「…分かった、任せよう」
尾形が俺の紹介をしようとしたのを止め、俺は会話を交代して貰った。
「こんにちは」
「…こんにちは」
「俺の名前は鴉羽 陣、一応君をそんな風にした元凶だけど分かるかな?」
「…っ!?」
「えっと、ごめんなさい、分からないです。でも一応この前先生からすごい悪い人がくるって聞きました。それってあなたのこと?」
「はっはっは、いやうん間違ってないよ。おじさんはわるーい人だからね」
俺が彼女と話していると後ろから息を飲むような音が聞こえたが俺は気にせず会話を続けた。
それにしても初めて会ったときは少し気弱な印象だったが今は物怖じせずしっかり喋っているな、これが素か?
「いやー正直、そんな状態で助かったよ」
「?」
「いやね、これで会話も出来なかったら、俺も困ってたわけ」
「はあ」
「それでね変装でもしないといけないかもな、って考えてたの」
「おじ、からすばさんは変装が出来るの?」
「おじさんでも鴉羽でも陣でも好きに呼べばいいよ。どうせこの名前も偽名だし君が気にする必要はないよ。」
少女は俺の名を少し呼びにくそうにしていたので好きに呼ぶよう促した。
彼女は俺の言葉にうん、と頷いたのを確認し俺は彼女との会話を続けた。
「それで変装が出来るのかだっけ、出来るよ。むしろ得意分野だといってもいいね」
「へえ、そうなんだ。変装ってどんな感じなの?」
「うーんとそうだね。実は今のこの顔も俺の変装技術で作った顔なんだよ」
「そうなの?」
「そうなの、後は声も変えることが出来るんだ『こんな感じでね』」
「…!!…すごい先生の声だ」
ふーん、確かに感情がない訳ではないようだな先程から表情には出ていないがどこか楽しそうだし。
今俺がしたのは声色を変え、別人の声を作り出す所謂変声術だ。ついでに今出した声は尾形のものだ。
俺はこのまま検証も兼ねて様々な声を出した。
「『ほかにもこんな声や』」
「違う男の人の声だ」
「『こんな声』」
「こんどは女の人の声」
「『こんな声も出せるよ』」
「すごい」
ふむ、記憶障害の方も確認が取れたな。
俺は声真似をする際、順に武市、彼女の母親である久我山リオナ、そして姉である久我山カオリの声を出していったが彼女は特に反応は示さなかった。
そんな彼女は無表情ながらもどこかワクワクした雰囲気で次は何が出るにかと、期待した面持ちで此方を見ていた。
「それじゃあ今度はこういうのはどうかな?」
俺はその後も簡単な手品を見せつつ、彼女の反応を伺っていった。
そんなことを20分程度続け、俺は確認したいことは大体分かったのでこの場を離れることにした。
「おじさんってなんでも出来るんだね」
「ほんとはもう少し時間と道具があればもっと色々見せられたんだけどな」
「ほんと?こんど、見せてもらってもいい?」
「いいぜ。あ、そうだ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「聞きたいこと?」
「そう、話は聞いてると思うけど、これからおじさんは君のお世話をすることになる。ここまでは良いかい?」
「うん、聞いてる」
「そこで確認なんだけど、君は俺とやっていけそうかい?正直に答えて欲しい」
彼女が俺のところに来るのは決定事項だ。これはボスの決定であり医師長である尾形でも覆すことが出来ない。
なので、この質問で彼女がどう答えるかによって今後の彼女との接し方が決まる。
「……わかんない、会ったばっかだし」
「うん、そうだね」
「…でも、」
「うん」
「でもわたし、おじさんとなら大丈夫だと思う」
「なぜだい?」
「…なんとなく?」
「そうか…よし」
確認も取れたことだしそろそろ出ていくか、準備したいこともあるし
「俺はもう行くよ」
「もう行くの?」
「ああ、それにお世話するって言っても今すぐじゃないしね。こっちも準備したいことがあるし、シオリちゃんの体調がもう少し良くなったら迎えに行くからその時にまた会おう」
「うん、わかった」
「それじゃあ、シオリちゃんまたね。」
俺は軽く手を振って彼女に挨拶し、そのまま部屋を後にした。
「随分と厚い猫を被れるものだな」
「まあ得意分野だし」
部屋を出てすぐに尾形から話掛けられた。
「お前さんにしては随分と優しいじゃないか。意外と子供好きなのか?」
「いや別に?そんな風に見える?」
「見えない、だからこそ気になってな」
「なに簡単な話だよ。しばらく面倒を見るんだ。初めのうちこそは仲良くしないとね」
「ほう、殊勝な心掛けじゃないか。これかもぜひ続けてくれ」
「ああ、俺が飽きるまでな」
俺は尾形との会話を楽しみつつ今後の予定を調整した。
「それで彼女をいつ頃迎えに行けばいい?」
「1週間後には移動できる。そっちはそれまでに準備は出来るのか?」
「問題ない、じゃあ丁度1週間後の昼過ぎに迎えに行くよ」
「…正直に言えば今でもお前には預けたくない。だからせめて、私と約束してくれ彼女に無理はさせないと」
「それは無理な相談だね。確約は出来ない」
「…」
「それじゃあ、1週間後よろしくね」
「……ゴミが」
尾形と別れ、医務室を後にしながら俺は部屋に入った際の彼女の反応を思い出していた。
あの時、俺を見た瞬間に
揺らぎ自体はすぐになくなったし、その後の応対でも特に異常はなかったが、俺が彼女の精神に影響を与えることが分かった。今後の生活でも注意が必要だろ。
そして、それとは別に
俺は自室に戻らず、彼女の病室に飾られていた紫色のヒヤシンスを思い浮かべながらボスの部屋の方へと足を向けた。
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わたしが目覚めた時、最初に見たのは知らない天上だった。
「…ここは、…わたし」
「おや、目覚めたんだね。おはよう」
わたしの呟きに答えてくれたのは近くの椅子に座っていた眼鏡をかけた白衣の男性だった。
「…おはよう、ございます。」
「うん、私の名は尾形、君の担当医だと思ってくれ」
「…はい、」
正直、状況がよく分からなかったがわたしはそのまま先生からの質問に答えた。
「それでは目が覚めたばかりところ悪いが、体調はどうかな?どこか気分が悪いところはないかね?」
「…あの、えっと、大丈夫…です」
「そっか、それは良かった。じゃあ自分の名前とか言えるかな?」
「…はい、わたしは……え、あれ?…えっと、わたしの名前は……」
わたしは自分の名前を聞かれた際、咄嗟に名前が出てこなかった。
わたしは混乱した。
わけが分からない、なんで覚えだせない?自分の名前なのに。
「え、なんで、わからない。なんでどうして、え?」
「っ!、落ち着いて」
なにもわからない、呼吸が落ち着かない。頭が痛い。
「ハア、ハア、…わたしは、わたしは」
「落ち着いて」
「わたしは……誰なの?」
混乱し取り乱した私を先生は懸命になだめてくれた。
そのかいもあってわたしは何とか落ち着くことが出来た。
「さて、もう大丈夫かな?」
「…はい、すみませんでした」
「気にしなくてもいい、それでは改めて君の分かることを教えてくれるかな」
「…はい」
わたしは先生の質問に答えていき改めて自分の状況が分かってきた。
どうやらわたしは記憶を失っているらしい、自分のことは勿論、家族のこと、友達のことを覚えだせない。
学校に通っていたことは分かる。でも、どんなとこに通っていたかは分からない。
友達のこともなんとなくいたことは覚えている、でもどんな姿をしていたかは覚えだせない。名前も顔も出てこない。
家族のことは特に覚えだせない、わたしにも家族はいたはずだ。でも家族のことは本当にいたかもわからない。
「そうか、おそらく精神的負荷による脳の防衛反応によるものだろう」
「えっと、つまり?」
「君の心を守るために、君の体が覚えだせないようにしたということだ」
「先生、わたし何があったんですか?」
「事故のようなものさ」
「事故ですか?」
「ああ、詳しいことはまた別の機会に話そう。今は起きたばかりだもうしばらく休んでいなさい」
「……はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
それから数日間、わたしは起きて食事をとり、先生の質問に答えるという生活が続いた。
そこでわたしは自分の名前が久我山シオリであること、父と母と姉の4人で暮らしていたことが分かった。
先生からわたしの家族が分かる写真を数枚渡された。
貰った写真に写っているのは、父と思われる男性の横で、母と思われる女性に抱かれ、姉と思われる自分にそっくりな少女に抱き疲れ、わたしが笑っていた。でも今のわたしは何も覚えだせない。写真には残っているのに、わたしは何もわからなかった。
そしてそんなある日、一人の男性が訪ねてきた。
「先生、例の彼を連れてきました」
「ああ、レナ君ありがとう」
「誰かくるの?」
「ええ、シオリちゃんにお客さんよ」
「わたしに?」
この綺麗な女性はレナさん、先生の助手でとても優しい人でいつもわたしを気遣ってくれる。
綺麗な金髪をボブカットにしており、スタイルが良くいつもパンツスーツを着ているがとても似合っている。
そんなレナさんが誰か連れてきたらしい。
わたしにお客さんってどんな人だろう。
「入りなさい」
レナさんが外に向けて声をかけると一人の男性が入ってきた。
レナさんとは違う少し偽物っぽい金色の髪をした男性で年は若そう、こう言っちゃなんだが少しチャラそうな雰囲気オーラを感じる。
そんな彼の手元には紫の花が束になって握られていた。
「シオリさん、この度は申し訳ありませんでした」
「え?」
彼は突然頭を下げ、わたしに謝罪した。
見ず知らずの人に訳も分からず謝罪され、わたしは混乱した。
「これは俺の自己満足とは分かってる。それでも、一度君に謝らないと気が済まなかった」
「えっと、」
「川島君、シオリ君が混乱している、落ち着きなさい」
「…はい、すいませんっす」
「シオリ君、彼は君をここまで連れてきた人だよ。そして、君が怪我をした原因を知るものだ」
「原因…」
「そう、今日は彼と話してもらって何か覚えださないかと思ってね、彼からも何回か面談の申請も来てたしね」
混乱するわたしに先生が説明してくれた。どうやら彼はわたしが記憶を失ったときの現場にいて、その時のことでわたしに罪悪感を覚え、謝罪をしたかったらしい。
「えっと、俺の名前は
「わたしは久我山シオリ?です。初めまして」
「…本当に忘れてしまったんすね」
「えっと、ごめんなさい」
「いや、君が謝ることは全然ないっす!君と会ったのもチラッとだけだし、それに悪いのは完全にこっちなわけであんなこと忘れてしまった方が」
「川島君」
「…!すいませんっす」
川島さんは何かを先生に注意され、また謝っていた。
「川島さん、わたしに何があったんですか?」
「それは…すいません。いえないっす」
「シオリ君、それはもう少し待ってもらえないかな。君にはまだ早い」
「……わかりました」
「すまない」
「いえ…」
わたしはあの時のことをまだ教えてもらえていない
「そ、そうだ、俺君にケーキを持ってきたんだ貰ってくれるかな」
「え、ありがとう」
「いいの、いいの遠慮しないで」
わたしと先生の空気が少し気まずくなった際に川島さんが空気が変えるかのように喋ってくれた。
その後、わたしたちはケーキを食べながら話し合い。
わたしは川島さんと仲良くなるり、それから数日間たまに川島さんが見舞いに来てくれた。
わたしがそんな生活に慣れてきたころ。
「馬鹿な!何を考えているんだ」
机の上でパソコンを見ていた先生が突然大声を出した。
「先生?」
「シオリ君、すまないが少し出る。レナ君着いてきてくれ」
「はい、分かりました」
先生は厳しい面持ちで外に出た。
いつも冷静で落ち着いているあの先生が怒っている。
わたしは何が起こったのかわからず不安になった。
それから数時間後、先生が帰ってきた。しかし、表情は暗いままだ。
「シオリ君、君の今後が決まった」
「わたしの今後ですか」
「ああ、君はこれから組織の一員になってもらうことになった」
「分かりました」
数日住んで、ここが決して公共の場所でなく非認可の組織の一員というのには気づいていた。
そして、その組織が原因で私がこうなったことも。
でも、わたしは組織に入ることにためらいはなかった。
先生にはお世話になっているし、何よりもわたしは家族への記憶がなくなり家族へのこだわりが薄くなっていた。
正直、家族のことを言われても興味が無くなっていった。
それよりも、今後のことを考え組織に入りたいとは前々から思っていた。
「…そうか、君は、……それで君にはこれから教育係が就くことになった」
「はい」
「問題は教育係に選ばれた男が、クソ野郎だということだ」
「え?」
「失礼、言い方が悪かった。その男は人間の風上にも置けないクズ野郎だ」
とりあえず、わたしの教育係はとんでもなく悪い人で先生から嫌われていることは分かった。
「今から3日後、その男を呼びつけ君に会って貰うつもりだ」
「分かりました」
「…シオリ君、あいつの性格はゴミだが実力は確かだ」
「えっと、どういうことですか?」
「ふざけた態度に騙されるな。吞まれるぞ」
そして約束の3日後、彼はやってきた。
コンコンコン「入っても良いかい?」
その声を聞いた瞬間、一瞬わたしの頭の中が疼いた気がした。
「………どうぞ」
わたしは疼いた頭のことを一旦忘れ、返事をすると。
その男が部屋に入ってきた。
その男を見た瞬間、先ほど以上の疼きが体を駆け巡った。
しかしそれも一瞬で収まった。自分でも何が起こったのかは分からない。
ただ分かったことがあるのは、恐らくわたしがここにいる原因はこの男だ。
男は黒い髪の前髪をかきあげており顎には無精ひげを生やしており、目つきは鋭く顔の左側にはカラスを象った入れ墨が彫ってあった。
「俺の名前は鴉羽 陣、一応君をそんな風にした元凶だけど分かるかな?」
わたしとおじさん、陣さんとの出会いはそんな最低な自己紹介から始まった。
【誰でもわかる 人権と道徳について 全5巻セット】
作:的場 元治 解説:薔薇原 貴人
¥15,000
人権について学んでほしい。権利や多様性についてイラストや漫画を使い分かりやすく
まとめました。みんなで楽しく学ぼう。
この作品のレビュー
輝く 金星 さん
★★★★☆
友人のプレゼントに
最近、私の友人の性格が問題で困っていたところこの作品に出合いました。友人の性格の調教にとプレゼントしたいと思っています。
カラスの ZINちゃん さん
★★★☆☆
面白かった
友人からいただき軽く読んでみたところ、かなり面白かったです。
気になったことがあるとすれば3巻から文章よりもイラストの活用が多くなり、5巻目には前巻での話のまとめだけで内容が薄く感じました。次回似たような本を出版される際は直していただけると幸いです。