異能社会で人間の可能性を求めて 作:笑門来福
わたしがおじさんと出会って、1週間がたった。今日からわたしはあの人の下で教育を受けることになる。
「シオリ君、準備は出来たかね?」
「はい、大丈夫です」
わたしは昼食後、先生とレナさんとともに医務室で彼が来るのを待っていた。
荷物は元から持ってるものが少なかったから替えの服と下着を1つのリュックに詰め、それを担いでいる。
「無理はしないでね、シオリちゃん。何かあったらすぐにここに帰ってくるのよ」
「うむ、私達はいつでも歓迎するよ」
「はい、ありがとうございます」
そんな会話をしながら時間を過ごしていると
コンコンコン
「鴉羽だ。迎えに来た」
ノックとともに彼の来訪の声が聞こえた。
「来たか、入れ」
「失礼するよ」
そんな声とともに彼が入ってきた瞬間、レナさんが彼に何かを投げつけた。
しかし彼は特に驚いた様子もなくそれを受け取り、受け取ったものを確認していた。
「よく来てくれた、このゴミが」
「こういうのデジャヴっていうんだっけ。これは?」
「彼女の組織内で使えるIDカードだ、今の彼女はまだ組織に加入していない。なので規定上は君が管理することになっている」
「そう言えばそんな規定もあったな。ってかそんなもん投げつけんなよ」
「なにここで無くしても、今は君が彼女の責任者だ。罰を受けるのは君だけだ」
「いや、流石に無理筋だろそれ。まあいいや」
おじさんは先生と軽くやり取りをした後、わたしに向き直り声をかけた。
「準備は出来てるみたいだな。それじゃあ行こうか」
「はい、分かりました」
「シオリちゃん、またね」
「はい、レナさんもお元気で」
「おい、早く来い」
わたしはおじさんに急かされ、挨拶もそこそにおじさんについて歩き出した。
「今更だがここは日本じゃない、東南アジアにある島だ」
「そうなんですか」
「異能で外からじゃ見えないし、侵入もしづらくしているがな」
おじさんは歩きながら話し始めた。
「そしてここには、組織に関わる施設がいくつか点在している。お前がいた医療施設もその一つだ」
「へえ」
「そんで今から向かうのは俺が管理を任されている施設ってか家だな。そこでしばらく俺と生活してもらう」
「分かりました」
「まあ管理してるっても、管理を任されたのも住み始めたのも俺も一昨日からだけどな」
「そうなの?」
「ああ、元々俺は本部に1部屋を持っていたんだが、お前の面倒見るうえでそれは色々問題があるとかないとか言われてな。上からその家を貰ったんだ」
「へえ」
(まあ、本当は本部にこいつを住まわせたたら他の幹部や余計な奴らに目をつけられて面倒なことになるからな)
それからわたし達はしばらく歩き続けた。
「フン♪フフン♪フフフフン♪」
「……」
いっぱい歩いた。
「フン♪フフン♪フフフフン♪」
「……はあ……はあ」
何分歩いたかは分からない。
わたしは途中から息が苦しくなってきたがおじさんはこちらを気にした様子も気なく、変わらず鼻歌交じりに歩いていた。ずっと同じ歌を続けている好きなのかな?
そんな感じで歩き続け、ついに目的の場所に辿り着いた。
「さて、ここがこれから君が暮らしていく場所だ」
「はあ…はあ…ここが…はあ…はあ……遠くない?」
「リハビリだリハビリ。ここまでたったの5キロぐらいだ、もうちょっと体力つけろ」
「…はあ…はあ、はい…はあ」
わたしは疲労困憊になりながらも息を整え目的の場所を見た。
そこは二階建ての大きな一軒家だった。
「わあ、おっきい家」
「おい、入るぞ」
わたしが大きな家に圧巻されている間におじさんはさっさと家の中に入っていった。
わたしも慌てておじさんについて家に入っていった。
家の中も広く綺麗に掃除がされていた。
「部屋は空き部屋がいくつかあるから好きな場所を選べ、選んだら部屋に荷物を置いてこれに着替えろ」
おじさんは家の中を見渡すわたしに1つの袋を渡し言った。
袋には子供用のTシャツと半ズボンが入っていた。
「これは?」
「お前のサイズに合わせた訓練用の服だ」
「え?」
訓練用の…服?なんで今渡して、というか着替えろって言った?今まで歩き続けて疲れているんだけど
「ほら、早く部屋を選んで来い時間がないぞ」
「……はい」
おじさんに急かされ家の中を一通り見てから、わたしは2階にある空き部屋を1つを選んだ。
部屋の中は広いが簡素でベットもなくソファーと机が1つ置いてあったくらいだった。
わたしは荷物を机に置き、着替えてからおじさんの下に向かった。
「来たか、なら外に出て準備運動したら走り込み始めるぞ」
「……今から…ですか?」
「ああ、早くいくぞ」
もしかしたらこれはおじさんの趣味かもしれない。と淡い期待を抱いていたがそんな希望も切り捨て、おじさんはわたしを外に連れ出した。
家のすぐ近くには大きな池があり、その横でわたしはおじさんに続き準備運動をした。
「お前にはこれからこの池の周りを走ってもらう」
「はい」
「俺はお前の後ろに付いていく……よし、走ってこい」
「はい」
わたしはおじさんに言われ、池の周りを走り始めた。
池の大きさは随分広く1週するだけでも疲れが溜まってきた。
「……はあ……はあ」
「フン♪フフン♪フフフフン♪」
おじさんはわたしの後ろで鼻歌まじりに付いてきていた。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「フン♪フフン♪フフフフン♪」
もう10周以上走り続けた思う。足を動かすのが辛い、息をするだけで肺の中が痛い。
それでも、後ろの男は止める様子もなく変わらず鼻歌まじりに付いてきていた。
「はあ、はあ…うっぷ…はあ、はあ」
「フン♪フフン♪」
もう何週したかもわからない。初めはまで上に合ったはずの太陽が今は横で綺麗なオレンジ色に輝いていた。
吐き気が止まらない、走るのも辛い、休みたい。
意識が朦朧とする中、わたしはただただ足を動かし続けた。
それでも、後ろの男は変わらず鼻歌まじりに付いてきていた。むしろ、わたしの走る速度が遅くなった分歩いて付いてきていた。
「はあ、はあ、………もう無理」
しばらく走り続けたわたしはもう走ることが出来ずその場で倒れ込んだ。
「はあ、はあ、うっぷ、はあ、はあ、うっぷ」
「んーまあ、こんなもんか」
「うっぷ、はあ、はあ、うっぷ」
「別に吐いても良いぞ、辛いだろ」
わたしは胃の中のものを吐き出した。口の中が胃液で酸っぱくなった。
「げえ……げえ……はあ、はあ」
「ある程度吐いたな。じゃあ家に戻るぞ」
「はあ、はあ」
返事も出来ないわたしをおじさんは担いで連れて行った。
「ほら、これ飲んでしばらく休んでろ。10分休んだら次は勉強だ」
「はあ、はあ、…はい、はあ、はあ、…………っえ!?」
「当たり前だろ、時間は有効活用しないとな。」
家に戻ってきた後、わたしをリビングの椅子に座らせおじさんは飲み物を出してから、そんなことを言った。
勉強をするのは別に構わない。大切なことだ。でも、もう少し休ませてからにしてほしい。
具体的には明日ぐらいから。
しかし、おじさんは無情にもそんなわたしに取り合うことなくリビングを出た。
えー
10分後、おじさんは教材とホワイトボードを用意してリビングに戻ってきた。
「ほら、今日は数学ってか算数の勉強をするぞ」
「はい。……あの、おじさんが教えるんですか?」
「ん?不安か?こんなふざけた男が人にものを教えることが出来るのかって」
「いえ!そんなことは…」
思っていた。
「心配するな、これでも俺は頭は良いからな大体何でも出来る。勿論、人に教えることも簡単だ」
頭の良さと人にものを教えることは別物だと思う。それに頭の良い人は自分のことを頭が良いとは言わないと思う。
「…………」
「はっはっは、まあそんな心配するな」
わたしは疑いの目を向けつつ、これからこの男と過ごしていくことに後悔し始めた。
しかし、予想に反しておじさんの教え方は本当に分かりやすかった。
「四則演算は大体できてるな。なら、比率計算について教えていくぞ」
「比率計算っていうのは、簡単にいえば全体の数を
「例えば…して、…すると…と考えられる。そしてこっからこう考えて……」
「というのが比率計算の考え方だ。何かわからないことは?」
「えっと…」
わたしはさっきまでのおじさんからは考えられない丁寧さに驚きつつも分からなかったことを聞いてみた。
「ああ、そこはこういう風に考えて…」
「ほえー」
おじさんはわたしが分からなかった箇所を分かりやすく説明し、わたしがある程度理解したと分かったら問題集を出してこれをやるようにと机から離れていった。
「むー」
わたしが問題集と格闘している間、おじさんはキッチンの方で何か作業をし始めた。
良い匂いがするけど、料理作っているのかな?おじさんって料理作れるのかな?
そんな疑問を抱きつつもわたしは問題集を解き続けた。
「出来た!」
「終わったか。見せてみろ」
「はい」
問題集を解き終わったことを報告すると、キッチンでのやることは終わったのかわたしの席の前に座っていたおじさんが問題集の中身を確認していた。
「…うん。全問解けているな。よくやった」
「はい!」
「…。よし、今日の勉強はここまでにしてメシにするぞ」
「はい」
「少し待ってろ。今温め直してくるから」
「分かりました」
おじさんはキッチンに戻り、しばらくしてから料理を運んできた。
運ばれた料理はチキンライスとエビと野菜が入った少し赤みの入ったスープだった。近くには牛乳も置いてある。
「これ、おじさんが作ったの?」
「ん?まあ、そうだな。あり合わせで作ったものだけどな。今度食材でも運ばせるか」
「すごく、おいしそう」
「言っただろ。何でも出来るって取りあえず食べろ。冷めるぞ」
「はい!いただきます」
おじさんの料理は見た目通りとてもおいしかった。
スープは少し辛かったが、近くにあった牛乳を入れてみろと言われ混ぜてみると辛さがマシになり飲みやすくなった。
先生の所にいた時の料理はおいしかったが、毎日似たような料理が出て基本的に味が単調で飽きやすかった。
なので、久しぶりに食べた味の濃い料理はとても食が進んだ。
「ごちそうさまでした」
「クッ、言い食べっぷりだな」
「おいしかったです」
わたしがご飯を食べ終え、満足している間におじさんは食器を片付け始めた。
「今日はもう風呂入ったら自由に過ごしていいぞ」
「分かりました」
「ああ後、着替えも適当なやつを脱衣所に置いといたから」
「はい、ありがとうございます」
わたしはおじさんに言われ、お風呂に入った。
そしてわたしは今日はもう疲れたので寝ることにした。
「おじさん、今日はもう寝ます」
「おう」
「…あの」
「ん?」
「今日はありがとうございました」
「…。気にすんな、どうせ明日も今日と同じくらいの訓練するから」
「げ、」
「ククッ、明日もよろしくな」
「……はい、…………おやすみなさい」
「おう」
わたしはおじさんの返事を聞き、2階の自分の部屋に行った。
「あっ」
そういえば部屋にはベットもなく寝る場所がソファーがあるくらいだった。
まあ、今日はもう疲れたしソファーで寝よう。
そう思い部屋に入った瞬間、わたしは驚いた。
「え?」
部屋の中はわたしが来た時よりも綺麗に過ごしやすくなっていた。
部屋の中にはソファーと机くらいしかなかったはずだがいつのまにかベットとクローゼットが追加されていた。
他にも時計やラジオ、インテリアの照明などが置いてありとても過ごしやすくなっていた。
後、インテリアの照明は普通にセンスが良くて、少し悔しかった。
「いつのまに…」
わたしは部屋の中を見渡し、しばらく呆然としていたがそれからベットに潜り込み。
「ありがとう、おやすみなさい」
再度、おじさんに感謝し瞼を閉じた。
翌日、朝日が昇り始めたばかりでまだ空が薄いの頃におじさんにわたしは叩き起こされた。
「おい、起きろ。朝飯前に軽く走り込み始めるぞ」
「…………はい、…………おはよう…ございます」
その日もわたしは訓練をしていた。
おじさんの言う通りその日の訓練も昨日と同じくらい辛かった。
「今日は軽く10キロ走ったら、筋トレも取り入れる。飯はその後だ」
「……はい、分かりました」
「じゃあ、走ってこい」
勉強も訓練の合間に取り入れていった。
「今日は漢字の勉強をするが、とりあえずこれ読んどけ」
「これは新聞ですか?」
「ああ、日本の新聞を取り寄せた。読んで分からないところや漢字があったら教えてくれ、説明するから」
「分かりました。………あのこの漢字ってなんて」
「ああ、それは…という意味で、この漢字の書き順は…で、成り立ちは、まあ覚えなくていいが…という感じだ」
「ほえー」
料理もバラエティーに富んでおり、昼はスペイン風、夜はイタリアン料理とおじさんはどちらもおいしく作ってくれた。
「おじさんって、料理うまいね。何でも作れるの?」
「うーん、何でもは無理かな。一度でも料理工程を見れば作れるし、見なくても一口食べれば大体のものは作れるけど。流石に見た目だじゃ作れないしな」
「…………こわっ」
そんな日々がしばらく続いていった。
訓練は途中から戦闘訓練も取り入れ始め、彼と模擬戦を何回も行った。わたしの日ごろの思いが籠った一撃は一度も当たったことはないが。
勉強の内容も日を追うごとに難しくなっていったが、彼の教え方は相変わらず分かりやすくわたしが勉強で躓くことはなかった。あと、お願いしたら彼は勉強がうまく出来た日は頭を撫で褒めてくれるようになった。
料理もお願いしたら、教えてくれた。彼は料理の教え方も上手で、完成した料理はとてもおいしかった。
たまに、尾形先生とレナさんがこちらの様子を見に来てくれた。
わたしの訓練の様子を見て眉をしかめたり、わたしの普段の生活を見て複雑そうな表情をしていたがお菓子やわたしの新しい服を持ってきてくれる。
また、先生が彼に苦言を申し立てて、週に1度は休憩日が設定された。本当に助かった。
彼は服のセンスやオシャレにも
そして、私が彼に引き取られてから3年が経過した。
とある日の朝、日課である訓練を終え朝食を食べている時に彼は言った。
「さて、そろそろお前さんもいい感じになってきたし。そろそろ組織に加入させるか」
鴉羽 陣の今日の内心
「…。よし、今日の勉強はここまでにしてメシにするぞ」
(思ったよりも頭の出来はよさそうだな。これならもう少し詰め込んでもよさそうだな)
「…。気にすんな、どうせ明日も今日と同じくらいの訓練するから」
(体力はまだまだだな。しばらくは体力作りをメインに訓練メニューを立てるか)