異能社会で人間の可能性を求めて   作:笑門来福

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第5話 加入

 「さて、そろそろお前さんもいい感じになってきたし。そろそろ組織に加入させるか」

 

 訓練後の朝食時、おじさんは突然言った。

 

 「いきなりですね」

 「そうか?今日でお前13になるし、丁度いいだろ」

 「13ですか。確かにそういわれるとキリが良いですね」

 「だろ」

 

 年で言えば日本では例外的にだが働ける年齢だったはずだ。組織に加入する時期としては確かにキリが良い。

 私はおじさんの言い分に納得して朝食を進めた。

 

 「…………?」

 

 えーと、今何と言った?今日で年が13になる。誰が?私が?

 

 「??……あの、私、今日が誕生日なの?」

 「そうだが?」

 

 私はすかさず、本日の朝刊の日付を確認した。

 

 10月17日

 どうやらこの日が私が生まれた日らしい。というか今日なのだが。

 

 「初めて知りました」

 「そんなことはないだろ、医療施設にいた時に自分の情報はある程度見せられたはずだろ」

 

 私は慌てて当時のことを振り返った。

 確か、どこまで自分の記憶が分かるのか照合するために自分の情報が載った書類を見せられた記憶はある。

 そうだ、確かに見た。生年月日の欄に10月17日という日付も確かにあった。

 完全に忘れてた。

 でもあの時は色々大変だったし、ここに来てからも訓練や勉強漬けで忙しかったし、そもそも知っていたなら一言くらい祝いの言葉をくれたって、

 

 「うーーー」

 

 私が自分の中で言い訳をしている間もおじさんは気にした様子もなく話を進めた。

 

 「とりあえず、そんな訳でお前を組織に加入させるために本部に行くから今日は訓練中止だ。9時には出発するからそれまで自由にしな」

 「……はい。…あの、準備するものとかは?」

 「特ににない。向こう言ったら組織に加入する許可を貰うだけだからな、服装も好きにしろ」

 「分かりました」

 

 私は自分への言い訳を止め朝食を終わらせ食器を片付けた後、部屋に戻った。

 クローゼットからレナさんから頂いた服を取り出し、今日着ていく服を選別した。

 今日はこの家に来て初めての遠出なので少しばかりオシャレをしていきたかった。

 いつも着ている訓練用の服(サイズは毎年更新されている)から紺色のスリムストレートパンツに白いTシャツを着て、その上にカーキのサマートレンチコートを羽織り最後に黒い帽子を被って外に出た。

 軽く姿見で自分の服装を確認してから、先に外に出たおじさんと合流した。

 彼は外で缶コーヒーを片手に待っており。そばには黒い車が一台止まっていた。

 車の中には運転手と思われる男性がいて、こちらに軽く会釈した。

 私は会釈を返しつつ、二人っきりじゃないことに少し残念に思った。

 

 「おじさん、どう?」

 「ん?まあ、いいんじゃない。動きやすそうだし」

 「……む~~~違う!」

 

 もっとこう、可愛いねとか似合うよとかまともな感想が欲しかった。

 

 「おい、車は用意したからこれに乗っていくぞ」

 「……はい、分かりました」

 

 おじさんが先に後部座席に乗り込み、私は彼に続くように彼の隣に座った。

 

 「失礼します」

 「よし、おい本部まで頼む」

 「かしこまりました」

 

 そしておじさんは運転手に声を掛け、車は出発した。

 運転手は老齢な男性で落ち着いた様子で運転していた。車の性能か運転手の腕が良いのかそれとも両方か車は静かに揺れも少なく進んでいった。

 

 「フン♪フフン♪フフフフン♪」

 「……?」

 

 おじさんは車の中でもいつもと変わらず鼻歌を口ずさんでいたが、私は窓の外の風景を見て一つの疑問を抱いた。

 

 久しぶりに車に乗ったと思うけど、こんな遅かったっけ?

 

 車の速度メーターをチラッと確認したが、60キロは出ていた。私が車の速度に疑問に思っている間も車は進み続け、そして大きなビルの前に着いた。

 

 「到着いたしました」

 「おう、ありがとさん」

 「いえ、これも仕事ですので」

 「そんじゃ入るぞ」

 「はい」

 

 ビルの中にはホールが広がっており目の前には受付があった、その近くには談笑用の机やソファーがいくつか点在しており、そこでは様々な人が喋っていた。

 政府と敵対している悪の組織の風景というにはあまりにも場違いな光景に目を瞬かせていると、

 

 「シオリちゃん、久しぶりね」

 「レナさん、それに先生もお久しぶりです」

 「ああ、シオリ君も壮健そうで何よりだ」

 

 レナさんと先生が私に声を掛けてくれた。

 

 「お二人は今日はどの様なご予定で?」

 「今日は君が組織に加入すると聞いてね。二人で見に来たんだ」

 「そうなんですか。ありがとうございます」

 「いいのいいの、気にしないで」

 

 二人とも忙しい中、態々様子を見に来てくれたらしい。

 二人と合うのは2か月ぶりくらいだ。それと最近二人は正式に付き合い始めたらしい。羨ましい。

 

 「シオリ君、今更だが本当にいいんだね。ここまで来たらもう引き返すことは出来ないよ」

 

 先生が厳しい面持ちで訪ねてきた。 

 

 「はい、覚悟は出来てるつもりです」

 「そうか、なら私からは何も言うことはないよ」

 

 私はこの3年間、結局記憶を取り戻すことは出来なかった。しかし、折り合いを付けることは出来た。

 私は戻らない記憶に拘ることはせず、ここまで育ててくれた組織に貢献することを決めた。

 例え、すべての原因がこの組織だったとしても、

 

 「おい、連絡がついた。移動するぞ」

 「こちらです。案内いたします」

 

 私が先生達と話してる間に受付で話してをつけてきたのか、おじさんは案内役を連れてやってきた。

 

 「ん?もう移動するのか?」

 「ここに幹部が二人もいりゃ目立つからな」

 「ああ、なるほど」

 

 おじさんが言うように私たちはかなり注目されていた。さっきまで談笑していた人たちだけでなく、受付の人たちもこちらをチラチラと確認していた。

 私は視線から逃げるように案内役の人についていった。

 

 「本当なら面接をしてから模擬戦をするんだが、今回は先に軽く模擬戦をしてから、面接してそれで合格を貰ったら晴れて組織の一員になれる」

 「……模擬戦があるんですか?聞いてないんですけど」

 「言ってないからな」

 「服とか普段着で来たんですけど」

 「どれだけ動けるか見るだけだからな。服はどうでもいい」

 

 案内役についていく間におじさんから今後の説明を聞き、思わず聞き返してしまった。

 模擬戦があると知っていたらもっと動かしやすいい格好で来たのに

 

 「お前、何も説明していなかったのか」

 「必要ないだろ。そんな軟に育ててない」

 「しかし、お前……はあ」

 

 先生はおじさんに注意しようとしたが、彼の取り付く島もない様子に溜息ひとつで諦めた。

 

 「あの、模擬戦はともかく面接って何をすればいいのですか?」

 「知らん」

 「え?」

 「俺が組織に入った時、面接なんかなかったし」

 「えー」

 

 面接について聞いてみればおじさんは知らないと、断言した。

 この人は今回、何の役にも立たないかもしれない。 

 

 「はあ~、その男は昔ボスがどこからか直接連れてきて最初から幹部待遇できたからな。細かいことは知るまい」

 「そうなんですか?」

 「ああ、まあ面接内容は気にする必要はない。組織に対する忠誠度と密偵の疑いがないか軽く確かめるだけだ」

 「分かりました。ありがとうございます」

 

 「到着いたしました。ここで試験官の方々がお待ちです」

 

 役に立たない男の代わりに先生が説明してくれた。

 そんなやり取りをしている間に目的の場所にたどり着いたのか、案内役の人は私達に一声掛けドアをノックした。

 

 「言われた方々をお連れしました」

 「そうか、入れ」

 「失礼いたします」

 

 部屋の中は観戦室になっており、その横には室内訓練場の様な空間が広がっていた。

 そしてその観戦室には3人の男性がいた。

 一人はゴテゴテとしたプロテクトスーツを着て、ガスマスクを着け顔が分からない男。

 もう一人は明るい茶髪の外人でスーツをきっちり着こなし、髪もキッチリとオールバックに整えた眼鏡をかけた初老の男性。

 そして奥の机に一人、こちらも外人で金色の髪を前髪で流した30代ぐらいと思われし金縁の眼鏡をかけた男性がこちらを見ていた。

 

 「メディクスも来ていたか。まあいい、今から模擬戦をするんだ手間が省ける」

 

 金縁の眼鏡をかけた男を見た瞬間、先生とレナさんをすぐさま頭を下げ、礼をとった。

 状況が読み込めていない私は先生らに習い同じ様に礼をとった。

 おじさんだけはいつもと変わらぬ様子で「よう、元気?」と気さくに声を掛けていた。

 

 「陣君、私も部下の手前があるんだが」

 「今更だろ」

 「君というやつは全く。君たちも頭を上げてくれていい」

 

 金縁の眼鏡の人の許しを貰い、私達は顔を上げた。

 

 「……まさか最高幹部の方がお出でになるとは、お前知っていたのか」

 「サプラ~イズ♪」

 

 ぶん殴りたくなった。

 

 「なに気にするな、君の面接を私が担当することになっただけだ。ああ、案内役の君も戻っていいよ」

 「はっ、失礼します」

 「それじゃあ、自己紹介といこうか。私はこの組織で一応最高幹部の席についているメディウスというものだ。よろしく」

 「はい、よろしくお願いします」

 「そんな緊張する必要はないよ。まずは君がどこまで動けるのか知りたい。今から君にはそこにいるマスクを着けた彼と模擬戦をして貰う訳だが、準備は良いかな」

 「はい、大丈夫です」

 「では、早速始めて貰おう」

 

 正直、良くはなかったが訓練用の服の着替えも持ってきてないのでこのまま始めることにした。

 着ていたコートをおじさんに預かってもらい、私は訓練場に入った。

 ガスマスクをした人は先に訓練場に入りこちらを見ていたので私は彼の5mぐらい離れ場所に立ち構えた。

 

 「よろしくお願いします」

 「……よろしく」

 

 私が挨拶をすると彼も軽く挨拶をして構えをとった。

 そんな私達を周りの人は観戦室からジッと見ていた。

 

 「ルールは簡単だ。君は今から彼と戦って貰う、私が止めるまで戦ってもらうつもりだ。二人とも準備はいいかね?」

 「はい」

 「…(コクリ)」

 「よし、では始め」

 「シッ!」

 

 号令とともに私は飛び出し、彼の首元に蹴りを繰り出した。

 彼がどんな異能を持っているか分からない、なので先手必勝を狙った訳だが。

 

 「ッ!」

 「ちっ!…はあっ!」

 

 私の蹴りは身を屈め避けらてしまった。

 その後も私は攻撃を続けたが相手には全て避けられたり、防がれたりした。

 相手が前蹴りを繰り出したので私はそれを寸前で避け、相手の懐に入り顎に狙いを定め下から突き上げるように蹴りを繰り出した。

 

 「ぐっ…Nicht übel(やるな)

 「……ちっ!」

 

 狙い通り蹴りは顎に当たったがそのまま足を掴まれ、私は横に放り投げられた。

 何とか体勢を立て直し、追撃が来る前に相手に向き直り構え直した。

 何とかして一撃を入れることが出来たが対して効いてるよう見えない。

 それどころか、さっきの一撃で彼のやる気スイッチでも入ったのか。相手からは先ほど以上の気迫を感じる。

 

 「…行くぞ」

 「ッ!」

 

 こちらが相手の様子を伺っていると今度はあっちの方から仕掛けてきた。

 奴はこちらに対して鋭い殴打を繰り出してきたので私はそれを防ぎながら相手の隙を伺った。

 繰り出された殴打の一発が私の顎目掛けて突き出されたので、私はそれを躱しその腕を取って投げる、と見せかけ肘打ちを相手の顔面にぶちかました。

 

 「ぐっ!」

 「シァ!!」

 

 流石にこの不意打ちには相手も対応が遅れたのか彼はもろに食らってしまい、一瞬たたらを踏んだ。

 その隙に乗じ足払いをし掛け倒れさせ、そのまま相手の首元を踏み抜こうとした。

 が、相手もやり手だ。すぐにその場を離れ、私の足は空振り床を盛大に踏み鳴すことになった。

 相手は十分離れた位置で油断なくこちらを見据えながら構え直していた。

 

 「……」

 「……フウー」

 

 私と彼はお互い油断なく見据え、相手の隙を伺いながらゆっくりと距離を狭めてき、お互いの間合いギリギリで止まった。

 ゆっくりと頬に汗が流れていくのが分かった。

 そして汗が一粒私の頬から離れた瞬間、

 

 「……ッ!」

 「シッ!」

 

 私と彼は同時に飛び出し互いに攻撃を仕掛けた。

 

 「そこまで」

 

 私と彼の攻撃がぶつかる手前でメディウスさんの制止が入り私達はお互い攻撃を止めた。

 

 「……」

 「……」

 「おいおい、折角良いところだったのにここで止めるなよ。最後までやらせればいいじゃねえか。医者も近くにいるんだしよ」

 「この模擬戦の目的はあくまで彼女がどこまで動けるのか確かめことだ。勝敗自体は関係ない」

 

 私達は模擬戦終了の合図後も動かず、互いに動きを注視し続けた。

 

 「ヨハン相手にあそこまで動けれれば十分だ。メディクスにいらん仕事を増やす必要はない」

 「これからだったのによ」

 「うるさい。さて、君達も構えを解いて楽にしてくれ」

 

 私達は再度掛けられたメディウスさんの声で受けようやく構えを解いた。

 

 「……ありがとうございました」

 「……(コクリ)」

 

 私がお礼を言うと彼は無言で頷き訓練場を出た。

 

 「では君もここに来てくれ。このまま面接を始める」

 「はい」

 

 私はメディウスさんが指定した席に座り、面接が始まった。

 

 「改めて、私は組織より人事機関を預かっているメディウスだ。よろしく」

 「よろしくお願いします」

 「まず初めにうちの組織の目的を話そう。どうせあの男は君に碌な説明をしてないだろうしね」

 

 そう言って、メディウスさんは私の後ろの方へ視線を送った。が、すぐさま視線をこちらに戻した。

 私もそれに対し特に気にしないことにした。彼が視線を向けた瞬間、後ろから「ブイ」という声が聞こえたが気のせいだろう。

 気のせいだろうし特に気にもしないが、あんたいくつだよ。子供か!

 

 「ん、ん。では改めて組織について説明しよう」

 「はい。よろしくお願いします」

 「私達の目的は異能者達に掛けられている制限の解除、簡単に言えば異能使用の自由化だ。私達異能者は現在、世界異能管理協会通称『WEXMA(ウェクスマ)』が定めた制約に則り異能使用に制限が掛けられている。そのせいで私達は異能を自由に扱えず、無許可で使用した場合そのまま拘束される。例えそれが救命活動や防衛行動だったとしてもだ。なので、私達は人類の当然の権利の一つである異能の自由化を求め世界各国から同志を集め日夜、活動している訳だ」

 「そうだったんですか。初めて知りました」

 

 本当に初めて知った。

 

 「分かってもらえた様でよかったよ。それで、ここからは君自身に確認しておきたいことがあるんだ」

 

 メディウスさんは表情を厳しい面持ちへと変えた。

 私もそれに合わせ、気持ちを引き締めた。

 

 「君は資料によれば両親がうちのメンバーに殺されているようだがそれでも君はうちに入りたいのかね?」

 「はい」

 「それはなぜ?」

 「私には家族の記憶がありません。なので家族に拘る理由がないので、家族の仇かどうかは特にどうとも思いません。今後生きていくために必要だと感じ組織に入ることを決めました」

 「ふむ、記憶はなくとも記録は見ただろう。それでも家族には何も感じないと?」

 「はい」

 「例えば()()()()()()()()()()()()()()

 「()()()()()()()()()()

 「そうか、冷たいな」

 「……」

 

 今言った言葉に嘘はない。私は既に家族への未練はなく、先生やおじさんに育てられたことで組織で生きていくことに躊躇いはない。

 

 「組織に加入するあたって君には今後、久我山(クガヤマ) 詩織(シオリ)の名を捨ててもらうことになる。それでも構わないかな」

 「元よりその名前に未練はありません」

 

 元々、久我山シオリとしての記憶がないのだ。ないものにこだわる必要性は感じない。

 それに、家で生活している時はおじさんからは、おい、とかお前、としか呼ばれないので『シオリ』という名前が自分のものという実感が薄い。

 もちろん、先生やレナさんが訪ねてきた時はちゃんと名前で呼んでくれるので自分のことだという認識はあるのだが。

 

 「そうか……うむ、では面接はこれで終了だ。何か質問はあるかな?」

 「え?」

 

 面接はあっさり終わった。あっさりしすぎて合格したか不安になるほどだ。

 

 「そう不安そうな表情(かお)をするな。心配せずとも合格だ」

 「そうなん、ですか?」

 

 あれだけの質問だけでよかったのかな?

 

 「元々、君は陣君からの紹介なんだ。あくまで形式だけだよ」

 

 「それで君の新しい名前なのだが一応こちらでも用意は出来てはいるが、自分で考えたいのならそちらに合わせる予定だ。どうする?」

 「そちらで考えた名前を教えてもらってもいいですか?」

 「ああ、君の元の名前に近い感じの単語から紫苑(シオン)という名前を考えたのだが。どうかな?」

 「近すぎね。ってか誰のセンスだよ。あんた?」

 「君には聞いていない。それに名前の考案者は私だが悪いかね?」

 「いや?別に」

 

 どうやら、メディウスさんが考えてくれたらしい。

 

 「それでどうするかね?」

 「その名前でお願いします。今後、私はシオンと名乗ります」

 

 正直、私は自分のネーミングセンスに自信がなかったので助かった。むしろ日常生活でも名乗れそうなこの名前は普通いいと思う。

 

 「そうか、それはよかった。ではエドガーあれを」

 

 メディウスさんが嬉しそうに顔を緩ませ、初老の男性に視線を向けると初老の男性は懐からカードを一枚取り出して、私に渡した。

 

 「こちらが我が組織のIDカードとなっております。これを所持することで我が組織の一員であることを証明するとともにうちの施設を利用できる権利が与えられます」

 「はあ」

 

 なんだかお店の会員証みたい。

 私がIDカードを確認するとそこには鴉羽(からすば) 紫苑(シオン)と書かれていた。

 

 「鴉羽…シオン……」

 「うん。君の保護者は陣君だからね、彼の苗字を使わせて貰った。本人にも許諾は取ってある」

 「え?聞いてない」

 「なので、君は今日から鴉羽の姓を名乗ってもらう」

 「はい」

 「ねえ、俺聞いてないし許可も出した記憶ないよ。……まあ、別にいいけどさ」

 「ほら、陣君からも許可は出た」

 

 鴉羽…鴉羽シオンか…うん、いい響きだ。おじさんと本当の家族になったようでうれしい。

 私は自分の名前の入ったIDカードを大事に懐へ仕舞った。

 

 「ではシオン君。改めて『Vesper(ヴェスパー)』へようこそ」

 

 ヴェスパー、そう言えば組織の名前も初めて知ったな。そんな名前だったんだ。

 

 「はあ……終わったなら。戻るぞ」

 「ああ、構わないぞ。……あ、それと陣君」

 「ん?」

 「例の件、そろそろ動きそうだ。君にも3年ぶりに働いてもらうよ」

 「クク、了解」

 

 私達はメディウスさんたちを部屋に残し外にを出て、出口へと向かった。

 その際にそう言えばと、私はおじさん達に気になったことを質問した。

 

 「メディウスさんが先生のことをメディクスって呼んでいたけどあれってどういう意味?」

 「ああ、メディクスとは組織から与えられた私のコードネームだ。基本的に組織において多大な貢献をしたものには組織からコードネームが与えられ、幹部以上には必ずコードネームが与えられる。」

 「へえ、幹部以上には必ず」

 

 今日は初めて知ることが多いな。

 

 「そうだ。まあ、私は普段から周りに本名の方で呼ばせているから、余り呼ばれないがな」

 「幹部以上にはって、おじさんもコードネームあるの?」

 「ん?ああ、一応あるぞ。まあ、俺の場合は他にも色んな名前を持ってるし、昔から鴉羽の名で通しているから意味はないけど」

 「じゃあ、おじさんのコードネームって教えてもらっても良い?」

 「ああ、俺のコードネームはゲ二ウスだ」

 「ゲ二ウス…」

 

 ゲ二ウス…geniusか…おじさんにピッタリなコードネームだな。

 

 ビルの出口で先生達とは別れ、私とおじさんは今度は車ではなく歩いて戻ることにした。

 

 「ねえ、おじさん」

 「ん?」

 「今日の訓練は休みなんだよね?」

 「ああ、そうだよ」

 「このままどっか寄っていかない?私この島のことまだよく知らないし」

 「別に構わないよ」

 「やったー♪」

 「…お前、大分表情が出るようになったな」

 「そうかな?」

 「そうだよ」

 「ヘヘ、ならそれはおじさんの教育の賜物だね。ああ後、おじさん私のことこれからはちゃんと名前で呼んでねシオンって折角貰ったんだし」

 「別にいいが、」

 「いいの、名前で呼ばれることが大事なんだから。そうだ、これからは私もおじさんじゃなくてジンさんって呼んであげるこれなら名前で呼ばれる重要性が分かるでしょ」

 「別にどう呼ぼうが好きにすればいいが、鴉羽 陣は別に本名じゃないぞ」

 「それでもいいの!それに今のあなたは鴉羽ジンで私はあなたの家族の鴉羽シオンなんだからね」

 「さいですか」

 

 私とジンさんは他愛のないやりとりをしながら道を歩いた。

 

 それからも色んな出来事があった。

 まず、私の訓練がより激しくなった。組織に加入したのでより厳しくしていくとのことで戦闘訓練が多くなった。

 それから、先生とレナさんが結婚して私は2人の式にお呼ばれした。

 その際に他の幹部の方も呼ばれ、そこで初めてメディウスさん以外の最高幹部の人や幹部の方々と挨拶することが出来た。

 なお、ジンさんはそもそも結婚式に招待されなかった。

 異能にも目覚めた。戦闘にも使える自分で言うのもなんだが結構強い異能だと思う。

 ジンさんには全然通じないし、異能が目覚めた段階で訓練がさらに厳しくなったけど。

 

 そんなこんなで2年の月日が流れた次の年の春。

 私は、国立天都星海学園の入学式に新入生として参加していた。ジンさんと一緒に。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 私の名はメディウス、組織において人事を任されている。最高幹部の1人だ。

 今回私は、久我山シオリこと鴉羽シオンの組織に加入する為の面接を終え、自分の執務室に戻っているところだ。本来。組織の新人の面接ごときにに幹部が対応することは基本ない。それが最高幹部なら、なおのこと。

 しかし、今回は特別だ。彼女の出自もそうだが、あの陣君が育てたものがどんなものなのか自分の目で確認したかった。

 

 「ヨハネ君、実際のところシオン君はどうなのかね?専門家の意見が聞きたい」

 「…強いですね。あの年にしてはですが」

 「ほう」

 

 ヨハネ君はA級認定を受けたプロの元傭兵だ。かつてはあの『銀翼』と渡り合ったほどの。

 その彼が強いと認めるほどか。

 

 「まず、体幹がいい。動きにブレがなく、一撃が鋭く安定している。それに判断力もいい。俺の異能を警戒して動いていた。……流石はあの『銀翼』の娘だ。センスは彼女譲りの様だ。だが、経験が足りない。感が鈍く、身体が頭に追い付いていない。あと数年実践を経験を重ねれば化けるでしょうが今はまだ甘い」

 「君にしては珍しく饒舌だね。昔でも思い出したかね」

 「……いえ」

 

 ふむ、そこまで言うほどか。

 

 「君には模擬戦の間、異能の使用を禁止させていたが。あのまま続けていたらどうなっていたかね」

 「……いえ、まだそこまでではありません」

 「ふむ、そうかね」

 

 そんな、会話をしている間に執務室に到着し扉を開けた。

 執務室には一人の男がお茶を用意し待っていた。

 

 「ジャン君、いつも助かるよ」

 「光栄です。どうぞこちらへ」

 

 ジャン君、私の部下の一人で今回はシオン君を訓練場を案内させた後、ある仕事のため隣の隠し部屋に待機させ、シオン君を観察させていた。

 

 「それで、彼女はどうだったかね」

 「問題ありません。彼女の言葉に嘘はなく、こちらに対して敵意はありませんでした」

 

 ジャン君の異能は感情の感知。視界に収めた生物の感情を見ることができる感知系の異能。

 我が組織には彼の様な異能持ちが複数在籍しており、面接時には陰ながら確認させている。

 ジャン君はその中でも精度が高く、私も重宝させてもらってる。

 

 「つまり、嘘はないか。ならば予定通り、彼女は陣君の部下として行動させよう」

 「よろしいのですか?彼女ほどの逸材、他の部署がほしがるのでは」

 「だからこそだよ。エドガー」

 

 私は忠言を申し出たエドガーの目を見て言った。

 

 「あれほど優秀だからこそ、ようやく陣君の初めての直属の部下になれるのさ」

 「あの男の……」

 「そうだ」

 

 私の言葉に納得出来ていないのか不満そうな顔をしているエドガー。いや、エドガーだけじゃないジャン君も顔こそ分からないがヨハネ君も納得いかない雰囲気を出している。

 やれやれ、皆まだ分からないのか。いや、この場合は陣君の演技力を恐れるべきか。

 

 「お前たち勘違いしているようだが、陣君に部下がついていないのは彼には必要がなかったからだ」

 

 確かに彼の性格にも問題はあるだろう。だが、それ以前に彼について行けるほどの人材がいないのだ。

 

 「あの男は強い。それは他の最高幹部も…あのポレクス殿も認める程に」

 

 だからこそ、あの男が直接育てた存在なら彼について行けるのでは考えた。

 

 「あの男が何を考えているか分からない、がそれでも彼が我々にとって有用な人材なのは間違いない」

 

 そして、ボスの考えるように彼女には彼が組織にいてもらうための楔になって貰いたい。

 

 「組織のため、彼にはもっと活躍してもらわなければいけないからね」

 

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