異能社会で人間の可能性を求めて   作:笑門来福

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第6話 入学準備

 唐突だが俺の生い立ちを軽く説明しよう。

 

 カリオス暦2000年2月29日

 とある凡庸な夫婦の元に1人の子供が生まれた。それが俺だ。

 

 といっても俺は父親の顔を見たことはない。俺が生まれたその日にとある家のお家騒動に巻き込まれ事故死したらしい。 

 だから俺は父親のことは写真越しでしか知らない。母が言うにはフィンランド人らしく銀髪の長身の男で中々の好漢だったらしい。ついでに母は純日本人だ。

 

 父を殺した家に母と俺も命も狙われ俺たちは色んな場所を転々としてきたが母は無理が祟ったのか病に倒れ、俺が5歳の時に亡くなった。

 

 その後、俺は児童養護施設に預けられた。その後もなんやかんやありつつも3年後、運命的な出会いを経験しそれから今のボスに拾われ組織に入った。

 奇しくも俺がボスに出会った日は丁度俺が生まれた日、2008年の2月29日だった。

 

 ボスに拾われてからは組織に敵対している別組織を潰したり、シオンを誘拐(ひろっ)たり、誘拐(ひろっ)た娘を調教(きょういく)して組織に加入させたりして過ごし。

 そして現在2018年10月、俺は18になっていた。

 そう俺(・)は(・)1(・)8(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)。数え年なら19だ。そんな俺がなぜ、

 

 「なぜ俺が、今更シオンと一緒に学校なんぞにいかなければならない」

 「だから、言ってるだろ」

 

 今日の朝に突然、ボスから緊急招集を貰いボスの執務室に呼ばれた訳だがその要件とは、俺とシオンに国立天都星海学園に入学してくれというものだった。

 

 「うちの可愛い娘が来年からそこに通いたいらしくてね。その護衛兼サポートをしてほしくてね」

 「馬鹿だろ」

 

 そんなくだらない理由で。普通に護衛用の部下をつけろよ。

 

 「勿論、君には学園内で他にもやってもらいことは沢山あるよ」

 「むしろマジでそれだけだったらどうしようかと思ったよ」

 

 ただ、娘の護衛にしろ学園潜入にしろそんなことでで幹部を簡単に使うなよ。そんな暇じゃねえだろ。

 

 「それに娘の護衛については別に用意したしね。オルド指揮の下、彼の部下を数名つけることになっている。だから君には空いたときに彼らのサポートについて欲しいんだ」

 「馬鹿だな」

 

 なに俺以外の幹部も使ってんだよ。しかもオルドっていえばインデクス直轄の幹部でポレクス以上の古参じゃねえか、どんだけ親馬鹿なんだよ。

 

 「学園入学後は君の判断で自由に行動してもらっても構わない。必要時はこちらから指示する」

 「ふーん」

 「それからこれは既に潜入しているうちの工作員と今年君たちとともに入学する娘の護衛役のリストと資料だ」

 

 ボスはそう言ってこちらに資料を渡した。

 資料には用務員から教員、警備員にあたるまで十数名の名前が記されていた。

 護衛の方の資料には若い男女3名が載っており、その中には知っている名前があった。

 

 「このシンって奴はオルドの孫だったか?」

 「ああ、彼はミヤと幼馴染でね。ミヤのお願いもあって彼に護衛を任せたんだ」

 「青春だねえ」

 「認めないよ?」

 

 ミヤってのはボスの娘の名だ。ボスはイギリス人だが奥方が日本人で名付け親もその母親が付けた。ボスはネーミングセンスがアレだから。

 

 「君たちには基本的にはその子たちのサポートに努めてほしい。彼らには気づかれずにね」

 「何故?」

 「これはあの子たちにとっても試験になっているからね。彼らにはいずれ幹部になって貰いたいからね」

 「ふ~ん」

 

 試験に自分の娘すら利用するのか。そこは悪の組織のボスっぽいな。それでも、幹部を2人使うのはやり過ぎだが。

 それに、万が一が起らぬよう俺を使っている訳だしな。

 

 「あっそれと、久しぶりに君の本当の顔を見たいんだか、見せてくないかな」

 「?別に構わないが」

 

 俺は鴉羽 陣としての顔を剥ぎ、久しぶりに人に俺の本当の顔を見せた。

 

 「ふむ、久しぶりに見たけど相変わらず綺麗な顔だね」

 「まあ整ってる自負はあるよ」

 「ああ、その顔なら十分学生でも通じるよ。身長が少しばかり高いが今時の若者ならまあ、違和感はないかな」

 「素顔で行けと?そりゃまたなんで」

 「何が起こるか分からないだよ。もしかしたら君の変装が破れるかも知れない。不安要素は少ない方がいい」

 

 そう簡単に破られることはないがまあボスの命令だし別にいいか。俺の素顔を知る人間なんてそれこそボスとインデクスくらいだしな。

 

 「それに折角の学生生活だ。シオンちゃんはもとより君も十分楽しんでくれ。学生生活は一生に一度の経験だ。君でも学べることがあるはずだよ。レオ」

 「ふ~ん…ま、そんなことより護衛のガキ共以外で俺のことを知ってる奴らは居るのか?」

 「いないよ、オルド含めてね」

 「なら、オルドにだけは伝えとけ。何かあったときに連絡が欲しい」

 「分かった」

 「それと、素顔で潜入するのはいいが髪と眼の色は弄るぞ。軽く化粧もな」

 「ああ、構わないよ」

 「良し、大体分かった」

 

 俺は資料をある程度確認して、部屋を後にすることにした。

 

 「後で制服とか必要な物送るから証明用の写真を撮ってきてね」

 「あいよ」

 

 

 

 

 

 「お前さんには来年から学生になってもらう事になった。俺と一緒にな」

 「また、いきなり突然ですね」

 

 俺は自宅に戻り、シオンに学園潜入について説明した。

 

 「というわけで今から勉強時間だ」

 「試験勉強ですか?入学まで時間は限られてるから」

 「いや?そんなもの必要ないだろ。俺が教えてきたんだから」

 「え、でもあそこって結構な高偏差値ですよね」

 「余裕だろ。不安なら後でおさらいだけしてやる」

 「…はい、お願いします。それで、試験勉強じゃないなら何を勉強するんですか?」

 「そりゃもちろん、これだ」

 

 俺は戻るまでに買ってきた教材をシオンに渡した。

 

 「…これは?」

 「見た通り、ファッション誌だ。他にも女性向けの雑誌をいくつか用意した。これで今時の流行を学べ」

 「…えーと、つまり。これを読んで今時の女子に溶け込めるようになれと?」

 「そうだ」

 「…ふざけてます?」

 「ふざけてはないさ。実際のところ今のお前はいわば籠の鳥、世間知らずもいいところだ。そんな奴が突然、学校生活に溶け込めるはずがないだろう。別に恥をかきたいのなら無理強いはしないがな」

 「…いえ、分かりました。勉強させてもらいます」

 「うん、それで良い。それとこれをやる。今後はそれをつけて生活しろ」

 

 俺は懐から一つの指輪を取り出し、シオンに渡した。

 

 「それはアルクナ鉱石で作られたものだ」

 「アルクナ…これが例の不能石ですか。確かに異能が出し辛いですね」

 「出し辛いね…」

 

 アルクナ鉱石。この鉱石は特殊な性質を持ち合わせており異能に対し干渉、制限を掛けることが出来る。その力は絶大で一般的な異能者は能力を発現すら出来なくなる程。その為、別名『不能石』とも呼ばれている。

 その不能石に実際に触れているにも関わらず異能が出せないではなく出し辛いか。やはり、異能面での才能はある程度あるようだな。

 

 「学園ではどんな能力者がいるから分からないからな。それを身につけておけば思考を読まれるリスクは低くなる」

 「でもこれを付けていたら逆に怪しまれませんか?」

 「確かに余り流通されているものではないが別に禁止されているものじゃない。異能の特性上危険性が高いもの、制御が出来ないもの、常時発動し使用者に負担が掛かるものとかな。お前さんは異能の出力が高いからな制御が苦手だってことにしとけ」

 「分かりました」

 

 シオンは指輪を右手の人差し指に嵌め、それを見つめていた

 

 「…ねえジンさん、私が今何考えているか分かる?」

 「何言ってんだ。何か勘違いしているようだが別に俺は思考感知系の異能は持ってねえよ」

 

 そもそも俺は異能自体もってねえしな。

 

 「それに不能石も絶対じゃあねえ。高出力な異能者には聞かねえし、質や大きさによっても効果はまちまちだ。まあ、渡したそれは大きさはともかく質は確かだからある程度は弾けるがそれでもある程度思考は自分で意識しとけ」

 「はい、分かりました」

 「そんじゃあ俺も準備があるから自室に戻るわ」

 「はい」

 

 俺も学園に行くための準備のため自室に戻ることにしたが、その前に

 

 「ああ、それと」

 「?」

 「今夜はカルパッチョの予定だから、カレーはまた今度な」

 「!?やっぱり、分かってるじゃないですか」

 「ククク、そんなことだから余りその指輪に頼りすぎんなよ。後、勉強も頑張れよ」

 「む~~~」

 

 シオンの呻き声を後ろに俺は今度こそ自室に戻った。

 

 準備といっても別に大したことはしないがな。

 姿見の前に立ち、俺は鴉羽としての顔とウィッグを外し、素顔を晒した。

 鏡には一人の若者が映っていた。

 外国の血が入っているのか堀が深く銀色の髪が目立つ。瞳は黒いカラコンを使っているが本来は灰色だ。髭も皴もない若い姿は確かに高校生と呼ばれてもおかしくない。

 瞳はこのまま黒のカラコンを使うとして流石に銀髪は少し目立つ、黒く染めるか。

 とりあえず今は似た髪型のウィッグを着けるか。

 

 今の鏡には黒髪黒目の青年が映ってた。

 

 ふむ、地味にはなったが顔立ちが整っているからこれでもまだ目立つな。

 前髪を伸ばし、眼鏡でも掛けるか。

 

 俺はウィッグを付け替え、変装用の眼鏡を掛けた。

 それと肌を荒く見せる様、軽く目元をメイクして俺は再度鏡を見た。

 

 ん~ま、こんなものか。

 

 鏡に映った姿を見て、俺はある程度満足した。

 身長は高いが、少し猫背気味に過ごせば余り目立たないだろ。

 

 昔はむしろ厚底ブーツで身長を誤魔化していたが、今は縮めることが出来ないからな。

 変装のレパートリーが減ってしまったから、それは少し残念だな。

 

 それから色々軽くメイクを弄ってから、時間を確認すれば16時半過ぎ、夕食の準備をする為俺は部屋を出ることにした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ジンさんが部屋に入ってから、1時間ちょっと経ってからジンさんがリビングから戻ってきた。

 

 「ご飯?」

 「ああ、今準備する」 

 「!?誰ッ」

 

 知らない声を聞き、私はすぐに戦闘態勢に入り異能を発現させかけた。しかし、

 

 「落ち着け」

 

 見知らぬ男性に足払いを掛けられ転倒し、私は拘束され身動きが封じられた。

 

 「このッ!」

 「だから落ち着け、俺(・)だ(・)」

 「はなっ、……え、ジンさん?」

 「そ(・)う(・)だ(・)よ(・)。(・)や(・)っ(・)と(・)気(・)づ(・)い(・)た(・)か(・)馬(・)鹿(・)野(・)郎(・)」

 

 私は何とか拘束を抜け出そうしたところ、見知らぬ男性からジンさんの声が聞こえ私は動きを止めた。

 

 「全く、声と姿が違うくらいで気付かないなんて俺は悲しいぜ」

 「うっ、それは……って、ジンさんは変装が得意なんだから気づくはずないじゃん」

 「この家にいて、俺が入った部屋から出て、それで俺以外の誰がいるってんだよ」

 「む~~~」

 「とりあえず、今からメシ作るから大人しく待ってろ」

 

 ジンさんは拘束を緩め、台所に向かって歩いて行った。

 私は改めて台所で準備しているジンさんを見た。

 ジンさんはいつもの無精ひげを生やした入れ墨を入れたオッサン顔ではなく、前髪が長く眼鏡を掛けた青年になっていた。

 さっき聞いた 声もいつもより若く、普段感じられる胡散臭さが鳴りを潜めまるで本当に別人のようだ。

 いつも浮かべている様なにやけ面もしておらず、今も無表情で気だるげに料理を作っている。

 

 「ねえジンさん、いつもと大分雰囲気違うけどその姿で学園に通うの?」

 「ああ」

 「……いつもよりイケメンだね」

 「まあ、お前の親戚っていう設定で学園に通うからな。ある程度は寄せていく」

 「ふーん」

 

 ……ん?あれ、それって

 

 「私、もしかして結構美少女?」

 「当たり前だろ。自分のことは客観的に分かっていた方が良いぞ」

 

 美少女…私ってジンさんから見て美少女なんだ。へへへ、結構嬉しい。

 

 「へへへ」

 「気味の悪い笑いを浮かべてないで机の上を片付けろ。料理出すから」

 「はーい。……へへへ」

 

 いつの間にか料理を作り終えたのかジンさんが台所から料理を持って来ていた。

 

 「ほれ、さっさと食べろ」

 「はい、いただきます」

 「いただきます」

 「え!ジンさんが挨拶した」

 

 今まで家に帰る時すらも挨拶しないし、他の人が挨拶してもまともに挨拶を返さないあのジンさんが。

 本当に本物のジンさんなの?

 

 「いちいち驚くな疑うな。面倒くさい」

 「だって、あのジンさんだよ。あの何事にも感謝もする気もする必要もないと思ってそうなあの冷血漢なジンさんが……」

 「お前が俺をどう思っているのかは知っていたが、よく俺の前で口に出せたな。ホント挨拶一つしただけで面倒くさいな」

 「いやだって」

 

 私が疑いを持った目でジンさんを見ているとジンさんは溜息を一つ吐き説明してくれた。

 

 「はあ……いいか?これから俺たちは学園に通い生活していくことになる。そこでボロが出ないように演技しながらな、俺はともかくお前さんの反応でバレたら全て水の泡、全部無駄になる。だからこそ普段から演技しながら生活していき慣れてもらう必要がある訳だ」

 「だったら、学園生活でも普段通り過ごせばいいじゃん」

 「バーカ、普段通り過ごしたら教員から目をつけられるだろ。目立つわけにはいかないからな、分かったらお前さんが早く慣れろ」

 「……はーい」

 

 私は色々言いたいことはあったもののジンさんの言に不承不承納得しご飯を食べ始めた。

 ジンさんも無言でご飯を食べていた。

 それにしても近くで見るとますます綺麗な顔をしていることが分かる。

 前髪と眼鏡で隠されているが堀が深く、目鼻立ちがしっかりしておりさっきまで見ていた雑誌の男性のモデルの人と比べても今のジンさんの方がカッコいいと思えるほどに。

 

 「…そういえば、結局なんで私たちは学園に通うことになったんですか?」

 「ああ、後で詳しく説明するが簡単に言えば組織関係者の子供が入学するからその子供と護衛をサポートするのが今回の仕事だ」

 「そうなんですか。私はともかくジンさんまで駆り出されるなんてよっぽど偉い人の子供なんですね」

 「あまり詮索はするなよ。消されるぞ」

 「はい、気を付けます。それで私たちは護衛の人と協力してその対象を守っていけばいいのですか?」

 「いや俺たちは隠密で動く。対象は勿論、護衛にも気づかれることなく彼らのサポートを行う」

 「隠密で……難しそうですね」

 

 対象の子供だけでなく護衛にも気づかれないようにこれは思ったよりも難しそうだ。

 

 「そう難しく考えるな、お前さんは基本彼らに気づかれないよう遠目で監視してくれ」

 「それなら、まあ、出来そう…かな?」

 「ああ、お前さんは1日にあった出来事を俺に報告してくれればいい。何かあれば指示する」

 「分かりました。……あれ?報告?ジンさんも一緒に通うんですよね?」

 「ああ、対象は学園の異能科に通う予定なんだが受かるとは限らないからな。もしも落ちたら普通科で通うことになっている。それで俺とお前はそれぞれに分かれて受験することになる。お前さんが異能科で俺が普通科な。だから予定通り対象が異能科に受かったら基本的にはお前さんが監視任務にあたることになる」

 「なるほど。…あの、もしも護衛対象が普通科も落ちてしまったらどうなるんです?」

 「その時はその時だ。どうするかはその時に指示する。もしかしたら仕事関係なしで3年間通うことになるかもな」

 「分かりました」

 「分かったら早く飯を食べろ。後で今回の仕事の資料も渡す」

 「はい」

 

 学園生活か…正直通えるとは思えなかったから楽しみだな。

 学園生活を楽しむため為にも頑張って勉強しないと。試験も流行も。

 私が学園生活を夢想しながらご飯を食べ進めた。

 

 その後は作戦内容について改めて説明されたり、勉強を見てもらったりして過ごした。

 勿論、いつもの訓練も並行して行った。

 ジンさん曰く学園に入学したら近くに家が用意してあるからそこで過ごすことになりいつもの訓練が出来なくなるため今のうちにしっかりと絞るとのこと。厳しい。

 

 そんな生活を過ごしいき、私は学園の入学試験を迎えることになった。

 

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