ハードな世界で俺だけイージーモード 作:ゆらゆら
朝3時のくそ早朝――出発。
役所の人間を叩き起こして、貰って来たポンプやらタンク類。
トラックへと積み込んでコロニーを出れば、そのまま川へと到着した。
自前の検査装置を川へと入れて数秒待ち、汚染度が危険水域でない事を確認。
そのままポンプを川へと突っ込んでから、せっせことパイプを伸ばして途中で砂や不純物を沈殿させる為のタンクを設置。
コロニーまで引き込めば、そのまま水が空になって放置されていた貯水タンクへと突っ込んでおいた……ちゃんと洗ったからな?
これで飲み水の確保は完了した。
次にやる事は物資の調達であり、大急ぎで俺が求める環境の場所へと向かった。
探して探して……目論見通り発見できた。
それは野菜であるが、花を咲かせて種が出来るまで育っていた。
このハードな世界で生き抜く為の魔法の野菜の種――“小松菜”だ。
俺は可能な限り種をかき集めた。
そうして、それを持ち帰って女王様が手配してくれた土地へと向かう。
店舗用に土地が欲しいと伝えていたが、女王様は気を利かせて畑用の土地もくださっていた。
が、最近は何も育てていなかったんだろう。
少し土壌が悪くなっていたので、第参から持ってきた肥料を土に混ぜておいた。
これが元肥であり、育てる前に行う肥料のやり方だ。
後はその土地に種をまいていくだけだ。
勿論、一人では苦労するので雇った従業員共に早速手伝わせた。
種まきであり、懇切丁寧に指導してやれば黙々と作業を行っていた。
小松菜の種まきが終わり、その後の追肥のやり方や水の配分も伝えておく。
芽かきも重要であるが、最初から完璧に出来る奴なんていない。
多少の失敗はどうでも良い事を伝えて置き、気楽にやっていけとも伝えた。
まぁ小松菜は寒暖にも強い上に、育つ期間も短い。
だからこそ、初心者にはうってつけであり、一月も経てばこのコロニーの主食になっているだろう。
……って言っても、一月も待てねぇからな。本当の意味での即席食材を作っていく事になる。
ゴキブリの養殖はすぐにでも出来るだろう。
雑草豆もそうであり、すぐに安定した生産化が進められる筈だ。
となれば、それ以外の食料が必要になる。
肝心なのは食べて飲む上での――幸福度だ。
「……幸いにも、分解機とかは機能してやがったからな。芋さえありゃ何とかなる。最初は原料のじゃがいもと種芋を持ってくればいいかな」
分解機などを使って、砂糖――異性化糖を作る。
これが幸せの源であり、糖分こそが人間をハッピーにする。
ニュールでもそうであり、甘みがなければ意味がない。
後々は、このコロニーでも芋の類の生産は始めて行くつもりだが。
初めから多くを求めても仕方がない。
少しずつであり、その間は俺が面倒を見てやるつもりだ。
保存が効く缶詰の甘味やら添加物ゴリゴリのものであれば、外にいけばそれなりに見つかる。
主に“シュガーゾーン社”製の菓子類であり、千年以上経っても食えるのだから頭がおかしいとしか言いようがねぇ。
そんな危険物よりも、やはり作りたてのものが食べたいだろう。
俺のコロニーでは王族レベルしか手を出せない超高級品だが。
此処でも、そうなる事は変わらないかもしれない。
ニュールだ。
やはり、ニュールが全てを解決する。
アレもギリ甘味の類であり、きびしい検閲を潜り抜けた代物だ。
甘味好きの人間でも手軽に買える飲み物であり、誰しもが愛してやまないものだ。
幸せの粉も少量入っているので、魔法の酒とも呼べる。
異性化糖の量産が叶えば、此処でのニュールの大量生産も可能になる。
他に必要な原料に関しても、ある程度の製造は可能だ。
足りない分は俺がちょくちょく調達して持ってくればいい。
足手まといの蜘蛛ロボさえいなけりゃこんな場所へは三日も掛からずに着いちまうからな。
ニュールの製造と簡単な菓子の生産。
そして、小松菜の安定した生産さえ叶えば最低限の生きる上に必要なものは揃う。
このコロニーの良い所は近くに水源となる川があり、そこから水を大量に供給できる事だ。
第参では近くに川は無く、雨水を貯めたり俺が直接外に出て汲んでくるしかない。
水が実質使い放題であり、これからはシャワーなども浴び放題――が、それではダメだ。
少なくとも、第参よりも優れている点が一つでもなけれな意味がない。
そうでもしなければ、行く行くは第肆の占領地になるのがオチだ。
そうなれば、絶対に俺が他のコロニーへの出征を命じられてしまう。
そんなのは絶対嫌であり、第肆には第参と対等な関係でいて欲しい。
だからこそ、俺は豊富な水資源を使い――銭湯を作る事にした。
「旧時代の日本では、風呂という文化が存在した。熱い湯に肩までつかり、汚れも疲れもごっそりと落としたという。風呂とは癒しであり、心の洗濯だ」
「「「……?」」」
俺の話を聞く新米従業員たち。
俺は奴らへとスコップやピッケルを渡す。
ヘルメットを被らせて、俺はボードの上になめした革の上に書いた図面を貼る。
「温泉、を掘り当てろとは言わん。そんなのは絶対に無理だし、そもそも時間がない。肝心なのは風呂を実現する事。つまり、ただのでかい浴槽にただの湯を張る銭湯こそが現時点での最適解だ」
「「「は、はぁ」」」
「――さぁ働けぇ!!! でけぇ浴槽とそれを囲う建物を作るぞぉ!!!」
「「「は、はい!!」」」
奴らは俺の叫びを聞いて慌てたように動き出す。
工事経験者ばかりであるからこそ、細かい指示を出さずとも動いてくれる。
此処は楽なところであり、俺はただ時を待つだけでいい。
俺はゆっくりとボトルを取り出す。
そうして、酒場から拝借した酒の入ったそれを呷る。
静かに吐息を吐きながら、俺は天に輝くおてんとうさまを細めた目で見つめた。
「でっけぇ風呂に入るのが……夢、だったんだ」
まさか、こんな所で叶うとは思わなかった。
俺は数奇なもんだと思いつつ、銭湯の完成を心待ちにした。