比企谷八幡と黒い球体の部屋   作:副会長

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――剣士だよ。……お前と同じ、な。

 Side和人――とある駅の近くの大通り

 

 

 剣崎の言葉は謙遜でも嫌味でもなく、純然たる事実だった。

 火口や岩倉のような当たりの能力、大自然の如き異能の力――通称『災害者』のように、選ばれた才能の持ち主では、剣崎は決してない。

 

 それどころか剣崎の『察知』は、化野の『変身』のように、身体能力強化系の中でも『希少(レア)』というわけでもない、有り触れた――それどころか、外れの中でもかなり“使えない”能力に位置する外れである。

 

 本来ならば、黒金組の四天王に選ばれるどころか、部隊長になることすら難しい。一兵卒の最前線に送り込まれる、捨て駒扱いが相応しい才能――無才である。事実、剣崎は一兵卒から結果を積み上げ、のし上がり、黒金直々にスカウトされるまでに至った現場上がりである。剣崎は思う存分剣が振るえるので思い悩むどころか楽しそうですらあったが。

 

 異能の話に戻ると、剣崎の『察知』は、相対する目の前の敵の、数瞬先の動きを映像として予測できる、という能力である。

 敵の動きがコマ送りのようにイメージすることが出来て、相手がそのイメージ通りの動きをそのコマに段々と追いつくかのように動くように見える――敵の動きの先を“視る”ことが出来るのだ。

 

 これは未来予知というよりは、やはり察知というのに近い。

 何故なら、これは敵の動きを見て、先の動きを予測するという、ある程度の戦士ならば誰もが無意識に行っている行為が、より高度に出来るというだけのものなのだから。

 

 この異能は、分類上は身体能力の中でも、動体視力と観察力、そして脳の情報処理速度の強化に当たる。敵の動きを観察して、それを通常時よりも瞬間的に遥かに高速かつ高度に情報処理し、まるで未来視の如く、敵の数瞬先の動きを察知するというものだ。

 

 だが、この異能はまず相手の動きの観察が必要となる為、戦闘中の相手に対してにしか使用できず、それも数瞬先の動きを察知するのが限度。しかも、その能力の特性上、連続使用での長時間の未来視は不可能であり、一瞬の攻防でしか効果を発揮しない。

 

 恐ろしく使い勝手が悪い、まさしく外れの能力。発現したものは漏れなく己の才能のなさを呪い、悲嘆に暮れるであろう異能。

 

 しかし、一瞬の命のやり取りを生業とする剣士である剣崎にとっては、これ以上ない相応しい異能だった。気に入っているという言葉も、決して強がりではない本心である。

 

 何故なら、剣崎はこうして、誰よりも外れの能力を発現しておきながら、火口や岩倉といった『災害者』、化野のような『希少種』と並んで、黒金組四天王の一角に名を連ねているのだから。

 

 ゲームのようにHPなどない現実世界において、殺傷を目的とする武器を持って殺し合う剣士の決闘は、基本的に一瞬――一撃で決まる。

 自らが持つ剣の刃を、相手の身体に先に斬りつけた者が勝つ――斬り裂いた剣士が勝つ、一瞬の攻防。

 

 その世界において、数瞬先の未来を察知できるということは、まさしくチートの言葉に相応しい反則的な強さを有することとなる。

 

 強靭な腕力よりも、目にも留まらぬ脚力よりも、巨躯なる身体よりも、遥かに優れた才能となるのだ。

 

 事実、和人は剣崎の言葉を聞いて、その恐ろしさを余すところなく理解した。

 

(……確かに、これが生身の剣士の決闘ならば、俺はもう何度死んだか分からない。……いや、既に何回か俺は斬られている。このスーツもいつまで持つのか――)

 

 和人の最大の武器である反応速度、そして第六感。そんなあの鋼鉄の城で得た財産を――積み上げた努力を、一笑に伏せるが如き残酷な才能。

 

 努力を、覆す――剣士としての才能。

 

 いつだって、積み上げた努力を覆すのは、理不尽なまでの圧倒的な才能だ。

 

(……俺は、努力を積み重ねるこの天才に……勝てるのか?)

 

 だが剣崎は、そんな和人の絶望など意に介さず、その切っ先を闘志と共に突きつける。

 

「さぁ、決闘の続きと行こうぜ」

 

 その顔は、まさしくこの一瞬の命のやり取りを、剣士の決闘を、心の底から楽しんでいる表情だった。

 

 剣に取り憑かれ、剣に全てを捧げた――紛うことなき剣士の表情。

 

「安心しろ――ちゃんと殺してやるから」

 

――俺の剣でなッ!!

 

 剣崎は和人に斬りかかる。

 和人はそれを二刀で受けた。

 

 そして、再び鍔迫り合いに持ち込まれる。

 

 片や、オニのような愉悦の笑顔で。

 片や、人間のように苦々しい表情で。

 

(……どうするッ!? 技量で劣り、才能で劣り、剣への執着ですら劣る。……そんな怪物に、そんな剣士に、鍍金の勇者は、どう立ち向かえばいいっ!?)

 

 自分には、何が足りない?

 

 努力か? 研鑽か? 剣に費やした時間か?

 全てだ。剣士として、桐ケ谷和人は、この剣崎という男に対し、その全てが足りていない。

 

 ならば、どうする?

 諦めるのか? 屈服するのか? その膝を折り、頭を垂れて、助けてくれと懇願するのか?

 

 この――二刀から、手を離すのか?

 

(――否だ。……断じて否だッッ!)

 

 ガキンッ! と両者の距離が離れ、和人も、そして剣崎も、同時に前へ――目の前の剣士へ、襲い掛かる。

 

 現実は、ゲームのように残酷だ。

 レベルやステータスといった数字は、目に見えないだけで、この世界にも明確に存在する。

 

 その数字が、たかが数字が増えるだけで、それは明確な格差となる。

 

 剣崎という男は、和人よりも確実に高いステージにいる。それは、この殺し合いにおいて、勝敗を決定づけるに決定的要因に容易になり得る現実だろう。

 

 心が悲鳴を上げて、折れかける。

 こうして剣を振るいながら足掻き続けるよりも、頭を下げて命乞いをする方が生存確率は高いのではないかと、冷静に、けれどこれ以上ない程に後ろ向きな計算をしている自分もいる。

 

 だけど、だけど――だけど。

 

(負けたくないっ! 負けたくないっ!! この男に――なんとしても……ッ! 目の前の、この剣士(おとこ)には負けたくないっ!)

 

 誰よりも強い剣士で在りたい。

 

 その欲求は、その渇望は、まだ未熟者の半人前の剣士である和人の心の炉の中でも、轟々と熱く燃え盛っていた。

 

 あの仮想世界で、危険を承知で、死を覚悟しながらも、攻略の最前線に立ち、剣を振るい続けたのは、数字を積み重ね続けたのは、様々な理由はあったけれど、やはり根幹には、この欲求があったのだと思う。

 

 好きなことで負けたくない――大好きな剣において、誰よりも強い者で在りたい。

 

 だから、だから――だから。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 桐ケ谷和人は、剣を振るう。

 

 息が上がり酸素不足で視界に火花を幻視しながらも、和人は剣崎に向かって二刀を振るい続けた。

 

 その高みへ、自分よりも上のステージに居る者へ、懸命に手を伸ばすように。

 

「は、ははは、はははははははは!!! いいぞ!! そうだ!! 来い!! お前の剣を!! この俺に届かせて見せろ!!」

 

 剣崎の剣閃の速度が上がる。和人も、それに引っ張られるように回転を上げた。

 

 時折、ゾッとするようなカウンターを仕掛けられながらも、敵の剣と己の身体の間に必死に剣を挟み込む、その間一髪のやり取りが続く。

 

(奴の察知は、決して未来視じゃない! 限りなくそれに近くとも、観察と予測から導き出した結果の極致に過ぎないんだっ!)

 

 そうでなければ、とっくにこのスーツは壊され、首と胴体は離れている。

 

 つまり――

 

(奴は、俺という剣士――桐ケ谷和人という剣士の動きを予測しているに過ぎない!)

 

 ならば――と思う。和人の頭の中に、一つの可能性――光明が見えた。

 

 だが――とも思う。

 

 果たして通用するのかという不安と、その可能性に縋っていいのかという不安。

 

 それは、果たして桐ケ谷和人の剣術といえるのか?

 桐ケ谷和人の力のみで、怪物を打倒すると決めた筈ではないのか?

 

 桐ケ谷和人は、また、再び、どうしようもなく――決意を、誓いを、貫き通すことが出来ないのか?

 

 また、諦めるのか?

 

(――――ッ)

 

 これは、どうしようもなく愚かな拘りだろう。

 可能性が生まれたなら、光明が見えたら、己のプライドなどかなぐり捨てて、それに縋りつくべきなのだ。

 

 あの男なら――比企谷八幡ならば、間違いなくそうするだろう。それによりどのような誹りを受けようも、恥ずかしげもなく堂々と『誇り? プライド? なんだそれは。命を守ることよりもカッコいいのか?』と言ってのけるだろう。

 

 そして、こうも言ってのけるだろう。和人は、まだ出会って一日しか経っていない、あの目が腐りきった男を幻視し、こう脳裏で誹りを受けた。

 

『こんな所で負けるような奴が――お前みたいな鍍金(にせもの)の勇者が、自分の剣術なんて大層なもんを持っているわけねぇだろ。自惚れるな。目の前の強者だって、師匠がいるんだろう。……お前は一人で強くなったのか? 始めっから何をするでもなく強かったのか? ――』

 

――お前の剣術とやらを、お前に授けたのは、一体誰だ?

 

 和人は目を見開く。

 

 桐ケ谷和人にとっての――剣の原点。剣士としての、原点。

 

 それは、間違いなく――SAO――ソードアート・オンライン。

 

 あの、鋼鉄の城での二年間だ。

 

 自分にとっての剣術の師匠というものがいるとするのなら、それは、あの浮遊城に他ならない。

 

(……そうだ。俺は、何を自惚れていたんだ。俺は――俺の技は、何一つとして、自分で編み出したものなどではないというのに。その全てが、あの浮遊城で身に付け、磨いたものだっていうのに)

 

 心は、決まった。

 

 和人の心に、あの真紅の聖騎士の背中が浮かぶ。

 

 もう、この世界にシステムアシストはない。あの空間は、あの世界は、和人のことを支えてはくれない。

 

 いい加減、独り立ちの時だ。

 

 いつまでも師匠に頼りきりでは、あの世界で剣士にしてもらった弟子として、あまりにも情けなさすぎる。

 

 和人は二刀を交差させ、剣崎の振り下ろしを受け止めた。

 

「っ!?」

 

 この動きは《察知》出来ていなかったのか、驚愕の表情を浮かべる剣崎。

 

(だが、今更、《察知》を使ったところでもう遅いっ! この戦いでの桐ケ谷和人しか知らないお前では、この技を予測することなど出来るわけがないっ!)

 

 この技は、あの世界において、何度も手取り足取り支援(アシスト)してもらって、身体に動きを染み込ませた技だ。

 

 あの浮遊城が――師匠が自分に授けてくれた、数多くの奥義の一つ。

 

 和人が下らない意地で、この戦いで使うのを避けてきた――ソードスキル。

 

「……スターバースト――」

 

 自分ではない――和人が今でも思い描く最強が作り上げた、魔王の技で。

 

 今、再び、魔王に縋る偽物の勇者として、その汚名を背負う覚悟を持って、和人は剣崎の剣を押し返す。

 

(俺の全てを、この剣に捧げる! 俺の命をくれてやっても構わない! それでも――アスナだけは、もう絶対に死なせないっ!)

 

 魔王の力に頼ることに罰が伴うというのなら、己の全てを捧げよう。

 そして魔王の力すら、己の剣に取り込んで、己の剣術としてみせる。

 

 あの男が作り上げたソードスキルの全てを習得し、あの騎士の全てを超えてみせる。

 

(あの男よりも――ヒースクリフをも超える、最強の剣士になってみせるっ!)

 

 そして和人は、剣士としての独り立ちの第一歩として、その二刀流の上位剣技に、あの世界の支援(アシスト)なしで挑む。

 

 何処からか、あの聖騎士の優しい声が聞こえた気がした。

 

「――ストリームッ!!」

 

 和人の二振りの黒剣は、文字通りの星屑の流れを描くことはなかったが、まるで黒い流星のような十六もの剣閃を、剣崎に向かって浴びせかけた。

 

(な、なんだこれは――察知が働かない!? この俺が、敵の剣筋を見誤るなんてことは――)

 

 その怒涛の、数を重ねる毎に鋭さと重さを増していく連撃に、剣崎は追い詰められていく。

 バシュ! バシュ! と腕や腹、頬に刀傷が刻まれていく。

 

 そして、十五撃目――右の宝剣の上段突きが、剣崎の両腕ごと剣を弾き飛ばした。

 

(――はっ。これが、お前の本当の剣術か。いい……太刀筋だ)

 

 剣崎は、ふと笑みを浮かべ、瞳の黄金色を元の黒に戻していく。

 

 ドスッ!! と、重々しい音と共に、《スターバースト・ストリーム》の十六撃目――左のガンツソードの一突きが、剣崎の胴体を深々と貫いた。

 

 和人はぶはっ、と大きく息を吐き出す。かつての青い悪魔との戦いの時のように、意識が暗転しかけ倒れ込みそうになるが、自分に向かってトスっと剣崎が倒れ込んできたことで、必死に膝を折るのを堪える。

 

 そうだ。かつてのように、敵はポリゴン片になって消えるモンスターではない。

 

 ずっしりと、重さを感じる剣崎の身体を、和人は歯を食い縛って支えた。

 

 自分以上に荒い息だ。ごふっ、と吐いた血をこの身に浴びせかけられる。その血も、身体と同様に、まだ温かい。

 

 生きている。だが――もう間もなく、死ぬ。

 

 和人は、左手のガンツソードを、剣崎の胴体を貫いている剣を握る。

 

 既に剣崎は、角を失くし、瞳の色も元通り――人間のような姿に戻っている。

 

 

――この……人殺し野郎が

 

 

 あの世界で命を奪ったクラディールの声が頭の中に響いた。

 

 そうだ。俺が殺すんだ――俺が、殺したんだ。

 

 この人間のような男を、剣士だった怪物を――自分のこの剣で、殺したんだ。

 

「……すっかり、騙されたぜ。てっきり、我流剣術の使い手だと……思い込んでいた。……お前も、誰かの師事を……受けていたんだな。剣筋で……見抜くことの出来なかった……俺の……未熟だ」

 

 和人は《スターバースト・ストリーム》を一度見ただけで、あれが和人の編み出した技ではないことを見抜いたこの男に――この剣士に感服する。

 

 それと同時に、安堵もした。

 例えソードスキルを使わなかったとしても、和人の剣術は、あの浮遊城で磨き上げた剣術は、全てがソードスキルありきで研鑽した剣術である。その為、それまでの我流剣術からでも、隠していたソードスキルすらも見抜かれているのではないかと。そうでなくても、十六連撃の間に対処されてしまうのではないかと、そういった危惧も感じていた――結果として杞憂だったが、それでも、この男は見抜けなかったことを、未熟と言った。

 

 つまり、自分ならば見抜けた可能性もあったと、もっと高みに上れた筈だと、そうこの剣士は言っている。

 

 そんな剣士の可能性を、和人は自らの剣で断ち切った――断ち、斬ったのだ。

 

「……全く、やってくれるぜ……お前、人間だよな?」

「いや、違う」

 

 和人はグッと、剣崎の頭を自身の肩に押し付ける。

 そして、剣崎の言葉に、こう答えた。

 

 

「――剣士だよ。……お前と同じ、な」

 

 

 和人の言葉に、剣崎は息を呑む。

 

 そして、力無く、「へへ……嬉しいこと、言ってくれんじゃねぇか」と笑う。

 

「……最後に……冥土の土産として……一つ、聞かせてくれ」

「……ああ」

「お前の、剣術……なんて……流派なんだ? ……色んな剣士と……やり合ってきたが……あんな剣筋は、初めて見たぜ」

 

 和人は一瞬その言葉に硬直したが、自分でも驚く程に、すんなりとその問いに答えていた。

 

 

「《アインクラッド流》――それが、俺の剣術の名前だ」

 

 

 剣崎は、その言葉を聞いて、満足気に、眠るように目を閉じる。

 

 

「…………次は、負けねぇ」

 

――地獄で、待ってるぜ

 

 

 そして剣崎は、ガクリと、力尽きるように死亡した。

 

 力が抜けたことにより、剣崎の巨体の体重が、余すことなく、立っているのがやっとである和人の身体に圧し掛かる。

 

 だが、和人はその剣崎の重みを、しばらくの間、そのまましっかりと受け止めた。

 

 自分が奪った命の重さを――剣士の偉大さを、その身体に覚え込ませるように。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 Side八幡――とある大きな五叉路の交差点

 

 

「――ほう。お仲間か、ハンター」

「ああ。まさか、二対一が卑怯、なんて言わないよな」

「好きにしろ。ボスキャラは、パーティ総出を相手にすることになると相場は決まっている」

 

 好きなだけ袋叩きにするがいいさ。

 そう言いながら黒金は、振り下ろそうとしていた右手を、掌を上にするようにして掲げ――

 

「もっとも――」

 

 バチチッィ!!! と、雷電を、見せびらかすようにして――威嚇するようにして、掌に生み出し、弄んだ。

 

「――何十人、何百人、何千人、何万人、何億人が束になって襲い掛かってきた所で……俺は勝つがな」

 

 陽乃さんは、俺の両手からそっと手を放し、俺もXガンを下ろす。

 そして、俺も陽乃さんも黒金を真っ直ぐに見据えながら、小声で言葉を交わし合う。

 

「……やっぱり雷を使うんだね」

「やっぱり? もしかして、他の似たような能力の敵と戦ったんですか?」

「ん~ん。わたしがここまで戦ったのは、みんなそこまで強くない雑魚キャラだったよ。……そうじゃなくて、何度も不自然に起こる落雷を目安に、ここまで来たから。たぶん、八幡は一番厄介な敵と戦っているんだろうなって」

「……嫌な発見方法ですね」

「あら? 愛する八幡のことは離れてても全部お見通し! とか言って欲しかった?」

「まさか。寒気がします」

「だよね。知ってた」

 

 本物でも“()だ”ないのに、そんな俺にとって都合のいいことを言われたら確実に裏を読む。陽乃さんみたいな美人から言われたら尚更だ。これは陽乃さんどうこうではなく、俺という人間の面倒くさい習性みたいなもんだから、もうどうしようもない。

 

 だが、陽乃さんはこんな俺のことを、半年間も会っていなかったのに、あっさりと理解してくれる。……失いたくないな。もう二度と。

 

 だから、ここで、俺達は黒金に勝つ。コイツを殺す。

 

 ……まさか、俺がこんなことを思う日が来るなんてな。

 

 孤独(ひとり)なら、どうしようもないくらい勝機が無くても――二人なら。

 

 

 この人と、雪ノ下陽乃と一緒なら――

 

 

 そんなことを思っていると――ふと、黒金が空を仰いでいた。

 

 真っ暗な、真っ黒な、月すら出てない、曇天の空を。

 

「ふは」

 

 黒金は笑う。怪物のように、嗤う。

 

 そして俺達に、吸血鬼の牙を見せつけながら、こう言った。

 

「それに、こっちにも――援軍が駆けつけてくれたらしい。持つべきものは仲間だな、ハンター」

 

 ……なんだ? コイツは何を言って――

 

 

 

「グルルルルルルルルルルルルルルルルルァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 佳境へと、クライマックスへと突入しつつあった、池袋の地獄の戦場に。

 

 その時、新たな乱入者が――怪物達への援軍が参上した。戦争に参戦すべく、昨夜と同様に唐突に侵入した。

 

 それは黒い服の集団ではなく――遥か、上空。

 

 

 そこに、腹部に昆虫の足のように――大量に人間の腕を生やした、不気味な翼竜のような、化け物がいた。

 

 

「………………何だ、あれは?」

 

 その恐ろしい怪物は、悍ましき化け物は、旋回するように池袋上空を飛び回っていて――

 

 

「グルルルルルルルルルルルルルルルルルァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 再び、己の遅まきながらの参戦を、俺達に知らしめるように、正真正銘の怪物の嘶き声を、池袋中に響き渡たらせた。

 




鮮烈の剣鬼、鍍金の勇者が剣に穿たれ――池袋にて討ち死にす。

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