比企谷八幡と黒い球体の部屋   作:副会長

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吸血鬼という化け物で、お前達の敵なんだよ

 Side渚&東条――とある60階建てビルの通り

 

 

 岩倉の死体がボロボロに崩れていく中、東条は腰に手を当ててグググと伸びをする。

 

 そこに、一通り炎を落とした渚が近寄ってきた。

 

「東条さん、勝ったんですね」

「おう。渚もやったじゃねぇか」

「ははは……まあでもスーツが大分悲鳴を上げて――って、東条さんも、みたいですね」

「ん? そうなのか?」

「ええ、キュインキュイン言ってます」

 

 まだ渚もよく把握してはいないが、バンダナの破壊されたスーツは制御部からオイルが流れていたし、火口は執拗にその場所を狙っていたので、おそらくはそのオイルがスーツの死亡の基準になるのだろうと、渚は推察していた。

 

「それで――どうしましょうかこれから? 桐ケ谷さん達を探しましょうか? ……そもそも、後どれくらいいるんですかね? オニ星人って」

「さぁ? 分からん?」

「……まぁ、東条さんですしね」

 

 この人はそんなことは深く考えていないだろう。目の前に敵がいたら殴るって思考回路の人だ。

 そんな風に渚が苦笑していると、東条は物陰に隠れている由香を指さす。

 

「アイツに聞いてみるか? お巡りの人もいるしよ」

「お巡り……さん? ――警察?」

 

 渚は東条の示す方向を見ると、そこには、あの部屋にいた少女――と、よれよれのスーツの大人がいた。

 

 由香は渚と目が合うととりあえず反射的に頭を下げる。渚はにこやかに笑顔で手を振った。

 女顔ではあるが端正な顔立ちの渚に微笑まれて頬を染めてドキッとし、控えめに手を振り返した由香だったが、よく考えて見ればこの人も――由香が東条の戦いに気を取られて注目していなかっただけで――あの岩の巨人と負けず劣らずの恐ろしく悍ましい化け物である、あの炎の吸血鬼を殺しているのだと気付き、笑顔を引き攣らせて手の位置が下がってしまった。

 

「……とりあえず、話を聞こっか」

 

 と、笹塚は物陰から由香を連れて出てきた。

 恐らくあの水色の少年は、由香が言っていた“経験者(ベテラン)”の一人だろうと、そして東条よりはちゃんとした話を聞けそうだと、そう踏んで。

 

 渚はその時、ふとマップの存在に気付いた。

 桐ケ谷達と合流するにせよ、残りの星人の場所と数を把握するにせよ、このマップのデータが頼りになるだろうと。

 

 そして、渚がマップを取り出そうとした時――

 

 

 

――ボウン! と、一瞬でビルが燃えた。

 

 

 

「!?」

「な、――」

「なんだ?」

「――――え?」

 

 渚達四人の目が、瞬間的に一棟まるごと唐突に炎上したその建物に集中した。

 

 それは、平達が逃げ込んだアパレルショップの、ちょうど通路を挟んで反対側にあるビル。

 

 そこはゲームセンターやボウリング場などを備えたアミューズメント施設の筈で――

 

(――いや、問題はそんなところじゃないっ!)

 

 余りにも綺麗に燃え上がるものだからスルーしかけていたが、こんなのはおかしい。

 例え火事だとしても、こんな風に、建物全体が一斉に燃え上がるかのように火に包まれることなど有り得ない。火事というのは火元があって、そこから徐々に燃え広がるものなのに――

 

(――こんなのは……火事じゃないっ。意図的に誰かがやったとしか……でも、そうだとしても…………人間技じゃない)

 

 人間の仕業じゃない。

 そう思った時、渚はバッと、火口の死体に目をやった。

 

 でも火口の死体は、渚が殺した時のまま、微動だにせずに死んでいた。既に只の無力な何も出来ない死体だった。

 

 ならば、一体誰が――と、そう考えた時、由香がポツリと呟いた。

 

「これって……中に人は居るの?」

「――――ッ!」

 

 その言葉を聞いて、渚は取り出していたマップに目を移した。このマップはガンツのハンターと敵ターゲットの位置しか表示しないので、もし一般人がいたとしても分からないのだが、この場合は杞憂だった。

 

 マップ画面は、はっきりと、燃え上がる建物の中に――二つの青点を表示していたのだから。

 

「平さん……っ!?」

 

 渚はその瞬間、燃えるビルに向かって駆け出していた。

 

「東条さん! 僕行ってきます! その子達のことをお願いします!」

「え、あ、えっと、な、渚さん!?」

 

 由香は突然走って行った渚に戸惑って手を伸ばすが、水色の少年はあっという間に見えなくなった。

 

「ちょ、ちょっと! いいの!?」

 

 そして何も言わない東条を見上げる――が。

 

 

 東条は、そのビルとはまったく違う方向――高架下の向こう側を、無表情で見ていた。

 

 

「え、と、東条さ――」

「……どうか、したのか?」

 

 渚に続こう踏み出していたが、不審な様子の東条に気付き、由香の言葉を遮り尋ねる笹塚。

 東条は、そんな彼等の方をまるで見ずに、ただ高架下の向こうを睨み付けたまま――獰猛な笑みを浮かべて、こう言った。

 

「……ああ。どうやら、かなり楽しそうな奴のお出ましみてぇだ」

 

 その言葉の意味を問い返そうとした時――笹塚の意識が、ぐらっと揺れた。

 

(っ!? …………な、んだ…………これは…………)

 

 笹塚が頭を押さえふらりとよろめくと、そんな笹塚の傍で――由香が意識を失い、前のめりに倒れそうになっていた。

 咄嗟に笹塚は彼女を受け止める。そして、そのまま東条の視線の先を追い――

 

「!?」

 

 笹塚が見たものは、バタ、バタバタ、バタバタと、一人、また一人と倒れていく、警察官や逃げ遅れた一般人達だった。

 

 まるで、何かに道を開けるように、何かに屈服するように、意識を失っていく彼等の間を――二つの影が歩いてくる。

 

 

 前を歩く一人は、笹塚とほぼ同じくらいの身長で、フードにロイドメガネとマスクという出で立ちの丸太を担ぐ男。

 

 そしてその少し後ろを歩くのは、2mを遥かに超える巨躯に、山羊の頭を被った、巨大な鉄球を引きずる怪物。

 

 

 笹塚は薄れそうになる意識を必死に保って、フラフラとふらつき、近くのテナントの壁に手を添えて、思う。

 

(……………何だ………あの怪物は………? あの岩の巨人よりも、あの炎を操る怪物よりも……遥かに………明らかに……放つ………威圧感が……違う)

 

 見る見る内に人間達が意識を失って姿を消すのは、あの怪物が放つ覇気によるものなのか。

 生半可な人間では、あの怪物を前に、意識を保つことすら出来ないのか。

 

 

 だが――ザッ、と、その男は一歩を踏み出し、堂々と歩み寄っていく。

 

 

 こちらに向かってくる、一人の人間のような男と、一人の化け物であろう怪物に向かって、悠然と、微塵も揺らぎのない、その強靭な足取りで。

 

「よう、トラ。ったくお前、さっさと家に帰れって言っただろう。何やってんだ、全く」

 

 ロイド眼鏡の男が、東条に向かってそう話しかける。

 

 笹塚は知り合いなのかと驚愕し東条に目を向けるが、東条はロイド眼鏡の男に対し、()()()()()()()()()、平然と、言葉を返した。

 

「――まぁ、ちょっと……それよりも篤さん、どうしたんっすか、その丸太?」

「何言ってんだ。丸太くらい何処にでも落ちてるだろう」

 

 いや、池袋の街に丸太はそうそう落ちていない。それにまず真っ先に指摘する所はそこなのか。隣の怪物は巨大鉄球を引きずっているんだが。と、笹塚は慣れないツッコミフレーズが頭に浮かぶが、そんなことを口に出して言うほど余裕のあるコンディションでもないしそんなキャラの血圧の持ち主でもなかった。

 

 そして突っ込む側の人間(由香)が倒れているので、東条は「それもそっすね」と何故か納得して、そして――

 

 

「それで――どういうことっすか、篤さん? 斧さん?」

 

 

――瞬間、東条英虎の放つオーラが変わった。

 

 

 岩の巨人と戦っていた時の、獰猛で、殺気立った――猛獣のオーラを纏った。

 

 そして、それに応えるように、篤と呼ばれた男の纏う雰囲気も変わる。

 

「………………」

 

 篤は一度、岩倉の砕け散った死体に目を向け、続いて、仰向けに倒れ伏せる火口の死体に目を遣る。

 

 そして、目を伏せ、ポツリと言葉を呟いた。

 

「――やっぱり、強いな、トラは。………そのスーツを着ているとはいえ、岩倉と……まさか火口までがやられるとは思わなかった」

「……ん? その岩みてぇな奴やったのは確かに俺っすけど、その後ろの奴は――」

「――俺は……いや、そうじゃないな…………俺等は、な、トラ」

 

 ギンッッッ!! と、篤の放つ殺気が、突如、突風のように鋭くなった。

 

「ッッ! ―――!!??」

 

 その殺気に、笹塚は思わず膝を着きそうになって咄嗟に足を引いて堪え、東条は思わず後ろに下がった。

 

 そして、そのことに、東条は自分で混乱した。

 

 あの東条英虎が、敵の殺気を受けて――()()()()()()()

 

 篤は、そんな東条達を見て複雑に苦笑し、静かに――だが、はっきりと、言った。

 

 

「吸血鬼という化け物で、お前達の敵なんだよ」

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 Side??? ――???

 

 

 ボウン!! と突然アミューズメント施設ビルが燃え上がったことで、烏間は驚愕し、後ろを振り返る。

 

「な、なんだ、あれは――」

「火火火。始まったな……」

 

 そしてその烏間に追われていた葛西は、帽子を押さえて煙草を咥えながら不敵に笑う。

 

「――ッ! あれはお前の仕業かッ、葛西!」

「おいおい、馬鹿言っちゃいけねぇよ。確かに、あれは俺の技術(トリック)だが、可愛い甥っ子のはじめての放火(おつかい)を自分の手柄にするほど、おじさんは大人気なくねぇよ」

「甥……だと?」

「それよりもいいのかい? 俺ァ、化け物達から逃げる為に、あの綺麗に燃えてるビルの中で息を潜めてたんだが――」

 

 葛西は新たな煙草を取り出し、マッチで火を起こしながら言う。

 

 

「――あそこ、一般人(にんげん)でいっぱいだぜ」

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 そのビルの中は、文字通りの阿鼻叫喚に陥っていた。

 

「きゃぁぁぁああああああああああああああああ!!!!」

「なんだ!? 何がどうなってる!?」

「火元は何処だ!? 化け物の仕業か!!」

「早く逃げなきゃ! 死んじゃう! 死んじゃう!」

「逃げるって何処へだ! 右も左も天井も足元も火塗れなんだよ! 燃えてんだよ!」

 

 まさしく、一瞬だった。

 余りの恐怖に意識を失って、夢の世界に迷い込んでしまったかと錯覚する程に。

 あるいは、いつの間にか死んでいて、知らぬ間に地獄へと落ちてしまったのかと、錯覚する程に。

 

 気が付いたら、周りが橙色の炎で満ち満ちていた。

 

「助けろよ!! 何とかしろよ!! お前が此処に逃げれば安全だって言ったんだろ!!」

「ふざけるな!! こんなことになるなんて誰も予想出来るわけねぇだろ!! てめぇで何とかしろ! むしろ俺を助けろ!!」

「黙れ! お前のせいだ! 俺達の命の責任を取れ!! この偽善者がぁ!!」

 

 そう言って口論の末にお互いを掴み合う二人の大の男。周囲の人間達に一気に緊張が走る――が、その時。

 

「……だ、誰だ!? お前は!!」

 

 神崎達が入ってきたのとはまた別の入り口――おそらくはカラオケやボウリング場の方から、このゲームセンターのコーナーへと、一人の血塗れの男が入ってきた。

 

 その男は、奇妙な真っ黒の全身スーツを着ていた。そのスーツは真っ赤な血や、ドロドロのオイルのようなもので汚れきっていて、男は俯きながら何かをブツブツと呟いている。

 クックックと不気味な笑い声を漏らし、口論していた二人の男の元へと歩み寄る。

 

 既に二人は、否、あれだけのパニックに陥っていた他の人間達も、燃え盛る炎の中にも関わらず、全員が口を閉じて、その男を注視していた。

 

「な、なんだ、きみ――」

 

 瞬間、汚れきった男は声を掛けたきた男とその男と口論していた男の頭を両手で掴んで、そのままメダルゲームの筐体に突っ込んだ。

 

 バリーンッ!! という音と共に、弾け飛ぶガラス片。

 

 そして――再び響き渡る悲鳴。

 

「ギャハハハハハッハハハハハハハハハ!!!! どいつもこいつも台無しになろうぜぇぇえええええええ!!! 楽しいぞぉ!! 楽しくて堪らねぇぞヒャッハァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 男は――リュウキは、その汚れきったガンツスーツに返り血を更に上塗りしながら哄笑する。

 

「……うわ……うわぁ……うわぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!」

 

 他の人間達は、そして神崎は、口を手で押さえて混乱し、その男から全力で――命懸けで逃げ出した。

 

「ハハハハハハッハハハハハハ逃がすわけねぇええええええええだろぉぉおおおおおお!! 全員纏めて台無しにしてやらぁぁああああああああああ!!! どいつもこいつも死にやがれクソガァァアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 炎の中、なりふり構わず、ただ一目散に走る神崎有希子。

 

(どうして……ッ。一体、何が起きてるの!?)

 

 そして炎の間を潜り抜け――比較的に火が少ない、下に降りるエスカレーターを見つけた。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

「な――」

 

 烏間は驚愕する。それに対し、葛西は不気味に火火火と嗤う。

 

「助けなくていいのかい? あの燃え具合じゃあ、いつまで持つか分かんねぇぜ。建物も――人もな」

「――き、さまぁッ!!」

 

 そして、烏間がもう一度、燃えるビルを振り向いた瞬間――

 

「火ァ!!」

「っ!?」

 

 葛西が手の中に炎を作りだし、瞬時に膨れ上がらせる。

 

「――くッ!」

 

 そして、その炎が手品のように瞬時に消え去ると、葛西の姿は既にそこにはなかった。

 

(……前科1000犯を超える、ギネス級の伝説の犯罪者……逃亡技術も『死神』並みかッ)

 

 烏間は葛西を取り逃がしたことに歯噛みするも、すぐさま燃えるビルディングに向かって走り出す。

 

 人命救助――現時点で命じられた、己の最優先任務を全うする為に。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 そして、少し時間を遡り――数分前。

 

 烏間がバンダナ――徹行を探す為、アパレルショップの上の階を回っていた時、徹行よりも先に全国指名手配犯の葛西を発見した。

 混乱する烏間だったが、葛西は烏間を挑発するかのように火火火と嗤いながら逃亡し、烏間は反射的に彼を追って、そのまま店の外へと走って行った。

 

 その一部始終を、平は呆然と眺めていた。

 絶対に店から出るなと厳命されていた平は、ただ扉から顔を出して烏間その背中を目で追うだけで、まさかその命令を無視して危険な外へと出ることなど思いもせず、只管に早く戻ってきてくれと願うばかりだった。

 

 ふと左を向くと、渚と火口の戦いが繰り広げられていて、その恐ろしい戦いから目を逸らすように、平は店の中に再び戻ろうとすると――その平の横を、何かが通過した。

 

「ひぅ!? ……な、なんだ、あんさ――いや、アンタ誰や!? 何やその奇天烈な格好は!?」

 

 だが、そんな平の驚愕を余所に、徹行はあっさりと外に出て、まるで陸上選手のように無駄のないフォームで駆け出していく。

 

「な、ちょ、あんさん何処行くんや! や、やめえや! 見つかるで! 殺されるで!」

 

 徹行はそのまま平の言葉など聞こえていないかのように、直ぐ傍で渚が火口と死闘を繰り広げている横を気づかれずに通過し、向かいのビルの中に入っていった。

 

「あ……あ……」

 

 平はしばし呆然としていたが、やがて、再びゆっくりと扉から顔を出し、左を、右を、渚と火口の戦いを、烏間が葛西を追っていった先を、何度も首を振って見回す。

 

 だが、それでも平は、危険だと分かっていても、こんな戦場で、こんな地獄で、たった一人でいることに耐えられなかった。孤独に耐えられなかった。

 

「――もう、なんやねんッ!!」

 

 そして平は、徹行を連れ戻すという大義名分で彼の後を追い、向かいのビルに足を踏み入れる。

 

 

 

 これが、平の運命の決断――平清という人間の、命を分けた決断だった。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

 ビルに足を踏み入れた平がまず見たのは、床に転がる無数の死体だった。

 

 思わず悲鳴を上げかけた平だったが、それでも後ろで渚と火口の戦闘音が響いている以上、後戻りという選択肢はなかった。少なくとも、徹行を連れ戻すまでは。このような地獄で、明確に、自分の行動を縛る目的を作らなければ、平のような男は、彼のような大人は、足を動かすことなど出来なかった。

 

 平はフレイム式のBIMを手に持って、その先を恐る恐る恐れながら進む。既にクラッカー式は使用してしまっていて、咄嗟に使用できるBIMはこれだけだった。

 だが、目に入るのは死体ばかりで、何処にも――少なくとも一階には――人の気配がしない。ここから更に移動したのか、それとも上の階に上ったのか。

 

 しかし、その時、何処からともなく、鼻歌が聞こえた。

 

「…………な、なんや?」

 

 平は、その歌に導かれるように、更に恐る恐る足を進める。

 

 しばらく進むと、何やら破壊されたようなドアがあった。普通に考えると化け物が壊したのだろうが、しかし、中から聞こえてくる鼻歌は――人間のそれだった。

 

 ゆっくりと、平はその中を覗きこむと――そこには変わり果てた姿の徹行がいて、鼻歌混じりに配電盤を弄っていた。

 

「な、何してるんや、あんさん?」

「ん~? 決まってるじゃんか。燃えキャラを作るんだよ」

「も、もえ、キャラ?」

「うん。叔父さんが、この建物にはもうほぼ仕掛けを作ってあるから、あとは僕が好きにしていいんだって。ええと、あとは~、これと~これを~カップリング~♡」

 

 そして徹行は、最後のスイッチを入れる。

 

「さぁ、燃え燃えタイムのスタートですっ!」

 

 徹行がそれを繋げた途端――ボウン!! と、ビル全体が一瞬で燃え上がった。

 

「――っっ!!! な、なんや、なんなんやこれはっ!!?」

「FOOOOOOOOOOO!!!! ビルたんエロかわいいぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!! 燃えぇぇえええええええええええええええええ!!!!」

 

 徹行は平を押し退けてフロアに姿を現し、一瞬で火の海になったそれを見て、歓喜に震えあがった。

 

 萌えに燃え上がった。

 

「ちょ、アンタ何したんや!? 何がしたいんや!!??」

「はぁぁぁぁああああ!!? 決まってんでしょぉぉ!! これを見たら分かるでしょうよぉぉおおお!!」

 

 徹行は自身の肩を掴んでくる平の肩を逆に両手で掴んで、その瓶底メガネで至近距離で見詰めながら、舌なめずりをして平に語る。暑苦しく――炎のように熱く、語る。

 

「燃え燃えするんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!! 炎に囲まれてハアハアする為に決まってんでしょぉぉぉぉよおおおおおおおお!!!!」

 

 呆気に取られる平をドンと突き飛ばして尻餅を着かせ、いつの間にか背負っていた消火器を取り出し、その噴射口を平に向ける。

 

「ハァ……ハァ……まずはアンタから――燃えキャラになれぇぇえええええええええええ!!!!」

 

 そして、火を消す為の消火器の噴射口から、何故か噴き出した熱い炎が、平を燃えキャラにすべく襲い掛かった。

 




鬼退治を果たした戦場で、人間達は狂い、狂い――殺し合う。

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