殺人鬼。
この言葉で、なぜ、鬼という言葉が使われるのか?
詳しい由緒、正しい起源なんて、国語学年三位の俺も知らない。
ただ、俺の主観、個人的見解を言わせてもらうなら、それはきっと――
人、ではないからだと思う。
人、と呼ぶには、あまりにも壊れている。
大量の人間を殺すことで、人としての、大事なものが、欠落している。失くしてしまっている。
彼らは――奴らは。
失くしてしまい、壊れてしまい、外れてしまったのだろう。
人――では、人――から、なくなってしまったのだろう。
だから、人は――
お前は、俺達とは違うと。あれは、それは、人ではない、別の何かなのだと。
線引きをし、己が近くから排除して、迫害する。当然の防衛として。
嫌悪と、そして圧倒的な畏怖を込めて。
それが殺人鬼。人の身から外れ、“鬼”へと堕ちた異形たち。
俺の目の前で佇むコイツも。
血だまりの中で微笑むコイツも。
恐らくはそんな“鬼”たちと同様に、人としての大事なものを失っている。
人ではない、なにかなんだろう。なにかに、なってしまったのだろう。
そんな彼に、そんな鬼に、そんな人ではないなにかに。
恐怖よりも、嫌悪よりも。
同情を、感じてしまった俺も。
人ならざるものへと、着実に近づいているのかもしれない。
+++
「キャァァァァアアアアアアアア!!!!!」
「!」
俺は、相模のその悲鳴で現実へと意識を取り戻した。
どうやら俺は、この悍ましい惨状を前にして、悲鳴も上げず、かといって中坊への糾弾も怠って、ただただ思考に耽っていたらしい。
相模の悲鳴を皮切りに、その後ろから折本、そして俺の後ろから葉山と達海が続けて顔を出した。
「ッ!!」
「はぁ!? なんなんだよ、コレ!!」
「えっ、何!? イヤァァァァアアアアアア!! 何!? なんなの、コレ!?」
……まずいな。
折本も、達海も、現時点では只の一般人でしかない。
相模も前回は遠目でしか惨劇を見ていないし……それに、葉山は――。
「ッッッ!!!」
顔面蒼白で体をぶるぶると尋常ではない程に震わせていた。……完全に、前回の体験がトラウマになってるな。
……これじゃあ、今回まともに戦えるかどうかすら怪しい。
なら――やるしかないか。
「落ち着け!!」
俺の精一杯の叫びで、何とか悲鳴だけは止まった。
普段大声なんて出さないから喉潰れるかと思った。噛まなかっただけましか。
ちっ。それもこれも……。
「な、何? こんな状況で落ち着けるわけないじゃん!?」
折本が絶叫する。
分かってる。そんなことは百も承知だ。
「だから、今から事情聴取するんだろうが」
「事情聴取って――」
「おい」
悪いが、折本に構っている時間はない。
もう、いつ転送されてもおかしくないんだ。
「なんで殺した?」
俺は、さっきからこっちを――っていうか俺をニヤニヤしながら見ている中坊を睨みつけながら、今更ながらに糾弾する。
「おいおい、事情聴取とか言うなよ、物騒だな。まるで僕が殺人犯みたいじゃないか」
「どこからどう見ても上から下まで殺人犯じゃねぇか」
最有力容疑者の少年は、頭のてっぺんから爪先まで返り血を浴びている男は、そこで更に一層笑みを深め、ドヤ顔で言う。
「いやいや、さっきも言っただろう――――僕は、悪くない」
中坊は、再び先程のセリフを繰り返した。
これだけ状況証拠が――いや、そんなものはどうでもいい。
そんなものなくても断言できる。
犯人はコイツだ。間違いなくコイツだ。
コイツは間違いなく、四人の人間を虐殺してる。
その直後に、コイツは真顔で――いや、笑っているが――堂々と言い張れる。
自分は、悪くないと。
気持ち悪い。
「お前の善悪なんてどうでもいい。お前がコイツらを殺すに至った経緯を簡潔に述べろ」
だが、今はそれより事件の解明だ。
コイツが気持ち悪いことなんて初対面の時から変わらない。
事件の解明なんて大仰なことを言ったが、俺のすることはなんてことはない。
中坊と会話をすること。ただそれだけの簡単なお仕事だ。
正確には、このまま転送までの時間を潰すこと。
俺がコイツから何か聞き出せるとは思ってないし、それに聞き出すほどの真実なんてない。
中坊が、四人の人間を殺した。ただそれだけのこと。
俺は中坊はイカれた奴だと思っているし――まぁ、何の理由もなく人を殺すような奴だとは思っていないが、逆に言えば
その理由のハードルが恐ろしく低く、尋常じゃなく気まぐれだろうとも。常人じゃ考えるだけでも発狂しそうな被害妄想だろうとも。
阿呆か。そんな奴相手に話を聞き出そうなんて無駄だ。万一聞き出せたとしても、俺なんかに理解出来るとは到底思えない。
だからこそ、今すべきことは、推理物のドラマのような事件の悲しい背景の追及とかお涙頂戴な動機の聞き出しとか――じゃあ、ない。
他のメンバーに――今、非常に不安定な精神状態の
この悍ましい現場に対する考察を深めずに、深入りせずに――転送までの時間を潰すことだ。
ただでさえ訳の分からない状況で、突如発生した殺人事件。
パニック状態になって、収拾がつかなくなる奴が出てきてもおかしくない。っていうか確実に出てくる。
そして一人パニックになると、連鎖的に全員がパニックになる。
下手をしたら、更に死人が増えるかもしれない。
故に、意識を他に向けさせる。そうすることで、時間を稼ぐ。俺に出来る小細工としてはこんなものが精々だ。
今の所、それは成功しているようだ。皆、俺達の会話に耳を傾けることで、少なくとも思考が出来るくらい落ちつい――――?
「…………?」
なんか、周りの奴等の俺に対する視線もきつくなったな。よくあることだから気付くのが遅れたが………ああ、そうか。
コイツ等からしたらコイツと会話している――会話出来ている時点で、俺も相当気持ち悪いんだろうな。
それぐらい、コイツは――中坊は異常だ。
そして、その異常と一見対等に接している、ように見える、俺という奴も異常だと感じている。
まあ、気持ちは分かるし、別に今更何とも思わない。
俺が誰かに嫌われるのも今に始まったことじゃないし。
中坊は、そんな俺に対する笑みを深めながら、へらへらと「昨日嫌なことがあったんだよぉ~」的な愚痴を言うかのテンションで回答する。
「いやね、聞いてよぼっち(笑)さん。酷いんだよ~あいつらってばさぁ~。ぼっちさん(笑)やイケメンズやそこのお姉さんたちやそこのおばーちゃんとお孫さんがスーツに着替えに行った後、そこのヤンキー達が武器を漁り始めてさぁ――――なんと、僕目掛けてXガンを撃ったんだよぉ。非道いよね」
「ッ!!」
中坊のあざというるんだ上目遣いの言葉に、Xガンの威力を知る俺と葉山が絶句する。
他のメンバーは訳が分からずポカンとしている――訳の分からない状況が続きすぎて処理が追いつかないのかもしれない。
だが、中坊の言うことが本当なら、確かにこれは悪ふざけで済ませていい問題じゃない。
下手をすれば、この血だまりを他ならぬ中坊自身の血液で作り出していたのかもしれないのだから。
……いや、というより――。
「ね。ね。分かってくれた? つまりは、僕は被害者だ。正当防衛。なんて甘美な響きだろう。つ・ま・り、僕は悪く――」
「……なんで、お前は生きてるんだ?」
「もう! 最後まで言わせてよ! これ決めコマに使うんだからぁ!」
「質問に答えろ。お前は何で、
すると、中坊はそれまでの能面のように変わらなかった不快な笑顔を止めて。
ミステリアスに、不敵に笑う。
「…………さぁ? 何でだと思う?」
ひっ! と小さく悲鳴。相模か、折本か、悲鳴の主は分からないが、恐怖したのは彼女だけじゃない。他のメンバーも、全員漏れなく恐怖した。
いや、先程からずっと中坊を恐れているのだから、恐怖の大きさが増したというべきか。
増したというより、濃くなった、という感じか。
アイツの纏う空気が、放つオーラが。
より濃く、黒く、冷たくなった。
――だが、いまはそれよりも確かめるべきことがある。
「……スーツ、か?」
俺の答えに、中坊は、口角を吊り上げて。
「答えは、webで♪」
そう言い残し――転送されていった。
「――っ! おい、中坊!!」
声を張り上げても、既に中坊は胸の辺りまで転送されている。
質問の答えは、返ってこない。
「くそっ!」
俺は、中坊の
「葉山! マップの使い方は教えたから分かるな!?」
「……え? あ、ああ」
「転送されたら、とりあえず全員を一か所に集めろ! そして、
「お、お前はどうするんだ、比企谷?」
俺は自身が転送され始めているのを感じながら――何気に転送されるのが一番最後じゃないのはこれが初めてだった――葉山に言う。
「中坊を追う! アイツに聞かなきゃならないことがある!」
俺のこの考えが――嫌な予感が、もし正しければ――大変なことになる。
こうして、俺の二回目のガンツミッションは幕を開けた。
+++
【いってくだちい】
【1:00:00】ピッ
+++
「………はは。いきなりかよ」
転送されたのは、またしても見知らぬ住宅街。前回とは違う場所のようだが。
そして、俺の目の前に、ガンツに表示されていた今回のミッションのターゲット――田中星人がいる。
前回のねぎ星人よりは人間に近いフォルムをしている。だが、人間
光沢が強く、硬質な印象を覚える表面。何かの金属だろうか――少なくとも鉄とかステンレスじゃないようだが。
そして何よりも異様なのは――笑顔からピクリとも動かない、その張り付けられたような表情。
ロボット――という表現が、一番しっくりくる。
一歩一歩、こちらに向かってくるごとにウィィン、ウィィンという音が響くのも、ロボットっぽさに拍車をかける。
……っていうか、ロボットなんじゃねぇの?
確かにレベルは物凄く高いが、こちとら散々トンデモテクノロジーを目の当たりにしてきたんだ。いまさらこんなレベルのロボットがあっても驚かない。なんなら初めてペッ〇ーくんを知った時の方が衝撃を受けたくらいだ。
……よし。
一歩間違えればとんでもないリスクだが、幸いまだ距離がある。
俺は、近づいてくる田中星人に向かって――Xガンを向けた。
こんなのは俺のエゴに過ぎないが、初めてXガンを撃つなら、できるだけ
Yガンだけでは、Xガンなしでは、どうしても直に限界がくるのは明白だ。
この先、この戦争を生き抜くためには、Xガンの射撃経験は必須だ――――どれだけ言い訳を重ねようが、命を奪うことには変わりない。
そのことを――Xガンに表示される田中星人のレントゲン画像が、ありありと示している。
映るのは、田中星人の全身骨格。紛れもなく、
ロボットのように見えても、機械のように駆動しても、文句無しに生きている。
そして、俺は、今から。
コイツをころ――っ!
「なッ!?」
田中星人が突然口を開けた。そして、何かを発射しようとしている!?
口の中で青白い光が発光し始め、危機感を煽るチャージ音(?)がどんどん大きくなる。
「ッ!」
俺は気が付いたら、トリガーを二つ同時に引いていた。
それに呼応するように、田中星人が青いビーム弾のようなものを発射する。
おいおい、そんなのアリなのか!?
だが、そのビーム弾は俺の手前数メートルで弾け飛んだ。
「……っ!」
どうやら、俺のXガンの射撃で相殺したらしい。
だが、衝撃は殺しきれず、俺は風圧で吹き飛ばされてしまう。
田中星人は、そのロボットのような歩みを止めない。
土煙が広がる住宅街の中の路上を、無機質に、無感情に、淡々と近づいてくる。
怖いよ。ターミネーターかよ。見たことないけど。
にしても、まさかの飛び道具とは。
星人のことを、殴る蹴る噛みつく引っ掻くくらいしか出来ない怪物だとでも思い込んでいたのか?
こちらが銃という飛び道具を持っている以上、敵もそういう
「っ! くそッ!」
不味い。再び、あのチャージが始まった。
どうする? またXガンで相殺を狙うか? だが、あんなこと毎回上手くいくのか? しかし、あんな攻撃をどうやって確実に避ける?
ヤバい、迷うのが一番ダメだ。
動け、逃げろ、このままじゃ――。
「!!」
田中星人が――顔の向きを直前で変えた!?
なぜだ、そこには何も――。
「ぐぁあああ!!」
「!? 中坊!?」
ステルスで隠れてたのか?
いや、それよりも――田中星人は
「ッ!! ……おいおい、嘘だろ」
さっきから!マークが止まらねぇだろうが。
……飛んでいやがるよ、
足から炎を噴射して、ロケットのように。
……確かに、ねぎ星人は相当
空を飛んで、ビームを放つ、ロボットのような星人――それが、田中星人か。
真夜中の住宅街の空に浮かんだ田中星人は、中坊が吹き飛んだガレージの中にミサイルのごとく突っ込んでいく。
「ぐ……ああああぁぁぁぁぁ!!」
中坊の悲鳴。そして、青白い光が何度か瞬く。
Xガンの発射光にも似ているが、その前に響くチャージ音から恐らくは田中星人のビーム弾の方の残光なんだろう。
あのガレージの中の戦いは、田中星人の方が優勢なのだろうか。
「…………」
……本来なら、俺がアイツの味方をする必要なんてない。
あの中学生は散々俺達を囮として使ってきた。そして、さっきも奴は四人の人間を殺した。恐らくは俺達があの部屋に来るまでも、同じことを繰り返してきたんだろう。
なら、俺がここで中坊を見殺し――いや、あえて中坊と田中星人を戦わせて、弱った田中星人に俺が止めを差す。
つまり、俺があの中学生を
……いや、本当にそうか?
ここで中坊を失う。それが、果たして
アイツは、ここで失っていい奴なのか?
確かに中坊は紛れもなく危険人物だ。一緒にいるだけで常に死のリスクと共にあるような、そんな不発弾のような、いや地雷原のような危険物だ。
だが、あの中学生は間違いなく、現時点で俺達の中で一番強い。それだけでも確かな、代えられない価値だ。
そして何より――情報。
今、俺達が置かれてるこの不可解な状況で一番大事なのは、必須なのは、間違いなく一つでも多くの情報。
まだ俺達が知らなくて、あの中学生が、中坊だけが知っている情報が、間違いなくまだまだある筈だ。
なら、ここでするべきことは、見殺しではなく、囮ではなく――助けること。
中坊は、まだ使い道がある。ここで死んでいい奴じゃない。
「――ッ!」
俺が脳内で面倒くさい葛藤を終え、行動の指針を決めた時。
なぜか俺の足は、既に走り始めていた。
そして、ガレージに辿りついた時。
田中星人が中から吹き飛んできた。
それが何かは、はじめは速すぎてよく分からなかった。
勢いよく向かいの壁に叩きつけられ、砂塵が落ち着いて、ようやくそれが――田中星人なのだと判別できた。
「……君さぁ。ちょっと調子に乗り過ぎだよ」
中坊自身も、ゆっくりと同じガレージから出てくる。
その顔は――やはり、笑っていた。
だが、その笑顔は見る者を不快にするあの笑みではなく。
見る者を残らず恐怖させる、凄惨な笑みだった。
中坊は、壁に寄りかかり、ぐったりとして動かない田中星人を。
容赦なく――踏みつける。
「ガアアアアアアアア」
田中星人の――悲鳴?
あれだけ無機質だった田中星人が初めて発した――感情のようなもの。
その声を聞き、中坊の凄惨な笑みが、より強く、より濃くなっていく。
「散々人をタコ殴りにしといて、ビームを何発も浴びせて、ただで済むなんて、思ってないよねぇ」
鳴り響く、スーツの駆動音。
どんどん踏みつけられる力が増しているのだろう。田中星人の悲鳴も、それに合わせるように強くなっていく。
「ガァ……アアアアアアアアア!!!」
「っ!」
田中星人がチャージを開始した!? まずい、あの距離じゃ――
「甘いよ」
中坊は田中星人の顎を蹴り上げ、発射直前の顔を強引に上方に向けさせた。
田中星人の決死な思いで放ったであろう最後の悪足掻きは、暗闇を照らす花火のように夜空に儚く散った。
「そんな予備動作が長くてタイミングも取り易い攻撃が、何度も通用するわけないだろう。ステルスを破ったのは驚きだし、確かに当たれば痛いけれど、所詮そこまでだ」
これが、この過酷な戦場を何度も生き抜いてきた、歴戦の戦士なのか。
逆に言えば、このレベルにならなければ、この先は生き残れないのか……。
「アアアアアアアア!!!」
田中星人の断末魔の叫び。
終わったか……、と思ったその時。
田中星人の頭頂部が割れた。
そして、そこから
「!!」
俺は、反射的にYガンを発射する。
Yガンによる捕獲網が、その鳥のような化物を捕えて固定した。
「何だ……コレ?」
「うわっ、気持ち悪っ、生臭い!」
……キャラ、戻ってるな。
「コイツが中身、ていうか本体で、このロボットみたいのは外装? それとも俺らが着てるみたいなスーツなのか?」
「どうでもいいよ。さっさと殺しなよ」
「いや、コイツ倒したのはお前だろう。俺が殺したら俺の点数だぞ」
「別にいいよ。やられた分はやり返したし、それに前回アンタの手柄を横取りしちゃったしね。これでチャラってことで」
明らかにねぎ星人とコイツとじゃコイツの方が点数高いんじゃねぇかと思ったが、中坊の興味は田中星人からは既に完全に失せているようだった。
「…………」
中坊は、既にガンツの世界に心を奪われている。
俺らのように、この『ゲーム』から解放されようなんてモチベーションは、もう残っていないのだろう――初めから無かったのかもしれないが。
ゲームを楽しんで、バトルを楽しんで、その結果として100点が溜まったらその時は、すぐさま
もしかしたら、コイツはもう何周かしてるのかもな。
俺は、田中星人の正体である鳥男にYガンを向ける。
ガンツはまた肝心な情報をくれなかった。
もしかしたら、この間のねぎ星人みたいに、もう一匹――それも数段強いのがいるのかもしれない。
「にしても、コイツの姿面白いよね。これが
「お前、笑い飯知ってんのかよ……」
まさか彼らも自分達がネタにした面白生物が実在して、今まさにどこか分からない場所へ送られるとは夢にも思うまい。
さっさと気を取り直して、さっさと済まそう。
恐らく、これで終わりではないだろうから――。
「――ん?」
鳥人(←思わず使ってしまった)の様子がおかしい。
なんというか、息苦しそうだ。
確かに全身グルグル巻きのこの状態は快適ではないだろうが、前回のねぎ星人の時は窒息するほどの強さで縛ってはいなかった。精々身動きが取れないくらいだった筈。
しかし、鳥人は海で溺れるように悶えて、息絶えて――死んだ。
「死んだみたいだね? なんか窒息したように見えたけど」
「…………ああ」
俺は、Yガンのトリガーを引く。
死んだ後で転送して点数がもらえるかは知らないけれど、あんまり放置して気持ちのいいものじゃなかった。
ヤンキー達の死体を放置して、中坊と話込んでいた俺が言っても説得力がないだろうけれど。
「……もしかしたら、このロボットは外装とかスーツとか以前に、鳥人達にとっては宇宙服的な意味合いが強かったのかもな」
だから、息が出来ずに、死んだ。
鳥人達にとっては、ここは異星で、宇宙だから。
……本当に、アイツらが、宇宙人だったとしたら、という前提だけれど。
「かもね」
中坊はクスリと笑う。
「さて、
中坊が打ち切りフラグな言葉と共に、言う。
……やっぱり、終わりじゃないんだな。
「はぁ……後、何体だ。………………おいおい、ウソだろ」
俺は、自身の血の気が失せるのを感じる。
そのマップに示された、絶望的な現実に。
「確かに、これは大変だね♪」
中坊が言う。ちょっと楽しそうに。
コイツのメンタルはどうなってんだ。
「お前、前回制限時間は一時間って言ったよな。今回はどうなんだ? また一時間か?」
「そうだけど……コントローラーの画面変えれば、普通に残り時間出るよ」
中坊が何言ってんの? みたいな感じできょとんと首を傾げながら言う。
……出た。嘘っ、恥ずかしっ。何で気づかなかったんだろう。
「……残り50分。いけると思うか?」
「どうだろうね。手練れが何人もいるなら十分いけると思うけど、あのメンバーじゃね? 少なくともアイツらが何体か倒してくれないと。……それでも、僕達のどっちかじゃないとボスは倒せないだろうね」
「ボス?」
中坊はけろりといった様子で言う。
衝撃的な事を、事もなくあっさりと。
「毎回、一匹はいるんだよ。他の奴とはレベルが違うボスキャラが」
「………………はぁ」
思わず溜め息が出た。甘く考えていたわけじゃない。
だが、俺が考えていた以上に、100点を獲るまで生き残り続けるっていうのは、かなりの無理ゲーだ。
こうなると、中坊が生きていてくれたのがせめてもの――。
「それに、僕のスーツも限界だしね。ちょっと攻撃喰らい過ぎた」
「……………なんだって?」
俺は中坊の顔を凝視する。コイツ、今何て言った?
中坊はまるで、他人事のように言い放つ。
「あと一撃でも喰らったら、たぶん僕のスーツは壊れる。只の黒い服になる」
このスーツはね、無敵ってわけじゃないんだよ。
中坊のセリフは、この絶望の状況を更に悪化させた――目の前が真っ暗になりそうだった。
その者達は血まみれの惨状から血塗られた戦場に送られる。