比企谷八幡と黒い球体の部屋   作:副会長

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集合回。


そして、彼ら彼女らは黒い球体の部屋に呼び戻される。

 うっ、と。

 強烈な人工光の明かりが眼球を襲い、思わず呻く。

 

 すると、その声に気付いたのか、覗き込むように蛍光灯と和人の間に(たてがみ)のような金髪に傷の入った眉が特徴的な顔が現われた。

 

「お、目が覚めたか?」

 

 徐々に覚醒してきた頭が、その顔に関する記憶を引っ張り出す。

 

 この男は、昨日、真夜中の戦場で――幕張で、共に恐竜と戦争をした――

 

「――東、条……?」

 

 恐る恐る口にしたその名前はどうやら当たっていたようで、東条はふっと笑いながら、しゃがみ込んでいた膝を伸ばして立ち上がる。

 

 再び目を襲う人工光――蛍光灯の光。今度は呻き声を上げることなく、ただ目を細めるだけで耐え抜き、徐々に慣れていくにつれ目を開いて――“その部屋”の中を見渡した。

 

 そこに居たのは、五人の人間と――一匹のパンダ。

 

 肥満体系の中年の男。

 

 迷彩のバンダナを巻いた金髪の若い男。

 

 気弱そうな高校生か大学生ほどの少年。

 

 部屋の隅で怯える明るい髪色のまだ真新しい制服を着た中学生くらいの少女。

 

 飄々と君臨する、東条英虎。

 

 そして、パンダ。ジャイアントパンダ。

 

「…………」

 

 桐ケ谷和人は、ゆっくりと上体を起こし――それに目を向けた。

 

 五人の人間達と、一匹の獣――――その中心に座する、一つの、黒い球体。

 

(……ガンツ)

 

 片膝を立て、鋭く睨み据えるように、和人はガンツを見据える。

 

(まだ、俺に………チャンスをくれるのか?)

 

 そして、力強く立ち上がる。

 

 和人はまず、一番近くにいた東条に声を掛けた。

 

「……渚達は、まだ来てないのか?」

「ああ。俺も気が付いたらここにいて、そん時にはこいつ等はもうここに居た」

 

 東条はそう言って辺りを見渡す。そして真っ先にパンダと遊び出した。

 和人も追従するようにもう一度改めて見渡す。パンダと遊ぶ東条はスルーした。

 

 自分を入れて、六人――と一頭。

 その内、東条とパンダは知っているが、残る四人の人間は初めて見る。

 

 皆、一様に浮かべる怯えと戸惑いに満ちた表情。前回の自分達と同様に、新たにガンツに誘われた――新メンバーだろう。

 

 新たに、ガンツによって運命を捻じ曲げられ、玩具(キャラクター)にされる哀れな死人達。

 

 死んだ後にも地獄を見ることを宿命づけられた、この戦争(デスゲーム)の新たな被害者達。

 

(………………なるほど。こういうことか)

 

 和人はこの時、何故八幡が前回の時のこの時点で、自分達新メンバーに知っている限りの情報を開示しなかったのか、その理由と心情を朧気ながら理解した。

 

 この瞳を向けられるだけで分かる。彼等がいかに、頼れる何かを欲しているのか。

 

 死という、おそらくは生物として最大級の窮地から、訳も分からない内に拉致されて、何の情報も与えられず、こうして無機質なワンルームに放置されているのだ。

 

 混乱するに決まっている。誰かに導いて欲しいに決まっているのだ。

 

 右も左も前も後ろも今も昔も何もかもが意味不明。

 

 そんな状態で、そんな状況で――颯爽と、まるで救いの神が如く、この摩訶不思議な状況の謎を訳知り顔で説明していく存在が現われたら、どうなるか? そいつは一体どうなるか?

 

 SAOというデスゲームにおいて、似たような状況を、酷似している状況を、何度も経験している和人には、嫌になるほどはっきりと想像できる。

 

(……俺は、アイツに何も言えないな)

 

 何故なら自分も同類だから。

 

 和人も――『キリト』もかつて、その重荷から逃げ出した。

 たった一人の友人を見捨てて、その責任から逃避した。

 

 命を背負うことから、逃亡した。

 

 言うならば、和人はβテスターだったあの頃と、再び同じような岐路に立っている訳だ。

 

 あのはじまりの日の、はじまりの街。

 茅場昌彦のアバターが、デスゲームSAOのチュートリアルを終えた直後、一目散にはじまりの街の出口へと走った、あの時。

 クラインを見捨てて、切り捨てて、単身、次の街へと――慟哭しながら駆け出した、あの時と。

 

 中年の男が、バンダナの男が、気弱そうな少年が、涙目で震える少女が――――和人を見ている。

 

 彼等はすでに、東条と和人が、この異常な空間について――何か知っていると悟っている。

 

 自分達を導いてくれる存在だと――期待を寄せて、縋っている。

 

「……………………」

 

 ギュッと、拳を握る。

 

 さぁ、どうする? ――桐ケ谷和人。

 

 かつての(キリト)と同じように、彼等を見捨てるのか?

 

 それとも――

 

 和人は、一度、深く瞑目する。

 

(………もう……俺は、間違えない。間違えられない。……俺は、生き残る為に、最善を尽くし――死力を尽くす)

 

 戻るんだ。成るんだ。黒の剣士キリトに。

 

 デスゲームを生き抜いた――英雄に。

 

 その為にも、最適な選択肢を。最善の方法を。

 

 全ては、生き残る為に。危険性(リスク)を排し、生存確率を少しでも高める為に。

 

 和人は、ゆっくりと、目を開いた。

 

 新メンバー全員の視線が、自分に向かって集まっている。

 

 和人は、そんな彼等に――――

 

 

 

 その時、ガンツから、新たな光線が発射された。

 

 

 

 

 

+++

 

 

 

 

 

――大丈夫。また会えますよ。

 

 

(――『死神』さんッッ!!)

 

 渚が絶叫するように手を伸ばした先にあるのは――――明るい蛍光灯の光だった。

 

「………………え?」

 

 呆然とする渚。

 

 気が付いたらそこは、あの寂れた公園ではなく、無機質な清潔感しかないワンルームだった。

 

「お、来たか、渚!」

 

 渚が声の方向に振り向くと、泥だらけの汗が染み込んだ作業着の東条と、どこかの高校の制服を着た和人がいた。

 

「…………東条さん…………桐ケ谷さん…………えぇと、これは――ッ!?」

 

 渚はぼんやりとした言葉でそう問いかけるが、薄々と、状況はゆっくりだが掴めてきた。

 

 そして、その残酷な答えに消沈しかけたその時、その“見えた”ものに息を呑んで驚愕する。

 

「…………ああ、たぶん昨日と同じだ」

「また恐竜とかあの海坊主みたいなのと喧嘩すんのか?」

 

 和人が神妙な顔で、東条が飄々とした様子でそんなことを言ってくるが、渚はそれどころではなかった。

 

(………………なに、これ?)

 

 これまで渚は、母親の――文字通りの“顔色”を窺って生きてきた。

 

 その色が暗かったら危険――機嫌が悪かったり、ストレスを抱えていたり、精神的に追い詰められていて、憤怒や発狂に繋がりやすい状態。

 逆に明るければ安全――機嫌が良かったり、油断していたり、精神的に余裕があって、こちらの意見が通りやすい状態。

 

 それはいつしか母親以外の人間のそれも“見える”ことが出来るようになっていて、これまでは無意識で感じていた程度のものだったけれど、この才能は渚にとって生命線と言えるものだった。

 

 か弱く、貧弱で、無害で、草食な潮田渚という生物にとって、己の身を――命を守る、習性のようなものだった。

 

 だが、今は、それがはっきりと分かる。意識して“見える”。

 

 

 その人間の――“意識の波長”が。

 

 

 本能で感じる。

 呼吸、視線、表情――刻一刻と、そんな僅かな要因で少しずつ変化するそれらが、その人にとってどれだけの生命線(じゃくてん)か。

 

 今なら、分かる。

 たった一発の柏手が、強力無比な殺し屋を、無傷で、尚且つ完膚なきまでに無力化出来た、そのカラクリが。

 

(……たぶん、出来る)

 

 貧弱な自分でも、E組(エンド)の自分でも、たぶん“あれ”と、同じことが出来る。

 

 

 あの美しい――暗殺が出来る。

 

 

 

――すばらしい才能をお持ちですね

 

 

 

(…………才能)

 

 これが、そうなのか?

 

 大した長所もなく、ただ潮田広海の二周目として育って、そしてその“期待”にも応えられなくて、解放されて――捨てられて……見捨てられて。

 

 そんな自分には、きっとこの先、これ以上、望めないような――才能。

 

 潮田広海の分身(アバター)ではなく。

 

 正真正銘、潮田渚としての――才能(かち)

 

 

――私のようになるということは

 

 

――殺し屋になるということです

 

 

 

――それでもあなたは、私のようになりたいと望みますか?

 

 

 

(…………僕は――)

 

 その時、渚を現実に引き戻すかのように、ガッとその肩を揺さぶられた。

 

「おい、渚! 大丈夫か!?」

 

 はっと意識を引きもどすと、自分の肩を掴んでいるのは和人のようだった。

 どうやら渚が再びガンツゲームに挑まなければならないという状況に絶望したのだと思い、心配したらしい。

 

 渚は和人にそんな心配をかけてしまったことを申し訳なく思い謝ろうとしたが、その時、和人の顔を見て――“顔色”を見て、思わずポツリと呟いてしまった。

 

「……桐ケ谷さん…………“大丈夫”ですか?」

 

 和人は、励まそうとした相手に逆に気遣われたことに呆然とし――そして。

 

「…………」

「…………」

 

 まるで、こちらの心の中まで見通しているかのような、澄み切った清水のような渚の瞳を受けて、和人は思わずキュッと唇を引き締めるが――

 

「――んっ」

 

 ポンっ、と。渚の頭に手を乗せ、微笑みながら立ち上がる。

 

「大丈夫だよ。……お前は、まず自分の心配をしろ」

 

 そう言って、転送されてからずっと座りっぱなしだった渚を立ち上がらせようと手を差し出す。

 

「……………はい」

 

 渚は、それ以上は何も言わず、ただその手を取って、立ち上がった。

 

 

 その時、ビィィィィンと、再び電子音。

 

 光線は二筋。もちろん新メンバーの可能性はあるが、残るメンバーから考えて、おそらくはあの二人だと、渚と和人は察した。

 案の定、召喚されたのは、和人と渚が想定した通りの、知っている顔ぶれだった。

 

「――えっ? あ、こ、ここは――?」

「………………」

 

 現れたのは、制服姿の黒髪の美少女と――スウェットとパーカーの不審者。

 

 少女の方は突然の転送に困惑しているが、男の方は一切動揺することなくゆっくりと室内を見渡している。

 

 その様が――有様が、男の、この異常な状況に対する積み重ねた経験値――経験した地獄の数を如実に示していた。

 

 そして、男――比企谷八幡は、こちらを真っ直ぐに見据え――睨み据えていた、桐ケ谷和人と目が合った。

 

 八幡も、その視線に応える。まるで動じることなく和人と目を合わせる。

 和人の傍にいた渚は目に見えて身体を震わせ、そして明らかに只者ではない八幡と、この状況に対しての事情を知っていることを匂わせていた和人の対面に注目していた新メンバー達も、その八幡の異様な眼光を見て――身を竦ませる。

 

 この異常な状況に対する――恐怖を忘れた。比企谷八幡という男に対する畏怖が、それを容易く上塗りした。

 

 それが、歪んだ形で完成された、今の比企谷八幡という男だった。

 

 だが――和人は、そんな八幡に対し一切後ずさることなく、その濁った双眸に己の眼光を飛ばして問い詰める。

 

「……どういうことだ?」

 

 和人は八幡の至近距離に近づきそう言った。

 

 それに対して八幡は、ただ淡々とこう返す。

 

「何がだ? 俺は言ったはずだぞ。100点を取るまで、こうして何回も強制的に徴収されると」

「そうじゃない!! 俺が言いたいのは、そんなことじゃない!!」

 

 和人は激昂しながら、八幡の右肩を掴む。

 それでも一切八幡は表情を――無表情を変えないが、渚をはじめとする東条以外の周りの人間達は、突如始まったこの緊迫したやり取りに恐怖と困惑を込めた表情を浮かべていた。

 

 だがそんな中、八幡が肩を掴まれた瞬間に黒髪の少女――新垣あやせはハッとし、そのまま八幡に駆け寄る。

 

「ひ、比企谷さん! 肩は!? 肩の怪我は大丈夫なんですか!?」

 

 そしてあやせはそのまま脇腹にも目を遣る。だが、そこには傷など全くなく、それどころか擦り切れてボロボロだったパーカーやスウェットもまるで無傷のままだった。

 

 八幡はあやせを振り払うようにあしらいながら、乱雑に投げ捨てるような言葉で言った。

 

「――ガンツに転送された時は、どんなにボロボロだろうと新品状態になる。怪我も汚れも綺麗さっぱり元通りだ。回復というよりは――やっぱり“新品”って言った方がいいんだろうけどな」

 

 八幡がそう言うと、和人は自分の身体も見回した後、俯いたまま、ポツリと言った。

 

「――お前達も、襲撃に遭ったのか?」

 

 その呟きに八幡はピクリと眉を動かし、あやせは驚愕の表情で和人に尋ねた。

 

「………もしかして、桐ケ谷さんも――」

「………………」

 

 八幡は何も言わずに、ただじっと和人を観察していた。

 

 和人は顔を上げると、再び八幡を睨み据えながらパーカーの胸元を掴み上げ、言った。

 

「……なぁ、教えてくれ。この戦争(デスゲーム)は、日常世界(リアルワールド)でも襲撃されるような、そんな仕様だったのか? ――だとしたら、どうして教えてくれなかったんだ!?」

 

 和人は、己の言い分が無様な我が儘だということを理解している。

 あの悲劇は、己の努力不足で起きたことだということを、理解している。

 

 だが、それでも、やはり思ってしまうのだ。

 あの時、目の前のこの男が、もう少しでも、自分達に手を差し伸べてくれていたら、と。

 

 明日奈を、あんな目に遭わせてしまうことは、なかったのではないか、と。

 

 つい先程、八幡の置かれていた状況を、あの時に八幡が抱いていた心情を、ほんの少しでも理解し――己に、かつて同じ選択をした自分に、同じ所業を犯していた自分に、この男を責める資格などないことは痛感している。

 

 だが、それでも――パーカーとスウェットの下にガンツスーツを身につけているこの男は、やはり今回の襲撃を想定していたのではないかと。

 

 つまり、あの悲劇は、防げる事態だったのではないかと。

 

 そう悟ってしまい、沸騰した己の感情を、和人は抑えることが出来なかった。

 

 そんな和人を腐った双眸で冷たく見下ろしていた八幡は、静かに、呟くような音量で言った。

 

「――俺が、今までで……現実で星人の襲撃を受けたのは、一回だけだ」

 

 そしてスーツの力で超人と化している八幡の腕力は、己を掴み上げている和人の腕を容易く引き剥がした。

 

「――っっ!」

 

 振り払うようにして八幡から距離を取った和人は、八幡の話に耳を傾ける。

 

 あやせも、渚も、神妙な顔で傾聴した。

 

「――その星人は、前夜のミッションで、俺が殺しきれなかった個体だった。……その日、俺はそれまで稼いだ全ての点数を失い、そのまま自室に帰らされた。……そして、寝坊して、学校に遅刻して登校すると――」

 

 八幡は、腐りきった瞳を、更にどんよりと濁らせながら、淡々と――だが、静かに拳を握り締めながら、語る。

 

 

「――学校に星人が乗り込んでいて……一つのクラスの全ての人間を虐殺していた」

 

 

 その、あまりにも救いようのない悲劇に、和人と、あやせと、渚は、息を呑んで瞠目した。

 

 八幡は、そんな彼等のリアクションなど気にも留めず、ただ無感情な声色でこう述べる。

 

「――だが、これは俺が取り逃がした個体が、同胞を殺した俺に対する復讐の一環で行ったことだ。……奴はそれなりに知能が高い個体だったからな。……だが、今回の襲撃は、ガンツのミッションとは関係ない。……いや、関係はあるのかもしれないが、それでも俺等は奴等に対して、直接何かしたわけじゃなかった。……桐ケ谷。一応聞くが、お前を襲ったのは昨日の黒服の連中か?」

「……ああ。あの、金髪の男だった」

「そうか。俺達はあのグラサン野郎の集団だった。……おそらくは、いつかあの黒服の奴等とはミッションで戦うことになっていたとは思うが、正直言って昨夜の時点では情報が少なすぎた。星人かどうかすらも確かじゃなかったからな。……まさか、ここまで動きが早いとは――予想外だった」

 

 和人は八幡の言葉を聞き、改めて己の愚かさを痛感していた。

 

 今回の襲撃――八幡は、知識として予測していたのではない。

 あのイレギュラーな事態に対して、思考を放棄せず考察を進め、あらゆる事態を想定し、それに対する準備を――防衛準備を整えていただけだった。

 

 つまり、今、八幡が身につけているガンツスーツこそが、この戦争(デスゲーム)に対する、八幡と和人の、意識の――覚悟の、差だった。

 

“生”に対する執着。“死”に対する防衛。

 その全てが、桐ケ谷和人は、比企谷八幡に劣っていた。

 

 和人はそんな悔しさをグッと己の中に押し込みながら、八幡の言葉に返す。

 

「……つまり、奴等を全滅させなければ、俺達はいつ……また現実世界(リアルワールド)で襲われるか……分からないってことだな」

「ああ。おそらくは近い内――もしかしたら、今回にもガンツから奴等の討伐指令(ミッション)が出るかもしれないが、出なければ常に身を守るか――」

 

 八幡は、滔々と、流れるように無感情に言った。

 

「――自主的に殺すしかないな」

 

 その言葉に、今度こそ、あやせと和人は絶句した。

 

 渚はその件の黒服集団を見ていないからピンときていないようだが、直接彼等と相対し、戦った和人とあやせには、この言葉の異常さが分かる。

 

 人間なのだ。彼等は。奴等は。パッと見は普通の人間で、姿形も人間で、操る言葉も人間で、あまりにも人間なのだ。

 

 そして、あやせと和人すら知らないが、八幡はこの時、既に吸血鬼が“元”人間だということも、しっかりと理解し、認識している。

 

 彼等は自分達よりも悲劇的な運命を背負い、理不尽な宿命によって、強引に、無理矢理に、自分達の意思とは関係なく化け物になってしまった集団で、星人なのだということを知っている。

 

 それでも尚、八幡は、当たり前のように言う。――殺すのだと。

 

 まるで台所に出現したゴキブリを駆除するが如く当然に、己にとって不利益なのだという理由で、あっさりと殺害を決定する。

 

 それも、ガンツのミッションだからという大義名分――免罪符すら無しで、言い訳すらしないで、完全なるプライベートで、己の身と精神の安寧の為という、完璧に己のエゴのみの動機で。

 

 人型の、人間にしか見えない生命体を――殺すのだと、そう言うのだ。

 

 例え、その星人が自分達の命を狙っているのだとしても、今まさに剣を振り下ろされ、銃口を向けられているのならまだしも、その脅威から表面上は一旦逃れ、安全な室内にいるこの状況で、あっさりと、何の葛藤も迷いも逡巡もなく――殺し尽くすのだと、そう言えてしまえるのだ。

 

 それ程に――比企谷八幡は、終わっているのだ。

 

 それを、和人とあやせは理解する。そして恐怖する。

 

 この部屋に、ガンツという黒い球体に支配された人間は――ここまで壊れてしまうのかと。

 

 自分も、いずれ、こんな戦士(キャラクター)になってしまうのかと――育てられてしまうのかと。

 

 そんな八幡を、部屋の隅にいるジャイアントパンダが真っ直ぐに見据えていた、その時――

 

「なぁ! あんさんら、ええ加減に――」

 

 新メンバーの一人である肥満体系の中年の男が、訳知り顔で語り合う和人達についに痺れを切らした、その時。

 

 

 再び電子音と共に、ガンツから光線が発射された。

 

 

 その数は、なんと五筋。

 光線は瞬く間に人形(ひとがた)を創り出し、五人の人間をこの部屋に新たに召喚する。

 それは揃いの学ランを纏った――だが、それぞれ独特に着崩した、見るからに不良生徒といった風の集団だった。

 

 突然、見知らぬ一室に転送され、混乱した彼等が――その中心核であろう黒髪にオールバックの顔に大きな傷を持った少年が、ヒステリックに叫ぶ。

 

「なんだこりゃ……一体、何がどうなってやがんだッッ!!!」

 

 

 そして、始業のチャイムを鳴らすかのように――その歌が響いた。

 

 

 

 

 

あーた~~らし~~いあーさがき~~た~~きぼーのあーさーがー

 

 

 

 

 

 そして、黒い球体に浮かび上がる、不気味な文字列。

 

 

【てめえ達の命はなくなりました。】

【新しい命をどう使おうと私の勝手です。】

【という理屈なわけだす。】

 

 

 

 そして、今夜も――

 

 

 

【てめえ達はこいつをヤッつけてくだちい】

 

 

 

 

――黒い球体が、死人を玩具に遊びだす。

 

 

 

 

 

《ゆびわ星人》

 

 

 

 

 




次回は武器選びなど転送されるまで。だけど文字数はかなりパないよ! 今回の二倍だよ! ……本当、何やってるんでしょうかね。展開遅すぎて引くなっ!
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