TS転生者「不死鳥は 再び墓地より 舞い戻る」 作:ししゃしょしぇい
光焔先輩の連絡先をもらってから数日後。
帰宅途中の市街地。
ふと空を見上げたら、スズメが翼を広げたポーズで固まっていた。
飛んでない。浮かんでもない。まるでジオラマの一部みたいに中空で固まっていたのだ。
周りを見渡せば、歩行者も車も、みんなピタッと止まっている。
試しに触ってみてもビクともしない。
……う、うっそだろおい。
恐れていた事態が起こってしまった。
私は、この
ZEXALで時間停止となると、もう非常にマズい。
こうなる前にナンバーズを手放せるように、ニュースとSNSを監視していたというのに。
私のチェックミス? それとも、今回のこれが初犯なのか?
おいおい、まさかそんなファンブル引くなんてこと────あ。
──視界の端のほうに、すらっとした人影。
「人の心に淀む影を照らす光──人はオレを『ナンバーズ・ハンター』と呼ぶ」
天城カイト。
私が最も会いたくなかった超危険人物だった。
「このエリアの時間の進みを一万分の一にした。動けるのは──」
「~~ッ!」
なりふり構わず《No.50 ブラック・コーン号》を彼めがけて投げつけた。
造作もなくキャッチしてみせたカイトに、私は胸を撫で下ろす。
せ、セーフ……問答無用でデュエルとなる前に譲渡できたぞ。
デュエリストの嗜みとしてカード手裏剣を練習していてよかった。
彼の目当てはナンバーズ。
これさえ持っていなければ見逃してもらえるはず。
カイトはブラック・コーン号のカードを一目見てから、訝しげに私を睨みつけた。
「……貴様、どういうつもりだ?」
「あなたがほしがっているそのカード、私は要らない。あげる」
「『ナンバーズ』をよこせ、とはまだ言っていないが」
……確かに。
「あなたがナンバーズ・ハンター、と名乗ったから」
「……フン。まあ、貴様が何者かなど興味はない。だが──」
その瞬間、カイトが右腕を大きく振るった。
赤く光る鞭のようなものが彼の袖口から跳ね、私の右腕に巻き付いた。
……デュエル・アンカーやんけ。
「その拘束はデュエルが終わるまで解けない。オレとデュエルしてもらおうか」
うせやろ? ナンバーズあげたのに??
「どうしてデュエルを?」
「この空間で動けるのはナンバーズの所有者のみだ」
だから、私はそのナンバーズをもう持っていな──
「貴様は今こうしてオレと会話できている。つまり、お前はまだナンバーズを隠し持っているということだ」
「えっ」
いや、持ってないんですけど!?
あ、でも、その……心当たりがない、でもない……かも。
前世からの持ち越しの中に、「No.」が一枚だけ、あった。
でも、
そもそも出典からしてZEXALじゃなくて……。
なら、この状況の原因は……ラー(神)?
もしかして、私を時間停止から守ってくれている?
いや今は守らなくていい! 時間止まってくれ! カイトから逃げたい! 頼む!
「フォトン・モード・チェンジ! さあ! 狩らせてもらおうか、貴様の魂ごと!」
待て! 私は同意してない!
「オービタル7、お前は下がっていろ!」
「カシコマリ!」
バカタレ! 私を置いて話を進めるんじゃない!
……まあ、そんな私のお気持ちなどカイトが聞いてくれるわけもなく、彼の先攻1ターン目が始まった。
しかし、初期カイトと言えば、手札6枚を使ってナンバーズ2体を立てるようなアド損コンボの使い手だ。
よほどのことがない限り、勝てる……はず。
ちらりと視界に映った私の手札5枚が、誘発ゼロなうえ中々に重たかったことからは目を逸らしつつ。
「自分フィールドにモンスターがいないとき、手札の《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚できる!
そして、オレは《融合》を発動! 手札の《フォトン・リザード》2体を素材に、《ツイン・フォトン・リザード》を融合召喚する!」
>カイト:手札6→2
ほ、ほらね? 早速手札を4枚も使っている。
大丈夫だ、この頃のカイトならまだ敵じゃない。
「オレは《ツイン・フォトン・リザード》をリリースし──」
……はい。
「《フォトン・サテライト》は、エクシーズ召喚に使う場合、2体分として──」
……アニメ効果ね。
「『イルミネーター』の効果で墓地へ送った《ライト・サーペント》の効果──」
………………。
…………。
……。
「────《死者蘇生》で《フォトン・リザード》を復活させ、直後にリリースして効果発動。デッキから《クリフォトン》を手札に加える! オレはこれでターンエンドだ」
……ようやく終わったか。結構長かったな。
盤面はというと、《No.10 白輝士イルミネーター》と《No.20
アニメの遊馬との初戦の1ターン目終了時とモンスターの顔ぶれは同じだ。
でも、原作だと展開にリソースを使い切っちゃって、手札も他のフィールドのカードもなかったんだよね。
さて、今回のカイトはというと……?
>カイト:手札2
>カイト:リバースカード2
……なんか多くね?
「どうした。2体のナンバーズに怖気づいたか?」
リソースに余裕のあるお前が怖いんだよ!
展開ルートは、ちゃんと見ていた。
タネは至ってシンプル。
手札消費を最初の4枚に抑えたまま二連続エクシーズ召喚、最後は2ドローできるドロソを二連打。
まさかブン回すだけでなく、こんな雑にリソース回復までしてくるとは。
手札誘発で妨害できなかったのが心底悔やまれる。
正直キツイし、めっちゃ怖い。
でも、こういうとき、私は決まってこう思うことにしているのだ。
「私のターン、ドロー」
──「ドローしてから考えるか」って。
アンドレのセリフは偉大である。
*
先攻1ターン目の最後、《クリフォトン》を手札に加えるために、オレはサーチ効果を持つ《フォトン・リザード》を《死者蘇生》で復活させた。
伏せはすでに二枚あるというのに、さらなる守りの一枚確保に動いたのは、正直オレらしくない。
だが、嫌な予感がしたのだ。
目の前の掴みどころのない雰囲気の女に対して。
オレが説明するより先にヤツがナンバーズを投げつけてきた事実。
平然とナンバーズの力を「不要」と切り捨てた態度。
今だってそう、ナンバーズを前にしても取り乱す様子を欠片も見せない。
そこに、オレは警戒すべきモノを感じた。
この選択で正しかった。直感だが、間違いない。
「私は《賢瑞官カルダーン》を召喚する。このカードが召喚に成功したとき手札から罠カード1枚をセットできる」
>燦:手札6→4
朱鷺の仮面をつけた古代風神官が現れた。
────────────────
《賢瑞官カルダーン》攻撃表示
星4 地属性 天使族
攻1400 守1400
────────────────
「永続魔法《急雷の泥沼》を発動する。このカードの発動時、私は手札を1枚捨ててデッキから罠モンスター1体を魔法&罠ゾーンにセットする」
>燦:手札4→2
女は淀みなくカードを手繰っていく。
迷いのない手つきから、使い慣れた展開なのだと見て取れた。
「《ドールハンマー》を発動する。『カルダーン』を選択して破壊し、2枚ドロー」
>燦:手札2→3
「ここで《急雷の泥沼》の第二の効果を発動する。自分のカードが破壊された場合、その同名カード1枚──2枚目の『カルダーン』をデッキから手札に加える。
次。『カルダーン』の効果でセットしたカード──《メタル・リフレクト・スライム》を発動する」
>燦:手札3→4
「待て。罠カードはセットしたターンには──」
「『カルダーン』の効果によるセットは、そのルールを踏み倒す。罠モンスター、《メタル・リフレクト・スライム》を特殊召喚」
女の宣言と同時に、巨大な粘体金属がグチャリと音を立ててフィールドに濡れ広がった。
────────────────
《メタル・リフレクト・スライム》守備表示
星10 水属性 水族
攻0 守3000
────────────────
そのターンにセットした罠を発動できるようにするモンスターとは。
得体のしれないカードを操ってくる……警戒は正解だったと言えるだろう。
しかし、解せない。
守備力3000の壁を出したいのなら、オレのターンにリバースすれば本来十分だったはず。
いや、これは──
「フン。逆か……その罠モンスターをわざわざお前のターンに出したのには、相応の理由があるということ」
すなわち、このスライムは壁ではない。攻勢に出るための最初の一手。
「当たり。リバースカードが発動した場合に手札の《天獄の王》は効果を発動できる。自身を特殊召喚」
>燦:手札4→3
周囲に影が差した。見上げれば、途方もなく巨大なモンスターがオレを見下ろしていた。
天を衝かんばかりに伸びた角、山をも掴めそうなほどに大きな掌。なんたる威圧感か。
────────────────
《天獄の王》攻撃表示
星10 闇属性 岩石族
攻3000 守3000
────────────────
「……」
女がピタリと動きを止めた。
このターンはこれで終わり──というわけではあるまい。こちらの出方を窺っているような、妙な間だった。
「どうした?」
「……別に。さらに私は、《メタル・リフレクト・スライム》をリリースして、EXデッキから《神・スライム》を特殊召喚する」
ヤツの場の粘体金属が、荘厳な雰囲気をまとった巨人の姿を象った。
────────────────
《神・スライム》攻撃表示
星10 水属性 水族
攻3000 守3000
────────────────
攻撃力3000が2体か……だが、ナンバーズはナンバーズでしか倒せない──。
いや、待て。
違うぞ、これは。
「レベル10モンスターが2体……!」
「私は、《天獄の王》と《神・スライム》をオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築──」
やはり、狙いはエクシーズ。
ヤツはナンバーズ所有者だ。戦闘破壊耐性を知らないはずがない。
同じナンバーズか、効果でこの盤面を攻略できるモンスターを呼ぶつもりなのだ。
「──現れよ、混沌たる闇の使者。エクシーズ召喚。《No.
深紅のマントを翻し、漆黒の剣士が舞い降りた。ガントレットには、自身を象徴する「XX」の刻印。
────────────────
《No.XX インフィニティ・ダークホープ》(ORU×2)攻撃表示
ランク10 闇属性 戦士族
攻4000 守4000
────────────────
ランク10・攻撃力4000の……ナンバーズ。
いや、それ以前に──
「『XX』……だと?」
なんだ、その名は。
ナンバーズとは、アストラル世界に由来する人間世界に飛び散った100枚のカード。
それぞれのカードが冠するのは、
なのに、No.XX。
オレの知らない、体系外の番号。
完全未知の「番外」の力。
それを操るこの女は、一体……。
「バトルフェイズ。『ダークホープ』で『蟻岩土ブリリアント』を攻撃」
>《No.20 蟻岩土ブリリアント》(ORU×1):攻撃力2100
「くっ……ダメージ計算時にオレは《ガード・ブロック》を発動! バトルダメージを無効にし、1枚ドローする!」
>カイト:手札2→3
「モンスターを破壊したこの瞬間、『ダークホープ』の効果発動」
>《No.XX インフィニティ・ダークホープ》:ORU×2→1
ヤツが従えるNo.XXによって細切れにされた『蟻岩土ブリリアント』の身体が、みるみるうちに修復されていく。
ただし、その制御はオレの下から離れ、ヤツのフィールドへと脚を下ろした。
────────────────
《No.20 蟻岩土ブリリアント》(ORU×0)守備表示
ランク3 光属性 昆虫族
攻1800 守1800
────────────────
「『ダークホープ』のオーバーレイユニットを一つ取り除き、破壊したモンスターを守備表示で、私の場に特殊召喚する」
「……それが、そいつの効果か」
攻撃力4000が戦闘破壊をトリガーにコントロール奪取してくる……実に厄介だな。
だが、オレは負けん。ハルトのために──。
「メインフェイズ2に入る」
……感傷に浸っている暇などない。
ターンはなおも続いている。
意識をデュエルに戻せ。
「恍けたフリをして、やはりナンバーズを持っていたな。
些かの予想外はあったが、関係ない! そのナンバーズは狩らせてもらうッ!」
「……ああ、うん。そう」
啖呵を切ったというのに、反応は薄い。
生返事。乾いた笑み。
困ったように細められた半開きの瞳。
敵を見るでもなく、格下を侮るでもない、妙な態度だった。
まるで、「場違いな存在」に対する目を向けられているような気がした。
「……私は、『蟻岩土ブリリアント』で、オーバーレイネットワークを再構築。
ランクアップ・エクシーズ・チェンジ──来て、ランク4《ダウナード・マジシャン》」
陰気な笑みを浮かべた青い長髪の女魔術師が、ヤツのフィールドにあぐらを組んで座り込んだ。
>《ダウナード・マジシャン》(ORU×1):ランク4
「オレのナンバーズで、さらなるエクシーズ召喚だと……それに、ランクアップ……?」
「《ダウナード・マジシャン》は、メインフェイズ2にランク3以下のモンスターからランクアップしてエクシーズ召喚できるモンスター。
そして、……
「ッ!」
その瞬間、背筋を悪寒が走った。
その理由は、名乗ってもいない本名を呼ばれたこと以上に、これからヤツがやろうとしている「何か」。
オレのデュエリストとしての勘が、けたたましく警鐘を鳴らしているのだ。
「驚くのは、まだ早い」
ヤツがデッキケースに手をかけ、さらにカードを1枚引き抜く。
「《ダウナード・マジシャン》で、私は再びオーバーレイネットワークを再構築する。
ランクアップ・ハイパー・エクシーズ・チェンジ──……」
新たなるモンスターエクシーズのカードが、《ダウナード・マジシャン》の上に重ねるように叩きつけられた。
「──
白銀の機神がその巨躯を現した。
即座に理解した。オレを総毛立たせたものの正体は、こいつだったのだと。
────────────────
《天霆號アーゼウス》(ORU×2)攻撃表示
ランク12 光属性 機械族
攻3000 守3000
────────────────
「ランク……12」
未知のナンバーズに加えて、未知の力──ランクアップ。
なんなのだ……この女のデュエルは。
「ここで『ダークホープ』の二つ目の効果発動。1ターンに1度、『ダークホープ』以外の自分フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選択して、その攻撃力分のライフを私は得る。選択するのは『アーゼウス』」
>燦:LP4000→7000
「カ、カイト様……」
みるみるうちに開いていくライフ差に不安を感じてか、陰に控えていたオービタル7が声を震わせた。
フン……案ずることはない。
オレは手札にあるエースモンスターに視線を落とした。
モンスターエクシーズが相手ならばこちらに分がある。たとえそれがランク12であろうと、な。
「私はリバースカードを1枚セットして、ターンエンド」
>燦:手札3→2
>燦:LP7000/手札2
モンスター:《No.XX インフィニティ・ダークホープ》(ORU×1・攻撃表示)
《天霆號アーゼウス》(ORU×2・攻撃表示)
魔法&罠:《急雷の泥沼》(表側)/リバースカード2
>カイト:LP4000/手札3
モンスター:《No.10 白輝士イルミネーター》(ORU×1・攻撃表示)
魔法&罠:リバースカード1
「オレのターン、ドロー!」
>カイト:手札3→4
新たに招き入れたカードを一瞥し、小さく頷く。いい引きをしている。
「オレは『イルミネーター』の効果を発動する! オーバーレイユニットを一つ取り除き、今ドローした《代償の宝札》を墓地に送る……そして、1枚ドロー!」
>《No.10 白輝士イルミネーター》:ORU×1→0
>カイト:手札4→3→4
「まだだ! 手札から墓地へ送られた《代償の宝札》の効果が発動する! これでさらに2枚ドロー!」
>カイト:手札4→6
ドローカードは……《オネスト》に、《神風のバリア -エア・フォース-》。
攻めも守りも厚くなった。これならば、問題なくいける──
「この瞬間、『ダークホープ』をリリースして、リバースカードオープン」
「なっ、攻撃力4000のナンバーズをコストに、リバースカードだと!?」
なんたる暴挙。
いや、ヤツの盤面が薄くなるのだ。オレにとっては好都合か……。
そんな甘い考えは、開かれた罠カードを目にした瞬間に消し飛んだ。
「──《魔のデッキ破壊ウイルス》。このカードは、攻撃力2000以上の闇属性モンスターをリリースすることで発動可能」
「ウイルス、カード……」
マズい、あのカードの効果は……!
「相手のモンスターゾーンと手札、相手ターンで数えて3ターンの間に相手がドローしたカード全てを確認し、その中の攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊する」
わずか一手。
それだけで、《死者蘇生》を使ってまで確保した《クリフォトン》と、光属性モンスターの戦闘を圧倒的に有利にする《オネスト》が、まとめて刈り取られた。
>カイト:手札6→4
「《オネスト》まで引いてたんだ……手札も見せてね」
「……ッ!」
《フォトン・サンクチュアリ》。
《
《
《神風のバリア -エア・フォース-》。
デュエルモンスターズにおいて、手札とはデュエリストの思考と戦略の象徴だ。
それを丸裸にされる不快感と屈辱は、筆舌に尽くしがたかった。
だが、ヤツの盤面のモンスターはこれで『アーゼウス』のみ。
バトルによってオーバーレイユニットを吸収できる銀河眼にとっては、むしろ好機だ。
「貴様を仕留める分には、残ったカードで十分! オレは《フォトン・サンクチュアリ》を発動する! 攻撃力2000の『フォトントークン』2体を特殊召喚する! そして、このトークン2体をリリース!」
>カイト:手札4→3
オレは赤い十字架を形取った「触媒」を召喚し、天を目がけて勢いよく投げた。
「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我が
閃光が視界を埋め尽くす。
光の銀河の向こうから、異世界の力をその身に宿した竜──《銀河眼の光子竜》がその姿を現した。
眩い光を迸らせ、竜は雄叫びをあげた。
────────────────
《銀河眼の光子竜》攻撃表示
星8 光属性 ドラゴン族
攻3000 守2500
────────────────
>カイト:手札3→2
「バトルだ!」
「スタートステップに、私は《
>燦:手札2→1
ぬ、ぅ……また罠か。
メインフェイズの苦い記憶が蘇る。
「『テュデル』をモンスターとして特殊召喚し、デッキから同名以外の『ARG☆S』カード1枚を手札に加える」
>燦:手札1→2
「ハッ、そんな効果か! 好きにするがいい! オレは──」
「スタートステップは優先権を両プレイヤーが放棄しない限り、継続可能。
私はここで《天霆號アーゼウス》の効果を発動する」
>《天霆號アーゼウス》:ORU×2→0
アーゼウスの周囲を旋回していた光が、その巨体へと吸い込まれていく。
──ここで動くか!
召喚された瞬間に感じた、あの悪寒。
ついにその正体が明かされる。
「オーバーレイユニットを2つ取り除き、このカード以外のフィールドのカードを
……は?
なんだ、その……バカげた効果は。
「──
アーゼウスの肩部パーツが砲身を形作り、莫大なエネルギーを解き放った。
天雷。
爆轟。
白光。
その瞬間に起こった現象は、どの言葉も似つかわしくないように思えた。
そう感じさせるほどの、灰すら残さずすべてを洗い流す、純粋な「消滅」だった。
「──だが、ギャラクシーアイズは、やらせんッ! 《亜空間物質転送装置》発動! ギャラクシーアイズをエンドフェイズまで除外するッ!」
広がりゆく消滅から、銀河眼だけはワームホールを介して退避できた。
しかし、取り残された地上のカードたちは、無慈悲にかき消されていく……後に残ったのは静寂のみだ。
イルミネーターはいなくなった。
銀河眼が帰ってくるのはエンドフェイズの未来。
このターンはバトルできない、か。
「オレはリバースカードを2枚セットし、ターンを終了する! 戻ってこい、ギャラクシーアイズ!」
>カイト:手札2→0
>燦:LP7000/手札2/《天霆號アーゼウス》(ORU×0)
>カイト:LP4000/手札0/《銀河眼の光子竜》/リバース2(《反射光子流》・《神風のバリア -エア・フォース-》)
アーゼウスの効果は恐ろしいほどに強力だったが、損害を受けたのはヤツも同じ。
せっかく召喚した罠モンスターも、《急雷の泥沼》も墓地へ葬られた。
そして、アーゼウスの効果に必要なオーバーレイユニットもゼロ……銀河眼で吸収できなかったのは惜しいが、こちらの罠の存在を思えば悪くない状況と言えるだろう。
そう思っていたのに。
「私のターン、ドロー……」
>燦:手札2→3
女が右手をデッキに翳し、ゆらりとカードを引き抜いた。その瞬間──
察してしまった。
──あ、
「……?」
待て。オレは今、何を思った?
かぶりを振る。終わっただと?
そんなはずはない。こちらもまだ十分に戦える盤面だ。
「ああ、
ヤツは何か得心した口ぶりで頷いた。
何を引いた?
「それ」とは何だ?
何が「もういい」?
それまで何をするつもりだった?
オレの思考を置き去りに、ターンは進む。
「私がドローしたのは──《死者蘇生》」
>燦:手札3→2
汎用の蘇生札。オレに止める手段は、ない。
ヤツは墓地に手を伸ばし、力強く1枚のカードを抜き取った。
自然とその指先に視線が吸い寄せられる。
「墓地より蘇らせるのは、《
「なんだ……そのカードは。それに一体、いつの間に──」
──あった。
オレの知らないカードを墓地へ送るタイミングが。
「《急雷の泥沼》……!」
「正解──不死鳥が、いま墓地より、舞い戻る」
巨大な
やがてアンクは弾け、光の奔流の中から巨大な輪郭が浮かび上がった。
降臨するは、翼を持つ太陽神。
この決闘で、絶対に召喚させてはいけなかった存在。
────────────────
《THE SUN OF GOD DRAGON》攻撃表示
星10 神属性 幻神獣族
攻0 守0
────────────────
「……神、属性? ……幻神、獣族?」
知らない言葉。見たことのない概念。
一体この女は、どこまでオレの常識を揺さぶれば気が済むのだろうか。
ここまで来るともはや笑うしかなかった。
「
「……墓地から蘇ったそいつは攻撃力を得られない、ということになるが」
「まあ、見てて」
女は右手の人差し指を立てて静かに笑った。
「
ヤツが急に口ずさみだしたのは、まるで意味不明の呪文。
だが、それが「必要なこと」なのだということは、漠然と理解できた。
呪文が止むと同時に、「ラーの翼神竜」は全身に炎を纏い、雄々しく翼を広げた。
その様は、死後に炎の中から蘇って羽搏く
「この詠唱によって、太陽神の第三の能力を行使できる。1000LPを捧げることで、フィールドのモンスター1体を確実に葬り去る。
────
>燦:LP7000→6000
突如、オレのフィールドに火柱が立ち上った。
ちょうどそこにいた《銀河眼の光子竜》は瞬く間に業炎に飲み込まれ、跡形もなく消え失せてしまった。
「……なん、だと」
「これでギャラクシーアイズはもういない。相手の攻撃モンスターの攻撃力をドラゴン族・光属性モンスターに加える《反射光子流》は意味を失った」
くっ……だが、ラーの攻撃力は0。アーゼウスの攻撃力3000は脅威だが、《神風のバリア -エア・フォース-》を越えられない。
《魔のデッキ破壊ウイルス》でカードを確認した以上、ヤツが攻撃してくることはないだろうが……。
……。
待て。何かが、おかしい。
いったい何だ?
そこでオレはフィールドをもう一度見渡した。
>《THE SUN OF GOD DRAGON》(攻撃表示):攻撃力0
「……」
なぜ、ヤツは攻撃力0のラーを、攻撃表示で特殊召喚した……?
しかし答えに辿り着く前に、状況は動きだす。
「
再び、詠唱。
「この詠唱によって、太陽神の第二の能力を行使する。LPが1だけ残るように捧げ、
>燦:LP6000→1
女の姿が、徐々に薄れていく。
間もなく、デュエル開始時からずっと立っていた位置から、まるで魔法のように消え失せてしまった。
「どういう、ことだ? ヤツはどこに……」
「カ、カイト様ッ……! ウ、上デアリマス!」
上だと……?
視線を上げると、こちらを見下ろす翡翠の瞳と目が合った。
「
>《THE SUN OF GOD DRAGON》:攻撃力0→5999
ラーの額の宝玉から、ヤツの上半身が生えていた。
そうとしか表現できない。
モンスターと合体しているのだ。
あまりにも異様。だが、女はこれを当たり前のことだと言わんばかりに、澄ました表情をしていた。
「ラー第二の能力には続きがある。従者の命を糧とし、さらなる力を得る。私は『アーゼウス』を捧げる」
>《THE SUN OF GOD DRAGON》:攻撃力5999→8999
8999……初期ライフの2倍以上の攻撃力。
食らったら負ける。しかし──「エア・フォース」の守りは健在だ。
なのに先の「終わった」という錯覚が脳裏を掠める……この罠カードは、「通る」のか?
いや、「通る」に決まっている。通らなかったら、イコール敗北だ。
デュエリストは負ける前提の思考をしてはならない。デュエリストとは、最後まで闘いを投げない者だからだ。
それに、ヤツの場に伏せカードはない。カウンター罠などで「エア・フォース」の発動を止められる心配はないのだ。
ヤツがオレの罠を忘れたか、この神風のバリアの効果をそもそも知らなかった場合は、無思慮に攻撃してくるだろう。
狙うのはそこだ──今度はオレがヤツの盤面を更地にしてやる。
「バトルフェイズに入る。第二の能力を解放したラーは、そのターンにすべてのモンスターを
──来た。
「舐めるなァ! 《神風のバリア -エア・フォース-》があることを忘れたかッ!
相手モンスターの攻撃宣言時、相手の攻撃表示モンスターをすべて手札に戻す! 消えろ『ラーの翼神竜』ッ!」
神風がラーの巨体を包む。
だが、その翼は微塵も揺らがない。
まるでそよ風の中を散歩するかのような軽さで、翼の神は吹き荒ぶ嵐から飛び立った。
「なんっ……!?」
「神にそんな罠は通用しない」
大顎が開く。
「──ゴッド・ブレイズ・キャノン」
「あっ、グ……うおああああぁぁ──ッッ!!?」
>カイト:LP4000→0
*
……勝てたか。
Dゲイザーとデュエルディスクを仕舞った。
カイトは片膝をついて私を睨みつけていた。
すっかり肩で息をしている。顔色も悪い。
フォトン・モードは身体に負荷が掛かるんだったっけ。どうしてフォトン・モードになんなきゃいけないのかは知らないけど。
「……女」
低く押し殺した声が耳を打つ。
反射的に肩がびくんと跳ねた。
すごい殺気ですごく怖い。
本当はすぐにでも立ち去りたいのに、足が震えて……お、思うように動かない。こわい。
「この借りは必ず返す。そのときのために、貴様の名を……聞いておこう」
……それは。
ライバルとか因縁の敵的な認定をされたときのセリフではないだろうか?
もうリベンジマッチの予約?
負けたら私、魂取られるのに?
嫌だ。嫌すぎる。
死にたくない。
絶対に身バレしたくない!
かといって、断ったら妙な雰囲気になるし、何より気がかりなのがカイトの側に侍って支えているロボット──オービタル7だ。
確かこいつは、なんか巨大化してドリルを使ったリアルファイトができたはず。
下手にバッドコミュニケーションをかましてヤケになられたら非常に危険だ。
会話は穏便に済ませたい。
でも要求には応えたくない……うぐぐ。
いくら頭をフル回転させても、ベストな答えが出てこない。
そうして流れる気まずい沈黙。
漂いだす居た堪れない空気感。
「ねぇ。教えないと、ダメなの?」
気がついたら、口が動いていた。
──本人から許可を得たい。
そんな率直な気持ちが、言葉になって漏れたのだ。
「……っ」
カイトは目を見開き、やがて苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……敗者の要求に応じる義理はない、ということか」
ぇ、あっ……ちょ違っ!? あぁっ!?
違う! 意味が180°違う!
私そんな強キャラ風吹かすつもりなかった!
私、ただの女子中学生ェェ!
「こいつは、返しておく」
投げ渡されたカードを反射的に受け取ってしまう。
カードを裏返して表面を見る──げっ、ブラック・コーン号……い、要らねぇ……。
「オービタル。退くぞ」
「ウゥ……カイト様。カシコマリ……」
おいコラ待て、不良債権を押し付けていなくなるんじゃない。私は連帯保証人じゃないんだぞ!
非難の声を浴びせるより先に、カイトは垂直に飛び上がって離脱してしまった。
オービタル7を使って滑空する彼のシルエットが、夕闇の空に溶けて遠のいていく。
ああ、くっそ……もうマジで捨てようかな、このモロコシ船。
──ザワザワ。
不意に、時間の流れが元に戻った。
静寂に満ちていた世界が、帰宅ラッシュの喧騒に塗り替えられていく。
日常に、私は帰ってこれたのだ。
「……ふう」
は~~ッ、マジで疲れたぁ!!
ホントに死ぬかと思った!
蓋を開けてみれば、
でも、最初のドローが《ドールハンマー》じゃなくて、カイトの先攻1ターン目の伏せがちゃんとこっちの動きを止める札だったら、冗談抜きで死んでたと思う。
こんな体験、二度とゴメンだ。
ラーでトドメを刺せたのは、めちゃくちゃ気持ちよかったけど──
『ますたぁ。ごほうび、あげる』
「!?」
なんだ今の舌足らずな声は。
きょろきょろと見まわしてみるが、それらしい人物はいない。
「……?」
なんか、デッキケースがピカピカ光っている。
ごほうび……ははーん、わかったぞ?
ここは遊戯王世界だ。
となるとこれは、精霊的なサムシングからのプレゼントだな?
いや、もちろん早とちりの可能性もあるけど、確認するだけなら
どれどれ──
「
融合モンスター。テキストは日本語──えっ、日本語!?
まさか前世の私の死後に出た新規リメイクか!? ヤッベ、これもこれでめっちゃ使ってみてぇ!
ほ、ほーっ、ホアアーッ!!
アーッ!! ああーっ!!
……取り乱した。
このラーのイラストは正面顔を描いてるんだなぁ。なんか新鮮だ。
素材指定は、「ラーの翼神竜」と……「太陽神」モンスター、3体?
「……」
いや、「太陽神」モンスターってなんだよ。
どうやって出すねん。
書き溜めできていれば一番よかったのですが、IMMORTAL PHOENIX発売から2、3ヶ月とか経ってから出しても死産になりそうな企画だったので、見切り発車しました。
他にもやりたい企画がある(のと、ZEXALを再履修する必要もある)ため、今後の更新頻度は保証できません。気長にお待ちいただければ幸いです。
おまけ。本作におけるラーの能力の雑メモ
■第一の能力:
「神は三体の生贄を束ねてその力を得る。ただし神を従えし者、古の呪文を天に捧げよ」
・ラーがフィールドに出る際、古代神官文字で呪文を唱えたプレイヤーがコントロールを得る。
・生贄召喚されたラーは、生贄にしたモンスターの攻撃力の合計を元々の攻撃力とし、守備力の合計を元々の守備力とする。
■第二の能力:
「神は地より蘇生する。再生の術と従者の命を与えよ。時はひとつであろうとも戦場の敵は炎によって屍と化す」
・召喚・特殊召喚に成功した場合、または自分メインフェイズに発動できる。
・残りLPが1になるようにLPを払い、払った数値分ラーの攻撃力がアップし、以下の効果を得る。さらに、この能力のためにLPを払ったターン、相手モンスターすべてに一度ずつ攻撃できる。
【お互いのターンに自分フィールドのモンスターを生贄に捧げて発動できる。その攻撃力・守備力をラーに加算する。】
【お互いのターンにコストを払って発動できる。プレイヤーとラーの融合状態を解除する。】
■第三の能力:
「時ひとつとして神は不死鳥となる 選ばれし魔物は大地に眠る」
・召喚・特殊召喚に成功した場合、または自分メインフェイズに発動できる。
・1000LPを払って、敵モンスター1体を耐性を無視して焼き払う。
・対象を取る効果ではなく、焼き払われたモンスターを「効果で墓地へ送られた」ものとしては扱わない。
■耐性など
・神以外のモンスター効果を受けない。
・魔法・罠の効果は、上級呪文のみ、1ターンの間受けつける。ただし一部例外あり。上級呪文ってなんだよ。
・特殊召喚された神は基本的にそのターンの終わりに元いた場所(デッキ・手札・墓地・除外)へ還る。
・その他色々。