TS転生者「不死鳥は 再び墓地より 舞い戻る」 作:ししゃしょしぇい
土曜日の昼下がり。駅前広場にて。
『あ、あの! 本当にすみませんっ! 約束の時間を、三十分も過ぎてしまって……! め、メッセージも未読のままでっ!』
D・パッド越しに、申し訳なさ全開の謝罪が響き渡る。
光焔先輩だ。
今日は彼女と駅前の商業施設を見て回る約束をしていた。
特に買うものは決めてない。服でも眺めて、気になるものがあったら試着して──そんなことを話し合っていた。
ところが、先輩は待ち合わせ時間になっても姿を見せず、連絡もつかなかった。今の着信は、そこにようやく入った連絡というわけだ。
「何か事件に巻き込まれたわけじゃないんだよね?」
『は、はい。全然大丈夫です。ご心配おかけしました、ごめんなさい……』
「ううん。無事ならいいよ。それでどうしたの」
端末越しに「あー」、「うー」と歯切れの悪そうな声が返ってくる。
『その、……張り切りすぎて約束の一時間前に駅前広場に着いちゃって──』
「お、おぉ……」
一時間前行動か……悪いことしちゃったな。彼女の性格をもっと考えてあげるべきだった。
いや、待て。
「なら、どうして今は」
『それが、
「占い師……?」
──先輩曰く。
その場でネット検索してみると「知る人ぞ知る」って感じの凄腕と判明し、名刺を渡された。
最初はその場で色々言い当てられて、素直にすごいと驚いていたが、段々向こうが「もっと本格的に占いたい」とヒートアップし、熱量に押し切られるままその男の邸宅までついて行ってしまった……とのこと。
「……それで、気がついたらこんな時間、と」
『あぅ……す、すみません』
先輩は危なっかしいわ、占い師には怪しい匂いがプンプンするわでツッコミどころ満載である。
けれど先輩が無事らしいのも事実。
運悪く、あるいは運良く、変な占い師に捕まってしまっただけ、と見るべきか。
……まったく、しょうがないなあ。
「場所、教えて。迎えに行くから」
『そんな! 私がそっちに行きますよ! 有明さん、まだ広場にいるんですよねっ!?』
「いいから。場所教えて」
『ひゃ……はい。メッセージで送ります』
あっさり折れた。先輩のしょぼん顔が目に浮かぶ。
いや、だって、放っておいたらまたどこかにふらっと吸い寄せられちゃいそうなんだもん。
彼女には悪いけど、私が行くほうが確実なのだ。
ほどなくして先輩から送られてきたリンクを開くと、建物の写真と番地が表示された。
ふむ……中々に、いやかなり立派な館だ。庶民の私から見ると明らかに大豪邸。
こんなところに住めるくらいの経済力があるあたり、占いの腕は本物なのだろう。
知る人ぞ知る……その筋じゃ有名ってことは、意外と私も聞き覚えあるかもしれんな。
「その占い師さん、なんていうの?」
『あ、はいっ!
……ゑ?
「ごめん、もう一回聞いていい?」
『
聞き間違いじゃなかったらしい。
『あの……ひょっとしてまた、WDCの話みたいな「何か」があるんですか……?』
「ううん、なんでもない。早速向かうね」
なんでも、ある。
ありまくりだ。
考えてみれば、アニメ版ZEXAL時空、凄腕の占い師、館住まい……ここまで揃えば答えを言っているようなものだった。
それでも叫びたい。
よりにもよって
*
息が上がるのも構わず、無我夢中で走る。
一秒でも早く、先輩から送られた場所──ジンの館に着くために。
ジンというキャラを一言でいうなら、超能力を持った占い師デュエリストにして、ナンバーズ使いの一人だ。
しかし一番の特徴はなんといっても、カイト本人には存在すら認知されていないのに彼のことを「神」と崇め、勝手に「忠実なるしもべ」を自称している点だろう。
そう、自称である。
意味深にカイト陣営っぽく登場しておいて、次の回で彼とは一切無関係なことが明かされた、ただの野生の狂人ファンボーイ……それがジンなのだ。
しかし、ふざけたキャラ設定に反して、実態は超危険人物といえる。
彼は本物の超能力を複数持っていて、その力で人を傷つけることへの躊躇がない。
これでしかもデュエルが強いのだ。
劇中で使用したナンバーズは《No.11 ビッグ・アイ》と《No.16 色の支配者ショック・ルーラー》というガチカード二枚。遊馬とアストラルはこのデュエルで《
そして何よりも、カイトリスペクトなのか、彼も倒したナンバーズ使いから魂を奪う。バカがよぉ……。
……そんな奴の手元に、光焔先輩がいるのだ。さっきは無事だと思っていたが、もはや怪しい。
奴には催眠能力がある。通話越しの先輩が操られていた可能性が出てきてしまった。
狙いは、私か?
今回も初手でブラック・コーン号投げつけになると思うが、デュエルする覚悟は固めておいたほうがよさそうだ。最悪、先輩を人質に取られる可能性も考えないといけない。その場合は…………えっと、どうしよう?
奴が信仰する「カイト」の名前を出してプライドを刺激し、正々堂々戦ってくれるように誘導する……とか?
口先に自信はないけど、先輩の命が懸かっている。やるしかない。
うぐぐ、私は何も悪いことしてないのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ……。
「ぜっ……はっ……み、みえたっ!」
そうこうしているうちに到着だ。
目の前には、蔦の絡みついた黒い鉄格子の門がそびえていた。
その向こうに、薄靄をまとった古びた館が見える。
「ふ、う……」
息を整える。ここに入らないことには始まらない。
奴の期待通りに私は来てやった。向こうが察知すれば門を開けてくるはず。
けれど、いちいち待っていられない。インターホン。いや、呼び鈴か。とにかくこちらの存在をアピールせねば──。
と、そのときだった。
ぎ、と音を立てて、誰も触れていない門扉がひとりでに横へ滑った。
門の向こう側の白霧の中、何もなかったはずの位置に、人影が滲むように浮かび上がってくる。
黒いローブを羽織った長身痩躯の男。
ジンだ。
フードを深々と被っており、いかにも怪しい……いや、「妖しい」風体をしている。
「本日は、お越しいただき恐悦至極……燦様」
彼は神妙な声でそう告げてきた。
……。
いや、その。
えっと見間違いじゃなくて。
平伏している。完全に額を地面に擦りつけている。
なんなら最初のすぅっと浮かび上がってきた時点ですでに土下座してた。
なんで??
「この度は、誠に申し訳ございませんでしたァッ!! 燦様ァァァッ!!」
うるさっ。なんなんだよこいつ!
「御約束があったとは露知らず、御近侍の光焔ねね様をこの場に引き留め、燦様との尊き時間を妨げるなど……! このジン、一生の不覚ッ! どうか、何なりと処罰をォ!」
「……」
ご、ごき……
まるで意味がわからない。
土下座も意味不明だし、喋っている内容もわからない。
わからない、けど。
敵意はない……ってことでいいん、だよね?
だって、原作のこいつ、遊馬に対してこんな態度じゃなかったもん。遊馬先生をデュエルとメンタルの両方向から甚振って悦に浸ってた下衆野郎だもん。
間違っても、ターゲット相手にこんな「どうか処罰を」とか言ってへりくだって謝罪してくる奴ではなかった。
「……光焔先輩は?」
「こ、ここにいます……」
聞き慣れた声が、門の奥から返ってきた。
靄の向こうから、おずおずと光焔先輩が姿を現す。
見た目は普段と変わりないけど、何かされたかもしれない。ちゃんと確認せねば。
「先輩、この
「え、あ、はい……むしろ、お紅茶とかお菓子とか、遠慮したのにすごく丁寧にもてなしてもらっちゃって……」
えぇ……?
絶賛土下座中のジンに視線を戻す。
「無論です! 燦様が地上にて見いだした御近侍に、このジンが無礼を働くなど断じて──」
そのゴキンジってのがそもそもなんなんだよ。相変わらず声デカいし。
「その……有明さんが来る前までは、すごく雰囲気を大事にしている占い師さんという感じだったのですが、急に様子が……」
「……そう。まあ、放っておいていいんじゃない」
「いいんですか!? 土下座とか様付けとかしてるのに!?」
まだ名乗ってもいないのに私の名前を把握されてるのも相まって、むしろだから触れたくないっていうか。
何はともあれ、光焔先輩は至って無事だったのだ。何の問題もないな。帰ろ──
「燦様! それで、この不肖ジンへの処罰のほどは!?」
もうマジでなんなんだお前。
「……とりあえず顔上げたら。話しにくい」
「ははっ……畏まりました」
地面に膝と手をついたまま、ジンはゆっくりと私を見上げた。
緊張した面持ち、といった様子だ。たとえるなら、魔王の沙汰を待つ配下みてーな感じ。
いや何こいつだけ一人で勝手に盛り上がってんだ。意味わかんねーよ。
ああ、会話したくないなぁ。まあ、無視したせいで地雷踏んで逆上されたらなんて想像すると怖いし、一応するんだけどさ……。
「光焔先輩は無事だったので処罰? とかはなし。以上」
「なんと慈悲深き……!」
「ああ、うん……」
なんか感動してるっぽい。よかった。ならもう丸く収まったってことでいいよね? ヨシ!
そうと決まれば撤収だ。
私はそっと光焔先輩の手を取った。
「きゃっ」
「じゃあ私はこれで──」
「っ! お、お待ちくださいませ燦様ッ!」
「……何」
返しかけた踵を元に戻した。
……遊馬先生に負けた直後のシャークさんの時もそうだったけど、こういう呼び止めについつい反応しちゃうんだよね。すっごく直したい。
で、何よ。
「その……いや、しかし……」
口元を手で押さえて急にゴニョゴニョしだした。威勢よく叫んでおいてそれかい。
「失態を赦していただいたことに飽き足らず、それ以上を望むなど……あぁ、なんと恐れ多い──」
「……何か知らないけど、言いたいことあるなら言えば。どうするかは聞いてから考えるから」
「──ぉ゛ッッッ!!!!」
変な声あげないでくれるかな。
なんやかんやでどうせ聞かされるんだろと思って促しちゃったけど、早速後悔している私がいるよ。
ほら光焔先輩を見なよ。すっかりドン引きしちゃってるじゃないか。
数秒かけて、ジンはどうにか昂りを鎮めた。
それから急に真顔になって、私を見る。
「燦様に……奏上したい『儀』が、ございます。私と、どうかデュエルをしていただきたく」
「えっふつうに嫌」
「えっ」
なんだその顔は。お前ナンバーズ使うし敗者の魂ぶん奪るじゃん。嫌だよ。
「な、何故にございますか?」
「危険だから」
「……! 燦様に挑むこの身を案じてくださるとは……!」
ちげーよ。ぶち転がすぞ。
「……あなた、ナンバーズ使うつもりでしょ」
「ナンバーズっ……!? ジンさんが!?」
隣で光焔先輩が息を呑む。
一方ジンは明らかに困惑した表情を浮かべた。
「此度のデュエルにおいて、ナンバーズを使っては、ならないのですか……?」
「まあ、うん」
危険だからね。お前じゃなくて私の身が。
「一体、それは何故──ハッッッ!
……なるほど、そういうことでしたか。燦様の示された御意思、確かにジンは賜りました」
えっ。
「え、何。使わないでもいいの?」
「無論にございます」
「……本当に、ナンバーズなし?」
「誓って」
「変な力も使わない。ただのデュエル?」
「左様にございます」
ふ、ふーん……?
どういう思考の流れでナンバーズ抜きに同意できたのかは、全然わからんけど、でもそれなら別にデュエルしても──
いや、待て。
元々は光焔先輩とウィンドウショッピングの約束があったのよ。
……うん、デュエルしてもいいかもなんて、全然思わなかったし。時間を無駄にしちゃいけない。もう行こう。
「先輩、」
「あ、有明さんのデュエルが、見れるんですか……?」
あ、これデュエルする流れだわ。
先輩もそっち側だったわ。さすが遊戯王世界。一般JCすらもしっかりデュエル脳じゃんね。
「……」
「して、燦様。お受けいただけますか?」
「私はふつうにラー使うよ?」
「太陽神に拝謁することを私めに許してくださると言うのですかァッッ!?」
……キモ。
デュエルは好きだけど、それはそれとして帰りたくなってきた。
*
なんやかんやで私と光焔先輩はジンの館に上がることになった。
正直、気乗りしなかったが、外でもてなすなど以ての外だとか、私がデュエルするには最低限神聖で整った場所でないとだとか、奴がごちゃごちゃ言いだして……という流れだ。
もう気の済むようにしてって感じ。
意味不明なノリに振り回されて正直ムカついているのでボコボコにしたいと思う。
「屋敷の地下にこんな広い空間があったんですね。秘密基地って感じでワクワクするかも、です」
「……けっこー余裕そうだね先輩」
ジンに先導される形で、松明で照らされる石造りの廊下を歩く。
数分経ったところで、どう考えても館の敷地面積に収まりきらないであろう大きく開けたところに出た。
一言で言うなら、そこは円形の大広間だった。
空間の縁に並べられた無数の水晶と、中央に置かれたとりわけ巨大な水晶が一帯を淡く照らしている。
石造りの床と巨大な柱は、まるでここが神殿のようにも思わせる。
まあ、要はアニメで遊馬がジンとデュエルしてた場所だ。
「……で、ここでやればいいの?」
「はい。ここ──
カイト様……ああ、あれか。
ジンが手を向けた先には、高く伸びる大階段と、その頂上に据えられた玉座があった。
そして、その玉座に座る「青年」の影が一つ。
ただし、それはカイトではなく──
「カイト人形ね」
「なっ!? おやめください、あちらは御神体なのです!」
なんか言ってるけど、精巧にできているだけのただの等身大人形だ。どのくらい精巧かというと、原作にて1話半かけて遊馬とアストラルをビビらせ続けたくらいには精巧。
いや、なんでこいつ面識もない男の子の等身大人形なんか作ってんだろうね。ふつうに怖いよ。
「え、有明さん。もしかして、その、あの人形って『実在する誰か』が元なんですか?」
「なんなら存命中の18歳の男の人だね」
「も、もしかして通報案件だったり──」
「一応やめといて」
「一応!?」
このジン、私の言うことは謎に聞いてくれてるけど、警察が介入したら何するかわからないからね。
変なことはしないほうがいい。
「デュエルの前に、よろしいでしょうか」
「何」
D・パッドを取り出しつつ、ジトッとした目を向ける。私は早くデュエルでお前をボコボコにしたいんだよ。手短に頼むぞ。
「カイト様の御前でデュエルをすることで、カイト様と燦様の間に
「……御二柱? 誰と誰が」
「もちろん、カイト様と、燦様にございます」
ホワッツ? カイトだけじゃなくて、私も?
え、いや、まあ、もしかしたらそうなんじゃないかって思ってはいたけど、マジなわけ?
「待って。つまりあなた、私のこともカイトと同じように……神扱いしてるってこと?」
「無論にございます」
悲報。有明燦、勝手に人間やめさせられてた。
大方、何らかの手段で私とカイトの一戦を観測した……ってことなんだろう。
それで本物の
「そう……」
「先日の御二柱の邂逅を拝見し、確信いたしました。御二方は──」
「その先はいい。じゃあ『和解』って何」
「御二柱の間に生じた隔たりを、このジンの奏上のデュエルを通じて──」
「もういいわかった」
何言ってるかわかんねーってことがな!
カイトと仲違いしてるんじゃなくて、あいつが一方的に私を殺しに来ただけだっつーの。
……まあ、こいつにそこを説明してもしょうがないか。
それより。
私は玉座に座るカイト人形へ目をやった。
…………。
「……私もデュエルの前に、言っておきたいことができた」
「燦様からの御神託でございますかッ!」
「私の御神体とやらは、
「……?」
何きょとんとした顔してんだオメー。お望みのご神託でしょーが。
「ハッ! なるほど、そういうことでしたか! 神の形を造ってはならず、それに平伏すなど──」
よし、ローディング演出来た。それでいいのよそれで。
……ふう。
まったく、今日のストレスだけで胃に穴が開きそうだ。
デュエルがなきゃやってられん。
──デュエル・ディスク、セット。
「「デュエル」」
現時点でデュエル回となる#7がおよそ8割完成といったところとなっています。11月第一週の間に出したいと思っていますが、仕事との兼ね合い次第で遅れる可能性があります。ご了承ください。
今後の書きたい内容はぼんやり決まっていますが、#8以降の執筆は完全未着手です。またしばらく準備時間をいただければと思います。というか、まだZEXALの再履修が終わっていないのです(※現在WDC編の決勝大会を視聴中。デュエルコースター回を乗り越えようとして、気づいたら真剣にルール考察をしてまた時間を溶かしました。時間返して)。
それではまた。