話し合いは、まだ続いていた。
伊吹が「まだ早い」と繰り返し、Aクラスの新顔が反論し、一之瀬がまた「全員一致」を口にする。堂々巡りだ。誰も本気で決めるつもりはない。平田だけが時々仲裁に入り、話を丸く収めようとしていたが、それも長くは続かなかった。新しく判明した6人のうち、Cクラス側の一人が痺れを切らして「もう決を採ろう」と言い出し、伊吹に鼻で笑われる場面もあった。この面子の温度差自体が、まだ誰も本気で腹を割っていない証拠だ。
体感で、もう1時間近くが経っている。窓の外はとっくに暗い。今日確かめたことに比べりゃ、この堂々巡りはただの背景音だ。誰が何を言おうと、卓の上の重さは変わらない。
坂柳が、杖を軽く床に打った。
「今日はこのあたりで。夕食の時間も迫っていますし」
「ああ、そうだな」
長机の面々が席を立ち始める。俺も立ち上がる。
「赤木くん」
坂柳が、声をかけてきた。他の生徒が出ていくのを視界の端で確認しながら。
「なんだ」
「後で少し、お時間をいただけますか。二人だけで、話がしたいのです」
「用件は」
「今日、あなたが見つけたものについて」
伊吹が振り返る。だが坂柳はそれ以上言わず、微笑んだだけだった。追及されて困る側の顔じゃない。むしろ、こっちの出方を確かめる目だ。
「断る理由は、特にねえな」
断る方が、よほど怪しい。それに――この女の手札を、こっちも見ておきたい。
「では、後ほど。場所はメールで連絡しますね。連絡先交換してもよろしいでしょうか」
「勝手にしろ。だが、あいにく俺はこの板の扱い方がまだよく分かってねえ。そっちで適当に入れときな」
俺はポケットから板を取り出すと、ロックもかけていないそれを無造作に坂柳へと放り投げた。
板切れの中には、連絡メールが残っている。画面を数回指で弾かれれば、一発で俺の首が飛ぶ。
だが――だからどうした
不合理に身を委ねてこそ博打。見たいなら見ればいい。
それに、これまでの問答を見る限り、この坂柳という女は最低限の道理は理解していると踏んだ
俺はあえて壁のほうへと視線を外し、彼女の手元を気にするそぶりを見せずにいた。
宙を舞った端末を慌てることなく受け取った坂柳は、一瞬だけ目を丸くした。
だが、すぐにその意図——『見たいなら見ろ』というあからさまな挑発に気づき、楽しげにくすりと笑みをこぼす。
「……ふふ。本当に、傲慢な方ですね。無防備に喉元を差し出して、私を試そうというのですか」
「なんのことだ」
「いいえ? では、失礼して」
カチャ、カチャ、と小さなタップ音が響く。
ほんの数秒。彼女は慣れた手つきで自らの連絡先だけを登録すると、杖をつきながらゆっくりと近づき、俺の胸ポケットへ滑り込ませるように端末を返した。
「今回は、連絡先だけにしておきますね。安っぽい勝利には興味がありませんから」
彼女は、まるで俺の内心をすべて見透かしたような、挑戦的な笑みを浮かべていた。
「お待ちしていますよ、赤木くん」
それだけ言い残し、坂柳が先に部屋を出ていった。
堀北が、荷物をまとめながら近づいてくる。
「あなた、坂柳さんと二人で何を話すの」
「行けば、わかる」
「相変わらず、教える気はないのね」
「教えて得することが、あんたにあるか」
「――ないでしょうね、多分」
堀北は小さく息を吐いた。呆れたのか、諦めたのか、そのどちらでもない顔だった。
堀北は、それ以上追及しなかった。ただ、部屋を出る直前に足を止め、坂柳ではなく俺の顔だけを見て言った。
「私は私で、少し調べたいことがあるの。あなたについて」
「勝手にしろ」
「言われなくても、そのつもりよ」
堀北が先に出ていく。この女相手にいつまでも黙っていられるとは思っていない。ただ、今はまだその時じゃない。
伊吹と一之瀬も、それぞれの方向へ散っていった。残ったのは高円寺だけだった。
「フッ……リトルガールに気に入られたようだねえ、アカギボーイ」
「あんたには、関係ねえ」
「さあ、それはどうだろうねえ。退屈しのぎくらいはさせてくれたまえよ」
この男が誰かの動向にまで口を出すのは珍しい。退屈しのぎの種が、また一つ増えたと思っているだけかもしれねえが、油断できる相手じゃねえのは、無人島の一件で分かっている。
高円寺はそう言い残し、優雅な足取りで部屋を出ていった。
一人になった部屋で、俺はもう一度、名簿を開く。この同じ船の別の部屋で、他クラスの誰かが今頃、同じような駆け引きをしているはずだ。綾小路がどのグループに配られたのかは、まだ聞いていない。あいつのことだ、放っておいても勝手に何かを掴んでくるだろう。今、気にする順番じゃない。
坂柳が指定してきたのは、甲板の外れにある小部屋だった。時間は夕食の後、と書かれている。
夕食を挟んで、まだ小一時間の猶予がある。
配られた札を、もう一度並べ直す時間だ。相手は、この試験で今のところ一番厚い手を持っている女だ。読まれる分は仕方ねえ。読み返す分だけ、こっちも持って行く。
まだ、朝に湧いたあの感覚が腹の底で燻っている。誰かに読まれ、こっちも読み返す。そういう卓に、また座れる。悪くねえどころか、今夜が待ちきれなかった。
夕食を終え、指定された小部屋に着くと、坂柳は既に座っていた。杖を壁に立てかけ、窓の外の暗い海を見ている。テーブルの上には、何も置かれていない。書類も、端末も出さない話し合いのつもりらしい。証拠を残さないやり方は、須藤の一点の一件で堀北が見せたやり方と同じだ。育ちの違う人間が、似た結論に辿り着く。
「思ったより、早いな」
「待つのは嫌いではありません。相手がどれだけ待たせるかも、一つの情報ですから」
俺は向かいの椅子に腰を下ろす。
「あんたは待たせなかった、ってことにしとくか」
「ふふ。そのつもりです」
坂柳が視線をこちらへ戻す。値踏みの温度は、今日の1回目と同じだった。
「単刀直入に伺います。今日、あなたが見つけたものは何ですか」
「教える義理はねえ」
「ええ、義理の話はしていません。ただ、興味があるだけです」
「あんたの興味に付き合う義理も、特にねえな」
坂柳は小さく笑った。気分を害した様子はない。むしろ楽しんでいる。
こっちも同じだ。まともに突っかかってくる相手が、久しぶりに目の前にいる。
「では、質問を変えましょう。あなたは、この『子』の中で誰が優待者だと思いますか」
――核心を外して、核心の周りを歩く気か。
「まだ絞れてねえ」
「あら。今日、あれだけ何かを掴んだ顔をされていたのに」
「掴んだのは、あんたの隙だと言ったはずだ」
「ふふっ。何度聞いても、いい台詞ですね」
坂柳は、杖の握りを軽く握り直した。何かを決める前に、必ずこの動作を挟む。まだ判断材料は少ないが、覚えておく価値のある癖だ。
「では、私から一つ差し上げましょう。等価とは言いませんが」
「なんだ」
「私が2日間、姿を見せなかった理由――お知りになりたいですか」
「あんたから、わざわざくれるってのか」
「取引には、いつも先に何かを出す側が必要です。今回はそれを、私がやるだけの話です」
「裏があるって顔だな」
「あなたも、同じ顔をしていますよ」
坂柳は椅子の背に体を預け、微かに笑った。
「――続けろ」
俺は答えを急かさなかった。急かした方が、値段が上がる。それがこの女のやり方だと、もう分かっている。
「体調のことは、嘘ではありません。ただ、部屋で寝込んでいたわけでもない」
「じゃあ何してた」
「別に大したことではないのです。ご期待に添えなければ申し訳ございません。手持ちのポイントを少し使って、うちのクラスの人間や、付き合いのある他クラスの人間に、この13人の下調べを頼んだだけです」
――金で人を動かしたか。特別なことじゃねえ。この学校の当たり前だ。
「だから初日から、全員の手の内が読めてたってわけか」
「読めていたのは、あくまで紙の上の話です。本人を前にして初めて分かることの方が、ずっと多い」
「それにしちゃ、随分と迷いのねえ喋り方だったな」
「昔からの癖です。今回に限った話ではありません」
筋は通っている。だが、全部を渡した顔でもねえ。
金で買える情報と、金じゃ買えない読み。この女は両方持ってきた上で、金の方だけを差し出してみせた。安い方を先に切って、こっちの出方を見る打ち方だ。龍園のやり口とは、質が違う。あっちは脅しと駆け引きで削る。こいつは、最初から値札を見せて、それでも動じない相手を選別している。
「一つ、訊いてもよろしいですか」
「なんだ」
「同じクラスに、綾小路清隆くんという方がいますね。あなたから見て、どんな人ですか」
――――なんの話だ、急に。なぜ綾小路の話がでてくる
この学校の連中から見れば、綾小路清隆なんて男は視界の端にも映らないただの一生徒に過ぎないはず。
そうみられるように、入学式から無人島まで、綾小路は徹底的に、身を潜めていた
きっと、この試験でもうまく立ち振る舞っているんだろう
それなのに、Aクラスのトップに立つこの女がいきなり、数多いる生徒の中からその名前をピンポイントで引っ張り出してきた
面食らったのを面に出さねえよう、一拍だけ間を置いた。訊き方には、明らかに含みがある。ただの世間話に付き合わされてるわけじゃねえ。
「あんた、話をどこかへ逸らす気か」
「いいえ。むしろ、本題に近づいているつもりですが」
あいつの名前を、他人の口から聞くのは慣れてない。取っておいた札を、勝手に触られたような感触があった。
茶柱に一度横から手を入れられたが、あいつは、俺の知らないところで、もう隠せないほど深く底を嗅ぎつけられちまってる。
それとも、単にこの女の嗅覚が異常なだけか。どちらにせよ、無害な背景としてやり過ごすには、いささか厄介なところまで踏み込まれてやがる。
「あんたがどう見てるか知らねえが、あいつは片手間で語られるような男じゃねえさ」
声に、思ったより力がこもってしまった。
「やはり、綾小路くんを、あなたも『知っている』のですね」
坂柳の目の色が、初めてはっきりと変わった。今までの値踏みの温度とは違う、もっと個人的な熱だった。
――この一瞬だけ理を捨てたような、どす黒い執着を感じた
ここで大人しく答え役に回ってりゃ、また一枚こっちの手札を読まれるだけだ。訊かれる側で終わるつもりはねえ。
「一つ、こっちから訊く」
「あら。答える前に、質問を挟むおつもりですか」
「あんたと綾小路は、そもそもどういう関係だ。同じクラスでもねえのに、その目の色は尋常じゃねえ」
坂柳の指が、杖の頭の上で止まった。ほんの一瞬だが、確かに止まった。
「……鋭いですね。それとも、鎌をかけただけですか」
「どっちだと思う」
坂柳はしばらく黙っていた。今までの値踏みの温度の中に、初めて迷いに似た色が混じった。
「まだ、一度もお話ししたことがありません。同じ学年に上がってから、今日まで」
――――話したことすらねえ、だと。
なら、この熱はどこから出てきた。面識もねえ相手に、これだけの温度を注ぐには理由がいる。
「話したこともねえ相手に、その目か」
「ええ。おかしいと思われますか」
「理由もねえのに、そこまで熱を上げる人間を、俺は信用しねえ」
「理由なら、あります。ただ――今日、あなたに渡すつもりだった分ではありません」
坂柳は、杖の頭に指を這わせながら、窓の外へ目をやった。
「ずっと昔、まだ子供だった頃に、一度だけお会いしたことがあります」
「……それ以上は、話す気がねえってツラだな」
「今はまだ。……ただ、私が誰かに執着するとしたら、理由のない執着はしません。それだけは覚えておいてください」
坂柳は、それきり視線を戻さなかった。触れちゃならねえ場所に、指先だけかすった感触があった。この女、飄々と喋ってるようで、今の一言だけは明らかに声の温度が違った。
「私は、綾小路くんを作られた天才だと思っています」
「……続けろ」
「才能というのは、生まれた瞬間に決まるものです。後から教え込んで作れるものでは、決してない。……私は、そう誓っています。綾小路くんは、その誓いに背く存在です」
「あんたは、それが気に入らねえのか」
「いいえ。むしろ、それこそが私の関心の全てです。偽物を打ち砕く役目は、本物にしか果たせませんので」
坂柳はそこで言葉を切った。今日渡す分は、ここまでだという顔だった。
――だが、引っ掛かる。
なぜ、こいつはこんな大事な腹の内を、わざわざ俺に話した?
俺とあいつの繋がりを確信して、宣戦布告の伝書鳩にでも使う気か? いや……そんなみみっちい真似をする女じゃねえ。
「では、あなたは?」
「……俺がなんだ」
「作られた側でも、生まれついた側でもない、また別の何かのように見えます。……興味深いことです」
「買い被りだな」
「いいえ。あなたは試験のルールにも、クラスの勝敗にも、実際のところ関心はないんじゃないでしょうか。この学校の人間が縛られているものに、あなただけは最初から縛られていない。そういう目をしています」
俺は否定も肯定もせず、ただ黙って先を促した。
坂柳は軽く杖の握りを撫で、少しだけ声の温度を変えた。
「退学という罰も、ポイントという餌も、あなたを本当に動かす理由にはならない。だとしたら、あなたは何を積まれれば本気になるのか。……それが知りたいのです」
「試してみるか」
「ええ、いずれ必ず。ですが――もう一つ、興味深いことがあります」
「なんだ」
「先ほどから、あなたは綾小路くんの話題を意図的に深掘りさせないような言い回しをしていますね……単に知っている、だけではないのではないでしょうか」
――読まれてる。
「同じクラスの人間だ。名前を出す出さないに、意味なんぞねえよ」
「そうでしょうか。私には、大事な札を伏せて、まだ切っていないだけのように見えました」
坂柳は微笑んだまま、それ以上は踏み込まなかった。だが今の一言で、こっちが胸の内に仕舞ってきたものの輪郭を、確かになぞられた感触がある。
この女、いちいち線引きが上手い。渡す量を細かく刻んで、こっちの飢えを長持ちさせる打ち方だ。
「一つ返せ。今度はこっちの番だ」
「ええ、どうぞ。何なりと」
「あんた、俺のことを一体何だと思ってる」
訊いた瞬間、自分でもこの問いの下手さに気づいた。答えを知りたいわけじゃねえ。この女がどこまで踏み込んで答えるかを見たいだけだ。
坂柳は、少しだけ間を置いた。
「面白い方だと、思います」
坂柳はそこで言葉を切り、値踏みするように目を細めた。
「その面白さが本物かどうか、確かめてみたくなるほどに。……たとえば、の話ですが。もし私が、今日この場で見抜いたあなたの手札を他に言い触らして、あなたを窮地に追いやったとしたら、どうなさいますか」
「困りゃしねえよ。負けるってのは、勝ちを数える手間が省けるってだけの話だ……むしろ、せっかくの積み木が理不尽に崩れる音がしねえ勝負なんて、退屈なだけだろ」
坂柳の手が、杖の上で止まった。
俺の顔をまじまじと見つめる。ブラフや強がりを探す目だ。だが、数秒の後、彼女は小さく息を吐き出した。
「……なるほど。本当に、ただの事実として口にしているのですね」
呆れたような、それでいて心の底から歓喜しているような声だった。
「あなたを窮地に追いやるなど、とんだ愚策でした。すべてを失うことすら厭わない相手に、脅しなど何の意味もないですね」
坂柳が、壁に立てかけた杖に軽く手をかけた。
「そうですね、面白いものほど、正体を急いで確かめない方がいい。それも、賭け事の作法の一つかもしれませんね」
この女、どこまで知ってやがる。
「――さあな」
坂柳はふっと小さく笑い、杖から手を離した。
「最後、もう一つだけ、今回の試験の話をしましょう」
坂柳は窓の外へ視線を流した。
「今日の話し合い、あなたはほとんど口を挟みませんでしたね。あれも、値踏みの一つですか」
「言葉を使わなくても、伝わることはある」
「――含蓄がありますね」
坂柳は小さく笑った。だが目の底までは笑っていない。今のやり取り自体が、また一枚、こっちの手札を写し取られた感触だった。
「一つ、こっちからも言っとく」
坂柳が、興味深そうに眉を上げる。
「なんでしょう」
「無人島、不参加だったんだろ。300のはずの持ち点が270からのスタートだった。欠けた一人分だ」
「――ええ。休んでいましたので」
坂柳は、それ以上でもそれ以下でもない顔で頷いた。今更どうということもない、当たり前の話をされたという反応だ。
「数字は嘘をつかねえ。喋る人間より、そっちの方が信用できる」
「では、私という人間は、あなたにとって信用ならない部類ということですね」
「今のところは、そういうことだ。数字を出せる人間から、順に、信用していく」
「では、次に会う時は、私も数字だけで話すことにしましょうか」
「その方が話が早い」
「ふふ。数字の方が、あなたにはよほど効くようですね。……あなたとの勝負は、存分に楽しめそうです」
「そうかい」
「では、また明日。良い夜を」
坂柳は軽く頭を下げ、杖を手に取った。立ち上がる仕草に、疲れは見えない。杖の音を鳴らしながら、部屋を出ていった。
残された部屋で、俺はもう一度、今のやり取りを頭の中で並べ直す。渡された情報は本物だろう。だが、渡された量以上のものを、あの女はまだ抱えている。取引は始まったばかりだ。
綾小路の名前を出さなかったことまで、あの女は見抜いた。取っておいている、という一点だけは、正確に読まれた。中身までは渡していない。それだけが救いだ。
厄介なのは、坂柳がこの情報を無償で渡したわけじゃないという点だ。次の取引の頭金――言い換えれば、こっちに借りを作らせる形で渡してきた。安い餌に食いついた時点で、もう一枚こっちの手の内が透けている。
龍園の探り方とは根本が違う。あっちは削って崩す。この女は、渡して縛る。どっちが厄介かは、まだ答えが出ない。答えを急ぐこと自体、この女の思う壺かもしれねえ。
もう一つ、引っ掛かることがある。
あの女、綾小路とは口を利いたことすらねえと言った。だが、あの目の熱だけは本物だった。
だとしたら――今日、あの女が本当に量りたかったのは、俺じゃねえ。俺の反応を通して、あいつの輪郭を透かして見る。俺を綾小路を引きずり出すための駒にする魂胆だ。
他人の盤面で踊らされる趣味はねえ。だが、向こうがこっちを従順な駒だと錯覚してくれるなら、それはそれで悪くねえ。使われるフリをして、懐の底をえぐってやる。そういう打ち方もある。
配牌は、また少し並び替わった。並べ方が見えている分だけ、こっちが有利だと思っていた。だが今日、その前提そのものを、静かに揺さぶられた気がする。
窓の外に目をやる。潮の匂いだけが、いつも通り部屋に忍び込んでくる。夕食前に感じた冷たさとは、少し違う匂いだった。
坂柳有栖。名前だけは、島にいる間からずっと聞いていた。龍園の又聞きで「島の外で何か仕込んでる」とは思っていたが、蓋を開けてみれば、想像していた以上に手回しが早い女だった。悪くねえ相手だ。むしろ、望んでいた部類に近い。
明日も、あの女は同じ席に座るだろう。次に渡してくる札が、餌なのか本命なのか。それを見極めるまでは、こっちの手も伏せておく。急いて崩れるのは、いつも先に動いた方だ。
最終日まで、まだ日はある。急ぐ理由はどこにもねえ。
箱の中の煙草は、まだ8本のままだ。今夜も、吸う理由には足りねえ。まだ、その時じゃない。
ここから先、アカギの過去について一人に公開していこうと思っています。誰に知って欲しいでしょうか。(続きが気になるからはお手隙の際に高評価もよろしくお願いします)
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須藤
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綾小路
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堀北
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坂柳
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龍園