「我ながら良いアンブッシュでヤンス。満点は固いでヤンスね」
一瞬でクローンヤクザとニンジャのミックスバラバラ死体が転がるツキジめいた光景を作ったクチュリエールがウンウンと一人で頷いている。ニンジャスレイヤーはその様子を遠い目で見ていた。現実味の無い光景を目にしたユリコはフリーズしている。
「どうしたでヤンスか?」
「何でもない、気にしないでくれ」
ニンジャスレイヤーはクチュリエールの疑問に首を振って答えた。
「あなた、ニンジャだったの?あのサイバーゴスの二人はどうしたの?」
「見ての通り、アッシはニンジャでヤンス。あの二人は邪魔にならないよう、気絶させてそこに押し込んだでヤンス。ニンジャのイクサに巻き込まれたら確実に死ぬでヤンス」
クチュリエールはフリーズから回復したユリコからの質問に答え、貨物室の棚に置かれた木箱を指差した。ユリコは二人が無事だった事に安堵した。
「それじゃあダイミョ・クラスに行くからニンジャスレイヤー=サンも着替えるでヤンス」
「待て、クチュリエール=サン。まだ仕留めるべきニンジャが残っている」
クチュリエールにニンジャスレイヤーは鋼鉄棺桶を指差して答えた。
「ジェノサイド=サンの事でヤンスか?アンタイ・ゾンビー・ウイルスで弱って棺桶から出られない上に、ユリコ=サンを守ろうとしてたから、放置するつもりだったでヤンス」
「奴も危険なニンジャだ。弱っているならここで仕留めなければ」
ニンジャスレイヤーの物言いを聞いて、ユリコは棺桶を背に両手を広げて立ちはだかった。
「ジェノサイド=サンは一旦放置するでヤンス。庇われる位に慕われているのなら、それを信じるのも悪くないと思うでヤンス」
「……わかった」
クチュリエールがニンジャスレイヤーの左手を掴んで制止する。数秒の逡巡の後、見逃す事にしたようだ。
「ニンジャスレイヤー=サン、ちょっと待つでヤンス……」
クチュリエールがケーブルを取り出し、貨物室の有線端子にLAN直結した。
「……残りのニンジャは二人共ダイミョ・クラスにいるみたいでヤンス」
「クチュリエール=サン、名前はわかるか?」
「グラディエイター=サンとフォビア=サンでヤンス」
クチュリエールは乗客名簿と監視カメラから残りのニンジャの位置を把握すると、ニンジャスレイヤーに伝えた。
「クチュリエール=サン、私はグラディエイター=サンにインタビューがしたい。フォビア=サンの相手を頼めるか?」「承知したでヤンス。通信を封鎖するから、ちょっと待って欲しいでヤンス……できた、行くでヤンスよ」
外部との通信と車内放送を封じ、監視カメラの撮影を止めて映像記録も全て消したクチュリエールは、ケーブルを抜くとハリコ・ジツでゲイシャ衣装に一瞬で着替える。続けてニンジャスレイヤーの手を握り、ハリコ・ジツでニンジャスレイヤーに一瞬で車掌の服を着せた。
二人はクチュリエールがいつの間にかユリコからスリ取っていたロック解錠素子でカチグミ・クラスのドアを開け、中に入って行った。
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列車強盗団からの執拗な攻撃中にマイコ等のサービスを頼もうとするような乗客はいないらしく、クチュリエールとニンジャスレイヤーは問題なくカチグミ・クラス車両を通り過ぎた。
ダイミョ・クラスのドアを開けると、そこにはオーガニック・タタミが敷き詰められていた。
ニンジャスレイヤーとクチュリエールのいる入口から見て手前にフロシキを羽織ったニンジャ、フォビアが座り、壁際を埋めるようにクローンヤクザ達が控え、車両中心にはフートンと無惨に破壊されたオイランドロイドが三体転がり、前方車両の近くにはグラディウスとバックラーを装備した臨戦態勢の古代の剣闘士めいた格好のニンジャ、グラディエイターが座っていた。
「手配したリアルゲイシャです」
車掌に扮したニンジャスレイヤーがゲイシャに扮したクチュリエールをフォビアに差し出した。
「サイクロプス=サンとヘッジホッグ=サンとは会わなかったのか?」
「恥ずかしながら、私は途中でお花を摘んでいたので、他の方達に先行して貰ったのです。トイレから凄い声と音がする上に、グチャグチャの死体が床に転がっていたのです。怖かったので、刺激しないようにここまで来ました……」
「そうかそうか……ではコレは俺の役得という事か!おい、持ち場に帰って良いぞ」
フォビアは車掌に帰るよう促すと、ゲイシャ衣装の帯を掴み、力任せに引っ張った。
「イヤーッ!」
「アーレエエエエエ!」
クチュリエールがタタミの上で独楽のように回転する。複雑な仕組みにより、クチュリエールが何重にも着ていたゲイシャドレスが自動的に剝かれ、黒地のPVCビキニ姿となった。ゴウランガ! クチュリエールの足がもつれて転倒する!
「ンアーッ!」
「ヨイデワ・ナイカ!……おい車掌、いつまでそこにいるんだ!」
フォビアは転倒したクチュリエールを下卑た野蛮な笑いと共に引き起こすと、クチュリエールから目を離して持ち場に帰らない車掌に怒鳴りつけた。フォビアの視界から外れたクチュリエールの手に鞘に収まったカタナが生成される!
「イヤーッ!」「フォビア=サン!」
クチュリエールのイアイと同時にグラディエーターの声が響く!忠告は間に合わず、フォビアの首が撥ねられた!クローンヤクザ達が懐に手を伸ばし、グラディエイターがクチュリエールに吶喊する!
「サヨナラ!」
「「「イヤーッ!」」」
「「「「「「「「「「アバーッ!」」」」」」」」」」
フォビアの爆発四散と同時にカタナを捨てたクチュリエールがチャクラムスリケンを投擲!車掌に扮したままのニンジャスレイヤーは割り込んでグラディエイターを迎撃!クローンヤクザ達はクチュリエールのチャクラムスリケンで首を刎ねられた!
ニンジャスレイヤーとグラディエイターが一旦距離を離し、その間にクチュリエールはハリコ・ジツによるニンジャ装束への早着替えを完了!
ニンジャスレイヤーが左手の袖に仕込まれた紐を右手で引き抜くと、スーツの縫い目が全て外れ、布切れと化してキャストオフ!中から出てきたのはいつもの赤黒ニンジャ装束だ!
「ドーモ、グラディエイター=サン。ニンジャスレイヤーです」
「ドーモ、クチュリエールです」
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。クチュリエール=サン。グラディエイターです」
三者揃ってアイサツを交わした。ふざけ倒したアンブッシュの後でもアイサツはアイサツ。されたのならば、返さなければならない。古事記にもそう書かれている。
「〝ネオサイタマの死神〟と〝ベイン・オブ・ソウカイヤ〟!貴様らが手を組むとは!……クソッ、貴様ら以外にハッカーまでいるのか!」
ふざけているが、念入りにフォビアの警戒を解いてから油断ならぬワザマエでアンブッシュしたクチュリエール。自分を正面から迎え撃って後退させたニンジャスレイヤー。この二人を相手にしているのに援軍を呼べない現状にグラディエイターは毒づいた。
「オヌシ、マルノウチ抗争の夜、ネオサイタマへと遠征したな?」
「ああ、いかにも。ならばどうした?」
ニンジャスレイヤーは静かにジュー・ジツの構えを取り、間合いをはかった。グラディエイターはタタミに唾を吐きながらニンジャスレイヤーの問いに答える。クチュリエールはグラディエイターの礼儀の悪さを見て訝しんだ。
「オヌシはすぐには殺さぬ……聞きたい事があるからな」
ニンジャスレイヤーはその目を憎悪に燃え上がらせ、メンポから蒸気めいた不吉な黒い息を吐く。クチュリエールはグラディエイターの真横に回り込んだ。
「……マルノウチ抗争がどうした?え?」
バックラーを前方に突き出した独特の構えで、グラディエイターはじりじりと間合いを詰める。
「あの抗争に巻き込まれた民間人を覚えているか」
「非ニンジャのクズどもの事など、覚えてはおらん。俺にブッダめいて説教を垂れるつもりか、ベイン・オブ・ソウカイヤが」
摺り足で間合いを詰める二者。ニンジャスレイヤーのカラテとグラディエイターのグラディウス・ドー、いずれも至近距離が必殺の間合いである。
「まさか、あの抗争の犠牲者だと……?」
「左様、妻子の仇……」
高まる緊張感、そして強敵との対峙によって高揚したグラディエイターは、不敵な剣闘士の笑いを無精髭の口元に浮かべた。
「妻子の仇……まさか、そんな他愛も無い理由で、お前は崇高なるザイバツ・シャドーギルドに戦いを挑むのか?」
「エッ!?その崇高なザイバツの古参なのに、さっきタタミに唾を吐いたでヤンスか?ザイバツが礼儀作法に厳しいとわかっているのに?」
クチュリエールの発言にグラディエイターの笑みが固まった。