「サイバーゴスシ?」
キョート共和国、アンダーガイオン第五階層。「サイバーゴスシ」のネオン看板を掲げたスシバーの前で黒髪の青年が呟いた。
ガラス張りの店内はネオンで照らされ、カウンターの中ではサイバーゴスの女イタマエがスシを握り、ネタケース内のベルトコンベアでキャストの元に送り、受け取ったサイバーゴスのキャストが客に手渡しで提供していた。
青年が店内のサイバーゴス女イタマエを見て目を丸くする。青と白のLANケーブルウィッグ、サイバーサングラス、サイバーガスマスク、シリコン製の蛍光リストバンドを身に付けた黒髪の女イタマエだ。その胸は豊満であった。
サイバーゴス女イタマエが気になった青年は吸い寄せられるように店内に入り、サイバーゴス女イタマエの前のカウンター席に着いた。
「イラッシャイマシ」
「ド、ドーモ」
カウンターの中からサイバーゴス女イタマエがオジギし、青年も戸惑いながらオジギを返した。サイバーゴス女イタマエの呼吸に合わせてシュコーパタンとガスマスクの弁が鳴る。
「タマゴ」「マグロ」「トビッコ」「ウニ」「エビ」「エンガワ」「タマゴ」「タラバーガニ」「Aセット」「Bセット」「カレーライス!」「ウドン!」
その時、他のカウンターの客達から矢継ぎ早に注文が入る!サイバーゴス女イタマエは流れるようにスシを握って皿に乗せ、ベルトコンベアで送り出し、並行して茹でたウドンも危なげなく器に盛り付けてツユを注ぎ、ネギを散らしてベルトコンベアで送り出す!
サイバーゴスの外見に似合わない一流のワザマエから繰り出される、客達を待たせない迅速な調理だ!タツジン!
青年はサイバーゴス女イタマエのワザマエに目を奪われつつもカウンター上のメニュー表に目を通す。
「何になさいます」
「マグロ」
「アイ、アイ、マグロ」
サイバーゴス女イタマエは頷き、成形マグロを取ると流れるような手つきでスシを握り、青年に提供した。
「マグロ、ドーゾ」
「旨い……!」
成形スシなのにオーガニック・マグロズシに慣れた舌でも美味しく感じる味に青年は驚いた。サイバーゴス女イタマエの外見とスシのワザマエのギャップに青年は困惑している。
「いかが致しましたか?」
「いや、気にしなくていい。知ってる顔に似てただけだ。タラバーガニをくれ」
「顔?……わかりました。アイ、アイ、タラバーガニ」
青年はサイバーゴス女イタマエを眺めながら、再びスシを注文する。シュコーパタンとガスマスクの弁が鳴った。
━━━
「どうした、シャドウウィーヴ=サン。何か気になる事でもあったのか?」
三日後、アンダーガイオン第五階層。ヤクザ達の死体が転がるヤケクソ・ヤクザクランの事務所で醜い鱗と漆黒の眼球を持つ異形のニンジャが全身にクナイダート・ベルトを仕込んだニンジャ装束を纏う青年に問いかけた。
「すいません、ブラックドラゴン=サン。三日前にこの階層のスシバーで食べたスシが記憶に残ってまして」
シャドウウィーヴと呼ばれた青年が恥ずかしそうに答える。
「この階層にそこまで気になる程に旨いスシバーがあるのか?」
「ハイ、ネタのグレードがアッパーより落ちてるのに、オーガニック・マグロズシに慣れていても旨いと感じる成形マグロズシが出てきました」
「それ程のワザマエだと……!?古代のリアルニンジャも一流のイタマエはモータルであっても重用した。ニンジャは本能的にスシを求める物だ。それ程のワザマエなら気になるのも仕方ないな」
シャドウウィーヴの台詞にブラックドラゴンは納得した。ニンジャは本能的にスシを求める。それは、江戸時代に打ちのめして拘束したニンジャを飢えさせ、目の前でスシを食べるスシ・トーチャリングという雅な拷問が産まれた事からも明らかである。
「それと、イタマエの顔が死んだ知り合いに似てたんです。……すいません、人間性を捨てないといけないのに……」
「気にし過ぎだ、シャドウウィーヴ=サン。俺はスシ屋のイタマエが似てただけで責めるほど狭量なつもりは無い。むしろ、腕利きのイタマエを見つけられる慧眼を褒めてやりたい位だ。
俺にもそのスシバーを教えてくれ、今日は俺が奢ろう。……そうだ、シテンノの皆も呼ぼうか」
━━━
今日の「サイバーゴスシ」は盛況だ。サイバーゴス女イタマエの腕が口コミで客を呼び、これ程の盛況をもたらしたのだ。
「サバ」「ウナギ」「オハギ」「カツオ」「マグロ」「エビ」「タマゴ」「エンガワ」「ガリ」「シロミ」「マグロ・ズケ」「バッファロー」「タコ」「ハマチ」「イカ」
カウンターの客達からは数日前以上のペースで注文が入り、サイバーゴス女イタマエは流れるようにスシを握って皿に乗せ、ネタケース内のベルトコンベアで送り出し、増えた注文にも難なく対応している。
突然、サイバーゴスキャスト達の顔色が変わった。ガラス越しに通りの向こう側を見てしまったのだ。客達も釣られてガラス越しに同じ方向を見て血相を変えた。
通りの向こう側からは醜い鱗と漆黒の眼球を持つメンポを付けた異形の男、革のボンデージ装束を身に付けた長身で妖艶なメンポを付けた美女、象牙色のニンジャ装束と猛禽の嘴めいたメンポを身に付け、背中に天使めいた巨大な翼を有する男、赤いニンジャ装束を纏い、「健」「康」とショドーされたガスマスクメンポを装着した巨漢、全身にクナイダート・ベルトを仕込んだニンジャ装束を纏う青年が「サイバーゴスシ」に向かって歩いて来る……五人が放つ異様なアトモスフィアはあからさまにニンジャなのだ!
キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!
電子決済音が鳴り響き、客達は我先に店を飛び出して夜のアンダーガイオンに逃げ出した!サイバーゴスキャスト達も店の裏口から逃走する!サイバーゴス女イタマエは一切動じずに席を離れ、皿を片付けてカウンターを拭いた!
サイバーゴス女イタマエだけが残る清掃中の店内に五人のニンジャが来店した。
「イラッシャイマシ」
シュコーパタンとガスマスクの弁を鳴らし、サイバーゴス女イタマエはいつも通りに接客する。清掃が終わっているサイバーゴス女イタマエの前の席に五人のニンジャが腰掛けた。
「この状況で一切動じてない……!?ここはニンジャの……スシバー!?」
「落ち着け、シャドウウィーヴ=サン。一流のイタマエはニンジャ相手でも狼狽えない」
「これは、稀に見る大当たりの店かもしれないわね」
五人はカウンター上のメニュー表に目を通す。メニュー表にはシャドウウィーヴが来店した時には無かった付箋が貼られていた。
【NEW! マグロ・ズケスシ 100円】
「この前来た時には無かったスシだ!」
シャドウウィーヴの発言と共にサイバーゴス女イタマエに五人の視線が集まった。
「何になさいます」
サイバーゴス女イタマエの問いかけに、五人のニンジャは思い思いのスシを注文した。
━━━
スシに満足した五人のニンジャが店を出る。これ以上の営業が無理である事を悟ったサイバーゴス女イタマエはニンジャ達の姿が見えなくなった所を見計らい、ドアに下げた「営業中」の札をひっくり返し「営業準備中」に切り替え、鍵を閉めた。
キッチンを片付け、店内を清掃してバックヤードに戻ったサイバーゴス女イタマエは自身の吐瀉物に塗れて動かないオーナーを見つけた。どうやら逃げ遅れたオーナーはカメラ越しのニンジャ・リアリティ・ショックによる嘔吐で窒息死してしまったようだ。
サイバーゴス女イタマエは冷静に救急車を呼び、ため息をついた。
「まだ給料貰ってないのに死なないで欲しいでヤンス……」
こいつは一体、誰クチュリエールなんだ……