(なんで客層的に来ないはずのザイバツニンジャが五人も来たんだろう?)
クチュリエールは留置室でベッドに腰掛けながらオーナーが死んだ日の事を思いつつ困惑していた。シュコーパタンと呼吸に合わせてガスマスクの弁が鳴る。
「サイバーゴスシ」のオーナーの死から四日後、ミズハシ・ミチルの偽名で活動しているクチュリエールはいまだにガイオン五層警察署で重要参考人として拘留されていた。
監視カメラの映像等、証拠は十分にあるが視聴した刑事がニンジャ・リアリティ・ショックで三名倒れてニンジャ案件と判明した為、捜査は実質的に中止されている。
刑事達の犠牲によりミチルは接客しただけの被害者であると判明しており、面子の為に拘留されているのが実情だ。
武装新幹線車両強奪事件から四週間が過ぎ、潜入期間もそろそろ終わる。ミチルは事件から現在に至るまでの日々を回想していた。
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「これで時間が出来たでヤンスね。証拠隠滅したから新幹線車両強奪事件の犯人はアッシだとザイバツに認識されてるはずでヤンス」
「……良いのか?オヌシだけが狙われる事になるのだぞ」
「ザイバツ相手にニンジャスレイヤー=サンが暴れずにはいられない事は知ってるから、その辺の心配はしてないでヤンス。
まず貴方の体調を整えて、それから置き去りにされた人達がガイオンに到着するタイミング……ジェノサイド=サンが列車強盗団を返り討ちにしてバイクや車を奪う事を考慮すると、一週間後くらいでヤンスか?そのくらいで合流して、難民に紛れるでヤンス。
難民の肩書きがあれば、多少ガイオンをうろついていても就活や迷子を装えば疑われにくいでヤンス」
「オヌシ、意外に考えて動いていたのだな」
武装新幹線から飛び降り、アッパーガイオンからアンダーガイオン五層まで潜って潜伏したクチュリエールとニンジャスレイヤーは今後の行動について相談していた。
「アッシがスシを握るから、ニンジャスレイヤー=サンには、ゆっくり身体を休めるついでにアッシと互いにインストラクションして欲しいでヤンス。アッシのカラダチやホーミングスリケンを教えるから、貴方のチャドー呼吸とスリケン技を教えて欲しいでヤンス」
「かたじけない、クチュリエール=サン。……先を考える事自体は出来るというのに、何故オヌシは株であんな事をしてしまったのだ?」
「痛い事実をつつかないで欲しいでヤンス……」
外食代をケチりたい層向けのキッチン付きホテルに泊まった二人は、互いにインストラクションし合いつつ一週間身体を休めた。
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一週間後、予想を的中させて難民達に合流し、難民の肩書きを得る事ができた二人は別れて行動を開始した。
クチュリエールは就活中のマスクを着けた若年男性に偽装し、ヤンス口調を封印しつつ、ニンジャ身体能力をフルに活かしてヨタモノ等のトラブルを回避して、情報収集とうろ覚えの原作知識を思い出す為に数日かけて十三層まで見て回った。
八階層では鹿を捕まえて回る武装車両と、武装車両がヨロシサンの工場に入る様子を目撃、撮影し、九階層ではいくつものヤクザクランが壊滅して一つに纏められたという話を聞き、十三階層では巨大削岩機とモッチャムやらサイゴンと口走りながら労働に勤しむ狂った編笠男……フォレスト・サワタリを目撃した。
クチュリエールの脳裏に鹿のバイオニンジャの存在と十四階層から下を削岩機で砕くザイバツの計画がうっすら思い出される。
(なんだったかな……八階層でやってる鹿の捕獲って確かバイオニンジャ絡みだったような……)
クチュリエールは拾ったバイオモグラを撫で回しながら思案する。バイオミミズを狩るのが上手いモグラなのか、その身体はよく肥えていた。
噂をすれば影と言うべきか、視線を感じて振り返ると編笠の男……フォレスト・サワタリがクチュリエールが撫で回すバイオモグラを物欲しそうに見ていた。
「うわぁ!?」
クチュリエールが驚いた拍子に封筒を落とし、バイオモグラを放して逃げ出すと、サワタリはバイオモグラに飛びついて捕まえ、彼は腕の中で暴れるバイオモグラの首を摑み、一捻りで絞め殺して新鮮なタンパク質を得られた事に喜んだ。
「タンパク質ヤッター!……これは!?」
サワタリはクチュリエールが落とした封筒を拾うと中の写真を取り出して確認した。ヨロシサンの工場に武装車両が入って行く写真を見たサワタリは驚愕の後、クチュリエールを探すが見つからない。
クチュリエールはサワタリの視界から外れた瞬間にジツで着替えて別人を装い、サワタリの様子に困惑した振りをしながら、回り道で上層行きのリフトに向かったのだ。靴もジツで数回変えたので、足跡を追跡する事も難しい。
クチュリエールがサワタリに驚いたのは演技ではないが、封筒を落としたのはわざとである。うろ覚えの原作知識が〝ヨロシサンとバイオニンジャだし、サワタリをぶつければ良いだろう〟とクチュリエールにこのような行動をさせたのだ。
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新幹線車両強奪事件から二週間後。アンダーガイオン五層に戻ったクチュリエール改めミズハシ・ミチルは求人情報を元に仕事探しをしていた。
ヨロシサンにサワタリを誘導できたので、やれる事はやったと思い、潜伏の為の隠れ蓑を求めたのだ。ふと、彼女の目に「サイバーゴスシ」の求人チラシが映った。高めの時給が書かれており、女イタマエ歓迎とも書かれている。
伊達にクチュリエールとしてソウカイヤの偵察諜報部門時代に高い給料とインセンティブを貰っていた訳ではない。その金で一流店のスシのイタマエやソバ・シェフの手さばきを客として注視し、食べて味付けを覚え、それら全てをニンジャ学習能力で己の血肉に変えたのだ。潜入の一環でイタマエ業をしたことも何度かある。
ザイバツニンジャはその選民思想故にオーガニック・マグロズシ等の良い物を食べ慣れている事はソウカイ・ニンジャも知っている。この手のコンカフェやメイド喫茶めいた店の客層とザイバツニンジャが重なる事は無いのだ。自重せずイタマエをやったところでニンジャと遭遇する可能性はかなり低い。
クチュリエールは電話をかけてアポを取り、イタマエの採用試験でワザマエを披露して「サイバーゴスシ」のサイバーゴス女イタマエの座をあっさりと勝ち取った。
大変な上に客と話し難くてチップを貰いにくいこのポジションは、従業員達の間でも人気が無いポジションなのだ。
ミチルはタイトな黒PVCスーツを着て青と白のLANケーブルウィッグ、サイバーサングラス、サイバーガスマスク、シリコン製の蛍光リストバンドを身に付け、カウンターキッチンでのイタマエ業に臨んだ。
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新幹線車両強奪事件から四週間、ミチルがイタマエを初めてから一週間と数日後。その日はアンダーガイオンにおける給料日に設定されがちな日だからか「サイバーゴスシ」は盛況だった。
この店のスシは安い。それは安いスシで客寄せしつつ財布を緩ませてからスシの分の値段を乗せたドリンクをサイバーゴスキャストのおねだり等で買わせるビジネススタイルだからだ。客達は一人、また一人とキャストのおねだりかミチルの握るスシの味に屈してドリンクを追加注文していく。
そうして時間が過ぎた真夜中の11時、閉店時間が近付いて来た頃。ガラス張りの壁越しに、店に近付く異様なシルエットの五人組を見てサイバーゴスキャスト達の顔色が変わる。客達も釣られて振り向き、血相が変わる。
「「アイエエエエエエエ!」」
店中から電子決済音が鳴り響き、サイバーゴスキャストと客達が我先にと逃げ出す。幸運にも怪我人は出なかったようだ。五人組は明らかにニンジャである。逃げ出すのは当然の対応だ。
ミチルは店内の皿を回収してカウンターを拭く。イタマエである以上、客の前で手を抜く事は出来ない。
「イラッシャイマシ」
入口のドアが開き、五人組が入店する。ニンジャでも圧倒されるアトモスフィアだが、ミチルはイタマエとしての矜持で微動だにせず耐えきった。
「この状況で一切動じてない……!? ここはニンジャの……スシバー!?」
「落ち着け、シャドウウィーヴ=サン。一流のイタマエはニンジャ相手でも狼狽えない」
「これは、稀に見る大当たりの店かもしれないわね」
ミチルはニンジャでイタマエだ。その推測は両方共正しい。緊張した顔をサイバーサングラスとサイバーガスマスクで覆い隠し、手を洗ってカウンターキッチンに立つ。
「この前来た時には無かったスシだ!」
「何になさいます」
シャドウウィーヴの発言と共にサイバーゴス女イタマエに五人の視線が集まる中、ミチルは注文を取った。
来るならば来い、イタマエとして注文に応えきってやる。
ミチルは五人のニンジャ達からの注文に対し、期待以上に応えた。
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「ミズハシ・ミチル!お迎えが来たぞ!」
「ナンデ?」
ミチルが回想していると、外から看守に声をかけられた。
スチール・ショウジ戸が開き、困惑と共にミチルが室外に出ると、看守と背が高い豊満な美女が待っていた。美女はアイシャドーと隈取りで飾られた、紫色の虹彩を持つ眼を持ち、ボンデージめいた黒革の極めて短いワンピースを着てメンポを付けている。豊満な胸元は大きく開いて臍も露わになっており、スカートのスリットからは白い太腿が覗いていた。
「ファハハハハ、お姉さんと一緒にお話しましょう?アカチャン」
美女は目線を合わせてミチルに囁く。シュコーパタンと呼吸に合わせてガスマスクの弁が鳴る音が廊下に響いた。
叙述トリック的な話ですが、クチュリエールのニンジャ装束について素顔が出るとは書いてないのでザイバツ側はクチュリエールの素顔を知らない物とさせてください。