もし、コンビ解消した真城に相田班長がちょっとだけ早く接触して『原作:蒼樹紅』の作画をすることになったら 作:蒼樹組
前日、集英社にて。
WJ(ウィークリージャンプ)編集の服部哲は当惑した。
「ええっ!? 真城くんが!?」
「なんだ、聞いてなかったのか?」
「いえ、まったく……」
同じく編集部で班長の相田から聞かされたのは、持込時代から目にかけてきた真城最高が、ストキン準キングのネームの作画担当をするという話だった。
「あの、相田さん、どうにかならないでしょうか」
「とはいってもな、蒼樹くんもすっかりやる気だし、ここで降りると言われても困るぞ」
「それはわかるんですが」
服部は言葉に困った。
(真城くんたちのことはずっと担当編集のように見てきた。だけど二人はまだ契約もしていない新人。他紙への持込も禁止はできないし、まして他の編集に取られたくないなんて俺のわがまま)
とは言っても、やはり諦めきれない。
(真城くんと高木くんはピッタリ息があっている。原作と作画がいい方向に化学反応を起こしている)
二人には、漫画家『亜城木夢叶』として成長してもらいたい。
「相田さんは、『
「ん? それはそうだろう」
「僕は、真城くんに連載させるのは早いと思っています。せめて高校卒業を待ってからでも」
相田は意見を聞き入れたような、聞き入れていないような「読切を描かせて、結果を見てから考える」というあいまいな答えで返した。
当然だ、と服部も思った。
(まずいな、早く手を打たないと)
服部の計画だと、3ヶ月かけて原作の高木秋人にミステリの勉強をさせる。そして高校卒業までネームを練らせ、卒業とともに連載デビュー。
だが、相田班長が割って入ったことでそんな悠長なことを言っていられなくなった。
席を立つ。喫煙ルームに入り電話を掛ける。
数コールの内に応答が来る。
『はい、高木です。すみません服部さん、まだ話が出来てなくて』
「それは後でいい。明日編集部に来れるかな」
『え、じゃあ19時くらいに』
◇ ◇ ◇
そして先刻。
高木は服部から事の顛末を聞いた。
(サイコーは原作を見つけて読切か。『
ストキン準キングを取った作品だ。編集部にはデータが残っている。さすがに持ち出しはNGだが、編集部内で受賞作として見せることは禁止されていない。
これから真城の作画を競う相手だと紹介され、焦りと、絶対に負けるかというやる気が溢れた。
そんな折だった。
神保町の駅周辺のカフェで真城の姿を目撃したのは。
「え、サイコー? こんなところでなにしてんの?」
「シュージン……」
振り返る相方の驚いた様子で、ようやく、彼が女性と相席していることに気付く。
若くてカワイイ女性だ。
脳に閃光のようなヒラメキが走って――、
「ち、違うからな!? こちらは蒼樹さん。ジャンプの連載を目指してる
「そんなに仕事関係って強調しなくても……」
やっぱりか、と思った。
(そっか、サイコーは俺が服部さんから話を聞いてることを知らない)
などと考えつつ、同じジャンプ連載を目指すライバルとして挨拶をするべきかと思い直す。
「高木秋人です。真城とは同級生で、一緒に赤マルジャンプに掲載されたこともあります」
「! 高木さんでしたか。『この世は金と知恵』……私はいいと思いませんでした」
真城は、また言ってるよ、どんだけ嫌いだったんだよ、と内心で思って、それからふと違和感に気付いた。
(あれ? シュージンなら「失礼ですけど、蒼樹さんはどんな話を?」ってムキになるかと思ったけど)
服部から事前にネームを見せてもらっていた高木はレベルの高さを理解していて、食い下がることが無かった。
まして、見せてもらったのはネームなのだ。
真城に作画をしてもらった経験があるからこそ、二人が手を組めば、さらに面白くなることが目に見えている。
服部も同じ意見であり、そこに疑いの余地は無い。
「サイコー、俺、絶対面白い作品作るから! サイコーが、もう一度組んでもいいって思えるくらいスゲーやつ!」
考えた末に出た結論は、絶対に負けたくない、だった。
だから真城も少しだけ剣幕に息を呑み、
(やっぱり、いつものシュージンじゃん)
と、負けん気の強さに思わず笑みがこぼれた。
だが、この宣言に反応したのは、意外にも真城より蒼樹の方が早かった。
「高木さん、同じ原作者として宣言させていただきます。それは不可能です。なぜなら私の『
言いかけた言葉を詰まらせて、真城を一瞥し、高木と向き直ってから、訂正。
「
◇ ◇ ◇
本来の歴史において、蒼樹は自身の作品に絶対の自信を持っていた。
近未来杯という新人読切企画で意見交換会を開いた際には徹底して『
その後紆余曲折を経て力量不足を認め、さらなるパワーアップをして戻ってくるわけだが、真城と組んだこの世界の蒼樹紅は既にその領域に踏み込んでいる。
故にこそ、『私の』ではなく『私たちの』。
だが、その言葉にもっとも当惑したのはほかならぬ彼女自身だった。
(私、どうしてこんなところで張り合って……)
ストキン準キングを取って以来、特定の誰かに作画を担当してもらいたいと思ったことなんて無かった。
自分の話に自信があるゆえに、平均水準の画力があれば誰でもいいとすら考えたこともあったかもしれない。
だが、いま、目の前に、作画を担当してくれる人の「以前の相棒」が現れて、「もう一度組んでもいいと思える作品を」という宣言を受けて、
――嫌だ。
と、胸に針が刺さったような痛みを覚えた。
◇ ◇ ◇
面白い話を作る人間に共通する才能がある。
人間を観察する能力である。
高木秋人も中学時代、「真城と亜豆が両片思いである」ことを、「一番後ろの席だから」という理由で看破している。
だから、気付いた。
(あれ? 蒼樹さんって、ひょっとしてサイコーのこと)
だらだらと冷や汗が流れ出す。
(やべー!? いや、サイコーに限って亜豆と二股なんてありえないとは思うけど)
いくら亜豆と真城が信頼し合っているからと言って、内心穏やかではいられないだろう。
二人とも頑固だし、一度決めたらなかなか折れない。
破滅的な仲たがいのきっかけになる危険すらある。
(つーか原因、俺!)
夏休み中にネームを作れなかった。
本気でアニメ化を目指してる真城の足を引っ張ってしまって、本当に悪いと思った。
だが、申し訳ないでは済まないレベルまで話がこじれてしまっている。
まさかこんなことになるなんて。
「俺も……絶対負けません!」
負けられない理由が増えた。
◇ ◇ ◇
真城たちと別れた後、高木は自宅にて、作りかけのシナリオを見返していた。
(こうしてみると、サイコーを納得させられるレベルには全然達してないんだよな)
つまらなくはない。だが、圧倒的でもない。
面白い話を作れる人間はたくさんいる。
その中で、これじゃなければダメだと思わせる決定力が無ければいけない。
(蒼樹さんはストキンの準キング。その上となると、キングを受賞するくらいの出来じゃないと)
だがキング受賞者はなんと歴史上ただ1人。
『アイシールド21』の原作である稲垣理一郎のみである。
ちなみに稲垣氏はその後『Dr.STONE』や『トリリオンゲーム』も手掛けている。
服部に言わせれば、一作で終わらない計算型。
『アイシールド21』の主人公は、『臆病なのに、フィールド上で誰よりも目立つ高速のランナー』。
翻って、高木がいま手掛けているのは『透明探偵スケルトン(仮題)』。
(やっぱりキャラクターが……! いや、ストーリーも、オリジナリティも……全部じゃん!)
頭を掻きむしって大声で叫ぶ。
書けない。
いや、書くことはできる。
だが、『アイシールド21』と並ぶ作品となると、至らない点が多すぎる。
それもそのはず。
読切掲載すら確約されていないストキン準キングとは異なり、キングは本誌か増刊号で掲載が確約される賞。
史上1人しか受賞していないことからもわかる通り、言ってしまえば、新人に紛れ込んだ事実上のプロに与えられる栄誉なのだ。
要するに、本誌でも戦える即戦力レベルの話を、高木は一人で、真城たちが連載にこぎつける前に作らなければいけないのである。
(くっそー、絶対負けたくねー)
なお、服部から「最低でもこれくらい勉強しろ」と推理ものの小説や映画のDVDがダンボール6箱分届くのはこのすぐ後のこと。
原作の高木→8月ネーム0本、9月ネーム5本
「見吉といたから書けなかったわけじゃない」ってのも本心なんだろうけど、やっぱサイコーに発破かけられてエンジンかかった感ある9月5本が好き