無人兵器・Gビットと有人モビルスーツによる模擬戦。その中で、ハサン・ヴェイルの活躍はいかに?。
新たな機体の構想と、ハサンの未来へつながる一話です。
どうぞお楽しみください。
「だから、六機とも同じことを考えちゃうんだよ」
ロロが画面の上で、六つの丸を指で囲んだ。
月面アナハイム・エレクトロニクス。
試験管制室の中央には、球形の機体が六機、立体映像になって浮かんでいた。
丸い胴体。二本の作業用アーム。
上部に取り付けられた砲。
「同じ判断を共有する。それが利点だと言っている」
カロッゾは腕を組んだ。
「味方同士で指示を待つ必要がない。狙う相手も、攻撃する順番も、即座に揃えられる」
「でも、一人じゃ思いつかないこともあるでしょ?」
「そのための自動制御だ」
「その機械にも思いつかなかったら?」
カロッゾの眉が、わずかに動いた。
二人の間へ、レオナージが端末を差し入れた。
「その続きを、今日は実物で確かめましょう」
窓の向こうでは、発進用の架台から六機のボールが運び出されていた。
かつて人間が乗っていた操縦席には、今は制御装置が詰め込まれている。
Gビット。
建造中の大型実験船を守るための、無人防御兵器だった。
操縦者の意思をニュータイプ用の制御系で伝え、照準や姿勢の調整は各機の機械が補助する。
今日のボールは、その仕組みを試すための仮の身体だ。
先日の試験で道筋のついたビーム収束部は、すでに別の技術班が大型化を進めていた。
ロロとカロッゾの言い合いは、砲口から、その船を守る機体へ移っていた。
「しかし、ボールとはなあ」
背後でジュドが、懐かしそうに鼻を鳴らした。
「ずいぶん安く上げたじゃねえか」
「壊されても困らない機体を選びました」
「おいおい。壊す前提かよ」
「今日はペイント弾ですから、洗って返していただければ結構です」
レオナージが笑う。
その横で、リィナが貸し出されたヘルメットを抱え直した。
「私まで乗る必要、あるの?」
「経験の違う方に参加していただくことにも意味があります。無理はしないでください」
「俺の後ろにいればいいさ」
ジュドが親指で自分の胸を指した。
「六機くらい、あっという間だぜ」
「そういうことを言う時が、いちばん心配なのよ」
ロロが笑いかけた時、廊下から早足の足音が近づいてきた。
「ハサン。そんなに急がなくても、まだ時間はあるわ」
「はい! でも、先に機体を確認しておこうと思いまして!」
ハサン・ヴェイルが、ルチルと並んで入ってくる。
着込んだパイロットスーツの襟を、何度も指で直していた。
「今日は、よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
ルチルは微笑むと、自分のヘルメットを軽く持ち上げた。
「でも、手加減はしないわよ」
「も、もちろんです!」
その返事を聞きながら、後ろに立つ仮面の男は試験区域の図を見ていた。
エイデン・クロウ中佐。
視線が一度だけ、六機の配置をなぞる。
「準備に入るぞ、ハサン」
「はっ!」
ハサンは背筋を伸ばし、その背中を追いかけた。
◇
月面から少し離れた試験宙域に、六機のジェガンが並んでいた。
ジュド、エイデン、ハサン、リィナ。そして二人のテストパイロット。
それぞれが、訓練用の銃を握っている。
向かい合うのは、六機のボール。
推力と模擬兵装の条件は、比較試験用に調整されていた。
周囲には、遮蔽物となる無人の標的ブロックが浮かんでいる。
そのさらに外側を、試験区域を示す発光標識が取り囲んでいた。
『胸部の指定箇所への命中、または規定の損傷点で撃墜判定となります。判定後は射撃を停止し、誘導に従って退避してください』
管制の声に、ハサンは小さく頷いた。
操縦桿を握る手が汗ばんでいる。
グローブの中で指を開き、握り直した。
大佐に、Gビットシステムの役に立ちたいと言った。
言ってしまった以上、何かを見せなければならない。
正面のボールが、わずかに姿勢を変えた。
――あれを、全部ルチルさんが。
管制室の隣に設けられた制御ブースで、ルチルは静かに息を吐いていた。
周囲の画面に、六機分の映像が並ぶ。
目を閉じる。
自分の外側に、六つの身体がある。
右へ向こうと思えば、右へ向く。
散ろうと思えば、互いの間隔を保ったまま広がっていく。
「接続、問題ありません」
ガラスの向こうで、アークが頷いた。
「では、始めよう」
管制室の正面モニターに、十二機の識別表示が灯った。
ロロが椅子を引き寄せ、カロッゾはその隣に立つ。
開始まで、三秒。
「悪いな。撃墜数は、俺が全部もらうぜ」
ジュドが笑った。
二秒。
ルチルの目が開く。
「ジュドさん。あなたから行きますよ」
一秒。
「あなたが、いちばん厄介だから」
開始灯が緑へ変わった。
六機が、一斉に噴射した。
「おっ――待て!」
ジュドが銃を上げた時には、正面と左右、頭上と足元に砲口があった。
盾を振る。
その裏へ、最後の一機が回り込んだ。
胸部に、鮮やかな塗料が弾ける。
《撃墜判定》
「はあっ!?」
管制室で、ロロが額を押さえた。
「あっちゃー……ジュドさん、何やってるの」
「お嬢ちゃん! いきなり六対一は卑怯じゃねえか!」
ジュドの声を拾うモニターの隣で、ルチルが口元を緩めた。
「あなたには、六機必要でしたから」
次の標的へ、視線を移す。
その瞬間、二つの画面が赤く染まった。
「えっ――」
一機は下から。
もう一機は、振り向きかけた胴体の側面から。
続けざまに撃墜判定が表示される。
標的ブロックの下を抜けてきたジェガンが、銃口を上げていた。
「お嬢さん。足元がお留守だよ」
エイデンだった。
「いつの間に……!」
ルチルの指が、肘掛けを掴んだ。
エイデンのジェガンは、すでに次の遮蔽物へ向かっていた。
「さて。次の相手は、私だろう」
◇
「なるほど」
カロッゾが、ロロへ顔を向けた。
「六機いても操縦者は一人。その一人が見落とせば、六機とも見落とすのか。君の言うことにも、一理あるらしい」
ロロは、少しだけ胸を張った。
「でしょ。一人で全部を操るって、そういうことなんだよ」
「だが――」
「え?」
カロッゾの視線が、画面へ戻る。
警告音が三つ、立て続けに鳴った。
《四番機・撃墜判定》
《五番機・撃墜判定》
《六番機・撃墜判定》
「ごめん、ロロ。私もやられちゃった」
リィナの申し訳なさそうな声が響く。
その画面の胸元には、塗料がべったりと付いていた。
「ええっ、もう!?」
「有人機にも、問題はあるようだな」
カロッゾは、消えた三つの識別表示を指さした。
「パイロットの腕前次第で、こうも戦力差が生まれる」
ロロの胸が、すとんと元へ戻った。
レオナージは二人の間で笑いをこらえながら、残る機体を拡大する。
ジェガン二機。
Gビット四機。
ルチルの表情から、先ほどの笑みは消えていた。
「今度は、見失いません」
四つの砲口が、エイデンを追った。
◇
「速い……!」
ハサンは照準を動かした。
Gビットが一機、横切る。
追いかけて引き金を引く。
外れた。
照準を戻した時には、相手はもう別の場所にいた。
その向こうで、エイデンのジェガンが身をひねる。
四方から飛んでくる弾を、盾と短い噴射でかわしていた。
「中佐を、援護しないと……!」
ハサンはもう一度撃った。
ボールの球形の胴が、くるりと向きを変える。
返ってきた一発が、ハサンの頭部すれすれを抜けた。
「うわっ!」
操縦桿を引く。
引きすぎて、機体が大きく上を向いた。
どこだ。
今の一機は、どこへ行った。
探すうちに、別の砲口がこちらを向いた。
右か。
左か。
どちらへ動けばいいのか分からない。
ハサンの指が、止まった。
その肩へ、横から強い衝撃が来た。
「うわあっ!」
回避してきたエイデンの機体と、ぶつかっていた。
二機の肩が擦れ、姿勢が崩れる。
「何をやっている、ハサン!」
鋭い声が飛んだ。
「模擬戦とはいえ、戦闘中だぞ! 止まるな!」
「す、すみません!」
エイデンの盾に、二発のペイント弾が弾けた。
盾の表示が赤へ変わる。
ルチルは、その一瞬を逃さなかった。
「今なら……!」
四機が、逃げ道を塞ぐ。
エイデンは使えなくなった盾を引き、後方へ噴射した。
追いすがる先頭の一機へ、銃口を向ける。
「近い」
一発。
ボールの正面が染まった。
「それでも、まだ!」
ルチルが残る三機を開かせる。
上下からの射線が重なる直前、エイデンは機体を横倒しにした。
そのまま、真下の一機へ撃つ。
命中。
同時に、背後から回り込んだボールの弾が、ジェガンの胸を捉えた。
二つの撃墜判定が、ほぼ同時に点灯する。
「……そこまでか」
エイデンは引き金から指を離した。
制御ブースで、ルチルがようやく息を吐いた。
額に浮かんだ汗が、こめかみを伝う。
六つあった画面のうち、動いているのは二つだけだった。
◇
「中佐……?」
ハサンは、後退していくエイデンの機体を見た。
味方の表示が、すべて灰色になっている。
動けるのは、自分一人。
自分が邪魔をしなければ。
そう思った時、二機のボールが左右へ分かれた。
「残るのは、ハサン。あなただけね」
ルチルが姿勢を正す。
「あなたなら、二機で十分よ」
左の一機を前へ出す。
右の一機は、その後方へ。
前から追い立て、逃げた先を後ろから狙う。
ハサンの喉が、ひゅっと鳴った。
――右は、駄目だ。
左の砲口へ向かって、機体を沈める。
一発が肩の上を通り過ぎた。
続く一発は、誰もいない右側を抜けていく。
「あら?」
ルチルが目を細めた。
ハサンは震える手で銃を向ける。
撃つ。
当たらない。
狙い直そうとした途端、背筋が冷えた。
――ここも。
噴射。
さっきまで胸のあった場所を、二発の弾が交差した。
「また……?」
ルチルの唇が、わずかに開いた。
「それなら、こっちはどう?」
二機が別々の標的ブロックの陰へ消える。
ハサンは正面を見た。
何もいない。
けれど、そこにいてはいけない気がした。
身体を縮めるように、操縦桿を倒す。
ジェガンが下へ滑った。
上下に開いた砲口が、その背後を撃ち抜く。
「どうして、そっちへ逃げるの……!」
ルチルは身を乗り出した。
ハサンの呼吸は乱れていた。
逃げてばかりだ。
銃を構える余裕さえ、なくなっている。
でも、止まってはいけない。
『止まるな!』
叱りつけた声が、耳に残っていた。
「分かってます……分かってますから!」
横へ。
今度は、前へ。
ペイント弾が脚の間を抜けた。
機体をひねる。
次の弾が、背負った推進器をかすめて消える。
管制室で、ロロが画面へ近づいた。
「ハサン……」
カロッゾは何も言わず、戦闘映像の隣に操作記録を開いた。
残り、十秒。
ルチルの指先が、肘掛けへ食い込んだ。
「今度こそ!」
ボールが一機、正面へ飛び出す。
もう一機が、足元へ潜った。
ハサンには、どちらも見えていた。
なのに、銃口を向けることができない。
胸の奥がざわつく。
「そこには――!」
ジェガンが、後ろ向きに転がるように回った。
足元からの一発が空を切り、正面の一発は持ち上がった膝の下を抜けていく。
電子音が、長く響いた。
『試験時間終了。全機、射撃を停止してください』
ハサンは操縦桿を握ったまま、動けなかった。
息をする音だけが、ヘルメットの中に響いている。
「……終わった?」
制御ブースで、ルチルが二つの画面を見つめていた。
二機とも、動いている。
弾も残っている。
その向こうにいるジェガンには、撃墜判定が出ていなかった。
◇
管制室へ戻ると、正面の画面に戦績が並んでいた。
《エイデン・クロウ 撃墜数 四》
その下には、ゼロが続いている。
《ハサン・ヴェイル 撃墜数 〇》
ハサンは、自分の名前の前で足を止めた。
「いやあ、開始直後に六機はねえだろ、六機は」
ジュドがまだぼやいている。
「開始前に、全部もらうって言ってたじゃない」
「撃たれる方とは言ってねえよ」
リィナの言葉に返し、ジュドは肩をすくめた。
近くの整備員が吹き出す。
ハサンは笑えなかった。
中佐は、四機。
自分は、ゼロ。
しかも、その中佐の邪魔をした。
「ハサン」
振り向くと、仮面の男が立っていた。
「自分がどこで止まったか、覚えているか」
「……はい」
「敵だけを見て、味方の位置を見失った。そのうえ、敵の前で動きを止めた」
ハサンの視線が落ちる。
「今回が模擬戦でよかったな」
エイデンの声は低かった。
「これが実戦なら、お前は死んでいたぞ」
「はい。申し訳、ありませんでした」
ハサンは深く頭を下げた。
上げた顔には、無理に作った笑みが残っていた。
「次は、邪魔をしないようにします」
ヘルメットを抱え直し、出口へ向かう。
ルチルが口を開きかけた。
だが、ハサンは誰とも目を合わせず、扉の向こうへ消えていった。
その後を追おうとしたエイデンの腕を、ルチルが掴む。
「中佐。それは、少し言い過ぎではありませんか」
エイデンは、閉まった扉を見ていた。
「……そうだな」
しばらくして、静かな声が返った。
「私も、似たような過ちを繰り返した。偉そうに言える立場ではない」
ルチルの手から、少し力が抜ける。
「だが、あいつには生きていてほしい」
仮面の奥の目は見えなかった。
エイデンはそれ以上何も言わず、ルチルの手が離れるのを待った。
◇
人のいなくなった管制室で、レオナージが冷めたコーヒーを口へ運んだ。
「さて。お二人の感想を聞きましょうか」
ロロは椅子の上で、足を揃え直した。
「思っていたより、ずっと動きが揃ってた。ルチルさんが狙った相手から、簡単には離れないんだね」
「個々の機体に迷いがないからな」
カロッゾが記録を閉じる。
「ただし、操縦者が予想しなかった方向への対応は遅れた。そこは認める」
「でも、有人機なら大丈夫ってわけでもなかった」
ロロは頬をかいた。
「一人ずつ考えてても、お互いの邪魔をしちゃうことはあるんだね」
「ええ。今日は、そこまで確かめられた。有意義な試験でした」
レオナージは端末へ短く書き込んだ。
「どちらかを捨てるには、まだ早いですね」
「同感だ」
カロッゾが頷く。
それで終わりかと思った時、彼はもう一度画面を開いた。
「それと、ハサン・ヴェイル。あの少年が気になった」
「えっ。ハサン?」
ロロが顔を上げた。
「意外。カロッゾさんなら、エイデンさんの方かと思った」
「あの男の技量は、戦績を見れば分かる」
カロッゾは、ハサンの名を選んだ。
「この少年は、戦績だけでは分からん」
レオナージがカップを置く。
「どういうことです?」
「注目したのは、一機だけ残ってからの動きだ」
映像が始まった。
二機のボールが左右へ分かれる。
左が前へ出て、右が後ろへ回る。
ハサンのジェガンが、左へ沈んだ。
カロッゾが画面を止める。
「ここだ」
映像の下には、操縦桿と噴射の記録が重なっていた。
「まだ、相手は撃っていない」
ロロが身を乗り出す。
「……撃たれる前に、逃げてる」
「次もだ。その次も」
映像が進む。
怖がって、逃げ回っているだけに見えた動き。
その一つ一つが、撃たれる場所を先に外していた。
レオナージが、眼前の画面を拡大した。
「なるほど。勘だけで長く生き残った、と片づけるわけにはいきませんね」
「射撃は未熟だ。味方との連携も、まだ使い物にはならん」
カロッゾは、今度は別の瞬間で映像を止めた。
ハサンが避けながら撃ち返した、最後の一発だった。
細い射線が、二機のボールの間を通っている。
「だが、この時、二機とも彼の正面にいた。撃つ機会までなかったわけではない」
「当てられなかっただけ……?」
「そうだ。例えば、あの試験砲で扱ったような大出力のビームで、この間を薙げたなら」
カロッゾの指が、二機の間を横切った。
「勝敗が反転していた可能性はある」
ロロは画面を見つめた。
ハサンの機体は、避けるたびに銃口まで大きく振られていた。
その銃を引き戻す頃には、敵はもう次の攻撃に移っている。
「……そっか」
ロロが、空いているディスプレイを引き寄せた。
「ロロさん?」
指先が動く。
ジェガンの基本図を呼び出し、腕に持たせた銃を外す。
代わりに、背中から肩へ伸びる線を一本引いた。
胴体を描き直す。
推進器の位置を変える。
別の窓から、試験砲の収束部を持ってくる。
カロッゾが片眉を上げた。
「それを、その大きさに収めるつもりか」
「丸ごとじゃないよ。必要なところだけ」
ロロは答えながら、余分な部品を消していく。
机の上のコーヒーが片づけられたことにも、気づかなかった。
やがて、指が止まった。
「レオナージさん。この機体、どうかな」
差し出された画面を見て、レオナージは目を見開いた。
人型の機体。
その背から肩の上へ、長い砲身が伸びていた。
まだ余白も、書きかけの線も多い。
それでも、動力をどこへ通し、どこを動かそうとしているのかは読み取れた。
「もう、ここまで描いたんですか」
「機体が避けても、砲の方で狙いを補えるようにしたいんだ。ハサンが撃ちたいと思った時に、銃口がよそを向いていないように」
ロロは肩の付け根を指した。
「細かい照準は機械に手伝ってもらう。でも、どこへ動いて、いつ撃つかはハサンが決める」
レオナージは図面を回した。
背部の空間を確かめ、胸部へ戻す。
「操縦者を機体に合わせるのではなく、彼の動きに合わせて機体を造るわけですね」
「うん!」
カロッゾが横から図面を引き寄せた。
「出力と冷却が足りん」
「そこは、これから考えるんだよ」
「砲を動かす速さも、彼の回避に追いつかせる必要がある」
ロロが、その顔を見上げる。
「……駄目かな」
カロッゾは、もう一度機体を回した。
「あの少年に乗せる機体としては、捨てたものではない」
ロロの顔が、ぱっと明るくなった。
「レオナージさん。造ってみてもいい?」
レオナージは図面とロロを見比べた。
「分かりました。まずは設計と模擬操縦から、進めてみましょう」
「やった!」
「本人の操作データが、もっと必要です。制御系を比べるために、ルチルさんにも協力していただきたいですね」
「二人とも、まだ近くにいると思う!」
ロロは立ち上がった。
図面を保存し、椅子を戻すのもそこそこに扉へ向かう。
「ロロさん。開発名は?」
レオナージに呼び止められ、振り返った。
「Gビットの試験から生まれたガンダムだから――GBガンダムでいいよね!」
返事を待たずに、足音が遠ざかっていった。
カロッゾが、開いたままの図面へ向き直る。
「名前だけは、簡単に決めるのだな」
そう言いながら、その指は冷却系の配置を修正し始めていた。
◇
廊下の窓に、青い地球が浮かんでいた。
ハサンは窓枠へ手を置き、ぼんやりと眺めていた。
さっきまで手の中にあった操縦桿の感触が、まだ残っている。
動きを止めた瞬間。
肩がぶつかった衝撃。
赤くなった、中佐の撃墜表示。
何度思い返しても、自分がうまくできたところは見つからなかった。
「ハサン」
振り向くと、ルチルが立っていた。
「ここにいたのね」
「……はい」
「隣、いい?」
ハサンは少し身体をずらした。
ルチルが窓辺に並ぶ。
しばらく二人で地球を眺めたあと、彼女が口を開いた。
「最後の動き、すごかったわ」
「え?」
「正直に言うと、私、悔しいの。あなただったら二機で十分だと思っていた。それなのに、一発も当てられなかったんだから」
ハサンは、困ったように笑った。
「ありがとうございます。でも……今は、あまり喜べなくて」
ルチルの視線が、その横顔へ向く。
「僕、一発も当てられませんでした。中佐の邪魔もしましたし。最後だって、二機しか残っていなかったから逃げられただけです」
「その二機で、私は本気で――」
言いかけて、ルチルは口を閉じた。
ハサンが、窓へ目を戻していた。
「大佐に言っちゃったんです。僕も、Gビットシステムの役に立ちたいって」
窓枠に置いた指が、ゆっくりと丸まる。
「でも、向いてないのかな。僕……」
「ハサン君!」
廊下の向こうから、声が飛んできた。
二人が振り向く。
ロロがこちらへ駆けてきていた。
「ルチルさんもいた! ちょうどよかった、二人とも!」
「ロロさん? どうしたんですか?」
「僕の新しい機体の試験に付き合ってほしいんだ。まず、二人に試してもらいたいことがあって!」
「新しい機体?」
ルチルが聞き返した時には、もう手を取られていた。
反対の手で、ハサンの手も掴む。
「詳しいことは工房で話すから。来て!」
「えっ、今からですか?」
「うん、今!」
ロロが歩き出す。
二人は引っ張られるように、その後へ続いた。
どうして、僕なんだろう。
ハサンは前を行くロロを見た。
新しい機体を試すなら、エイデン中佐の方が、ずっとうまく乗れるはずだ。
自分なんかより。
――ああ、でも。
まだ、実験なのだ。
言われたとおりに動かして、記録を取る。
そんな手伝いなら、自分にもできるのかもしれない。
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
それでも。
「ハサン君?」
ロロが振り返った。
「……はい。僕でよければ、手伝います」
「うん! お願い!」
迷いのない返事だった。
隣でルチルが、ハサンの顔を見て小さく笑った。
ハサンは照れくさくなって、前を向く。
ロロに引かれる手は、そのままに。
足だけは、自分から一歩、速めた。
(つづく)
今回は、Gビットシステムの試験と、ハサン・ヴェイルの可能性を描きました。
撃墜数はゼロ。射撃も失敗し、エイデンの邪魔までしてしまう。本人にとっては散々な結果ですが、最後まで撃墜されずに戦い続けた動きには、確かな才能が隠れています。
その才能を最初に見抜いたのがカロッゾであり、そこからロロがハサン専用機の構想を思いつく流れになっています。
ハサン本人は、まだ自分が「実験要員」だと思っています。
しかし読者の皆さんには、すでに分かっているはずです。
彼がこれから乗る機体は、彼自身のために造られるモビルスーツなのだと。
次回以降、ロロがどのような機体を完成させていくのか。そして、ハサンがその機体で何を見せるのか。
引き続き、楽しんでいただければ幸いです。