いよいよダカール本拠地への強襲がスタートします。
リディへの尋問から始まり、モビルスーツ戦、新型モビルアーマーの登場、そしてブラッド・レイ――。各陣営の思惑がすれ違ったまま、物語は大きく動き出します。
今回も長めになりましたが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
艦の奥、控えの間のソファーに、リディ・マーセナスは座らされていた。
正面に、シュウが立っている。
ナナイが、リディの腕に小さな端末を取り付けた。
「身体機能装置だ。別名嘘発見器ともいうがな」
シュウは、感情のない声で言った。
「質問だ。ダカールに、イエロースーツの本拠地はあるか」
「……ない」
端末に赤い光が、点滅する。
「噓だな」
「……」
リディは、唇を噛んだ。
その沈黙こそが、答えだった。
「十分だ」
シュウは、端末を外させた。
「リディとか言ったか、突然変なことをいう様だが・・・俺たち側に着かないか?」
唐突な言葉に、リディが顔を上げる。
「……は?」
「お前ほどのパイロットを捕虜として扱うだけなのはもったいないのでね。そこの二人も、元は敵だった」
シュウが視線を送った先に、ガランとミランダが立っていた。
「はーい、元気してたかい?」
ミランダが、軽く手を上げる。
ガランは、何も言わず頷いた。
「ふざけるな……!」
リディが、鉄格子を掴んだ。
「お前たちが、何をした連中か、分かっているのか」
「分かった上で聞いている」
シュウは、短くそれだけ言うと、踵を返した。
◇
艦橋の作戦卓の周りに、全員が集まっていた。
リディもシュウはあえて参加させたいた。
「シュウさま、敵にわざわざ教えているようなものです」
シュウは一掃した。
「知られたからと言って困ることはない。それにこれから仲間になる者だ。」
ナナイはあきらめて口をつぐんだ。
「さすが俺が見込んだ大将だ。」
ヤザンが大きくうなづく。
「ダカールの地下施設には、三つの入口がある」
観念してナナイは話し出した。
「表の守りは連邦の行政区警備隊。だが、連邦本体の戦力も、応援に駆けつけるはずです」
「数は、相当なものになるな」
ガランが、腕を組んだ。
「構わない」
シュウが、地図の上を指でなぞった。
「むしろ、それが狙いだ。向こうの戦力を、地上にすべて引きずり出す」
「地下に残った機体まで、後から湧いて出られちゃ厄介だもんねえ」
ミランダが、にやりと笑う。
「出てきた分だけ、まとめて刈り取る。それが、《暁》の仕事だ」
「もし、思った以上に押されたら?」
ヤザンが尋ねた。
「やられた振りをして、下がれ。向こうに、こちらが追い詰められたと思わせろ」
シュウの声は、淡々としていた。
「その隙に態勢を整え、トライデント作戦へ移行する」
「打ち合わせどおり、だな」
ガランが、確認するように言った。
「ああ」
リディは、ソファーに座り込み、その一部始終を聞いていた。
――こいつら、最初から、仕掛けを作っている。
だが、ダカールの戦力を舐めすぎだぞ。
◇
出撃の時が来た。
「鉄嵐のガラン、出る」
発射口に立ったドムIIIから、静かな声が響いた。
機体が、カタパルトへ滑り出す。
「迅雷のミランダ、派手にいくよ!」
シュツルム・ガルスが、勢いよく飛び出した。
「狩鬼のヤザン、ちょいと行ってくるぜ」
ハンムラビ・ツヴァイが、最後に続く。
そして。
金色の機体が、カタパルトの前に立った。
「クワトロ、出る」
短い一言だけを残し、百式改が朝の空へ消えていった。
◇
行政区の上空で、最初の交戦が始まった。
連邦のジェガンが、次々と離陸してくる。
その数は、想定をはるかに超えていた。
「……敵、10。に対してこっちは、1ってとこか」
ヤザンが、画面を睨んだまま呟いた。
「こいつは、骨が折れるぜ」
◇
ガランのドムIIIが、ビームバズーカを構える。
一撃で、先頭のジェガンが大破した。
「相変わらず、堅いねえ」
ミランダのシュツルム・ガルスが、敵陣の中へ踊り込む。
高熱槍が、二機、三機と薙ぎ払っていく。
四方から、ビームライフルの光が集中した。
「っと……!」
「ミランダ、無理に受けるな」
「分かってるって!」
機体を回転させ、光の束をすり抜ける。
◇
ハンムラビ・ツヴァイの腕から、鎖付きの機雷――チェインマインが放たれた。
ジェガンの編隊が、慌てて散開する。
「散ったな」
その隙間へ、ヤザンは機体を滑り込ませた。
「元治安局ってのは、こういう時に便利だぜ」
連続する爆発が、空を焦がした。
◇
クワトロの百式改は、敵の攻撃を紙一重でかわし続けていた。
――動きが、揃っている。
連携の精度が、以前戦った連邦兵とは違う。
一機一機の判断ではなく、蓄積された戦闘データが、編隊全体を動かしているような、不気味な統率だった。
――ジムの時代から、積み重ねてきたものか。
記録された無数の戦闘が、世代を超えて、機体の動きそのものに刻まれている。
伊達に、数を揃えてきたわけではない。
だが。
「――だからと言って、読めないわけではない」
クワトロは、編隊の僅かな間隙を見抜き、そこへ百式改を滑り込ませた。
一撃。また一撃。
確実に、的を射抜いていく。
数の多さに、技量の差が、少しずつ食い込んでいった。
◇
その時だった。
行政区の広場に敷かれた石畳が、轟音とともに割れた。
巨大な何かが、地の底から、せり上がってくる。
「……なんだ、ありゃ」
ガランの目が、細くなった。
全高、並のモビルスーツの倍はある。
頭部に相当する部分に、巨大な一つ目の意匠。
「サイコガンダム……Mk-X」
ナナイの声が、通信越しに響いた。
「本部直下の秘匿兵器です」
コックピットには、強化された一人の女――イレーネ・ファルスが座っていた。
「侵入者、排除する」
両腕から、無数のファンネルが展開した。
空間を埋め尽くすビームの雨。
「こいつは、今までとは違う……!」
クワトロ率いる四機がかりでも、決定打が出せないでいた。
◇
「ガンダム Mk-Xまで投入してきたのか!?」
リディは驚く。実験段階で出す予定も無かったモビルアーマーの出現は無いとされていたからだ。
だが、シュウは静かに頷いた。
「シュウ様、ご指示を」
ナナイが、振り返る。
「予定どおりだ」
シュウは、短く答えた。
「全機、後退させろ。――分かっているな」
「承知しました」
その声には、戸惑いの欠片もなかった。
もとより、こうなることは、織り込み済みだった。
リディは言葉を見失っていた。
◇
シュウの部隊が、乱れた様子を装いながら、戦場から引いていく。
サイコガンダムMk-Xは、深追いしなかった。
「追撃、不要。守備位置に戻る」
巨体が、再び地下へと沈んでいく。
「……思ったより、頑丈な置き土産だったな」
ヤザンが、苦笑混じりに言った。
「あれは、想定外だ」
シュウの声に、わずかな苦さが混じった。
「だが、計画の根は変わらない」
◇
後退を終えた《暁》の中で、シュウが指を上げた。
「トライデント作戦、発動」
その言葉が、合図だった。
主砲の照準が、ダカールの地下施設へ向けられる。
まさに、その瞬間。
月から放たれた光が、大気圏を貫いた。
――――ズオォォォォォォン!!
行政区の一角が、まばゆい光に呑まれた。
地下深くまで、熱線が突き抜ける。
爆炎が、街の半分近くを覆い尽くした。
◇
《暁》の艦内に、閃光が差し込んだ。
「……なんだ、今のは!」
ナナイが、外部モニターを凝視する。
ダカールの空が、真っ赤に染まっていた。
その光景を、リディもまた、見ていた。
鉄格子の奥から、燃え上がる故郷を。
「……これが」
リディの声が、震える。
「これが、お前の切り札か!なんてことを・・・」
シュウが、振り返えらなかった。
「シュウ! お前、一体どういうことだ!」
「非常に不愉快だ・・・」
シュウの声は、低かった。
「シュウ様、これは・・・・」
突然の見えない者からの横やりにナナイも愕然としていた。
シュウは、自分の計画に、断りもなく手を加えられたことへの苛立ちだけが、言葉の端に滲んでいた。
「信じられるか、そんな言い訳!」
リディが、机を激しく叩いた。
シュウは、何も言い返さなかった。
ただ、燃えるダカールを、しばらく見つめていた。
「……どちらにせよ、厄介なものが出てきたな」
◇
艦橋の一角で、通信士官が声を上げた。
「地球側の民間放送、傍受できました」
画面に、慌ただしいニュース映像が映し出される。
『……現在もダカール上空には、黒煙が立ち込めています。専門家の間では、宇宙からの指向性エネルギー兵器による攻撃との見方が強まっており……』
アナウンサーの声には、隠しきれない恐怖が滲んでいた。
『連邦軍、イエロースーツ、いずれの組織による犯行とも断定されておらず……』
リディは、その映像を、食い入るように見つめていた。
――本当に、こいつらじゃない。
認めたくはなかった。
だが、画面に映る「何者かも分からない」という一言だけは、噓ではないと分かった。
「……どうやら、本当のようだな」
ヤザンが、画面を見ながら呟く。
リディは、何も言い返せなかった。
シュウは、黙ってその報道を見つめていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「気に入らないな」
「シュウ様?」
ナナイが振り返る。
「俺の計画に、何も知らぬ誰かが土足で踏み込んできた。それも、俺の手の届かない場所からだ」
シュウの目に、静かな怒りが宿っていた。
「宇宙、か」
「……まさか」
「見極める必要がある。誰が、何のために、あれを撃ったのか」
シュウは、艦橋の奥へ向き直った。
「《暁》を、宇宙へ上げる」
「宇宙……」
ナナイの声に、驚きが混じった。
「地上の戦は、一旦預ける。だが、これだけは見過ごせない」
シュウの声に、迷いはなかった。
◇
格納庫の片隅、百式改のコックピットで、クワトロは、動けずにいた。
燃え上がる地平線。
かつて、同じ光景を、別の場所で見たことがあった。
コロニーが堕ち、多くの命が、一瞬で消えた、あの日。
あのとき、自分は、確かにそれを望んでいた。
そして今、同じことを、かつて自分を止めた男がやっている。
「……アムロ」
誰に聞かせるでもない、呟きだった。
「これでは、昔の過ちを犯した私と、同じではないか」
その声には、怒りよりも、どこか乾いた寂しさが滲んでいた。
その想いは、言葉にならないまま、遠く宇宙へと、届いていった。
第17話、いかがでしたでしょうか。
今回のポイントは、シュウが仕掛けた「トライデント作戦」そのものよりも、誰にも知らされないまま降ってきた一撃によって、全員の計算が狂ってしまうところにあります。リディの誤解、シュウの苛立ち、そしてクワトロの独白――それぞれの立場から見える「真実」が、まだ噛み合っていません。
アムロとシャア、二人の過去と現在が重なり合う瞬間も、今回少しだけ覗かせました。この先、ブラッドの側からは、この出来事がどう見えていたのか。次話では、月側の視点に戻り、発射に至るまでの経緯を描く予定です。
次回もよろしければ、お付き合いください。