GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

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お待たせしました〜!第19話です✨

今回は、ちょっと毛色の違う回。幸せの絶頂から始まって、一気に奈落へ――。朱麗(と、ドモン)にとって、これまでで一番きつい試練になったかもしれません。

新しい顔ぶれも登場します。良ければ最後まで見届けてください!


第19話 師匠と弟子

 

 

 

 

 風が、レインの白いヴェールを揺らしていた。

 

 五十階建ての式場。その屋上庭園からは、夕日に染まる街が見渡せた。

 階下では、まだ祝いの声が続いている。

 

「やっと、二人きりになれたわね」

 

 レインが、ドモンの腕に身を寄せた。

 左手の指輪が、小さく光る。

 

「ああ」

「もう少し、嬉しそうな顔をしてくれてもいいんじゃない?」

「している」

「そうかしら」

 

 顔をのぞき込まれ、ドモンは目をそらした。

 レインが笑う。

 

「……ようやく、結婚できたな」

「ええ」

 

 その返事を聞くだけで、胸の奥が温かくなった。

 戦いも、すれ違いも、ずいぶん遠くまで来た気がした。

 

「これからは、勝手にどこかへ行かないでね」

「お前こそ」

「私は行かないわ。あなたが追い出さない限り」

「そんなことをするか」

 

 ドモンは、レインの手を握った。

 

「何があっても、お前を離さない」

「……ドモン」

 

 レインの指が、その手を握り返した。

 

 次の瞬間だった。

 

 胸に、強い衝撃が走った。

 

「え――」

 

 足元が消えた。

 背中が手すりを越え、空へ投げ出される。

 

 伸ばした手の向こうに、レインがいた。

 突き出された彼女の両手。

 見開かれた目。

 

 白いヴェールが、遠ざかっていく。

 

「ドモン……ごめんなさい!」

 

 なぜだ。

 

 風が耳を裂いた。

 幾重もの窓が、上へ流れていく。

 

 なぜ、突き落とした。

 俺が、何かしたのか。

 

「レイン――!」

 

 声は、風にのみ込まれた。

 

     *

 

 

 風の音が、葉擦れに変わった。

 

――ギアナ高地。名もない森の奥。

 

 朱麗は、目を開けた。

 低い天井。むき出しの梁。その隅に、小さな蜘蛛の巣がある。

 

「あ、起きた」

 

 椅子に腰掛けた女が、こちらを見ていた。

 そばには男もいる。二人とも、旅慣れた作業着姿だった。

 

「いきなり起き上がるんじゃないよ。水、飲む?」

 

 朱麗は差し出されたコップを受け取った。

 指が動く。

 腕も、自分で動かせる。

 

 あれ。

 

 水を一口飲んでから、もう一度、手を見た。

 

 体が、戻っている。

 

「草むらで倒れてたんだよ、お前。あと少し遅けりゃ、獣の餌になってたぞ」

「ビーチャ、脅かさないの」

「本当のことだろ」

 

 朱麗は、布団の上で頭を下げた。

 

「お二人とも、助けてくださってありがとうございます」

「私はエル。こっちはビーチャ。あんたは?」

「朱麗です」

「朱麗ね。腹、減ってない?」

 

 答えるより先に、腹が鳴った。

 エルが吹き出した。

 

「よし。食べられるなら大丈夫だ」

 

 彼女が台所へ立った隙に、朱麗は目を閉じた。

 

 師匠。

 

 返事はなかった。

 

 師匠、聞こえますか。

 

 いつもなら、すぐ声が返ってくる。

 眠いだの、腹が減っただの、余計なことを考えるなだの。

 

 今は、何も聞こえない。

 

 朱麗は胸元を握った。

 自分の手だった。

 ずっと取り戻したかったはずのものが、ここにある。

 

 なのに、静かすぎた。

 

「そうそう。あのでかい剣だけは運べなかったんだ」

 

 ビーチャが、窓の外を指した。

 

「悪いな。お前を担ぐだけで精いっぱいだった」

「いえ。助けていただけただけで……」

「場所は覚えてる。あとでエルに案内してもらえ」

 

 戸が開いた。

 

「おーい、待たせたな!」

「遅いよ、モンド!」

 

 鍋を運んできたエルが、入口へ声を投げた。

 黄色い上着を着た男は片手を上げ、朱麗に気づいて足を止めた。

 

「あれ。誰だい?」

「拾った」

「そんな、部品みたいに言うなよ」

 

 ビーチャが笑い、朱麗の前へ椀を置く。

 

「食え食え。話はそれからだ」

 

     *

 

「で? 今回だけじゃなく、これからも仕事が来るんだろ?」

 

 ビーチャは、机に肘をついた。

 窓の向こうには、運び込まれた旧式のモビルスーツが並んでいる。

 

「古いのなら何でも高く買うっていうからさ。二人でかき集めたんだぜ。修理して、船に積んで、宇宙からこんな奥地まで」

「わかってる。今回の分は、ちゃんと払ってもらう」

 

 モンドは椅子に腰を下ろした。

 

「ただ……その先の話は、なしになりそうなんだ」

「はあ?」

 

 エルの手が止まった。

 

「あんたの紹介だから来たんだよ。イエロースーツなら金払いがいい、あんたも仕事を任されてるって」

「それは嘘じゃないよ。機体を運んだり、護衛したり……俺も結構、乗ってるからさ」

「じゃあ、何で?」

 

 モンドは、少し声を落とした。

 

「本拠地が、壊滅したらしい」

 

 朱麗は、椀から顔を上げた。

 

「組織全体が、それどころじゃないって話なんだ。まだ人づてだから、本当かどうかわからないけど」

「ちょっと。せっかく、これで食いっぱぐれがなくなるって喜んでたのに」

「ほんと、お前って肝心なところで使えないよな」

「そりゃねえだろ! 俺が本拠地を潰したわけじゃないんだぞ!」

 

 言い合う三人を見ながら、朱麗は椀を握り直した。

 

 イエロースーツ。

 師匠が戦っていた相手だ。

 

 その本拠地が、なくなった?

 

「……あ、そうだ」

 

 エルが朱麗を見た。

 

「食べ終わった? 忘れ物、取りに行こうか。暗くなる前に」

「はい。ごちそうさまでした」

「あとは二人で話しといて。すぐ戻るから」

 

     *

 

 小屋から離れるにつれ、草が高くなった。

 遠くに、切り立った台地が見える。

 

「この先だよ。あんた、どうしてあんなところで――」

 

 茂みが揺れた。

 低い唸り声。

 

 朱麗が振り向いたとき、獣が草を蹴って飛び出した。

 

 横へかわして、懐へ。

 師匠なら、そう動く。

 

 わかっているのに、迫る牙を見た途端、足がすくんだ。

 

「わっ!」

 

 後ずさる。踵が石に引っかかった。

 体勢を立て直す前に、銃声が響いた。

 

 一発。もう一発。

 

 獣は身を翻し、茂みへ逃げ込んだ。

 エルが銃を下ろす。

 

「大丈夫?」

「……はい」

「あんた、見かけは強そうなのに、案外弱いんだね」

 

 朱麗は、うつむいた。

 

「まあ、いいや。行こう。あそこ」

 

 少し先の斜面に、怒涛剣が突き立っていた。

 草の中から、柄と大きな刀身がのぞいている。

 

 エルは柄を両手でつかみ、腰を落とした。

 

「んっ……!」

 

 動かない。

 もう一度力を込め、すぐ手を離した。

 

「よくこんなもの背負ってたね。ほら、あんたのなんでしょ。早く持って」

 

 朱麗は、いつものように柄を握った。

 これを引き抜き、肩へ担ぐ。

 何度も繰り返してきた動きだった。

 

 腕に力を込める。

 

 剣は動かなかった。

 

 両手で握り直した。

 足を踏ん張り、息を止める。

 

「……っ!」

 

 柄が、手の中で滑った。

 

「何してるの?」

 

 朱麗は答えられなかった。

 手のひらを見て、剣を見る。

 

 持てない。

 

 同じ手なのに。

 同じ体なのに。

 

「……本当に、あんたの?」

「僕の……剣です」

「呆れたね。じゃあ今日は置いていこう。もう日が暮れるよ」

 

 朱麗は、柄から手を離した。

 振り返っても、怒涛剣はそこに立ったままだった。

 

     *

 

「すまない。本当に、悪いと思ってる」

「もういいって。お前が謝ったって仕事は戻らないんだから」

 

 小屋へ戻ると、まだモンドが頭を下げていた。

 ビーチャは椅子にもたれ、天井を見上げる。

 

「しょうがねえ。明日、代金を受け取ったらコロニーへ戻るか」

「……帰りに、ムーン・ムーンへ立ち寄る?」

 

 モンドの言葉に、朱麗は足を止めた。

 

「ラサラさんの墓前にも行きたいし。サラサさんに頼まれてた用事も、まだ果たせてないんだ。そのことも、ちゃんと話さないとな」

 

「ムーン・ムーンに、行くんですか?」

 

 三人が、朱麗を見た。

 

「何だよ、お前さん。知ってるのか?」

「僕……あそこから来たんです」

「ええっ!」

 

 エルが、朱麗の肩をつかんだ。

 

「それ、先に言ってよ! 私たちも行ったことあるんだよ」

「じゃあ、神殿も?」

「もちろん」

 

 モンドの顔が、ふっと緩んだ。

 

「懐かしいなあ。今は、どんなふうになってるんだろう」

 

 朱麗は椅子に座った。

 覚えている道。家。子供の頃に走り回った場所。

 三人の記憶と、自分の記憶が、少しずつ重なっていく。

 

「あそこ、まだあるのか!」

「あります。僕、よくそこで――」

「モンドなんかさ、そのとき……」

「おい、その話はやめろよ!」

 

 笑い声が、小屋に満ちた。

 窓の外が真っ暗になっても、話は途切れなかった。

 

     *

 

 翌朝。

 ダカール壊滅の報せは、遠く離れたギアナ高地にも届いた。

 

 イエロースーツの本拠地は、失われた。

 

 逃げ出す者。連邦へ身を寄せる者。

 報せを嘘だと叫び、旗を下ろさない者。

 

 ここに来た男は、そのどれでもなかった。

 

「本部がなくなったなら、もう遠慮はいらねえってことだ」

 

 黄色い服の幹部は、並んだ機体を眺めて笑った。

 背後には、武装した部下とモビルスーツが控えている。

 

「ご苦労だったな。機体は引き取る」

 

 差し出された金額を見て、ビーチャの顔色が変わった。

 

「何だ、これ」

「買い取り代金だ」

「冗談じゃないよ。輸送代にもならないじゃない!」

 

 エルが詰め寄る。

 モンドも、幹部の前に立った。

 

「話が違う。約束した金額を払ってくれ」

「状況が変わったんだよ」

「だったら、こっちも売らねえ。積んで帰るぞ」

 

 ビーチャが背を向けた。

 

「なら、金の代わりにこれだ」

 

 銃口が、三人へ向いた。

 朱麗の喉が詰まる。

 

「おい……イエロースーツ同士の争いは禁止されているはずだろ」

「誰が罰する? 本部もないのに」

 

 幹部は、モンドの黄色い服を見て鼻を鳴らした。

 

「潰れてくれて、ありがたいくらいだぜ。これからは、俺たちの好きにやる」

 

 背後で、一機が踏み出した。

 足元の鉄板が跳ね、土煙が上がる。

 

「今だ!」

 

 ビーチャが、モンドを引いた。

 エルは朱麗を機体の脚の陰へ突き飛ばす。

 

 銃声。

 弾が装甲を叩いた。

 

「モンド、右の機体! エルは左!」

「わかってる!」

 

 三人は、それぞれ開いていた整備用の足場へ駆け上がった。

 朝の点検を終えたばかりの機体。そのコックピットへ飛び込む。

 

 朱麗が見上げると、エルがハッチから顔を出した。

 

「あんた、モビルスーツは乗れる?」

「すみません。僕は、乗ったことがないんです!」

「じゃあ下がってな! 足、引っ張るんじゃないよ!」

 

 強い言い方だった。

 けれど、伸ばした指は、敵のいない草地を示していた。

 

「走って! こっちは私たちで何とかするから!」

 

 ハッチが閉まった。

 朱麗は走った。

 

     *

 

「機体を奪え! 操縦席以外は、少しくらい壊しても構わん!」

 

 幹部の声とともに、敵機が動いた。

 正面から二機。脇へ回り込む一機。

 

「欲張ると、痛い目見るぜ!」

 

 ビーチャは機体を沈め、先頭の射撃をかわした。

 返した一撃が敵の武器を弾き飛ばす。

 

「エル!」

「見えてる!」

 

 横から来た敵の足へ、エルが撃ち込んだ。

 膝が砕け、巨体が傾く。

 

 その向こうで、モンドが敵の腕をつかんだ。

 引き寄せ、肩から体当たりを入れる。

 押し倒された機体が、後ろの一機を巻き込んだ。

 

「へえ。やるじゃないか、モンド!」

「俺だって、遊んでたわけじゃないんだよ!」

 

 三機は背中を守り合い、敵を押し返した。

 エルの射撃で動きを止め、ビーチャが崩し、モンドが追う。

 

 倒れた機体の向こうから、また敵が現れた。

 森の脇道からも、エンジン音が近づく。

 

「まだ来るのかよ!」

「文句はあと! 右、空けないで!」

 

 ビーチャの機体に警告が鳴った。

 脚部の温度が上がっている。

 エルの残弾も、底が見え始めていた。

 

 モンドが一機を倒す。

 その隙に、別の二機が回り込む。

 

 逃げ道が、塞がれた。

 

     *

 

 背後で、爆音が続いていた。

 

 朱麗は草をかき分け、走った。

 涙で、前が見えない。

 

 なんで。

 

 なんで僕は、こんなに弱いんだ。

 

 剣を習った。

 師匠の動きを、ずっと見てきた。

 その感覚も、知っていたはずだった。

 

 それなのに、剣一本持てない。

 モビルスーツにも乗れない。

 助けてくれた三人を置いて、逃げるしかない。

 

 何も、成長していないじゃないか。

 

「くそっ……くそっ……くそっ!」

 

 頬を打つ草を、払いのけた。

 

 ――僕の人生なんだよ!

 

 自分の声が、よみがえる。

 体を取り戻せず、泣き喚いた。

 師匠のすることに、片端から反発した。

 

 ロロが、この体に抱きついたとき。

 喜ぶより先に、嫉妬した。

 彼女が見ているのは自分ではなく、ドモンなのだと思った。

 

 師匠なんか、いなければ。

 

 そんなことまで、思った。

 

 今、声が返ってこない。

 手も足も、自分のものだ。

 

 なのに。

 

「……師匠」

 

 足がもつれた。

 膝をつきかけ、また立ち上がる。

 

 あのときも。その前も。

 自分の知らないところでさえ、この人は守ってくれていた。

 

「師匠……ごめんなさい……」

 

 涙が、顎から落ちた。

 

 不意に、視界が白く抜けた。

 目が裏返り、体から力が消える。

 

 朱麗は、草の中へ倒れた。

 

     *

 

「もう逃げ場はねえぜ」

 

 幹部の機体が、三機の前へ出た。

 銃口が、順番に操縦席をなぞる。

 

「さっき言ったことを承諾するなら、生かしといてやる。取引するかい?」

 

 ビーチャは、操縦桿を握り締めた。

 

「……お断りだ」

「あんたに渡すくらいなら、こっちで壊すよ」

 

 エルの声に、モンドも続いた。

 

「俺も、もうあんたの言うことは聞かない」

 

 一瞬、通信が静まった。

 

「じゃあ、死ね」

 

 三人は、顔を伏せた。

 

 草が、裂けた。

 

 斜面を駆け抜ける人影。

 土に立つ大剣へ、手が伸びる。

 

 怒涛剣が、軽々と抜けた。

 

 白い裾が翻る。

 倒れた機体の肩を蹴り、人影が跳んだ。

 

 刃が、振り下ろされた。

 

 金属が裂ける音。

 幹部機の両腕が、銃ごと地へ落ちた。

 

 返す刃が膝を断つ。

 巨体が前へ崩れ、地面を揺らした。

 

「……へ?」

 

 モンドが顔を上げた。

 撃たれていない。

 機体も、まだ動く。

 

「何が……あったんだ?」

 

 土煙の向こう。

 倒れた敵機の背に、男が立っていた。

 

「朱麗……?」

 

 エルは、モニターへ身を乗り出した。

 昨日は動かせなかった大剣を、男は片手で握っていた。

 

 その男が、誰にともなく呟いた。

 

「朱麗。お前は俺の弟子だ」

 

 剣を、肩へ担ぐ。

 

「師匠に甘えて何が悪い。気にするな」

 

 内側で、声がはじけた。

 

『師匠ーっ!』

 

 泣き声だった。

 ドモンは、少しだけ口元を緩めた。

 

『……師匠、起きるのが遅い!』

 

「お前な……」

 

 ため息を一つ。

 

「……すまん」

 

 敵の一機が、銃を向けた。

 ドモンの姿が、機体の背から消える。

 

「足元だ! 撃て!」

 

 叫びが終わる前に、銃を握った腕が落ちた。

 続いて、脚。

 

 倒れかけた巨体を避け、白い影が次の一機へ走る。

 

「何だよ、あいつ……!」

 

 ビーチャが息をのんだ。

 モンドの機体を狙っていた敵が、こちらを振り向く。

 

「今だ、モンド!」

「あ、ああ!」

 

 三機が、再び動いた。

 エルが敵の武器を撃ち落とし、ビーチャが退路を押さえる。

 モンドは逃げようとする一機を組み伏せた。

 

 その間にも、怒涛剣は止まらなかった。

 腕を断つ。脚を断つ。

 操縦席を残したまま、黄色い部隊が地に伏していく。

 

 最後の機体が膝をつくと、ドモンは刃を下ろした。

 

「降りろ。まだやるなら、付き合うぞ」

 

 誰も、動かなかった。

 やがて一つ、ハッチが開いた。

 

     *

 

 幹部も部下も、銃を取り上げられ、縄で縛られた。

 倒れたモビルスーツのそばに並んで座らされ、もう威勢のいい声は聞こえない。

 

 エルが、朱麗の腕をつついた。

 

「あんた。昨日は何だったの?」

「昨日?」

「剣も持てなかったじゃない!」

 

 ドモンが言葉を探す間に、内側から声がした。

 

『その話は、やめてください……』

 

「……少し、調子が悪かった」

「少しで済む違いじゃないよ」

 

 ビーチャが笑った。

 モンドは、縛られた幹部を見ている。

 

「本部がなくなったら、こんなものか」

 

 黄色い上着を脱いだ。

 

「約束まで勝手に変えられて、銃を向けられてさ。これじゃ、仕事にもならない」

「今頃気づいたのかよ」

「……ああ。もう、ここにいる意味はないな」

 

 モンドは、上着を脇へ置いた。

 

「俺も帰るよ。二人と一緒に」

「ムーン・ムーン経由?」

 

 エルが尋ねる。

 モンドは、うなずいた。

 

「墓前にも行く。サラサさんにも、ちゃんと顔を見せる」

 

 それから、朱麗を振り返った。

 

「朱麗、お前も来るだろ?」

 

 ドモンは、ほんの少し目を伏せた。

 

『師匠。僕も……帰りたいです』

 

 顔を上げる。

 

「もちろんだ」

 

     *

 

 旧式の機体を載せた運搬車が、土の道を進んでいく。

 荷台の隅で、朱麗は怒涛剣を抱えていた。

 

 ビーチャが運転し、モンドが隣で道を教える。

 エルは荷の固定を確かめ、朱麗の向かいへ座った。

 

「宇宙港まで、まだあるよ。眠るなら今のうち」

「いや。もう十分寝た」

「そう。じゃあ、荷物がずれないか見てて」

 

 車が揺れた。

 朱麗の手が、自然に剣を押さえる。

 

『今度は、僕にも教えてください』

 

 内側の声に、ドモンが目を細めた。

 

『自分で、あの剣を持てるように』

 

「……ああ」

 

 風が、白い裾を揺らした。

 草地の向こうへ道が延び、その先に宇宙港がある。

 

 ムーン・ムーンへ。

 

 四人を乗せた車は、ギアナ高地を離れていった。




第19話、お疲れさまでした〜!

今回の核は、やっぱり「自分は何も成長していなかった」と思い知る朱麗のところだったかなと思います。剣も持てない、モビルスーツにも乗れない――ずっと師匠に甘えていたことに、自分で気づいてしまう瞬間です。

そこから、ドモンの「お前は俺の弟子だ」で救われるの、何度見てもいいですね 

次はムーン・ムーンへ。サラサさんやお兄さんたちとの対面、そして……という展開が待っています。次回もお付き合いいただけたら嬉しいです〜 
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