GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

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第2話です。
前回の出来事の裏で、砂漠にはもう一つの大きな流れが育っていました。
黄色い服をまとった人々は、何を求め、何を語っているのでしょうか。

そして、一人の大柄な旅人が、ロロの前に現れます。
彼女の意外な「特技」にも注目してみてください。


第2話 黄色の民

 

 

 

 かつて、教祖ルル=スーンは、こう説いた。

 

「地球に生きる人も、宇宙(そら)に生きる人も同じです」

「人類は――一つにまとまるべきです」

 

 その言葉に共鳴する者は、少しずつ増えていった。

 やがて、彼女の教えを慕う人々の集まりは、いつしか「ルル教」と呼ばれるようになった。

 

 教団は時とともに大きくなり――やがて、ルル本人の手にも負えないほど、巨大なものへと育っていった。

 

 

     ◇

 

 

 時は流れ――。

 サハラ砂漠の、とある街。

 

 広場の一角に、大勢の人々が集まっていた。

 その真ん中、簡素な壇の上に、一人の男が立っている。

 男は、拳を高々と掲げた。

 

「同志諸君! 蒼き宇宙(そら)の世は、死んだ!」

 

 ざわめいていた人々が、壇上へ目を向けた。

 

「かつて宇宙(そら)へ上がった者たちは、自らを新たな人類と称した! 地上に残った我々を旧き人類と呼び、自分たちこそが人類の未来なのだと!」

 

 男は、空を指さした。

 

「そして幾度となく、宇宙(そら)から地球へ戦いを仕掛けてきた! だが――その時代は、もう終わったのだ!」

 

 群衆が、静まり返った。

 

「宇宙(そら)から聞こえていた反乱の声も、今はない! ならば――今度は、我々が立つ番ではないか!」

 

 男の声が、一段と大きくなる。

 

「我々はこれまで、ただ地上で耐えてきた! 戦争が起これば巻き込まれ、街を焼かれようと、家族を失おうと、ただ耐えてきた!」

 

 拳が、再び突き上げられた。

 

「立てよ――黄色き民!」

「オオオオオオッ!」

 

 群衆の一部から、歓声が上がった。

 

「地球も宇宙(そら)もない! 我々は同じ人間だ! かつてルル=スーンが説いたように――人類は、一つになるべきなのだ!」

「オオオオオオオオッ!」

 

 歓声が、広場を包んだ。

 

 男は、壇の脇へ目を向けた。

 そこには、黄色いスーツが何着も用意されていた。

 

「我々と志を共にしてくれる者には、この衣を身につけてもらいたい! 少しでも我々の考えに共鳴してくれるなら、遠慮はいらない!」

 

 隊員たちが、集まった住民へスーツを差し出していく。

 住民たちは顔を見合わせた。

 

 やがて一人の男が、おそるおそる一着を受け取った。

 

「……へえ。思ったより軽いな」

 

 胸元に、小さなスイッチがあった。

 

「なんだ、これ?」

 

 ――カチッ。

 

「……おおっ!?」

「どうした?」

「冷てえ! これ、冷房が付いてるぞ!」

 

 周りの者たちが、わっと寄ってきた。

 壇上の男が、すかさず笑う。

 

「その通りだ! これは、ただ志を示すだけの衣ではない! 温度調節、砂ぼこりよけ、そして身を守る力も備えている! 砂漠の暑さにも、夜の寒さにも耐えられる! 多少の銃弾からも、諸君の体を守ってくれるだろう!」

「銃弾も……?」

「すげえな……」

 

 さっきの男は、黄色いスーツをまじまじと眺めていた。

 隣の知り合いが、声をかける。

 

「お前……まさか、入る気か? ルル教なんて、興味なかっただろ」

「今も別にねえよ」

「だったら、なんでだよ」

 

 男は、黄色いスーツを肩にかけた。

 そして、容赦なく照りつける太陽を見上げた。

 

「暑いから」

「…………それだけかよ」

「当然だろ」

 

 

     ◇

 

 

 イエロースーツの拠点。

 

 広場では、黄色いスーツの隊員たちが訓練を続けていた。

 

「構え! ――撃て!」

 

 号令とともに、機械のようにそろった射撃が、的へ繰り返される。

 

 その様子を、建物の窓から一人の男が眺めていた。

 ルル教の、ロレッツオ主教だった。

 その顔は、どこか面白くなさそうだった。

 

「お呼びでしょうか、ロレッツオ主教様」

 

 若い男が、部屋へ入ってきた。

 ロレッツオは振り返らず、窓の外を見たまま口を開いた。

 

「きみが、フォンセ=カガチくんですね?」

「はい」

「以前の担当者にも、話したはずなのですが――」

 

 ロレッツオは、訓練を続ける隊員たちへ目を向けた。

 

「鍛錬に励むのも結構。組織のために働くのも結構です。が――彼らはイエロースーツである前に、ルル教の信徒です。毎日教会へ来いとは言いません。せめて週に一度くらいは、祈りを捧げに来てもよいのではないですかね?」

「……おっしゃる通りです。私からも、イエローの代表たちへ伝えております」

「では、なぜ来ない?」

 

 カガチは、少し言葉を選んだ。

 

「代表からは、入隊する者に、信仰そのものを強制することはできない、と。祈りや教えへの向き合い方まで条件にすれば、加わろうとする者が減ってしまう、と」

 

 ロレッツオは、不愉快そうに鼻を鳴らした。

 

「都合のいい時だけ、ルル様のお名前を使うというわけかね?」

 

 カガチは、すぐには答えなかった。

 

「……まあ、いいでしょう。彼らのおかげで、多くの者がルル教の名を知った。それは私も認めています」

 

 ロレッツオは、小さく付け加えた。

 

「だが、今となっては、数だけ増えても仕方がない。イエローには、よからぬ噂も絶えません。だからこそ今は、彼らにもルル様の教えに向き合ってもらうことが大切なのです」

「承知しました」

 

 カガチは頭を下げた。

 そして、窓の外の黄色い隊員たちへ、ちらりと目を向けた。

 

 

     ◇

 

 

 サハラ砂漠。

 

 灼けつく大地の上を、一人の男が歩いていた。

 大きな体。日に焼けた肌。伸び放題の髪に、顔を覆う無精ひげ。

 遠目に見れば――まさに熊だ。

 

「ったく……暑っちぃな」

 

 男は、額の汗を腕でぬぐった。

 その足元に、焼け焦げた機械の残骸が転がっていた。

 

 男はしゃがみ込み、残骸の一部を拾い上げた。

 装甲の板。関節の部品。焼け残った電子部品。

 眺めているうちに、男の顔から気だるさが消えていった。

 

「……やっぱりな」

 

 辺りには、壊された機械兵器がいくつも転がっていた。

 

「イエローの奴ら……派手にやりやがったな。いったい何があった。仲間割れか?」

 

 無精ひげを、ガリガリとかく。

 

「いよいよかな、こりゃあ」

 

 砂漠の向こうに、一つの街が見えていた。

 男は、再び歩き出した。

 

 

     ◇

 

 

 街へ入った男は、頭上を見上げて足を止めた。

 

「……なんだ、ありゃ?」

 

 街を覆う、巨大なドーム。

 その一部に、大きな穴の跡があった。穴はトリモチで応急的にふさがれている。

 街の一角では建物が大きく崩れ、片づけの作業が続いていた。

 

 男は、通りかかった住民を呼び止めた。

 

「なあ。ありゃ、なんだい?」

「ああ……あれか。ちょっとした騒ぎがあってな」

「ちょっとした、ねえ。俺には、全然ちょっとに見えねえんだけど」

「知らない方がいいこともあるさ」

 

 住民は、それだけ言って去っていった。

 

「……なんだよ、この街」

 

 ――ピッ。

 

 懐の端末が、小さく鳴った。

 画面の「圏外」の表示が消えている。

 

「おっ。やっと繋がったか」

 

 砂漠では拾えなかった長距離通信も、街の中継設備を通せば、宇宙の通信網まで届く。

 男は慣れた手つきで、一つの連絡先を呼び出した。

 

「久しぶりだな、アストナージさん」

 

 呼び出し音が数回。

 やがて――。

 

『はい。こちらアナハイム技術スタッフ室――』

 

 若い男の声だった。

 

「ちょっと待て。アストナージさんは?」

『……どちらさまで?』

 

 男は端末を耳から離して、画面を見た。

 もう一度、耳へ戻す。

 

「お前……誰だ?」

『ここの技術スタッフですが』

「いや、そうじゃなくて。アストナージさんに代わってくれよ」

『兄に、ですか?』

「…………兄?」

『はい』

「お前、アストナージさんの弟か? 弟なんていたのかよ……」

『兄から、聞いていませんか?』

「聞いてねえよ」

 

 男は、無精ひげをガリガリとかいた。

 

「まあいいや。それで、アストナージさんは?」

『兄は……今、ここにはおりません。こちらの設備は、私が引き継いで使っています』

「そうなのか……参ったな」

『私で分かることでしたら。……着信の記録には、ジュドとありますが』

「そうそう」

『兄のお知り合いなら、大歓迎です。何かありましたか?』

「ありがてえ。実は地球(こっち)でさ――中古のモビルスーツとか、最悪モビルワーカーでもいいんだけど、そういうのを扱ってる所、知らねえかなあ? 新品じゃなくていい。シャングリラの頃みたいに、安く手に入ると助かるんだ」

 

 しばらく、相手が黙った。

 

『機体そのものとなると、すぐには何とも……。ただ、修理や改造を含めて相談できそうな方なら、一人心当たりがあります。アルフレッド=イズルハという技術屋です』

「アルフレッド?」

『ええ。フォン・ブラウン技術功労賞を受けたほどの方です。なぜサハラなんかにいるのか、不思議なくらいですよ。……現在地を確かめました。あなたが今いる街です』

「ここ?」

 

 男――ジュドは、周りを見回した。

 その顔に、ようやく笑みが浮かぶ。

 

「なんだよ。だったら話が早えじゃねえか」

 

 ジュドは通信を切ると、送られてきた地図に目を落とした。

 

「アルフレッド、ねえ。こんなところに、そんな大層な技術屋がいるのかねえ」

 

 地図の案内に従って、ジュドは通りを歩き出した。

 

 

     ◇

 

 

「……ここか?」

 

 ジュドは、一軒の機械屋の前で足を止めた。

 店先には、修理待ちの機械や部品が、ごちゃごちゃと並んでいる。

 

「普通の機械屋じゃねえか。……まあ、いいか。ごめんよう」

 

 返事はない。

 奥から、機械を削る音が聞こえてくる。

 

「おーい。誰かいねえの?」

「はいはい、ちょっと待っておくれ!」

 

 しばらくして、奥から白髪まじりの老人が出てきた。

 年季の入った作業着。手には、油汚れが残っている。

 

「すまんね。ちょうど手が離せなくてな。修理かい?」

「いや。アルフレッドさんってのは?」

「ああ。わしだが」

 

 ジュドは、老人を上から下まで眺めた。

 

「油まみれで、すまんね。で、何の修理だい?」

「モビルスーツって、いじれる? 中古でいいんだ。最悪、モビルワーカーでも構わねえ」

「そいつは今、外に置いてあるのかい?」

「いや。まだ持ってねえんだ」

 

 アルフレッドは、腕を組んだ。

 

「修理や改造なら、物を見ればなんとかなるかもしれん。だが、実物がないんじゃあねえ。わしは機械屋だ。中古のモビルスーツの仲介屋じゃないんでね」

「やっぱ、そうだよなあ。昔なら、そこらに転がってるのを拾ってくりゃよかったんだけどな」

「どんな時代だい、それは」

「昔の話」

 

「探せば、あるんじゃないですか?」

 

 店の奥から、声がした。

 

 作業台の向こう、機械部品の山に半分隠れるようにして、一人の少女がいた。

 作業着姿。手には工具。額には、大きなゴーグル。

 

「ロロちゃん」

「中古なんですよね? 動けばいいんですか?」

「いや……できれば、戦える方がありがたいけど」

「じゃあ、探してみればいいじゃないですか」

「探すって、どこを?」

 

 ロロは工具を作業台へ置いた。

 そして、額に上げていたゴーグルを、パカッと目元へ下ろした。

 

「ハロ」

 

 ゴーグルの内側に、小さな光がともった。

 

『ハーイ、ロロ!』

 

「この近くで、中古のモビルスーツかモビルワーカーを扱ってるところ、ある?」

『検索スルヨー!』

 

 ジュドは、ゆっくりとアルフレッドを見た。

 

「……今、誰と喋ってんの?」

「まあ、見てなって」

 

 ロロのゴーグルの中を、地図や店の情報が次々と流れていく。中古機械の店。ジャンクショップ。捨てられた機材を扱う業者。

 その真ん中を、小さなハロが忙しく飛び回っていた。

 

『ロロ! アッタヨ! 何件カアル!』

 

 ロロの指が、空中の何かを選ぶように動いた。

 

「この近くだと……旧スーダン地方に置いてあるね。ハロ、映して」

『ハーイ!』

 

 ――ピッ。

 

 ゴーグルの横から淡い光が伸び、三人の前に、半透明の立体映像が浮かび上がった。

 

『RGM-89、ジェガン!』

「ジェガンか!」

 

 ジュドの顔が、ぱっと明るくなった。

 

「知ってるんですか?」

「まあ……昔な」

「かなり古いけど、これが一番近いし、おすすめかな。ハロ、この機体の設計資料ってある?」

『アルヨ!』

「今の規格と、照らし合わせてみて」

 

 空中のジェガンが、ばらばらにほどけるように広がっていった。

 装甲。骨組み。足回り。制御の仕組み。それぞれが立体図になって、宙に浮かぶ。

 

 アルフレッドの目つきが変わった。

 

「……ほう」

 

『古イ部品、イッパイ!』

「でしょうね」

『今ノ部品ニ置キ換エルト――』

 

 いくつもの部品が光り、次々と新しい規格の部品へ置き換わっていく。

 アルフレッドは、立体図をじっと眺めた。

 

「……これなら、今の部品でなんとかできそうだ」

「本当かい! じゃあ、いつ頃なら出られる?」

「そうさなあ……。行くとなれば、それなりに準備もいる。それに、何日も店を空けるわけにもいかんのでね」

「ああ……そりゃ、そうだな」

 

 ジュドが、困ったように頭をかいた。

 

「じゃあ、僕が行く!」

 

 二人が、同時に振り向いた。

 ロロがゴーグルを額へ上げる。その目が、妙に輝いていた。

 

「僕なら、いつでも行けるよ。機体の状態を見るだけなんでしょ? 設計図もあるし、ハロもいるし」

『ハロモ、イルヨ!』

「それに――」

 

 ロロは、空中に浮かぶジェガンを、もう一度見つめた。

 

「……実物、見てみたい」

 

 アルフレッドは、小さくため息をついた。

 

「そっちが本音だろう」

「えへへ……」

 

 ジュドが、二人を見比べた。

 

「お嬢ちゃん、本当に大丈夫なのかい?」

「もちろん! スーダンまで、道案内するね!」

「ただし、ちゃんと準備してからだぞ、ロロちゃん」

「うん!」

 

 ジュドは、ニッと笑った。

 

「そうか。じゃあ、よろしく頼むよ」

「はい!」

 

 ――こうして。

 ロロは、突然現れた熊のような男とともに、街を出ることになった。

 

 

                          (つづく)

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