GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

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サハラ砂漠の出来事があった数日後

イエロースーツたちは変わらず行動していた。

そこに一人の男が立ち寄る。



第2話 黄色の民

 かつて、教祖ルル=スーンはこう説いた。

 

「地球に生きる人も、宇宙(そら)に生きる人も同じです」

「人類は――一つにまとまるべきです」

その言葉に共鳴する者は、少しずつ増えていった。

やがて彼女の思想に共鳴する者たちの集まりは、いつしか――

 

「ルル教」

 

と呼ばれるようになった。

そして、その教団は時とともに勢力を増し――

やがて、ルル本人の手にも負えないほど巨大なものへと成長していった。

 

 

時は流れ――。

サハラ砂漠の、とある街。

広場の一角に、大勢の人々が集まっていた。

 

その中心。

簡素な壇上に立つ、一人の男。

男が拳を高々と掲げる。

 

「同志諸君!」

 

そして――叫んだ。

「蒼き宇宙(そら)の世は死んだ!」

ざわめいていた人々が、壇上へ目を向ける。

「かつて宇宙(そら)へ上がった者たちは、自らを新たな人類と称した!」

「地上に残った我々を旧き人類と呼び――自分たちこそ人類の未来なのだと!」

男は空を指差す。

「そして幾度となく、宇宙(そら)から地球へ戦いを仕掛けてきた!」

「だが――」

男はゆっくりと腕を下ろした。

「その時代は、もう終わったのだ!」

群衆が静まり返る。

「宇宙(そら)から聞こえていた反乱の声も、今はない!」

「ならば――」

男は集まった人々を見渡した。

「今度は、我々が立つ番ではないか!」

「…………!」

「我々はこれまで、ただ地上で耐えてきた!」

「戦争が起これば巻き込まれ――街を焼かれようと、家族を失おうと、ただ耐えてきた!」

男の拳が、再び上がる。

「立てよ――黄色き民!」

「オオオオオオッ!!」

群衆の一部から歓声が上がった。

「地球も宇宙(そら)もない!」

「我々は同じ人間だ!」

「かつてルル=スーンが説いたように――」

「人類は、一つになるべきなのだ!」

「オオオオオオオオッ!!」

歓声が広場を包んだ。

やがて男は、壇上の脇へ視線を向ける。

そこには何着もの――黄色いスーツが用意されていた。

「そして――我々と志を共にしてくれる者には、この衣を身につけてもらいたい!」

隊員たちがスーツを手に取り、壇上の周囲へ集まった住民へ差し出していく。

「少しでも我々の考えに共鳴してくれる者なら、ぜひ手に取ってもらいたい!」

男は笑顔で両腕を広げる。

「遠慮はいらない!」

住民たちは顔を見合わせた。

やがて一人の男が、おそるおそる差し出されたスーツを受け取る。

「……へえ」

広げてみる。

「思ったより軽いな」

胸元に小さなスイッチがあった。

「なんだ、これ?」

――カチッ。

「……ん?」

男の表情が変わった。

「おおっ!?」

「どうした?」

「冷てえ!」

周りにいた者たちが寄ってくる。

「これ、冷却機能が付いてるぞ!」

その声を耳にした壇上の男が、すかさず笑った。

「その通りだ!」

住民たちが再び壇上を見る。

男は自らが着ている黄色いスーツを叩いた。

「これは、ただ我々の志を示すだけの衣ではない!」

「温度調節、防塵、そして防護機能も備えている!」

「砂漠の熱にも、夜の寒さにも耐えられる!」

 

「さらには、多少の銃弾からも諸君の身体を守ってくれるだろう!」

「銃弾も……?」

「すげえな……」

住民たちが手元のスーツを見る。

先ほどの男も、黄色いスーツをまじまじと眺めていた。

隣にいた知り合いが声をかける。

「お前……まさか入る気か?」

「ん?」

「お前、ルル教なんて興味なかっただろ」

「今も別にねえよ」

「だったら、なんでだよ?」

「…………」

男は黄色いスーツを肩にかける。

そして――

頭上から容赦なく照りつける太陽を見上げた。

「暑いから」

「…………」

「それだけかよ」

男は汗をぬぐいながら答えた。

「当然だろ」

 

 

 

イエロースーツの拠点。

広場では、黄色いスーツに身を包んだ隊員たちが訓練を続けていた。

「構え!」

号令とともに、一斉に銃を構える。

「撃て!」

まるで機械のように的に向かって射撃が繰り返される。

その様子を、建物の窓から一人の男が眺めていた。

ロレッツオ主教だった。

「…………」

その顔は、どこか面白くなさそうだった。

やがて――

「お呼びでしょうか、ロレッツオ主教様」

若い男が部屋へ入ってきた。

ロレッツオは振り返らず、窓の外を眺めたまま口を開く。

「きみがフォンセ=カガチくんですね?」

「はい」

「この件については、以前の担当者にも話したはずなのですが―― 」

ロレッツオは、訓練を続ける隊員たちへ目を向ける。

「鍛錬に励むのも結構。組織のために働くのも結構です。」

「が――」

わずかに眉をひそめた。

「彼らはイエロースーツである以前に、ルル教の信徒です」

「はい。」

「教会へ毎日来いと言っているわけではない」

ロレッツオはため息をついた。

「せめて週に一度くらいは、教会へ祈りを捧げに来てもよいのではないですかね?」

「……おっしゃる通りです」

カガチは静かに頭を下げた。

「その件につきましては、私からもイエローの代表たちへ日々伝えております」

「では、なぜ教会へ来ない?」

「それが……」

カガチは少し言葉を選んだ。

「代表からは、入隊する者に信仰そのものを強制することはできない、と」

ロレッツオの眉が動いた。

「強制?」

「はい」

「ルル教へ籍を置くことは求める。しかし、祈りや教義への向き合い方まで条件にしてしまえば――」

 

「イエロースーツへ加わろうとする者が減ってしまう、と」

「…………」

主教は不愉快そうに鼻を鳴らした。

「都合のいい時だけ、ルル様のお名前を使うというわけかね?」

「…………」

カガチは、すぐには答えなかった。

「まあ……いいでしょう」

ロレッツオは再び窓の外を見る。

「彼らのおかげで、多くの者がルル教の名を知った。それは私も認めています」

そして、小さく付け加える。

「だが、今となっては数だけ増えても仕方がないでしょう」

「はい」

「イエローについては、よからぬ噂も絶えません。だからこそ今は、彼らにもルル様の教えに向き合ってもらうことが肝要なのです」

「承知しました」

カガチは頭を下げる。

そして――

訓練を続ける黄色い隊員たちへ、ちらりと視線を向けた。

 

 

――サハラ砂漠。

灼けつく大地の上を、一人の男が歩いていた。

大柄な身体。

日に焼けた肌。

伸び放題の髪に、顔を覆う無精髭。

遠目から見れば――まさに熊だ。

「ったく……暑っちぃな」

男は額の汗を腕で拭った。

その足元には、焼け焦げた機械の残骸が転がっている。

男は足を止めた。

「…………」

しゃがみ込み、残骸の一部を拾い上げる。

装甲板。

駆動部。

そして、焼け残った電子部品。

しばらく眺めていた男の表情から、先ほどまでの気だるさが消えた。

「……やはりな」

 

男は立ち上がった。

「イエローの奴……派手にやったな」

辺りには、破壊された機械兵器がいくつも転がっていた。

「いったいなにがあった……仲たがいか?」

無精髭をガリガリと掻く。

「いよいよかな、こりゃあ」

男は遠くを見る。

砂漠の向こうに、一つの街が見えていた。

そして再び歩き始める。

 

 

街へ入った男は、頭上を見上げて足を止めた。

「……なんだ、ありゃ?」

街を覆う巨大な環境制御ブース。

その一部に、大きな損傷の跡が残っていた。

穴そのものは、トリモチによって応急的に塞がれている。

さらに視線を移せば、街の一角では建物が大きく崩れ、復旧作業が続いている。

ちょうど通りかかった住民を捕まえる。

「なあ、ちょっといいか?」

「ん?」

男は頭上を指差した。

「ありゃなんだい?」

「ああ……あれか」

住民は嫌そうな顔をする。

「ちょっとした騒ぎがあってな」

「ちょっとした、ねえ……」

男はもう一度、巨大な補修跡を見る。

「俺には全然ちょっとに見えねえんだけど」

「知らない方がいいこともあるさ」

住民はそう言い残して去っていく。

「…………」

男は頭を掻いた。

「なんだよ、この街……」

――ピッ。

そのとき、懐の端末が小さく鳴った。

男が取り出す。

通信表示が圏外から切り替わっていた。

「おっ」

ようやく表情が明るくなる。

「やっと繋がったか」

砂漠では拾えなかった長距離通信網。

街の中継設備を経由すれば、軌道上の通信網へアクセスできる。

男は慣れた手つきで、一つの連絡先を呼び出した。

「さて、と……」

表示された名前を見て、ニヤリとする。

「久しぶりだな、アストナージさん」

通信を開始する。

数度の呼び出し音。

やがて――

『はい』

若い男の声が聞こえた。

「…………」

男の眉が動く。

『こちらアナハイム技術スタッフ室――』

「ちょっと待て」

『はい?』

「アストナージさんは?」

短い沈黙。

そして相手は、意外な答えを返した。

『……どちらさまで?』

「…………?」

男は端末を耳から離した。

画面を見る。

もう一度耳へ戻す。

「お前……誰だ?」

『誰と言われましても……ここの技術スタッフですが』

「いや、そうじゃなくて。アストナージさんに代わってくれよ」

『兄に、ですか?』

「…………」

男の動きが止まった。

「兄?」

『はい』

「…………」

再び端末を耳から離す。

「お前……アストナージさんの弟か?」

『そうですが』

「弟なんていたのかよ……」

『兄から聞いていませんか?』

「聞いてねえよ」

男は無精髭をガリガリと掻いた。

「まあいいや。それで、アストナージさんは?」

一瞬、相手が黙る。

『兄は……現在、ここにはおりません』

「いない?」

『はい。今はこちらの設備を、私が引き継いで使っています』

「そうなんだ……」

男は少し困ったように空を見上げた。

「参ったな」

『私で分かることでしたら。……着信履歴には、ジュドとありますが』

「そうそう」

『兄のお知り合いの方なら大歓迎です。何かありましたか?』

「ありがてえ。実は地球(こっち)でさ――」

男は街の外、先ほど見てきた砂漠の方角へ目を向ける。

「中古のモビルスーツとか、最悪モビルワーカーでもいいんだけど……そういうのを扱ってる所、知らねえかなあ?」

『中古のモビルスーツ?』

「ああ。新品じゃなくていい。シャングリラみたいに、安く手に入れられた方が助かる」

『今いらっしゃる場所ですと……』

『…………』

『機体そのものとなると、すぐには何とも言えませんが――修理や改造を含めて相談できそうな方なら、一人心当たりがあります』

男の眉が上がった。

「本当か?」

『アルフレッド=イズルハという技術屋です』

「アルフレッド……?」

『ええ。フォン・ブラウン技術功労賞を受賞したほどの方です。なぜサハラなんかにいるのか、不思議なくらいですよ』

「どこにいるか分かるかい?」

『少々お待ちを』

短い間。

『……現在地を確認しました』

「おう」

『あなたが今いる街です』

「…………」

男は周囲を見回した。

「ここ?」

『はい』

「なんだよ」

男の顔に、ようやく笑みが浮かぶ。

「だったら話が早えじゃねえか」

急ぎ街中へ去っていった。

 

ジュドは通信を切ると、送られてきた地図へ目を落とした。

「アルフレッド……ねえ」

聞いたことのない名前だった。

だが、腕の方は信用してもよさそうだ。

「しかし……」

男は地図と周囲を見比べる。

「こんなところに、そんな大層な技術屋がいるのかねえ」

表示された案内に従い、通りを歩いていく。

 

「……ここか?」

ジュドは足を止めた。

目の前にあるのは、街の一角に建つ機械屋だった。

店先には、修理待ちと思われる機械や部品が雑然と並べられている。

どう見ても――。

「普通の機械屋じゃねえか」

ジュドは頭を掻いた。

「まあ、いいか」

店の中へ入る。

「ごめんよう」

返事はない。

奥から機械を削る音が聞こえてくる。

「おーい。誰かいねえの?」

「はいはい、ちょっと待ってくれ!」

しばらくして、店の奥から一人の男が姿を現した。

作業着姿。

手には油汚れが残っている。

「悪いね。ちょうど手が離せなくて」

「いや、こっちこそ突然悪いな」

「修理かい?」

「いや――」

男は少し相手の顔を眺めた。

「アルフレッドさんってのは?」

「ああ。私だが」

「…………」

男はアルフレッドを上から下まで見る。

「油まみれですまんね」

アルフレッドが苦笑した。

「で、お客さん何の修理で?」

「ああ、それなんだけどさ」

「はい」

「モビルスーツって、いじれる? 中古でいいんだ。最悪、モビルワーカーでも構わねえ」

「そのモビルワーカーは今、外に?」

「いや、まだ持ってねえんだ」

 

アルフレッドは腕を組んだ。

「修理や改造なら、物を見れば何とかできるかもしれんが、実物がないんであれば……」

「さすがに、この街に置いてあったりしないかい?」

「俺は機械屋だ。中古MSの仲介屋じゃないんでね」

「やっぱ、そうだよなあ……」

男は頭を掻いた。

「昔なら、そこらに転がってるのを拾ってくりゃよかったんだけどな」

「どんな時代だよ、それ」

「昔の話」

そのとき――。

店の奥から声がした。

「探せばあるんじゃないですか?」

「ん?」

男が振り向く。

作業台の向こう。

機械部品の山に半分隠れるように、一人の少女がいた。

作業着姿。

手には工具を持っている。

額には――見覚えのあるような、大きなゴーグル。

アルフレッドが振り返る。

「ロロ」

「中古なんですよね?」

少女は男を見る。

「まあな」

「動けばいいんですか?」

「いや……できれば戦える方がありがたいけど」

「じゃあ、探してみればいいじゃないですか」

「探すって……」

男は首を傾げた。

「どこを?」

ロロは工具を作業台へ置いた。

そして――。

額に上げていたゴーグルを、パカッと目元へ下ろす。

「ハロ」

一瞬。

ゴーグルの内側に、小さな光が灯った。

『ハーイ、ロロ!』

「…………?」

男の眉が上がった。

ロロは何事もなかったように続ける。

「この周辺で、中古のモビルスーツかモビルワーカーを扱ってるところ、ある?」

『検索スルヨー!』

「…………」

男はゆっくりとアルフレッドを見る。

「……今、誰と喋ってんの?」

アルフレッドは小さく笑った。

「まあ、見てなって」

「?」

ロロの目の前――。

ゴーグルの中では、膨大な情報が次々と流れていく。

地図。

中古機械販売店。

ジャンクショップ。

廃棄機材を扱う業者。

その中央を、小さなハロが忙しそうに飛び回っている。

やがて――。

『ロロ!』

「うん?」

『アッタヨ!』

「ほんと?」

『何件カアル!』

ロロの指が、空中の何かを選ぶように動いた。

「この近くだと……旧スーダン地方に置いてあるね」

「どれだ?」

「あ……おじさん、近い。ハロ、映し出してくれる?」

『ハーイ!』

――ピッ。

ゴーグルの側面から淡い光が放たれる。

「お?」

ロロたちの目の前に、半透明の立体映像が浮かび上がった。

「かなり古いけど――」

『RGM-89、ジェガン!』

「ジェガンか!」

ジュドの顔が、ぱっと明るくなった。

ロロが意外そうに振り向く。

「知ってるんですか?」

「まあ……昔な」

「これが一番近いし……おすすめかな」

ロロは小さく頷く。

「ハロ、この機体の設計資料ってある?」

『アルヨ!』

「現在の規格と照合してみて」

『ハーイ!』

空中のジェガンが、分解されるように展開していく。

装甲。

フレーム。

駆動系。

制御系。

それぞれが立体図となって宙に浮かぶ。

アルフレッドの目つきが変わった。

「……ほう」

『旧式部品、イッパイ!』

「でしょうね」

『現行部品ニ置キ換エルト――』

いくつもの部品が光り、次々と現在の規格へ置き換わっていく。

アルフレッドは腕を組み、立体図をじっと眺めた。

「……これだったら、現行の部品で何とかできそうだ」

「本当かい?」

ジュドの顔が明るくなる。

「じゃあ、いつ頃なら出られそうだ?」

「うーん……」

アルフレッドは腕を組んだ。

「そうだなあ……」

「何かまずいか?」

「いや、行くとなればそれなりに準備もいる。それに――」

アルフレッドは店の中を見回した。

「何日もここを空けるわけにもいかないんでね」

「ああ……そりゃそうだな」

ジュドも困ったように頭を掻く。

そのとき――。

「じゃあ、私が行く!」

「ん?」

二人が同時に振り向いた。

ロロがゴーグルを額へ上げる。

その目が――妙に輝いていた。

「私ならいつでも行けるよ」

「いや、ロロ……」

「機体の状態を見るだけなんでしょ?」

「まあ、そうだが」

「だったら大丈夫。設計図もあるし、ハロもいるし」

『ハロモイルヨ!』

「それに――」

ロロはもう一度、空中に浮かぶジェガンへ目を向けた。

「……実物、見てみたい」

「…………」

アルフレッドは、その顔を見て小さくため息をついた。

「そっちが本音だろ」

「えへへ……」

ジュドが二人を交互に見る。

「お嬢ちゃん、本当に大丈夫なのかい?」

「おじさんさっそく行こう!」

間髪入れずに答えた。

アルフレッドは諦めたように息を吐いた。

「ただし、ちゃんと準備してからだぞ」

「うん!」

ロロは嬉しそうに頷いた。

「お嬢ちゃん、いいのかい?」

「もちろん!スーダンまで道案内するね!」

「そうか」

ジュドはニッと笑った。

「じゃあ、よろしく頼むよ」

「はい!」

――こうして。

ロロは、突然現れた熊のような男とともに、街を出ることになった。

 

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