GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

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お待たせしました〜!第22話です✨

ついに後継者が決まります。三つの試練を越えて戻ってきた三人の兄妹に、サラサが告げる答えとは……。そして、朱麗にはもう一つ、ずっと待っていた再会が用意されています 

静かな回ですが、ぜひ最後まで見届けてください!


第22話 待っておる

 

 

 

 神殿の広間に、三人の兄妹が並んでいた。

 サラサの座の右には神官たち。サルガの後ろにはリナート、ラセルの後ろにはリュネが控え、少し離れてモンドが立っている。

 朱麗は、セラの後ろに立った。

 サルガの肩には、薄く布が当てられていた。

「皆、よく戻りました」

 サラサは、一人ずつ顔を見た。

「石碑では、どのような光を見ましたか。色と、どのような光であったかを聞かせてください」

「緑です」

 サルガが、一歩進み出た。

「木漏れ日の下で見上げた、葉のような色でした」

「自然と調和する色ですね」

 サラサは、目を細めた。

「法を守り、秩序を重んじる心。昔のムーン・ムーンが持っていた、よい姿そのものです」

 サルガは何も言わず、わずかに背筋を伸ばした。

「ラセルは?」

「青です」

 ラセルが、静かに答える。

「底まで見える水のようであり、どこまでも続く空のようでもありました」

「冷静に物事を見つめ、想像を広げられる人の色です」

 ラセルは、静かに一礼した。

 サラサの視線が、末の娘へ向く。

 セラは、自分の掌を見た。

「私は……白でした」

 神官の一人が、顔を上げた。

「白い光を?」

「はい。眩しくなくて、そっと触れてもいいと思える光でした」

 続けかけて、朱麗の方へ目を向けた。

 彼は黙って、こちらを見ている。

 セラは、サラサへ向き直った。

「それだけです。うまく、説明できなくて」

「十分ですよ」

 サラサは、微笑んだ。

「純粋で、飾らない色です。人をまっすぐに見る人の光」

 サラサは、しばらく三人を見つめていた。

「緑の調和も、青の冷静さも、白の純粋さも、どれも今のムーン・ムーンに必要なものです」

「それでも、選ぶのは一人です」

 ラセルが尋ねた。

「白が最も優れている、ということですか」

「いいえ。純粋であるだけでは、人を率いることはできません。守るべきものを守る強さも、先を読む目も必要です。どれが上、どれが下ということはありません」

 サルガが、わずかに顎を上げた。

 サラサは、彼へ目を向けた。

「おばば様と守り手からも、話を聞いています」

「サルガ。水を蓄えるだけでなく、翌朝に配るところまで考えたそうですね」

「当然です。池に入れただけでは、民の喉は潤いません」

「坂では、父を庇ったとも」

 サルガの手が、肩の布へ触れた。

「二人で越える試練でしたから」

 リナートが、小さく笑った。

 サラサも、目元を緩めた。

「ラセル。あなたは、家々に水を置くことを選びましたね」

「ええ。その方が、必要なときに使えます」

「そして、リュネのために足を止めた」

 ラセルは、後ろの従者を一度見た。

「倒れられては、帰りに困りますので」

 リュネが、少しだけ目を伏せた。

「二人とも、人を預かる者として、大切なものを持っています」

 サラサは、膝の上で手を重ねた。

「そのうえで、私の後を継ぐ者を決めます」

 衣擦れの音が、止まった。

「セラ」

 呼ばれた本人が、顔を上げる。

「あなたに、継いでもらいたい」

 セラの唇が、わずかに開いた。

 隣で、サルガの足が動いた。

「母上」

 強い声だった。

「理由を、伺ってもよろしいでしょうか」

「この村には、決まりを守って暮らしていても、困っていることを言えずにいる者がいます」

 サラサは、セラを見た。

「水をくみに来られない者は、どうするのか。あなたは、そこを尋ねましたね」

「……はい」

「私は長く、この村を見てきました。それでも、見落としてきたものがあります。これからは、そういう声を聞く者に、村を預けたいのです」

 セラは、衣の裾を握った。

「でも、私には、お兄様たちのような……」

「一人で何もかもできる者はいません」

 サラサの視線が、二人の兄へ戻る。

「サルガ。あなたの堅実さが必要です。ラセル。あなたの目も必要です。セラを、支えてほしい」

 サルガの眉が、寄った。

「私に、妹を支えろと?」

「そうです」

「力も、経験も足りぬ者を。まして、あれは父も違う――」

「サルガ」

 リナートの声がした。

 大きな声ではなかった。

 サルガは、父を見た。

 次に妹を見て、口を閉じた。

 セラは、うつむかなかった。

 裾を握る手だけが、白くなっていた。

「三人とも、私の子です」

 サラサが言った。

「三人に試練を受けさせたのは、私です。その結果を見て、後継者を選ぶのも私です」

 サルガは、深く息を吐いた。

「……承知しました」

 頭を下げたが、セラへは顔を向けなかった。

 ラセルは、静かに片眼鏡を直した。

「継承までに、覚えていただくことは多そうですね」

 セラは、彼を見た。

「ええ。教えていただきたいわ」

 ラセルは、すぐには答えなかった。

     *

 神官が話を進めようとしたとき、セラが一歩、前へ出た。

「お母様。その前に、一つお願いがあります」

 サラサが、顔を向ける。

「ヘモス様を、牢から出していただけませんか」

 サルガの顔が上がった。

「早速、それか」

 彼の目が、朱麗へ向いた。

「その男の願いをかなえるために、引き受けたのか」

「俺から頼んだ」

 朱麗が、初めて口を開いた。

「従者を務める代わりに、祖父を助けてほしいとな」

「ほら、見ろ」

 サルガは、サラサへ向き直った。

「身内を助けたいからと、掟を曲げる。これで他の者に、何と言えばよいのです」

 セラが、朱麗の前へ出かけた。

 彼は、彼女を止めなかった。

「ユファおば様から、お話を聞いていました。私も、何とかしたいと思っていたのです」

「でしたら、なおさら確かめるべきでしょう」

 ラセルの声が、間へ入った。

「ヘモスだけを解放する理由が、他の囚人にも説明できますか。ご家族の話だけでは、足りません」

 セラは、言葉を探した。

 サルガは腕を組み、ラセルは返事を待っている。

「統治者の親族を守る掟はあります。ですが、ヘモスはその親族ではありません」

 ラセルが続けた。

「そして、セラ。あなたは後継者です。まだ、母上から権限を引き継いだわけではない」

 セラの目が、朱麗へ動いた。

 すぐに、兄へ戻った。

「でも、まだヘモス様のお話を聞いていません。聞かないまま、決めてしまっていいのですか?」

 ラセルが、口を閉じた。

「すぐに出せないのなら、せめて、何があったのかを確かめたいです」

 サラサは、神官の一人へ目を向けた。

「当時の記録を、私のもとへ。それから、本人の話も聞きます」

「かしこまりました」

 サルガが、母を見た。

「母上」

「今、ヘモスを預かっているのは私です。解放するかどうかも、事情を確かめたうえで私が決めます」

 サラサの声は、揺れなかった。

「セラ。継承の儀を終えるまでは、こうした判断は私が行います。あなたも、その間に学びなさい」

「……はい」

 セラが頭を下げる。

 サラサは、朱麗へ顔を向けた。

「朱麗。今日は、短い面会を許します。見張りの指示に従ってください」

 内側で、息をのむ気配があった。

『師匠……』

 ドモンは、サラサへ頭を下げた。

「感謝する」

 サルガは何か言いかけたが、腕を組み直しただけだった。

     *

 神殿を出ると、ユファが待っていた。

 セラの顔を見て、朱麗へ目を移す。

「どうなりました?」

「お母様が、調べてくださることになったわ。今日は、会わせていただけるそうです」

 ユファは、胸元へ手を当てた。

「そう……そうですか」

 セラは、朱麗を振り返った。

「選ばれたのに、ちっとも嬉しくないの」

 小さく笑って、続ける。

「怖いのよ。お兄様たちに、あんなふうに言われて」

「怖くても、動けばいい」

 ドモンは、静かに言った。

「坂で、そうしただろう」

 セラは目を瞬かせ、それから、ふっと肩の力を抜いた。

「そうね」

 少しうつむいてから、顔を上げる。

「まだ、約束を果たせていないわ」

「お前が、話を聞くところまで持っていった。まずは、会ってくる」

 セラは、少しだけ口元を緩めた。

「ええ。私も、待っているわ」

 迎えの衛兵が、道の先へ手を向けた。

 朱麗はユファとともに、神殿の裏手へ歩き出した。

     *

 牢は、石造りの建物の奥にあった。

 細い窓から差す夕日が、床へ一筋、落ちている。

「今日は、短い面会です。時間になりましたら、お声をかけます」

 衛兵が告げた。

 朱麗はうなずき、格子の前へ進んだ。

 奥で、老人が顔を上げた。

 腰掛けていた木の椅子から、ゆっくり立ち上がる。

「ユファ。今日は、誰を……」

 途中で、声が止まった。

 朱麗も、足を止めた。

 白い髪。頬の深い皺。少し小さくなった肩。

『……じっちゃん』

 内側から、かすれた声がした。

 ヘモスは、格子へ近づいた。

 顔を上へ向け、朱麗を見つめる。

「朱麗、か」

 ドモンはうなずいた。

 ユファが、傍らへ寄った。

「帰ってきたのですよ」

 ヘモスの口が、少し開いた。

 朱麗の肩から、顔へ。もう一度、顔から肩へ。

「大きくなった」

 それだけ言って、笑った。

 ユファは、目元を指で押さえた。

『じっちゃん……僕……』

 その先は、続かなかった。

 ドモンは、格子の前にしゃがんだ。

 ヘモスも椅子を格子のそばへ寄せて座り、同じ高さで顔を合わせる。

「ずいぶん、変わったな」

 ドモンは、老人の目を見た。

「……長い間、来られなかった」

 格子の間から、手が伸びた。

 ドモンはそれを取り、そっと包んだ。

 細い指だった。

 握り込まず、その重みを受け止める。

 ヘモスの親指が、彼の掌へ触れた。

 硬いたこを、ゆっくりなぞる。

「生きていてくれた。それでいい」

 ドモンは、何も言わなかった。

 内側でも、声は聞こえなかった。

 ただ、手を握っていた。

 しばらくして、老人の目が、孫の顔をゆっくりなぞった。

「腹は、減っておらんか」

 内側で、息が揺れた。

『……じっちゃん、昔も、そうやって……』

 ドモンは、口元を少し緩めた。

「食わせてもらった。大丈夫だ」

「なら、よかった」

 ヘモスがうなずく。

 その手は、まだ離れなかった。

 窓からの光が、少しずつ細くなった。

「そろそろ、お時間です」

 衛兵の声がした。

 ドモンは老人の顔を見て、静かに息を吐いた。

「また来る」

 内側で、朱麗も小さくうなずいた。

「ああ。待っておる」

 ヘモスの指が、そっと緩んだ。

 二人の手が、格子越しにゆっくり離れた。




22話、お疲れさまでした〜!

今回は「誰が選ばれたか」より、「どう選ばれたか」を書いたつもりです。緑も青も白も、どれが上というわけではなく、サラサが今のムーン・ムーンに必要なものを見て決める――サルガにもラセルにも、それぞれ筋の通った言い分があります 

そして、ヘモスとの再会。ドモンは多くを語らず、ただ手を握っています。内側の朱麗が言葉にならなかった分、「待っておる」の一言に気持ちを込めました。

次回は、後継者に決まったセラと、動き出す兄たち。継承の儀に向けて、ムーン・ムーンの空気が少しずつ変わっていきます。次回もお付き合いいただけたら嬉しいです〜!
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