GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

25 / 25
お待たせしました〜!第25話です✨

ダカールの跡地で、ブラッドが「何か」を感じ取るところから始まります。そして今回は、あの二機が、ついに登場します  懐かしい人は、ぜひニヤリとしながら読んでください!


第25話 残っていた記録

 

 

 

 光が、消えた。

 

 戦略指令室の画面に、白い余韻だけが残っている。

 発射管制卓の前で、ブラッドは操縦桿から手を離せずにいた。

 

 こめかみの奥を、鋭いものが走り抜けた。

 

 怒りだった。

 悲しみに似た、熱い何か。

 

 見覚えのある色が、瞼の裏で揺れた。

 

「……ブラッド?」

 

 アークが、気配に気づいて近づく。

 

 ブラッドは、答えなかった。

 焼けた地上の映像を、アイマスク越しに見つめたまま、低く呟いた。

 

「……シャア。生きていたのか」

 

 アークの足が、止まった。

 

「今、何と言った」

「分かるのは、それだけだ」

 

 ブラッドは、静かに首を振った。

 

「どこにいるのか。何をしているのか。……あの街の側にいたのかどうかも」

 

 画面の中で、ダカールの跡地が、静かに煙を上げていた。

 

     *

 

 翌日。

 

 グラナダでの調査を終えたカミュとファが、アナハイムの廊下で足を止めた。

 

 壁際の端末が、同じ報道を繰り返している。

 ダカールの行政区、壊滅。

 原因は、調査中。

 

「……何だ、これは」

 

 カミュの声が、低くなった。

 

 ジュドが、廊下の奥から歩いてきた。

 いつもの豪快さが、影を潜めていた。

 

「お前らも、見たのか」

 

「街ごと、消えちまったそうだ」

 

 カミュは、何も言わずに歩き出した。

 

「カミュ」

 

 ファの声にも、足は止まらなかった。

 

     *

 

 戦略指令室の扉の前で、カミュは足を止め、一度だけ息を整えた。

 

 扉を叩く。

 

「ブラッド大佐、失礼します」

 

 中へ入ると、ブラッドとアークが、同時に顔を上げた。

 カミュに続いて、ジュドとファも入った。

 

「ニュースは、拝見しました」

 

 カミュは、まっすぐに言った。

 

「ダカールを撃ったのは、あなたですか」

「その通りだよ、カミュ君」

 

 ブラッドの声は、低かった。

 カミュは、視線を逸らさなかった。

 

「私が知らせたのは、本拠地の場所です。街ごと焼けとは、言っていません」

 

 室内の空気が、張りつめた。

 

 ブラッドは、すぐには答えなかった。

 アイマスクの下の表情は、誰にも読めなかった。

 

「私が望んで行った攻撃ではない。軍の指示だ」

 

 ブラッドの隣で、アークが口を開いた。

 

「我々は軍隊だ。上から命令が下れば、それに従わなければならない。君も軍にいた経験は、あるのだろう?」

 

 カミュは、アークへ目を向けた。

 

「今の私は、軍人ではありません。民間人です」

 

 重い沈黙が、室内に満ちた。

 

 ファが、入口で、自分の袖口をそっと握りしめた。

 

     *

 

 その静けさを、先に破ったのはブラッドだった。

 

「カミュ君。そこにいる、ジュド君も」

 

 彼は、画面の方へ向き直った。

 

「二人に、頼みがある」

 

 ジュドが、顔を上げた。

 

「ブラッドレイシステムの防衛に、君たちの力を借りたい。一時的にではあるが、軍の人間として働いてもらえないだろうか」

「冗談じゃねえ」

 

 ジュドが、鼻を鳴らした。

 

「俺たちには、その気はないぜ。俺たちがいなくたって、困りゃしねえだろう」

 

 アークが、少しの間を置いた。

 

「確かに、イエロースーツの本拠地は壊滅した。今の連邦に攻めかかる勢力など、ないと思うだろう」

 

 それから、静かに続けた。

 

「だが、あいつは必ず攻めてくる」

「あいつ?」

 

 ジュドが、聞き返す。

 

「あいつとは、誰のことですか」

 

 カミュが、問いただした。

 

 アークも、ブラッドも、答えなかった。

 

「十日後に、もう一度、ここへ来てくれ」

 

 ブラッドが言った。

 

「私たちは、軍に入った覚えはありません」

「あくまで一時的な話だ」

 

 ブラッドは、二人を見据えた。

 

「君たち二人のことは、よく知っている」

 

 そして、横のアークへ目を向けた。

 

 アークが、小さくうなずいた。

 彼は、二人へ歩み寄り、声を落として何かを告げた。

 

 何を言ったのかは、聞こえなかった。

 

 ジュドの目が、見開かれた。

 カミュも、息をのんでアークを見つめた。

 

「……あんた」

 

 アークは、静かに身を引いた。

 

「すまない。あくまで、一時的な話だ。二人の好きにしていい」

 

 しばらく、誰も口を開かなかった。

 

 やがて、カミュが言った。

 

「……一時的な協力ですよ。それだけは、忘れないでください」

 

 十日後の再訪を、そう言って了承した。

 

     *

 

 それから、十日が過ぎた。

 

 月面アナハイムの格納庫の一角に、巨大な布が二つ、並んで掛けられていた。

 

「見せたいものがある」

 

 アークは、呼び出したジュドとカミュを見渡した。

 傍らには、付き添いのファもいた。

 少し離れて、レオナージ、カロッゾ、そしてロロの姿もあった。

 

 格納庫の扉の脇には、ブラッドも立っていた。

 白い軍帽に、黒いアイマスク。彼は、一言も発しなかった。

 

「連邦の主力として、長く使われてきた機体だ」

 

 アークが言った。

 

「今は、お蔵入りになっている。それを、ブラッドが掛け合って回収した」

 

 彼は、わずかに苦笑した。

 

「昔は、なかなか回してもらえなかったがな」

「内部の更新は、レオナージたちの仕事だ」

 

 布が、引かれた。

 

 白と青と赤の、細身の機体。

 その隣に、分厚い装甲をまとった、頭部に砲を載せた大型の機体。

 

 装甲には、傷一つなかった。

 塗装も、関節も、すべて磨き上げられている。

 

 格納庫が、静まり返った。

 

 レオナージが、二機を順に指した。

 

「MSZ-006。それから、MSZ-010だ」

 

 ジュドの声が、掠れた。

 

「……ダブルゼータ……」

 

「おい……まるで新品じゃねえか!」

 

 彼は駆け寄り、脚部の装甲を、遠慮なく叩いた。

 

 カミュは、動かなかった。

 

 目の前に立つ白い機体を、ただ見つめていた。

 傍らで、ファが、その横顔を見上げた。

 

「へえ」

 

 ロロが、首をかしげて言った。

 

「ずいぶん、古い型だね」

「型はな」

 

 レオナージが、低く笑った。

 

「中は、別物だ」

 

     *

 

 タラップを上がり、コクピットへ滑り込む。

 

 新しい部品の匂いがした。

 その奥に、遠い昔の、鉄と油の匂いが、かすかに残っていた。

 

 カミュは、操縦桿を握った。

 

 腕を、わずかに動かす。

 

 機体が、応えた。

 

「……この反応」

 

 声が、思わず漏れた。

 

 中身は、一新されたはずだった。

 それなのに、動き出す感覚が、指先に馴染んでいる。

 

「君の記録が残っていた」

 

 外部通信から、アークの声が届いた。

 

「合わせてある」

 

 カミュは、返事をしなかった。

 

 隣で、ダブルゼータのコクピットから、ジュドの声が弾けた。

 

「おい、こいつ、俺の癖までそのままかよ!」

 

 笑い声が、格納庫に響いた。

 

 カミュは、操縦桿から手を離し、通信を開いた。

 

「念を押しておきます。私は、私の判断で動かせてもらいます。それでいいんですね」

 

 ブラッドは、アークと目を合わせた。

 

「ああ。約束どおりだ」

 

 カミュは、小さくうなずいた。

 

 もう一度、操縦桿を握る。

 

 ゼータの頭部が、静かに、ゆっくりと上がった。

 

     *

 

 コクピットから降りたカミュは、格納庫の奥から飛んできた声に、足を止めた。

 

「照射面積を、現状の五パーセントまで絞る! まずはそこだ! 調整をやり直せ!」

 

 レオナージだった。

 

 格納庫の片隅に、作業台が並べられている。

 広げられた図面には、主砲の収束部が描かれていた。

 端末を抱えた工作員たちが、慌ただしく行き交う。

 カロッゾも、呼び止められては、計算結果を確かめていた。

 

「この値では、まだ広がる」

「発生器の配置を変えますか」

「変えた場合も出せ。両方見る」

 

 カミュは、部品を載せた台車のそばまで歩み寄った。

 

「主砲の改良ですか」

 

 台車の脇にいた若い工作員が、顔を上げた。

 

「ええ。狙った範囲に、もっと細かく絞れるようにしているんです」

「五パーセント、というのは」

「今の照射面積の、五パーセントです。それでも、まだ広すぎるくらいで」

 

 カミュは、少し間を置いて、尋ねた。

 

「……まだ、不完全だったんですか」

 

 工作員の手が、止まった。

 

 握っていた工具を、そっと台車の上へ置く。

 

「ブラッド大佐も、アーク教官も、あの状態での発射には反対していました」

「二人とも?」

「はい。ですが、上から発射の指示が来て……延期は、認められなかったんです」

 

 カミュは、何も言わなかった。

 

 工作員は、奥の図面へ目を向けた。

 

「最終的には、一部屋ほどの範囲まで絞るつもりでした。もう少し待ってもらえれば、そこまで調整できたかもしれないのに」

 

 声が、小さくなった。

 

「……間に合わなかった」

 

「次の結果は、まだか!」

 

 レオナージの声に、工作員が慌てて顔を上げた。

 

「すみません。戻ります」

 

 台車を押し、作業の輪へ戻っていく。

 

 カミュは、その背を見送った。

 

 私が望んで行った攻撃ではない。

 

 指令室で聞いた言葉が、よみがえった。

 

 作業台の向こうで、カロッゾが図面の一点を指し、レオナージがうなずく。

 工作員たちが、また動き出した。

 

 カミュは、しばらく、その場に立っていた。

 

     *

 

 手すりのそばで二機を見上げていたロロは、ゆっくりと、作業台の方へ歩いていった。

 

 格納庫の扉の脇に、ブラッドの姿は、もうなかった。

 

 作業台では、レオナージとカロッゾが、まだ図面を囲んでいた。

 

 ジュドの笑い声は、耳に入っていた。

 それなのに、頭の中には、別のものが居座っていた。

 衛星写真に映っていた、白く焼けた街の跡。

 

「ねえ」

 

 ロロは、図面を囲む二人へ向けて言った。

 

「あんな力があるなら、Gビットなんて、要らないんじゃない?」

 

 カロッゾが、図面から顔を上げた。

 

「一発撃てば、次を撃つまで時間がかかる。その間に攻め込まれたら、どうする?」

「それは……」

 

 レオナージも、図面から目を離した。

 

「それに、敵がまとまって来るとは限らん。ばらばらに迫る機体を、主砲一つで全部追えるわけじゃない」

 

 ロロは、黙って、二機を見つめた。

 

「……だから、Gビットが要るんだ」

「そういうことだ。今日の二機も、同じだ」

 

 カロッゾが、短く言った。

 

 ロロは、しばらく動かなかった。

 

 やがて、小さく呟いた。

 

「……あのおじさんは、あれを撃ちたかったのかな」

 

 誰も、答えなかった。

 

 格納庫の床に、二機の影が、長く伸びていた。

 

     *

 

 その頃。

 

 月面都市フォン・ブラウンに、シュウたち一行が集結していた。

 

 先に月へ渡っていた者も。

 あとから、地上を離れて追ってきた者も。

 顔ぶれは、ようやく、揃っていた。

 

 グラナダのブラッドたちは、まだ、そのことを知らなかった。




第25話、お疲れさまでした〜!

今回は、あの二機の再登場と、ダカールの後始末を、一話の中に並べてみました。外は新品のように磨かれていても、中はまったくの別物。そして、乗った瞬間に伝わる、あの懐かしい感覚……。書いていて、とても楽しかったです 

ただ、カミュにとっては、ただ喜べる話ではありません。ブラッドを許したわけではなく、「私の判断で動かせてもらいます」と念を押して乗る。その距離を、どうしても残したくて、あの形にしました。

ロロの「あのおじさんは、あれを撃ちたかったのかな」も、答えのないまま置いています。「あいつ」とは誰なのか。そして、最後の「その頃」……。

次回は、動き出したシュウ側の様子も、描いていきます。次回もお付き合いいただけたら嬉しいです〜 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。