いつも『GUNDAM TRIANGLE』をお読みくださり、ありがとうございます。
第28話で、役者はそろいました。
いよいよ、ブラッド・レイをめぐる戦いが本格的に始まります。
第29話は、その戦いの只中を描く回です。
それぞれの機体が、それぞれの持ち味で動きます。
誰がどこで何をしているのか、ぜひ目で追いかけてみてください。
詳しい中身は、あえて伏せておきます。
そして、長く物語を追ってくださっている方には、
ずっと待っていた「あの二人」の場面があります。
どうか、最後までお付き合いください。
それでは、第29話「沈む光」をお楽しみください。
シュウ側の機体は、立ちはだかる連邦のモビルスーツ隊を次々に退け、ブラッド・レイの主砲の手前まで迫っていた。
その瞬間、ルチルがGビットシステムを起動した。
兵装艦のカタパルトから放たれた数十機の無人機が、ヤザンたちを取り囲んでいく。
「ちっ……こいつら」
ヤザンは、操縦桿を引いた。
デス・ハンムラビの肩をかすめて、光条が抜けていく。
左から、上から、斜め下から。数十の銃口が、こちらの進路を一つずつ塞いでいた。
牽制に一射を返す。
先頭の機体の前で、光が花のように散った。
「当たってんのに、通らねえ」
『前面に膜を張っておる』
通信から、ゲオルグの声がした。
『射撃は弾かれる。だが、膜が向いているのは前だけだ。海蛇で引き崩して、横から斬れ』
「言われなくてもだ!」
ケーブルが伸びた。
手前の一機の脚に巻きつき、力任せに引く。
無人機が姿勢を崩した。
膜が、あらぬ方向を向く。
そこへ、光の大鎌が横から滑り込んだ。
装甲が裂け、無人機が光になって散る。
「ほら、通る」
笑った瞬間、背後で警報が鳴った。
両脇の二機が、膜を前へ押し出しながら撃ってくる。
ヤザンは機体を捻った。
腰の横を、光条が抜ける。
崩すたびに、別の方向から撃たれる。
しかも、敵の動きがおかしい。
右にいた十数機が、まったく同じ幅、同じ速さで退いた。
「揃いすぎてやがる。誰か一人が、全部動かしてんのか」
『だとすれば、相当な腕だ。気を抜くなよ』
「へっ。こいつは面倒だな」
ヤザンは舌打ちしたが、口の端は上がっていた。
鉄嵐のガトリング砲が、唸りを上げていた。
弾幕が、敵の列を叩く。
実体の弾は、膜を素通りした。
だが、当たったのは数機だけだった。
残りは、示し合わせたように一斉に散開し、弾の筋から外れている。
「避けおった……!」
『実弾は通る。だが、あれだけ揃って避けられては当たらん。ミサイルで逃げ道を塞げ』
セバスティアンの声に、ガランは肩の装甲を開いた。
扇状に広がった弾体が、散開した列の先へ回り込む。
逃げ場を失った数機に、ガトリングの火線が追いついた。
撃破された機体が、光になって散る。
その穴へ、別の機体が滑り込んだ。
「撃ち落としても、すぐ埋まる……!」
『それでも削れておる。続けろ』
「言われなくとも!」
ガランは、引き金を握り込んだ。
ガトリングが吠え、ミサイルが尾を引いて列を崩していく。
腹に響く反動が、心地よかった。
「いいぞ! これが鉄嵐の本領だ!」
無人機の列が割れ、押し返されていく。
ガランは笑って、もう一度引き金を引いた。
「よし、次だ!」
カタカタ、と乾いた音がした。
火線が出ない。
ミサイルの残弾表示も、ゼロのまま点滅していた。
「……ん? 弾が出んぞ」
『全弾撃ち尽くす馬鹿が、どこにおる!』
「そういうことは先に言え、S!」
そこへ、無人機の光条が飛んできた。
ガランは慌てて盾を上げる。
胸部の砲を開き、撃ち返す。
光は、膜に弾かれて散った。
「これも効かんのか! ……仕方ない。こいつでやるか!」
腰のサーベルを抜いた。
その外縁を、迅雷が走っていた。
両手のヒートショーテルは、熱を帯びた実体の刃だった。
膜を素通りして、一機の胴を断つ。
その間に、左右から二機が銃口を向けていた。
「近づくほど、囲まれるのね!」
『退き際を見誤るな、ミランダ』
「分かってるわよ、O!」
『ガランの弾が切れた。横へ回れ』
「撃ち尽くしたの? 世話が焼けるわね!」
ミランダは、鉄嵐へ迫っていた機体の脇腹へ飛び込んだ。
ヒートショーテルが、横から胴を断つ。
そのまま、斬った機体を足場にして離れた。
さっきまでいた場所を、光条が貫いていった。
◇
リディは、月面すれすれを走っていた。
前方に、砲身の影が見える。
その手前へ、上から無人機が降りてきた。
三機。四機。進路の真上に、膜を並べて塞ぐ。
「邪魔だ……!」
弔星が機首を起こし、人型へ戻る。
ライフルを放った。光は膜に弾かれ、花のように散る。
サーベルを抜いて膜へ押し当てる。
たわみはした。だが、向こうの機体が横へ滑り、刃は空を斬った。
横から、新しい光条が掠める。
リディは盾を上げた。衝撃が、操縦席を揺らす。
その側面へ、エイデンのヘビーガンが回り込んでいた。
背から、小さな火が離れる。
散った弾体が、別々の方向から灰色の機体を追った。
『ハサン、右だ!』
『はい!』
GBガンダムの射撃が、弔星の退路を削る。
盾で受けた灰色の機体が、体勢を崩して後ろへ下がった。
その後方から、迅雷が敵の側面へ斬り込んだ。鉄嵐もサーベルを構え、弔星の退路を開く。
弔星は、その開いた道へ合流していった。
『深追いするな。ここは、Gビットに任せる』
エイデンは、画面の端を見た。
右腕を失ったダブルゼータを、リンのジェガンが曳いて退いていく。
グラナダへ向かう航跡が、細く伸びていた。
『ジュドさんは、無事に戻れそうですね』
『ああ。まずは、ここを保たせる』
ハサンが、グリップを握り直した。
◇
蒼天は、岩盤の上で足を止めた。
正面に、無人機の壁。
その向こうに、砲身の根元が見える。
カミュは、射線を確かめた。
壁の先に、味方の機影はない。
バスターライフルを両手で構える。
銃身の脇で、エネルギーの表示が青から白へ移っていく。
「膜ごと、貫く」
引き金を絞った。
光が、走った。
これまでの射撃とは、比べものにならない威力だった。
月面の岩肌が白く照らされ、射線の周りの無人機が、衝撃だけで姿勢を崩す。
先頭の機体の膜が、悲鳴のようにたわんで弾けた。
無人機が砕ける。
その後ろの機体が前へ出て、膜を重ねた。二枚目が割れる。三枚目。四枚目。
光が、削られていく。
五枚目の膜に触れたところで、太い光条はようやく細くなり、散った。
「……ゼータのメガバズーカランチャーの十倍だぞ。これでも止めるのか」
四機は落とした。だが、壁はすぐに閉じ、砲身は見えなくなった。
次の射線を探す。
だが、味方と無人機が入り乱れ、どの線も塞がっていた。
この中へ撃てば、味方まで巻き込む。
カミュは、銃口を下げた。
◇
カゲロウの背から、小さな影が離れた。
クワトロは、目を細めた。
視界の外にいる無人機の位置が、輪郭を持って浮かび上がる。
数十機が、同じ幅で動き、同じ瞬間に膜を張り替える。
一つの頭で、数十の身体を動かしているのだ。
「ならば、頭の方を揺さぶればいい」
影が散った。
無人機の膜は、正面にしか張られていない。
ファンネルは弧を描き、横へ、背後へと回り込んだ。
一条。二条。別の角度から、同時に。
無人機が、内側から折れるように崩れていく。
列の動きが乱れた。
膜を張り替えるたびに、別の方向が空く。
その隙間へ、また光が入った。
――若いな。
無人機の向こうにいる操縦者の気配が、はっきりと伝わってくる。
必死に追いつこうとしている。息が上がっているのが、分かるほどだった。
それでも、手を離さない。
「悪くない。だが……」
ファンネルをもう一巡させる。
ヤザンたちの前の壁が、また薄くなった。
◇
《暁》の艦橋で、シュウは身を乗り出していた。
画面の中で、赤い機体の周りに小さな光が咲いている。
敵の列が、花びらのように散っていった。
「……あれは、俺の機体だったはずだ」
「はい。カゲロウです」
ナナイが、事務的に答える。
「カゲロウで、あんな戦い方ができたとは。……俺にはできない芸当だ」
シュウは、自分の手を見た。
ファンネルは、何度も試した。一基も、思うようには動かなかった。
「おい、ナナイ」
「いかがなさいましたか」
「あのパイロットが欲しい」
ナナイは、画面から目を離さなかった。
「……すでに我々の仲間ですが」
シュウは、何も答えなかった。
画面の中の赤い機体から、目が離せずにいる。
コルが、そっと視線を逸らした。
◇
ファンネルを呼び戻しながら、クワトロは息を吐いた。
倒しても倒しても、列は組み替わって埋まる。
数の問題ではない。この壁の向こうにいる者を、先に落とさなければ終わらない。
「これではきりがないな」
奥の暗がりへ、意識を伸ばした。
「アムロ。お前は、一体どこにいる」
◇
制御室の空気が、重かった。
ルチルは、操作席のグリップを握り直した。
指先が痺れている。額から落ちた汗が、パイロットスーツの襟に染み込んでいた。
数十の目が、同時に彼女の中へ流れ込んでくる。
その一つ一つが、別々の方向から来る光を見ていた。
右。上。背後。
膜を張り替える。列を詰める。穴を塞ぐ。
一つ塞ぐたびに、別の側面が空いた。
「追いつけない……」
小さく漏らした声は、息に紛れた。
そのとき、主席に座っていたブラッドが、不意に顔を上げた。
画面の向こうの、暗がりを見ている。誰かに呼ばれたような顔だった。
彼は、静かに立ち上がった。
「ルチル」
「はい。まだ――」
「席を代わろう」
ルチルは、首を振った。
「いえ、私がやります。まだ、やれます」
「手が震えている」
言われて、初めて気づいた。
グリップを握る指が、小刻みに震えていた。
「これは、少し冷えただけです」
「分かっている。……よくやった」
ブラッドは、操作席の脇に立った。
見下ろす顔は、穏やかだった。
「ここからは、私がやる。君は、脱出艇で艦を離れなさい」
「大佐は?」
「私に任せておけば、ここは防げる」
その声に、ルチルはブラッドの顔を見上げた。
口元に、笑みがある。
若い部下を落ち着かせるとき、彼がいつも浮かべる笑みだった。
――本当に、そうだろうか。
画面の端で、赤い機体が無人機の列を縫って近づいている。
あれを、この人は一人で。
喉の奥で、言葉が引っかかった。
けれど、グリップを握る指は、もう思うように動かなかった。
「君は、アークから預かった大事な人だ。ここで死なせるわけにはいかない」
その名前に、ルチルの肩がわずかに揺れた。
ブラッドの手が、グリップの上に重なる。
大きな手だった。温かかった。
「……分かりました」
指が、グリップから離れた。
ブラッドが、空いた席に腰を下ろす。
「大佐。必ず、あとから」
「ああ。行ってくれ」
ルチルは、扉の前で一度だけ振り返った。
ブラッドは、もう正面の画面だけを見ていた。
背後で、無人機の光が、一斉に形を変えるのが分かった。
さっきまでよりも、ずっと滑らかだった。
――やはり、この人は。
ルチルは唇を噛み、第二ブロックへ走った。
◇
無人機の動きが、変わった。
膜の張り替えが速い。穴が開くより先に、列が組み替わっていく。
さっきまでの必死さが、ない。
「……何だ」
クワトロは、ファンネルを一度引き戻した。
もう一度、死角へ回す。
一条の光が、横から無人機を捉えかけた。
その直前、膜が横を向いた。
光は、弾かれて散った。
背筋を、冷たいものが走った。
ずっと昔、同じ感触に出会ったことがある。
戦場の向こうで、こちらの動きを先に知っていた男。
「そこにいるのか」
目を閉じる。
無人機の群れの奥。砲身のさらに奥。
兵装艦に並ぶ、もう一つの巨大な影。その内側に、静かな光があった。
「この感覚……やはり、お前か。アムロ」
カゲロウが、向きを変えた。
『おい、どこへ行く』
ヤザンの声が、通信に割り込む。
「少し外す。ここを頼む」
『頼むも何も、おい、クワトロ!』
返事はしなかった。
主砲の方角へ向かっていた赤い機体は、途中で進路を傾け、隣に浮かぶ中枢艦へ向かった。
◇
制御室に、ブラッドは一人になった。
脱出艇が切り離される振動が、床を伝わった。
モニターの端で、小さな光点が艦の影に沿って離れていく。
グリップを握る。
数十の無人機の眼が、一斉に開いた。
ルチルが苦労して維持していた列が、手の中で、一つの形になる。
――あの子は、よくやった。
ここまで。もう十分だ。
モニターの端に、赤い機体が映っていた。
膜の外を回る小さな光を、ほとんど無視するように、真っ直ぐこちらへ来る。
通信が、勝手に開いた。
『聞こえているのだろう、アムロ』
ブラッドの指が、一瞬、止まった。
その名で呼ばれたのは、いつ以来か。
「……お前か。シャア」
『その名で呼ばれるのは、久しぶりだ。今はクワトロでいい』
声は落ち着いていた。
昔の、棘のある響きではなかった。
『ブラッド・レイを沈める。そこから降りてくれ、アムロ』
「断る、と言ったら」
『街を消す力で人を従わせる。その先に、何が残る』
アムロは、グリップを握り直した。
「何も残らない。分かっている」
『ならば、なぜ降りない』
「あの光が落ちたとき、俺はこの席にいた。撃たされたのは、俺だ」
返事は、すぐには来なかった。
「俺が降りれば、次の席には別の誰かが座る。ここには、預かった若い連中がいる。……誰かが、これを引き受けなければならない」
『命令が下れば、また撃つのか』
「撃つ。だが、撃つ前にできることがある。狙いを絞る。被害を減らす。それを探すのも、この席にいる者の仕事だ」
『その席が、君を道具にする』
クワトロの声に、微かな熱がこもった。
『その誰かが、君である必要はない。席ごと壊せば、誰も座らずに済む』
アムロが、わずかに笑った。
「お前が、それを言うか」
『言うとも。昔の私も、同じ理屈を並べた。誰かが背負わなければならない、とな』
「ああ。知っている」
『その先に何があったかは、君が一番よく知っているはずだ』
沈黙が落ちた。
無人機の膜が、赤い機体の前でゆっくりと揺れている。
『一人で背負えば、背負った者は人から遠ざかっていく。止める者もいなくなる。だから、私が来た』
「止めに来た、か。……歳を取ったな、シャア」
『お互いにな』
クワトロの声が、低く落ちた。
『アムロ。悪いが、沈めさせてもらう』
「やってみろ」
アムロは、グリップを押し込んだ。
周囲の無人機が、赤い機体を囲んで、一斉に銃口を向けた。
最初の斉射は、サザビーの肩装甲を削っただけだった。
クワトロは機体を沈め、膜の縁をなぞるように滑る。
ファンネルが散り、無人機の側面へ回り込んだ。
一基が放った光は、膜に弾かれた。
別の一基は、横から滑り込んだ無人機に撃ち落とされた。
「……読んでいる」
撃つ前に、そこへ膜が回っている。
数十の身体を動かしながら、こちらの動きを先に知っているのだ。
アムロは、列を割った。
一つの塊だった群れが、二つの網になって、左右から包む。
網の目から、銃口が覗いた。
クワトロは、残りのファンネルを囮に散らした。
網が、そちらへわずかに傾く。
「ならば、正面から行く」
サザビーが、突っ込んだ。
膜を二枚、強引に破る。装甲が焼けるのも構わず、無人機の間をこじ開けていく。
そのたびに、網が絞られた。
数十の銃口が、赤い機体を中心に収束する。
あと一歩。
ここで一斉に撃てば、終わる。
サザビーの胸部が開いた。
メガ粒子砲の砲口に、白い光が集まり始める。
◇
「おい……壁が、薄くなりやがった」
ヤザンは、鎌を引き戻した。
さっきまで群がっていた無人機の多くが、中枢艦の方へ流れていく。
その先で、赤い光が瞬いていた。
『クワトロ君が引きつけておるのだ。今のうちに前へ出ろ』
「分かってるよ、G! ガラン、ミランダ、続け!」
デス・ハンムラビが、薄くなった壁へ踏み込んだ。
◇
カミュの前の線が、空いた。
味方の機影は、もう射線の外にいる。
壁の向こうの無人機も、数を減らしていた。
砲身の根元まで、確かに見通せる。
カミュは、射線を確かめ直した。
主砲基部へ向かう線は、手前の無人機の壁を抜けたあと、隣に浮かぶ中枢艦の船体の端をかすめて通る。
艦の陰になる側に、動くものはない。
「今度は、押し切る」
引き金を絞る。
太い光が、再び走った。
一枚目の膜が裂け、二枚目が砕ける。三枚目、四枚目。
壁を成す機体が折り重なって光になり、それでも、光条は止まらなかった。
そのとき、射線がかすめる中枢艦の陰から、小さな機影が滑り出た。
戦場の外へ抜けようとする、脱出艇。
その鼻先が、光の通り道へ入っていく。
「――っ!」
カミュは銃口を跳ね上げようとした。
だが、光はもう、放たれていた。
◇
アムロは、遠くで引き金が引かれるのを感じた。
蒼天の気配。狙いは、砲身の根元。
その射線の先へ、中枢艦の影から小さな点が滑り出ていく。
脱出艇。
――ルチル。
正面では、サザビーの砲口が白さを増している。
あと一息で、赤い機体に止めを刺せる。
迷う時間は、なかった。
アムロは、グリップを引き戻した。
赤い機体を囲んでいた無人機が、一斉に射線へ向きを変える。
網が、ほどけた。
十数機の膜が重なり合い、脱出艇の前に壁を作る。
自分の周りにいた機体まで、ためらわずに外へ回した。
次の瞬間、光が到達した。
一枚目の膜が裂ける。二枚目。三枚目が砕け、四枚目が前へ出る。
壊れた機体の破片が、光の中で白く散った。
最後の一枚が、割れる寸前で耐える。
太い光条は、ふっと消えた。
脱出艇の灯が、遠ざかっていく。
アムロの口元が、わずかに緩んだ。
その視線の先で、サザビーの砲口が、真っ直ぐこちらを向いていた。
目前の赤い機体の気配が、一瞬だけ揺れた。
迷いのようだった。
だが、砲口の光は、消えなかった。
◇
脱出艇の窓の向こうで、光が消えた。
ルチルは、座席の肩帯を握りしめたまま、顔を上げた。
無人機の残骸が、無数の光の欠片になって漂っている。
「……防いだ」
大佐が。あの光を。
安堵が、胸に広がりかけた。
そのとき、視界の端で、赤い機体の胸が白く瞬いた。
砲口が向いている先は。
「待って――」
光が、走った。
中枢艦の側面が、真っ白に染まる。
制御室のあるブロックへ、メガ粒子砲が突き刺さった。
装甲が溶け、骨組みが剥がれ、内側から光が溢れ出す。
「ブラッド大佐!」
叫んだ声は、艦まで届かなかった。
制御室の窓が、順に消えていく。
崩れていくブロックの向こうで、数十の無人機の灯が、一つ、また一つと落ちていった。
最後の一機が、光を失った。
(つづく)
第29話「沈む光」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、物語の大きな節目になる回でした。
書き終えた今も、少し静かな気持ちでいます。
アムロとシャア、二人が顔を合わせるのは、これだけの時間が流れた後のことです。
交わす言葉は多くありません。
それでも、お互いにしか分からないものが、少しでも伝わっていれば嬉しいです。
戦闘では、Gビットを「光の膜」で守る機械として描きました。
正面からのビームは防げても、実弾や熱を帯びた刃は通る。
その弱点を、ヤザンたちが戦いの中で探っていきます。
それぞれの機体に、それぞれの見せ場を用意しました。
ガランの鉄嵐は、持てる火力を一気に使い切る機体です。
弾が出なくなる場面は、ガンダムシリーズのファンの方に、思わずにやりとしていただければと思って入れました。
ミランダの「世話が焼けるわね」と合わせて、
重い回の中の、小さな息抜きになっていれば幸いです。
クワトロが操るカゲロウの戦い方と、それを見たシュウの一言も、
今後の物語につながる形で置いてあります。
気になった方は、読み返して探してみてください。
物語は、ここから大きく動いていきます。
次回も、お付き合いいただければ幸いです。
感想や応援のお言葉は、いつも執筆の大きな励みになっています。
今後とも、『GUNDAM TRIANGLE』をよろしくお願いいたします。