GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

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いつも『GUNDAM TRIANGLE』をお読みくださり、ありがとうございます。

第32話では、ムーン・ムーンでの一日と、夜の静かな時間を描きました。
第33話は、その村から離れた場所にいた人物が、再び動き出す回です。
詳しい中身は、あえて伏せておきます。

久しぶりに顔を見せる人たちや、
懐かしい機体の姿もあるかもしれません。
登場人物たちの慌ただしさを、少しだけ楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは、第33話「巨神、ふたたび」をお楽しみください。



第33話 巨神、ふたたび

 

 闇の向こうに、古びたコロニーが浮かんでいた。

 ムーン・ムーン。

 ダブルゼータのコクピットで、ジュドは操縦桿を握り直した。

「あれか……」

 外壁は色褪せ、ところどころに、継ぎ接ぎの跡が見える。

 灯りの数も少ない。長い間、誰からも忘れられていたような、静かなコロニーだった。

 近づくほどに、胸の奥がざわついた。

 脳裏に、グラナダを発つ前の光景が浮かぶ。

     ◇

 整備場の床に、ダブルゼータの影が長く伸びていた。

 脚部の調整が終わり、ジュドが乗り込もうとしたとき、リンが追いかけてきた。

「ジュドさん、本当に一人で行くの?」

「ああ。お前らには、ここの仕事があるだろ」

「でも、リィナさんとロロさんが……」

 リンは、手の中の端末を握りしめていた。

「あの艇、手配したの、私なの。私が手伝わなければ、二人はあんな遠くまで行けなかったのに」

「お前のせいじゃねえよ」

 ジュドは、リンの頭に、ごつい手をぽんと乗せた。

「あいつらが、自分で決めて行ったんだ。誰のせいでもねえ」

「……うん」

「ただな」

 ジュドは、首の後ろを掻いた。

「機械を禁じてる国だ。連絡の一つもないってのは、気に入らねえ。もしもだ。何かあったら、俺が増援を要請する」

「増援?」

「そのときは、何人か連れて、すぐ来てくれ。頼めるか」

 リンは、しばらくジュドを見つめてから、きゅっと唇を結んだ。

「分かった。すぐ行く。……でも、『もしも』なんて、ないほうがいいよ」

「ああ。ねえのが、一番だ」

     ◇

 ジュドは、現実に引き戻された。

「……なんにも、なきゃいいんだがな」

 ムーン・ムーンの港が、正面に見えてきた。

 彼は通信を開き、周波数を合わせる。

「こちら、ジュド。入港を求める。リィナとロロに会いに来た。誰か、聞こえるか」

 返事は、なかった。

「おい、誰かいねえのか!」

 そのとき。

 コロニーから、警戒信号が発せられた。

 ダブルゼータの機内に、警報が鳴り響く。

「警報だと?」

 港の扉が開き、小さな影が三つ、ゆっくりと姿を現した。

 古い機体だった。ジムと、ジェガン。どれも使い込まれていて、装甲に補修の跡がある。

 だが、三機とも、確かに、こちらへ銃口を向けていた。

 そのうちの一機の背から、灰色の霧が広がり始める。

 ミノフスキー粒子だ。ダブルゼータの通信機が、ざらざらと雑音を吐き始めた。

「……機械を、使ってやがるのか」

 ジュドの眉が、ぐっと寄った。

「昔とは、全く違うじゃねえか」

 ジュドは、もう一度呼びかけた。

「俺だ! 敵じゃねえ! リィナとロロに会いに来ただけだ!」

 返ってきたのは、雑音と、構えを解かない銃口だけだった。

「名乗っても、銃を下ろさねえ。……リィナたちに、何かあったのか?」

 頭の中で、嫌な筋書きが、勝手に出来上がっていく。

 二人から、連絡の一つもない。入港は拒まれ、武装機が待ち構えている。

「まさか、本当に捕まってるんじゃ……」

 ジュドは、歯を食いしばった。

 確かめている暇はなかった。通信が完全に潰される前に、最悪の場合に備えて、彼は通信機を叩くように操作し、グラナダへ短い信号を送る。

「リン、こちらジュド。二人が捕まってる可能性がある。増援を頼む」

 それだけ送ると、操縦桿を前に倒した。

「待ってろよ、リィナ。ロロ」

     ◇

 その頃、村では。

「装置の様子は、以上です」

 ロロは、帳面を両手で持って、背筋を伸ばしていた。

 倉庫の前だった。

 サルガは、腕を組んで立っていた。

 いつもの無愛想な顔だった。

 ただ、今朝は、髪が妙にきちんと整えられていた。袖口も、折り目がついている。

「水の通りは、昨日より良くなっています。圧も安定して、異音もありません。部材は、借りた分を帳面に書いて、返せるものは返しました」

「うむ」

「記録は、ここに」

「……うむ」

 サルガは、ロロから帳面を受け取り、ぱらぱらと中をめくった。

 読んでいる、というより、めくっているだけのようだった。

「その、あれだ」

「はい」

「手順は守ってくれたようだな」

「はい。申請してから借りました」

「ならば、よい」

 サルガは、帳面を閉じた。

 それから、少しだけ視線を逸らして、続けた。

「……疲れては、おらんか」

「え? 大丈夫です。昨日は、よく眠れましたから」

「そうか」

 ロロは、首を傾げた。

 サルガは、また「うむ」と言って、何かを言いかけ、やめた。

 少し離れたところで、ラセルが、片眼鏡の奥から、静かにその様子を眺めていた。

「兄上」

「なんだ」

「今朝は、風が強かったのでしょうか。髪が、整っておいでですが」

「……うるさい」

 その横で、朱麗が首をかしげる。

「どうした、サルガ。顔が赤いぞ」

「赤くなどない!」

 そのとき。

 村中に、低い警報の音が響き渡った。

 ロロが、はっと顔を上げる。

「この音……」

「港だ」

 サルガの顔から、一瞬で、赤みが消えた。

 ラセルが、片眼鏡に指を添える。

「所属不明の武装機が、港へ接近中。守備隊が、すでに迎撃に出ています」

「守備隊って、誰が」

「モンド殿、ビーチャ殿、エル殿の三名です」

 朱麗は、ロロとリィナを、ちらりと見た。

「行くぞ」

「私も行きます」

 駆けつけたセラが、息を弾ませながら言った。

 その後ろには、リィナも立っている。

「ロロ、リィナ。私の傍を離れないでください。港へ向かいます」

 ロロは、うなずいた。

 胸の奥に、冷たいものが落ちていく。

 ――また、何かが、起きようとしている。

     ◇

 港の外。

 モンドは、旧式のジムの操縦席で、前方の機影を睨んでいた。

 出撃してすぐ、ビーチャが背部の筒から、ミノフスキー粒子を撒いていた。

 ムーン・ムーンでは、長いあいだモビルスーツ戦などなく、港の周りの粒子は、とうに薄れて消えている。戦うなら、まず撒いておかなければならない。

 灰色の霧が広がり、通信機が雑音を吐く。ここからは、レーザーと手信号が頼りだ。

「所属不明機! こちらはムーン・ムーン守備隊だ! これ以上の接近は認めない! 直ちに停止せよ!」

 返答はなかった。

 雑音が返るばかりで、こちらの警告が聞こえているのかどうかも分からない。

 代わりに、機影は、速度を上げた。

 その姿が、はっきりと見えてきた。

 見覚えのある形だった。

「所属不明機……だが、あの形は」

 モンドの眉が、ぐっと寄る。

「よりによって、ダブルゼータとはな」

『ダブルゼータ!? ジュドの機体じゃない!』

『でも、あいつがこんな乱暴な入り方、するかよ。誰かに奪われたんじゃないのか』

「中身は別人だと思え。ダブルゼータ相手に、手加減はできん」

 モンドは、操縦桿を握り直した。

「止まる気はないってことか……ビーチャ、エル、やるぞ! いつもの形だ!」

『了解!』

『分かってるわよ!』

 モンドは、盾を前に構えて、まっすぐ前に出た。

 真正面から受け止める役だ。この役は、昔から変わらない。

 その左から、エルのジェガンが、斜めに回り込む。

 右後方から、ビーチャが、ライフルを構えて上がる。

 三機は、互いの位置を、見なくても分かっていた。

 第二次ネオ・ジオン戦争の頃から、何度も共に戦ってきたからだ。

『今だ!』

 モンドの盾が、ダブルゼータの進路に割り込んだ。

 エルのビームが、脚の推進器を狙って走る。

 ビーチャが、背後から腕を狙って撃つ。

 正面を盾に塞がれたダブルゼータへ、左右から射撃が集中した。

 ビーチャの弾は、肩口の装甲を叩いた。

 エルのビームは、脚の推進器の一基を貫き、火花が散る。

 ――効いた。

 だが。

 ダブルゼータは、止まらなかった。

「なっ……!」

 片脚から煙を引きながら、機体がぐるりと回る。

 エルの二射目を、体をひねってかわし、同時に、モンドの盾を片手でつかんだ。

「なんだ、この力は!」

 盾が、軋んだ。

 モンドのジムは、そのまま振り回され、盾を引き剥がされる。

 ダブルゼータが、その盾を握ったまま、ジムの左肩を蹴りつけた。

 関節が悲鳴を上げ、左腕が、根元からちぎれて宙に舞った。

「うおっ!」

『モンド!』

 ビーチャが、後ろから組みつこうと突っ込んだ。

 だが、ダブルゼータは、その動きを予測していたように、肘で受けた。

 ライフルが、手から弾き飛ばされる。

『嘘だろ、読まれてる!』

『こいつ、ただの機体じゃないわ!』

 エルが、ジェガンの背中のバーニアを全開にして、距離を詰めた。

 ビームサーベルを抜いて、脚の付け根を狙う。

 ダブルゼータは、一瞬、後ろに引いた。

 そして、エルのジェガンの肩を、足で蹴り飛ばした。左腕の関節が嫌な音を立て、そのまま動かなくなる。

『きゃっ!』

 エルの機体が、流される。

 背部の推進器から、白い煙が上がった。

 三機の連携は、確かに、本物だった。

 一瞬、ダブルゼータの足を止めかけたのも、事実だ。

 だが、それ以上の速さと強さが、そこにはあった。

 そのとき、近距離の回線に、ノイズだらけの声が、途切れ途切れに飛び込んできた。

『……ィナは……どこだ! ……ロロを……返せ!』

 モンドの動きが、止まった。

「今の声……まさか、中にいるのはジュドなのか」

『嘘でしょ……』

『ジュドだ! 間違いない! あのバカの声だ!』

 ビーチャが叫ぶ。

 モンドは、慌てて近距離回線に呼びかけた。

「ジュド! やめろ! 俺だ、モンドだ!」

 だが、粒子の雑音に紛れて、その声は、ぶつぶつと切れた。

 返ってくるのは、がりがりという雑音ばかりだ。ジュドの耳には、ほとんど届いていないのだろう。

 しかも、ダブルゼータは、すでに三機の防衛線を抜けようとしていた。

「待て、ジュド!」

『だめ、聞こえてない!』

「くそっ! 先に止めるしかない!」

「接触して、直接話すしかない!」

 モンドのジムは、片腕を失った機体で、ダブルゼータにしがみつこうと、飛びついた。

 装甲を押し当てて、回線を開く。そのつもりだった。

 ビーチャも、機体の腰に取りつく。

 だが、ジュドは、それを振り払った。

『……邪魔だ! ……どけっ!』

 ダブルゼータが、両腕を港の外扉に突き立てた。

 古い金属が、悲鳴のような音を立てる。

 扉が、無理やりこじ開けられ、ひしゃげて、中へ折れ曲がった。

『あいつ、扉を壊した!』

『中に入る気よ!』

 ダブルゼータは、そのまま、コロニーの内側へ、飛び込んでいった。

 取り残された三機は、傷ついた機体で、その背中を見送るしかなかった。

「……ビーチャ、エル、無事か」

『なんとかな。でも、機体はひどいもんだ』

『バーニアが片方、死んでるわ。ほんと、あのバカ!』

 モンドは、ひしゃげた外扉を見つめた。

「追うぞ。これ以上、中で暴れさせたらまずい」

     ◇

 神殿の高窓から、サラサは、遠くを見つめていた。

「サラサ様、お休みください。外は騒がしゅうございます」

 傍らの世話係が、心配そうに声をかける。

 サラサは、小さく首を振った。

 コロニーの空に、一つの影が、横切っていた。

 大きな、人の形をしたもの。

 かつて、この国が「巨神」と呼んで恐れた、あの形だった。

 サラサは、細い手で、窓の縁をつかんだ。

「あれは……」

 しわの深い目が、少しだけ見開かれる。

「あれは、あの時の巨神」

 世話係が、怯えた顔をした。

「サラサ様、すぐに奥へ」

「いいえ」

 サラサは、静かに言った。

「恐れることはありません。あれは、敵ではないでしょう」

 そして、ふっと、微笑んだ。

「ずいぶん、急いでいるようですね」

     ◇

 広場の端に、土煙が上がった。

 畑の向こうから、ダブルゼータが、地響きを立てて駆けてきた。

 作物の列を踏みつけ、水路をまたぎ、広場の手前で、ようやく急停止する。

 セラが、一歩前に出た。

 そのとき。

 ダブルゼータの頭部が、ぐるりと動き、広場を睨んだ。

 外部スピーカーから、ジュドの声が響く。

「ロロ! ロロじゃねえか! 無事か! リィナは! どこにいる!」

 ロロは、思わず目を丸くした。

 ダブルゼータのカメラが、まっすぐ、こちらを向いている。

「ジュドさん!」

 ロロは大声で叫んだ。

「何してるんですか! 機体で村に入ってくるなんて! 畑が、踏まれてるじゃないですか!」

「へ?」

「ほら、そこ! 足元! せっかく育ててるのに、ぐちゃぐちゃですよ!」

 ダブルゼータの足元を、ロロが指さす。

 確かに、一列分の作物が、見事に踏み潰されていた。

「あ……」

 ジュドは、一瞬、言葉に詰まった。

「いや、そりゃ悪かった。だが、お前、捕まってたんじゃ……」

「捕まってません!」

「へ?」

「ずっと、お客さんとして、置いてもらってます!」

 ロロは、むっとした顔で、腰に手を当てた。

「どうして、そう思ったんですか」

「俺は前に、ここへ来たことがあるんだ。あの頃のままなら、機械を使っただけで捕まる国だぞ。……それに、連絡も一つもなかっただろうが!」

「連絡しなかったのは、僕たちが悪かったです。こっちが落ち着いてからにしようと思ってたら、遅くなっちゃって」

「だったら、そう一言入れとけってんだ!」

 ダブルゼータの外部スピーカーから、苛立った唸り声が響いた。

 そこへ。

「お兄ちゃん」

 静かな声が、ダブルゼータの足元から届いた。

 リィナが、セラの傍らから、ゆっくりと歩み出た。

 落ち着いた顔で、ダブルゼータを見上げている。

「落ち着いて。私たち、ここで、ちゃんと世話になってるの」

 ジュドの声が、一拍、止まった。

「……リィナ」

「うん」

「怪我は」

「ないよ。ロロも、元気」

 ダブルゼータの外部スピーカーから、大きな息が漏れた。

 それから、機体が、ゆっくりと膝を折る。

 ハッチが開いて、ジュドが、地面に飛び降りてきた。

「よかった……」

 彼は、ロロとリィナを、まとめて抱き込むように見下ろしてから、気まずそうに視線を逸らした。

「いや、その、心配してたんだよ。すげえ心配してたんだ」

「分かってます」

「分かってるなら、もっと早く連絡をだな」

「そこは、僕たちが悪かったです」

 ロロが、苦笑した。

 それを見て、ジュドは、ようやく、肩の力を抜いた。

「で、あんたたちは?」

 ジュドは、周囲を見回した。

 セラ、朱麗、そして、駆けつけたラセルとサルガ。

 ラセルが、一歩進み出る。

「ようこそ、ムーン・ムーンへ。……ただ、少々、手荒な入国でしたね」

 その声は、丁寧だったが、わずかに、刺があった。

「所属不明機の侵入、守備隊への攻撃、外扉の破壊。畑も、一列分」

「う……」

「お客人としては、いささか、乱暴ではありませんか」

「いや、それは、その、リィナとロロが捕まったと思って……」

 そこへ。

 重い足音とともに、傷ついたジムとジェガンが、広場の端へ辿り着いた。

 モンドが、コクピットから降りて、ふらふらと歩いてくる。

 その後ろに、ビーチャとエルも続いた。

「ジュドォォ……」

 モンドが、低い声を出した。

「お前な……」

「モンド!? ビーチャ! エル! お前らもいたのか!」

 ジュドの顔が、ぱっと明るくなった。

 だが、その喜びは、一秒しか続かなかった。

「ねえ、あたしたちのジェガン、見なさいよ」

 エルが、腕を組んで、背後の機体を指さした。

 バーニアは煙を上げ、装甲はへこみ、片腕は、完全に動かなくなっている。

「あんたがやったのよ。全部」

「え」

「盾もない。腕もない。ライフルは宇宙のどっか。これ全部、売り物なんだけど! ねえ、どう責任とってくれるの?」

「いや、俺はリィナを返せって叫んだぞ。ちゃんと。大体、なんでこんなモビルスーツ戦もやってないコロニーで、こんなにミノフスキー粒子が濃いんだよ」

「それは、だな……」

 ビーチャは、言いかけて、はっとした。

 粒子を撒いたのは、自分だ。

 ばんと、手を叩く。

「……まあ、いいじゃないか。無事だったんだし、よかったじゃないか」

 ビーチャは、あえて笑ってごまかし、そこで話を打ち切った。

 ロロが、苦笑する。

 リィナが、小さくため息をついた。

「相変わらずね」

 セラは、困った顔で、朱麗を見た。

 朱麗は、腕を組んで、静かに言った。

「……無事だったのだ。それで、よしとしろ」

「よくねえ!」

「よくないわよ!」

 そのとき。

 ジュドの顔から、すっと血の気が引いた。

「……あ」

「どうした」

「しまった」

 ジュドは、額に手を当てた。

「リンに、救援要請を出しちまった」

 一瞬、広場が静まり返る。

「入る前だ。二人が捕まってるって思い込んで、増援を頼んだ。何人か連れて、すぐ来いって……」

「ならば、すぐに取り消せばよい」

 サルガが、短く言った。

「それが、できねえんだよ!」

「なぜだ」

 ビーチャが、気まずそうに頭を掻いた。

「……ミノフスキー粒子が、まだ濃い」

 ラセルが、片眼鏡に手を添える。

「この濃度では、遠距離の通信は届きません。粒子の薄い外縁まで出て、改めて取り消しの信号を送るしかないでしょう」

「なら、俺が行く!」

 ジュドは、ダブルゼータに向かって、駆け出した。

 その背に、ビーチャの声が飛んだ。

「待て、ジュド! お前、そのダブルゼータで外に出たら、また警報が鳴るぞ! 未登録なんだろ!」

「うっ……」

「俺が行く。ジェガンなら、外縁まで十分もつ」

「……すまねえ。頼む」

 ジュドは、握りしめた拳を、ゆっくりと下ろした。

 ラセルが、静かに言い添える。

「その間に、こちらも手を打ちます。守備隊と港の各所には、ジュド殿の増援が来ると通達し、見かけても撃つなと伝えましょう」

 ビーチャのジェガンは、傷ついた機体を引きずって、ひしゃげた外扉の隙間から、外へ出ていった。

     ◇

 ラセルの通達は、すぐに港の各所へ回った。

 守備隊は、了解した。

 だが、港の古い自動砲台だけは、様子が違った。

「管制の配線が、外扉の崩落で切れています。遠くからの操作は、受けつけません」

 報告に来た男が、青い顔で言った。

「手で止めるには、砲台室の奥にある遮断レバーを下ろすしかありません。ですが、そこへ至る通路が、瓦礫で塞がっておりまして」

「すぐ片づけさせろ」

 サルガの短い命令に、復旧班が、瓦礫の撤去に向かった。

 ジュドは、広場の端から、そわそわと港の方角を見つめた。

 やがて、ビーチャのジェガンが、戻ってきた。

 機体から降りたビーチャの顔は、険しかった。

「グラナダとは繋がった。当直が出てくれたよ」

「リンは!」

「リン隊は、要請を受けてすぐ出撃したそうだ。もう、グラナダにはいない。向こうからも呼びかけてもらったが、返事がなかった。取り消しが届いたかどうか、確認できなかったよ」

 ジュドの顔が、ぐしゃりと歪んだ。

「……くそっ!」

「悪い。もう一度、外縁まで出て、リン隊を探してみるか」

「いや、俺が行く。ダブルゼータなら、あいつらを見つけられる」

 ジュドが、ダブルゼータのハッチに手をかけた、そのとき。

 ラセルの端末が、鋭い音を立てた。

「港の外、多数の機影を確認」

「なに?」

「約五機。高速で接近中です」

 全員の顔色が、変わった。

 ジュドの声が、低く漏れた。

「……間に合わなかったか」

(つづく)





第33話「巨神、ふたたび」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回は、ジュドがダブルゼータとともに、ムーン・ムーンへ向かう場面から始まりました。
ロロとリィナのことが心配で、気持ちが先走ってしまう。
そんなジュドの焦りを、まっすぐに書いてみました。

ムーン・ムーンで待っていたのは、モンド、ビーチャ、エルの三人です。
久しぶりの再会のはずが、思いがけない形になってしまいました。
お互いに「相手を守ろうとしている」からこそ、すれ違ってしまう。
そんな場面を、少し賑やかに描いたつもりです。

見慣れた機体なのに、乗っているのは別の人かもしれない。
その思い込みが、どんな結果を呼ぶのか。
続きは、第34話でお届けします。

タイトルの「巨神、ふたたび」には、
あの機体が再び動き出すことへの思いを込めました。

感想や応援のお言葉は、いつも執筆の大きな励みになっています。
今後とも、『GUNDAM TRIANGLE』をよろしくお願いいたします。
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