今回はジュドたちの旅の途中、ある懐かしい人物との再会から物語が大きく動き始めます。
「黄天」と「蒼天」。
その意味にも注目していただければ幸いです。
それでは、どうぞ。
夜闇の中、一人の女が銃を構えていた。
その足元には、彼女と共に潜入したのであろうレジスタンス兵たちが、何人も倒れている。
銃口の先――月明かりの中に、一人の男が立っていた。
長身の、引き締まった体躯。
痩せた顔の半分は闇に沈み、その眼だけが青白い光を帯びている。
そして顎には、月光を受けた群青の髭。
女はその男から眼を逸らさない。
男もまた、何も言わずに冷たく女を見つめていた。
静寂の闇。
やがて――女は力なく銃口を下げた。
黄色い制服の兵士たちが姿を現し、女を取り囲む。
男が低く告げた。
「……連れていけ」
女は抵抗しなかった。
◇
ここはルル教会。
群青の髭の男は祭壇の前で、静かに祈りを捧げていた。
「ようこそいらっしゃいました」
声をかけたのは、ロレッツオ教皇だった。
「今日もお祈りですかな」
「はい」
ロレッツオは穏やかに笑った。
「イエロースーツの皆さんの中でも、あなたほど熱心に足を運ばれる方は珍しいのです」
男は祭壇を見つめたまま答えた。
「私は毎日のように、何十人という人間を殺しています」
ロレッツオの表情から笑みが消える。
「祈りを捧げることで、少しでも慰めになればよろしいのですが」
「……罪は罪です。それが消えることはありません」
「はい」
「ですが、自らの罪から目を背けず、こうして祈りに来られる」
ロレッツオは男を見る。
「やはりあなたは、他のイエロースーツの皆さんとは少し違うようですな」
男は静かに立ち上がった。
教会を出ようと扉へ向かい、足を止める。
「……いえ」
振り返らない。
「私は、やはりイエロースーツでしかないのです」
◇
砂漠を這う一台のホバーカーがあった。
「なあロロ。あの話、決めてくれたか?」
「何、ジュドさん。あの話って?」
「アナハイムの件だよ」
「うん。アルさん、いいってよ」
ジュドが振り返った。
「おい、いつの間にお前……」
ジュドは頭の後ろで手を組んだ。
「俺はお前と一緒に宇宙へ行ってやれねえ。まだ地上でやることがあるからな」
「うん」
「けど、次の街で俺のモビルスーツが手に入れば、その足でケニア宇宙港まで行ったって構わねえんだぜ」
ロロは平然としている。
「でもさ、これから先にあるモビルスーツが、ちゃんと動くとは限らないじゃん」
「……まあな」
「やっぱり僕が必要だよ」
ジュドは少し黙った。
「……すまんな」
それから、後ろにいる朱麗を見る。
「で、お前は――」
「あ、こいつ僕の助手」
「お前に聞いてねえよ」
朱麗は真顔で答えた。
「ロロの言う通りだ」
「だからお前にも聞いてねえ!」
◇
次の街。
放棄された工場には、スクラップ同然のモビルスーツが何機も転がっていた。
その一角で、ロロは工具を手に機体の中へ潜り込んでいる。
やがて――。
「よし。これなら動くよ」
「おお!」
ジュドの顔が輝いた。
だが、すぐに疑いの眼になる。
「おい、ロロ」
「なに?」
「お前、まさかまたあんなスペシャルな兵器なんか取り付けてるんじゃねえだろうな?」
「そんなの取り付けるわけないじゃん」
「……本当だろうな?」
「だってジュドさん、すぐボタン押しちゃうじゃん」
「お前なぁ! あんな『押してください』って言わんばかりのボタン付けてるからじゃねえか!」
「普通、分かんないボタンは押さないよ!」
二人が揉めだした、その時だった。
遠くで砲撃音が響いた。
一発の流れ弾が工場へ飛び込んでくる。
「……え?」
爆発。
黒煙が上がる。
そして――。
せっかく修理したモビルスーツは、
自爆していた。
ジュドのこめかみに青筋が浮かぶ。
「……まーたイエローの野郎どもか……!」
傍らのバズーカをむんずと掴んだ。
「今度こそ許さねえからな!!」
「ジュドさん!?」
ジュドは飛び出していった。
◇
街中では、イエロースーツと一団の武装勢力が戦っていた。
「こんな街中にまでバズーカを撃ち込むなんて……どうかしてるわ」
その一団を率いるらしい女が周囲を見る。
「みんな! これ以上、街を巻き込むわけにはいかないわ。いったん外へ――」
「おい! そこの女ァ!!」
「えっ!?」
振り返る。
ジュドがバズーカを構えていた。
「邪魔だ! どけぇ!!」
女が慌てて飛び退く。
直後――。
砲弾がイエロースーツの陣地へ飛び込んだ。
「うおおおお! 待てコラァ!! 逃げんじゃねえぞぉぉ!!」
ジュドはそのまま敵を追いかけていく。
「ジュドさん! ジュドさん、待ってよ!」
遅れてロロが駆けてきた。
女がロロの肩を掴む。
「え?」
「あなた……今、ジュドって言った?」
◇
「ジュドさんのお友達?」
「うーん……そうね」
「ジュドさん、ああなると全然戻ってこないんだよな」
ロロは辺りを見回し、落ちていた手榴弾を拾った。
「ねえ。ジュドさんに向かってこれ投げて」
「え?」
ロロは安全ピンを抜いて渡した。
「ちょ、ちょ、ちょっとぉぉぉ!」
「?」
「知らないからね!」
女は反射的に――投げた。
爆発。
しばらくして、爆煙の中からジュドが現れる。
「お前! 呼び戻すにしたって、もっと方法があるだろうが!」
「だって、ここまでしないとジュドさん、全然戻ってこないじゃん」
「だからって手榴弾投げる奴がいるか!!」
「ほら、戻ってきたじゃん」
「結果の話してんじゃねえ!!」
「うん。でも投げたの、この人だよ」
「えっ、私!?」
ジュドが初めて女の顔をまともに見る。
女は微笑んだ。
「久しぶりね、ジュド」
「……おう、ファさん。久しぶり」
ジュドは何事もなかったように頷いた。
「ま、俺は最初に会った時からファさんだって気づいてたけどな」
「いやいやいや」
ロロが割って入る。
「ジュドさん、ファさんに『邪魔だ、どけ!』って言って、そのままイエロースーツの方に突っ込んでいったよね?」
「……」
「全然気づいてなかったよね?」
「……うるせえな」
「ふふっ……本当に変わってないのね、ジュド」
ファの表情がすぐに引き締まる。
「――そんなことより、ジュド。ここを離れた方がいいわ」
「ん?」
「私たちは今、イエロースーツに追われてるの。じきに増援も来る」
ファが仲間たちを見る。
「話はあと。あなたたちも来て」
「どこへ?」
「私たちのアジトよ」
◇
イエロースーツに追撃され、怪我人が次々と運び込まれるキャンプ地へ連れてこられたロロたち。
動ける者たちは担架を運び、負傷者の手当てに追われていた。
「で、ファさん。何なんだ、こいつら?」
「《蒼天》よ」
「蒼天?」
「イエロースーツに対抗するために、カミュと私で作った組織よ」
ジュドが目を見開く。
「えっ、カミュさんいるのかい?」
「…………」
「ファさん?」
「ええ。いるわ」
「だったら会わせて――」
「でも、ジュド」
ファが遮った。
「今はカミュには会わない方がいいわ」
「……なんで?」
ファは俯く。
「あの人は……変わってしまったの」
「え、それってどういう――」
「敵襲!!!」
扉が開く。
「イエロースーツです! こちらの場所が!」
ファが立ち上がる。
「もう見つかったの!?」
◇
ファを先頭に、《蒼天》の傷ついた兵たちが夜の山道を退いていく。
だが――その退路は完全に塞がれていた。
丘の上。
月光を背に、一人の男が立っている。
その後方には、四十を超えるイエロースーツ兵が待機していた。
ジュドが睨む。
「誰だ、あいつ……」
男が高周波偃月刀を手に、一歩前へ出た。
群青の髭が夜風に揺れる。
「我が名は――」
男の声が響いた。
「黄天のカミュ」
「なっ……」
ジュドが目を見開く。
「お前、カミュさ――」
「駄目、ジュド!」
ファが腕を掴んだ。
「しかしよ、ファさん……」
カミュは何事もなかったように続ける。
「今、我が隊は四十名」
《蒼天》を見渡す。
「対して、お前たちは傷ついた者を抱え、もはや風前の灯火」
「逃げ道もない。戦えば、結果は見えている」
偃月刀を地面へ向ける。
「これ以上、無益な血を流す必要もあるまい」
そして告げた。
「逃げず、逆らわず――我に従え」
「四十人だろうが百人だろうが知ったことか! まとめてかかって――」
その時、ジュドの啖呵をせき止めるかのように、カミュが言い放った。
「おい! そこのジュド、とか言ったか」
「あ?」
「我は、リィナ・アーシタなる女を知っているぞ!!」
「――な、にいいいい!?」
「武器を捨て、我に従えば――」
言い終わるより早く、ジュドのヒートグレイブがカミュに襲いかかった。
しかし、カミュは高周波偃月刀で軽々と受け止めた。
火花が散る。
◇
豪のジュド。
静のカミュ。
二人の刃が幾度となく交差した。
やがて鍔迫り合いとなる。
カミュが静かに言った。
「ジュドよ。我と戦うのはよい。だが、よく見ろ。お前の後ろにいる者たちはどうする?」
「あ?」
「我は四十の兵を率いている。お前一人で何ができる」
ジュドが振り返る。
四十人のイエロースーツ兵が、すでに地面に転がっていた。
その中央で朱麗が巨大な剣を鞘へ収める。
「では――」
朱麗は背を向けた。
「あとはお二人で、好きにやってくれ。これで邪魔者もいないだろう」
ジュドとカミュは、急に気まずくなった。
「「お前、ふざけんな!!」」
◇
肩透かしを食らった二人だったが、再び鍔迫り合いとなる。
そして幾合か刃を交えるうち、互いの動きが止まった。
「なあ、カミュさんよ」
ジュドがヒートグレイブを下ろした。
「刃を交えて俺は感じたんだが――あんた、まさか芝居打ってねえか?」
その時――。
パァン!!
ファの平手が、カミュの頬を打った。
「……」
「よくも娘を殺したわね!」
カミュは答える前に周囲を見た。
「待て。まだ近くに我が方の者が潜んでいるかもしれん」
ロロがゴーグルを操作する。
「大丈夫だよ。数キロ先まで調べたけど、生体反応はないよ」
「……そうなのか?」
「うん。このゴーグル、熱感知もできるんだ」
カミュは少しだけロロを見つめた。
そして――。
「……お前たちに頼みがある」
「?」
「俺の捕虜になってくれないか」
「「え?」」
◇
――イエロースーツの、とある砦。
捕虜として連行された一行が、カミュの管理する区画へ入る。
内側の扉を開けた、その瞬間だった。
さっと女のナイフが、カミュの首筋へ走る。
カミュは身じろぎ一つせず、二本の指で軽く刃を挟んで止めた。
「……リン、もう少し殺気を消さんと」
「くっ……次は取るわよ」
ファが小さく息をついた。
「やっぱり生きていたのね、リン。お父さんから聞いていたわ」
朱麗が、ぽそり。
「そのまま首を落としてしまえばよかったのに」
「お前なあ――」
ジュドが口を挟もうとした、その時だった。
「リン様。果物ナイフといえど危ないですから、おやめください」
リンの付き人が声をかけた。
付き人の女がジュドと目が合うと、急に目を伏せ、奥へ逃げるように下がっていく。
「お、おい! お前、リィナじゃないのか!」
「しーっ! 声が大きい! 誰が聞いてるか分からないんだから、やめてよ」
「お……おおう」
「――カミュ様」
不意に声がした。
ジュドが振り返る。
「うおっ!?」
いつからそこにいたのか。
部屋の隅の薄暗がりに、一人の男が膝をついていた。
カミュは驚かない。
「報告か」
「はい」
男は低い声で告げる。
「フォンセ=カガチが、明朝この砦を離れます」
「ストレッチォ教皇の巡回団か」
「はい。教会の者たち数名と同行するようです」
「その後は?」
「ケニア宇宙港方面へ向かう可能性があります」
男は続ける。
「カガチの追跡も、我らにお任せください」
「できるか?」
「おそらく」
「気づかれるな」
「はっ」
男の姿が、再び闇へ溶けた。
ジュドが呆れる。
「……何なんだ、今の奴」
カミュは答えず、皆を見る。
「フォンセ=カガチ――奴が、上へ情報を流している」
ファが訊く。
「確かなの?」
「ああ。そこまでは突き止めた」
カミュは静かに続けた。
「この砦の総責任者にまでなれば、奴らの正体が掴めると思っていたのだが……」
「違ったの?」
「……ここまでだった」
カミュの眼が細くなる。
「上から命令は来る。使者も来る。だが、その命令を誰が出しているのかが見えない」
「私が秘密裏に動けば、なぜかその情報が上へ伝わる。後から届く命令で、それが分かった」
「その情報を流していたのがカガチか」
ジュドが言う。
「ああ」
「だったら捕まえて吐かせりゃいいじゃねえか」
「違う」
カミュは即答した。
「私が知りたいのは――その先だ」
ジュドが腕を組む。
「じゃあ、あの教皇じゃねえのか? ロレッツオとかいう爺さん」
「あいつは白だ」
「?」
「世の中、どこにでもいる平凡な男だ」
「……教皇だぞ?」
「教皇だろうと、人間には変わりない」
カミュは窓の外を見る。
「今までは動けなかった。リンとリィナ、それに数人の者しか完全には信用できなかったからな」
視線をジュドたちへ移す。
「だが、今は違う」
「明朝、巡回団が砦を離れる。それを確認したら――」
カミュの眼が鋭くなる。
「この砦を潰す」
◇
翌朝。
薄い朝霧の中、砦の門が開いた。
ルル教会の巡回団が、ゆっくりと外へ出ていく。
ロレッツオ教皇。
教会の者たち。
そして――フォンセ=カガチ。
一行が十分に離れた頃。
「追跡を開始しました」
「分かった」
カミュは振り返った。
「では――始めるぞ」
◇
戦いはさほど長くは続かなかった。
カミュは、この砦の人間を知り尽くしていた。
狙うのは、本部から送り込まれていたイエロースーツ直属の兵たち。
現地で雇われた者や作業員、一般の警備兵には手を出さない。
ジュド、ファ、リン。
そしてロロと朱麗。
砦の中枢は、瞬く間に制圧されていった。
あとわずかで制圧――そのはずだった。
「こいつは楽勝だなあ」
ジュドが鼻毛を抜いた、その瞬間。
突然、一本の武器が飛来し、ジュドの足元の地面へ突き刺さった。
「――はい、そこまでよ」
一組の男女が、堂々と立っていた。
女が笑う。
「《蒼天》のリーダーを本部まで連れていくだけの仕事だったんだけどねぇ」
周囲を見る。
「まさか……こんなことになってるとは」
そしてジュドを見つける。
「お前が炎虎のジュドか」
「……何で俺の名前を知ってやがる」
女は楽しそうに名乗った。
「ミランダ=スーン」
ジュドの眉が動く。
「……スーン?」
「生前、おばあちゃんが大変お世話になったみたいだね」
「……キャラか」
「まあ、私にとっちゃそんなことはどうでもいいんだが」
ミランダは笑う。
「それより――これは美味しい状況じゃあないか」
隣の男が低く言った。
「ミランダ、よせ」
「何よ?」
「俺の叔父は、その自惚れで命を落とした」
「私はあなたの叔父さんとは違うわ」
「そう思っている時が、一番危ないと言っている」
「はいはい」
ミランダはジュドを見る。
「そんなこと言ってると、賞金首――奪い取られるよ」
地面を蹴った。
ジュドが武器を受け止める。
「ほう、姉ちゃん。やけに気が合うじゃねえか!」
激しい金属音。
二人が鍔迫り合いになった最中、ジュドが何かを思い出した。
「……おい、ちょっと待て」
「何だい?」
ジュドがきょろきょろと辺りを見回す。
「あんた、一体……何してる?」
「いやな」
背後まで確認する。
「もしかしたら、邪魔者がいるかもしれねえと思ってな」
「……は?」
ミランダが眉をひそめた。
「何言ってんだ、こいつ」
ジュドは遠くにいる朱麗を確認する。
「……よし」
「何が『よし』なんだい!」
再び二人が激突する。
その様子を見ていた男――ガラン=ダカランが呟く。
「……だから言っただろう」
「本当に、そのようだな」
カミュが高周波偃月刀を構える。
ガランも静かに武器を構えた。
「黄天の二つ名のカミュ。あんたが相手になってくれるというのか……」
ガランの眼が鋭くなる。
「相手にとって不足なし」
カミュはわずかに目を細めた。
「ガラン。少し、あんたは勘違いをしているようだ」
「何?」
カミュは高周波偃月刀を上段に構えた。
群青の髭が、朝の風に揺れた。
「私の二つ名は黄天ではない」
一歩、前へ出る。
「――蒼天だ」
ガランは冷たく言い放つ。
「裏切り者の台詞などどうでもいい」
「それも勘違いだ」
「何?」
「私は一度たりとも、お前たちの側についた覚えはない」
二人の武器が激突した。
◇
ジュドとミランダ。
カミュとガラン。
二つの戦いが続く。
その最中――一人のイエロースーツ兵が息を切らして駆け込んできた。
「ガラン様!」
ガランが視線だけを向ける。
兵士は周囲を警戒しながらガランのそばへ寄り、その耳元で何事かを囁いた。
「――何?」
ガランの表情が変わる。
「確かなのか?」
「はい」
「……分かった」
ガランがカミュから距離を取った。
「ミランダ! そこまでだ!」
「ああ? 何だい、これからだってのに!」
「事情が変わった。行くぞ」
「何があった?」
「後で話す」
「……ちぇっ、せっかくいいところだったのに」
ミランダが悔しそうにジュドから離れる。
ガランたちは兵を連れ、その場を去っていった。
カミュがその背中を見つめる。
「……何があった」
「――カミュ様」
影から声がした。
「うおっ! また出た!」
ジュドが飛び退く。
斥候がカミュの前に膝をついた。
「報告します。今しがた、フォンセ=カガチが巡回団を離脱しました」
カミュの表情が変わる。
「逃亡したのか」
「はい。ケニア宇宙港方面へ向かったものと思われます」
「追えるか」
「すでに追跡しております」
「分かった」
斥候が去る。
ジュドがガランたちの消えた方向を見る。
「……あいつらが急に帰ったのも、それか?」
「おそらくな」
カミュの眼が細くなる。
◇
ケニア宇宙港。
フォンセ=カガチは、人混みの中を足早に進んでいた。
その手には、以前から用意していた搭乗券が握られていた。
何度も背後を確認する。
(ここで捕まるわけにはいかない)
(ここで捕まるわけにはいかないんだ)
搭乗口。
「身分証をお願いします」
カガチは一冊のパスポートを差し出した。
係員が端末を確認する。
「――ショルティ様ですね?」
「はい」
迷いなく答えた。
「確認しました。どうぞ」
「ありがとう」
カガチはパスポートを受け取る。
そして船内へ。
搭乗口へ駆け込んだカガチは、吐き捨てるように呟いた。
「こんな砂漠の台地の土になんかなってたまるか」
シュウゥ――。
背後で搭乗口の扉が閉じた。
◇
「探せ! まだ遠くへは行っていないはずだ!」
ガランの号令。
イエロースーツの兵たちが、宇宙港の中へ一斉に散っていく。
その人混みの中には、《蒼天》の斥候たちの姿も紛れていた。
「そっちだ!」
「急げ!」
ミランダも人混みをかき分けていく。
宇宙港は、たちまち騒然となった。
◇
「……どうやらカガチは宇宙へ上がったようだ」
カミュの言葉に、ファが目を見開いた。
「宇宙へ?」
「ああ」
「イエロースーツの本部が宇宙にあるとは、私にも考えにくい」
「じゃあ、どうするの?」
「分からん」
カミュは小さく息を吐いた。
「だが、せっかく掴んだ足取りだ。ここで見失うのは惜しい」
ファが少し考える。
「……宇宙へ上がる?」
「そうするしかあるまい」
少し離れた場所で、その会話を聞いていたジュドがロロを見る。
「なあ、ロロ」
「ん?」
ジュドは笑った。
「俺たちも宇宙に上がんねえか?」
「ジュドさん?」
「ああ」
ジュドは頭を掻く。
(リィナも無事だったしな)
「俺が地上に残る理由もなくなっちまったしな。俺も宇宙へ上がる」
そして、にっと笑った。
「アナハイムに行くんだろ?」
「うん」
「だったら話は早え」
ロロの顔が明るくなる。
「じゃあ、一緒に行く?」
「おう」
行き先は――宇宙。
それぞれ違う理由を抱えながら、彼らの道は再び一つに重なろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第4話「蒼天、墜つ」でした。
ようやくジュド、ファ、そしてカミュが再び交わりました。
今回登場したフォンセ=カガチ、ミランダ=スーン、ガラン=ダカランたちも、今後の物語に関わってきます。
そして地上を巡っていた物語は、いよいよ宇宙へ。
ロロのアナハイム行きと、カガチを追うカミュたち。
別々だった目的が、ここから一つの道へ重なっていきます。
次回もよろしくお願いいたします。