第43話「勝利の号令」をお届けします。
前回までは、ムーン・ムーンを舞台に、朱麗やロロ、セラたちの物語が続いてきました。サラサが帰り、ネオ・アルツトの人たちと新しい暮らしが始まったところで、朱麗たちの物語はひと区切りとなります。
そして今回、物語の舞台は、久しぶりにシュウたちのもとへ戻ります。
第36話でカミュが去ってから、しばらく時が流れました。その間にも、シュウたちの一団は大きくなり続けていました。ブラッド・レイを落とした一団を、連邦がこのまま放っておくはずもありません。
ムーン・ムーンでの穏やかな朝から一転、今回は宇宙を舞台にした、大きな戦いの回です。
これまでとは桁の違う相手を前に、シュウたちはどう立ち向かうのか。ヤザン、ガラン、ミランダたちの戦いぶりにも、ぜひ注目してください。
題名の「勝利の号令」が、誰の、どんな号令なのか。それも、読み終えたときに思い出していただけたら嬉しいです。
詳しい中身は、あえて伏せておきます。ぜひ本編でお確かめください。
それでは、第43話をお楽しみください。
月を背に、戦艦が並んでいた。
細長い巡洋艦の向こうに、ずんぐりした艦が続く。その下にも、上にも、別の艦の灯りがあった。
古い塗装を残したもの。補修した部分だけ、色の違うもの。
所属も形も違う艦が、次々に同じ列へ加わっていく。
その間を、一隻の移動艇が進んでいた。
「間もなく、ゼネラル・レビルに到着します」
操縦士の声に、後ろの男は短く頷いた。
コンラッド・バレンタイン大将。
今回の討伐軍を率いる総司令官だった。
窓の外を、大きな艦の腹が覆っていく。
左右に張り出した甲板には、モビルスーツが並んでいた。整備用の腕が機体から離れ、作業灯が順に消えていく。
移動艇は誘導灯に従い、その巨艦へ入った。
*
作戦会議室の正面に、宙域図が映し出されていた。
「ブラッド・レイ破壊に加わった一団は、現在、この宙域に展開しています」
参謀が、月の近くに浮かぶ赤い印を指した。
続いて、一人の青年の顔が映る。
「シュウ=シラカワ。かつてネオ・ジオンと呼ばれた勢力の残党を中心に、人員と機体を集めています。フォン・ブラウンとのつながりも深く、戦力は増加し続けています」
「今のうちに、叩くということだな」
「はっ」
コンラッドは、席に着いた将校たちを見渡した。
「艦の準備は」
「整備、補給ともに終了しております。急な動員でしたので、複数の民間業者にも作業を振り分けました。射撃装置の共通部品も、交換済みです」
宙域図へ、味方艦を示す青い印が増えた。
赤い敵艦の印を囲むには、多すぎるほどの数だった。
「正面からモビルスーツ隊を当てます。第一陣の弾薬が減ったところで、第二陣と交代。敵に補給の時間を与えません」
青い矢印が、左右へ分かれた。
「両翼の艦隊は、側面へ回り込みます。敵が退けば、そのまま追撃。母艦へ戻る機体ごと、艦砲射撃で仕留めます」
「一機ずつの勝負に、付き合う必要はない」
別の将官が言った。
「どれほど腕の立つ者でも、弾も燃料も無限には持てん。数で押し切ればよいのです」
コンラッドは、図の中央を見た。
シュウの艦、《暁》の位置が記されていた。
「ブラッド・レイは、もうない」
会議室が静まる。
「だが、我々には、これだけの艦と兵がある」
コンラッドは立ち上がった。
「分かった。早速、作戦に移ってくれ」
◇
「連邦の艦隊が、こちらへ向かっています」
《暁》の艦橋で、ナナイが顔を上げた。
艦長席にいたシュウが、画面へ目を向ける。
「規模は」
「まだ、全体を掴めていません。ただの哨戒部隊ではありません」
管制から、続けざまに報告が入る。
ナナイはそれを聞きながら、表示を切り替えた。
「ヤザンとガランを、先行させます」
「頼む」
短い返事を受け、ナナイは格納庫へ回線を開いた。
*
「見えたか」
「ああ。……見えた」
ヤザンは、操縦席の画面を拡大した。
遠くに並んでいた光が、艦の形になっていく。
一隻を数える間に、その後ろから次の艦首が現れた。
「おい。まだ、後ろにもいるぞ」
ガランの鉄嵐が、隣へ寄った。
二機は噴射を止め、漂う岩の陰から艦隊を見ていた。
画面を引けば、艦の一隻一隻が小さくなる。
それでも、列の端が収まらなかった。
「ずいぶん、集めやがったな」
ヤザンの口元から、笑いが消えた。
「あれが、全部こっちへ来るのか」
「戻るぞ。見たものを、そのまま持ち帰る」
ガランが機体を返した。
ヤザンも、最後に艦隊の中央を拡大する。
ひときわ大きな艦がいた。
周囲の巡洋艦が、小さく見えた。
「……大将まで、お出ましかよ」
二機は岩陰を離れ、《暁》へ向けて加速した。
◇
《暁》は、すでに動き始めていた。
帰投した二機から送られた映像に、艦橋の者たちが言葉を失う。
ナナイは艦隊の位置を確かめ、進路を指示した。
「格納庫、ヤザンとガランの補給を急いで。残る機体も、発進準備」
艦が大きく向きを変える。
その途中で、管制員の声が上ずった。
「敵艦隊から、機体の発進を確認!」
艦の印から、小さな点が分かれた。
一つ、二つではない。列になり、帯になり、こちらへ伸びてくる。
「第二波、発進。さらに、後続がいます!」
ナナイは、シュウを振り返った。
シュウが頷く。
「全機出撃。迎え撃て」
格納庫の灯りが変わった。
固定具が外れ、カタパルトの先に宇宙が開く。
鉄嵐が飛び出した。
ミランダの機体が続き、ほかの機体も次々に艦を離れる。
「正面は、任せろ!」
「じゃあ、横から抜けてきたのは私ね」
ミランダの返事を聞きながら、ヤザンは操縦桿を握り直した。
「来いよ。数だけ並べりゃ、勝てると思うな」
最後の固定が外れた。
黒い機体が、カタパルトを蹴った。
*
最初の敵機が、火を噴いた。
正面から撃ち込まれるビームをかわし、ヤザンがその下へ潜る。撃ち返した一発が、相手の胸を貫いた。
爆発の向こうから、別の二機が銃口を向ける。
ヤザンは止まらなかった。
横へ滑り、二機の射線を重ねさせる。手前の機体が邪魔になった一瞬に距離を詰め、振り抜いた刃でその腕を落とした。
「次は、どいつだ!」
鉄嵐の両腕から、ガトリングの弾が走った。
迫る敵の列が割れる。散った先へミサイルが伸び、さらに外へ追い出された一機を、ミランダが斬った。
それを見た連邦兵は、怯えきっていた。
「あんなの、勝てっこありませんよ。化け物だ……!」
艦橋から、連邦の士官が声を張った。
「大丈夫だ。我々の方が、物量で勝っている!」
連邦の先頭が崩れた。
だが、その後ろから、もう次の部隊が出てきていた。
押し返した場所へ、また敵が来る。
右を塞げば、左から回り込まれる。
一機を追い払っても、その奥に二機、三機と控えていた。
「第二陣、前へ。第一陣は後退、補給に入れ」
連邦の命令が飛ぶ。
弾を使った機体が下がり、まだ一発も撃っていない機体が、その穴を埋めた。
シュウ側には、代わりに出せる部隊がいなかった。
戦いが続くほど、射撃の間隔が開いていった。
残弾の表示が減る。推進剤の警告が点く。
敵の銃口を避けるための噴射が、帰るための燃料まで削っていた。
「ガラン、右!」
ミランダの声で、鉄嵐が盾を回した。
直後、衝撃が腕を跳ね上げた。
「分かっておる!」
「分かってるなら、もう少し早く!」
ミランダが、その脇を抜ける。
二人が立て直したところへ、遠くの戦艦から砲火が届いた。
モビルスーツの射撃より、はるかに太い光だった。
散開した味方の間を抜け、《暁》の進路を横切っていく。
艦橋が揺れた。
「左舷、外部装甲に損傷! 敵の右翼艦隊が、回り込んできます!」
ナナイが表示へ手を伸ばした。
「取舵。各機、これ以上は前へ出ないで」
シュウは、前方の画面を見ていた。
味方の印が、少しずつ《暁》へ押し戻されてくる。
「後退する」
その声で、管制員が振り返った。
「各機を、艦の周囲へ集めろ。ばらばらに追わせるな」
「承知しました」
ナナイは、全機へ後退を伝えた。
続いて、一つの回線だけを残す。
「ヤザン。先に帰投してください。あなたには、別の仕事を頼みます」
◇
「敵、後退しています!」
ゼネラル・レビルの艦橋に、報告が響いた。
前方の画面では、敵の機体が黒い艦へ集まりつつあった。
撃ち返しては、下がる。
その距離が、次第に大きくなっていく。
「やはり、数には敵わんか」
将校の一人が笑った。
「追え。補給させるな。あの艦を押さえれば、終わりだ!」
各艦隊から、同じ声が上がる。
左右へ広がっていた艦も、逃げる《暁》へ艦首を向けた。
「大将。本艦も前進させます」
「ああ。続けてくれ」
コンラッドは、前方から目を離さなかった。
《暁》の後ろに、細かな破片が流れていた。
引きちぎれた装甲。砕けた岩。壊れた機体の一部。
連邦の先行部隊が、それらを避けて進んでいく。
ゼネラル・レビルも、その中へ入った。
*
その岩は、中が空だった。
狭い空間で、ヤザンが息を潜めていた。
機体の外を覆うのは、岩肌に似せた偽装用の殻だった。
先に《暁》へ戻ったあと、格納庫の整備員たちが、二つに割れた殻を機体へかぶせた。
それを貨物口から流し、艦だけが先へ逃げた。
渡された指示は、短かった。
――旗艦を通せ。艦橋へ取りつけ。
機体の噴射は切ってある。
小さく開けた隙間の向こうを、巨大な艦の装甲が流れていく。
ヤザンは、照準を動かさなかった。
砲塔が通り過ぎた。
張り出した甲板の向こうに、艦橋が見える。
「……そこだ」
殻が割れた。
砕けた岩肌の中から、黒い機体が飛び出した。
一度だけ噴射し、艦の背を滑るように進む。
「上方に、敵機!」
連邦の警告が出たときには、ヤザンはもう、艦橋のすぐ前にいた。
機体の片手が、外壁を掴んだ。
もう片方の銃が、正面の窓へ向けられる。
「動くなよ」
公開回線に、低い声が流れた。
「そこの大将ごと、吹っ飛ばすぞ」
艦橋の者たちが凍りついた。
窓の外には、こちらを覗き込む機体の頭部がある。
その下の銃口は、まっすぐ司令席を向いていた。
「対空砲を――」
「その前に、ここがなくなるぜ」
ヤザンは、銃口をわずかに動かした。
命令しかけた将校が、口を閉じる。
「全艦、撃ち方やめ。モビルスーツも下がらせろ。まずは、それからだ」
コンラッドが、ゆっくりと手を上げた。
「従え」
「しかし、大将」
「艦橋を失いたいのか」
通信士が、慌てて全軍回線を開いた。
旗艦に敵が取りついた。
総司令官が、人質になっている。
報告は、各艦へ広がっていった。
別の艦に乗る副官のエヴァンズが、全艦への回線を開いた。
「全艦、いったん攻撃を止めろ。以後の指揮は、こちらが引き継ぐ」
追撃の砲火が途切れ、前へ出ていたモビルスーツも、引き金を放した。
◇
「……止まった?」
ミランダが、追ってこなくなった敵を見た。
「止まったぞ」
ガランの画面へ、ナナイから映像が届いた。
連邦の巨大な旗艦。その艦橋へ取りついた、見覚えのある機体。
「あいつめ……!」
ガランの顔が、くしゃりと緩んだ。
「よく、あそこまで入った!」
*
「次は、船を動かしてもらおうか」
ヤザンは、銃を向けたまま言った。
「前の黒い艦が見えるな。あっちへ行け。大将一人じゃねえぞ。この船ごとだ」
艦長が、コンラッドへ目を向けた。
「機関を動かせ。急な動きはするな」
ゼネラル・レビルの艦首が、わずかに下を向いた。
後方の艦隊から離れ、《暁》へ進み始める。
「何をしている。旗艦が敵へ向かっているぞ!」
「撃つな! コンラッド大将が乗っておられる!」
回線の向こうで、怒鳴り声が重なった。
《暁》も速度を落としていた。
傷ついたモビルスーツが、その周囲へ戻ってくる。
ナナイは味方を旗艦の射線から外し、拿捕した艦へ送り込む部隊を呼び出した。
コンラッドは、艦隊の位置が映る画面を見ていた。
味方の艦が、後ろへ遠ざかっていく。
「全艦へ、つないでくれ」
通信士が振り返った。
「大将?」
「私から話す」
回線が開いた。
「各艦の指揮官へ告ぐ。コンラッド・バレンタインだ」
騒がしかった通信が、静まった。
「この艦は、敵に奪われた。まもなく敵艦のそばへ到達する」
コンラッドは、送話器を握った。
「両艦をまとめて、撃て」
ヤザンが目を見開いた。
「おい、じじい。自分が何を言ってるか、分かってんのか」
コンラッドは答えなかった。
「私の身は、どうなっても構わん。ここで敵の首領を逃がせば、今日失った者たちは浮かばれん」
艦橋の将校が、司令席へ一歩近づいた。
「大将……」
コンラッドは、手で制した。
「全艦、主砲をこちらへ向けろ。準備ができた艦から、一斉射撃に加われ」
通信の向こうで、誰かが息を呑んだ。
エヴァンズは、正面の画面を見つめて敬礼した。
敵艦へ近づいていく旗艦から、目を離さなかった。
「……閣下。あなたの命は、無駄にしません」
振り返り、各艦の指揮官へ告げる。
「両艦を目標とする。全艦、主砲を向けろ」
指揮官たちが頷いた。
止まっていた砲塔が、動き始めた。
「てめえら、本気で撃つつもりか!」
ヤザンは、後方を見た。
いくつもの砲口が、こちらへ揃っていく。
「《暁》! 離れろ、こいつら――」
エヴァンズが、旗艦への回線を開いた。
「閣下。最後の号令を」
コンラッドは、送話器を口元へ寄せた。
「一斉射撃、開始」
その声が、全艦へ届いた。
連邦の艦隊が、光った。
*
光は、こちらへ飛んでこなかった。
主砲の根元が膨れ、装甲を内側から押し破った。
隣の艦でも、別の艦でも、砲塔が火を噴いていた。
「何だ……?」
ヤザンの目の前で、一隻の艦尾が弾けた。
噴射口の光が消え、艦が横へ流れ始める。
砲から、機関へ。
艦隊のあちこちで、ほとんど同時に爆発が起きていた。
「主砲、破損!」
「機関室から応答がありません!」
「隔壁を閉めろ! 早く!」
通信が悲鳴に変わった。
さっきまで敵を追っていた艦が、今度は隣の艦との衝突を避けようと、必死に姿勢を変えている。
飛び散った装甲の間に、小さな光がいくつも走った。
脱出艇だった。
その一方で、呼びかけても返事のない艦もあった。
モビルスーツ隊が、次々に母艦へ引き返していく。
追撃の列は、崩れていた。
◇
ゼネラル・レビルの艦橋だけが、静まり返っていた。
コンラッドは、送話器を置いた。
「……すまない。君」
ヤザンへ向けて、顔を上げる。
「君たちの艦の首領に、つないでもらえないか」
「何を……」
言いかけたヤザンの回線へ、ナナイが入った。
「こちら《暁》。どうされましたか」
コンラッドは、軍帽を取った。
「ナナイ。作戦終了だ。撤退しよう」
その声は、さっきまでのものとは違っていた。
指が、顎の下へかかった。
皺のある頬が、薄い膜になって持ち上がる。
その下から、青年の顔が現れた。
「……シュウ?」
ヤザンの声が、裏返った。
シュウは、外した顔を膝へ落とした。
「ご苦労だった、ヤザン。銃は、まだ下ろすな」
艦橋の将校が、腰の拳銃へ手を伸ばした。
窓の外で銃口が動き、その手が止まる。
「そのまま操艦を続けろ。抵抗しなければ、ここを撃たせるつもりはない」
シュウは、通信へ目を戻した。
「受け入れの準備は」
「できています。移乗部隊を向かわせました」
「よし」
「よし、じゃねえ!」
ヤザンが叫んだ。
「何で、あんたがそこにいるんだ! 俺は、あんたに銃を向けてたんだぞ!」
「だから、お前に任せた」
シュウは、窓の外の銃口を見た。
「今ここにいる兵士たちが俺を取り押さえても、お前だったら引き金を引くだろう」
ヤザンは、返す言葉を失った。
*
《暁》の艦橋でも、誰もが画面を見ていた。
画面の中には、シュウがいる。
そして、自分たちの後ろの席にも、シュウが座っていた。
管制員が、ゆっくりと振り返った。
「……では、こちらにいらっしゃるのは」
椅子の男が、長く息を吐いた。
「もういいかな」
「ええ」
ナナイが答えた。
男は首元へ手を入れ、シュウの顔を外した。
現れた顔を見て、管制員の口が開いた。
「クワトロ……!」
クワトロは、外した仮面を眺めた。
「やれやれ、ひと苦労だったよ。こういう役は、もうこれきりにしてくれよ」
ナナイは、わずかに口元を緩めた。
「十分、務めていただきました」
「留守を頼まれてはいたが、まさか敵の総司令になっているとは思わなかった」
クワトロは画面の中のシュウを見た。
「こちらは、逃げる芝居だけでは済まなかったぞ。敵の弾は本物だ」
「おかげで、旗艦まで前へ出てきた」
シュウが答えた。
「損傷した機体から収容しろ。長居はしない」
ナナイが指示を出す。
呆気に取られていた管制員たちが、慌てて持ち場へ向き直った。
◇
ゼネラル・レビルに、武装した兵たちが乗り込んだ。
艦橋の将校から武器を取り上げ、出入口を押さえる。
操舵手たちは、席に残された。
窓の外では、ヤザンの機体がまだ銃を構えていた。
シュウは、司令席を立った。
「砲と機関の損傷を確認。まだ動ける艦は、救援に回っています」
ナナイから報告が届いた。
「これで、しばらく追ってこられんな」
「ええ。ただ、被害は大きくなります」
「承知している」
シュウは、煙を上げる艦隊を見た。
*
《暁》の格納庫へ、最後の機体が戻った。
焦げた装甲から、煙が細く上がっている。
整備員が駆け寄り、別の者が担架を運んだ。
艦橋では、ナナイが帰投の数を確かめていた。
クワトロは、まだ手にしていた仮面を卓へ置く。
「あの顔で、また何か頼まれても困るな」
そこへ、ヤザンの声が入った。
「ナナイ。あんたは、知ってたんだろ」
「はい」
「……そうかよ」
短い沈黙のあと、ガランが笑った。
「見事に、大将を連れて帰ってきたではないか」
「どっちの大将だ!」
ミランダが、とうとう吹き出した。
艦橋でも、こらえきれなかった笑いが漏れた。
ナナイは、前方へ顔を戻した。
「進路、開きました。撤退します」
《暁》が、艦首を巡らせた。
その後ろを、連邦の巨大な旗艦が続く。
遠ざかる艦隊には、まだ数多くの灯りがあった。
その間を、救援艇が飛び交っていた。
あれだけの艦を失っても、連邦には、まだ艦がある。
だが、今、この二隻を追ってくるものはいなかった。
(つづく)
第43話「勝利の号令」、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さま、騙されてくださったでしょうか(笑)。
今回は、シュウたちのもとへ、連邦の大艦隊が押し寄せる回でした。
率いるのは、コンラッド・バレンタイン大将。ブラッド・レイを失った連邦は、もう一度あの光で焼き払うのではなく、古い艦までかき集めた「数」で、シュウたちを押し潰そうとしました。
偵察に出たヤザンとガランが見たのは、画面に収まりきらないほどの艦の列でした。
いざ戦いが始まると、ヤザンもガランもミランダも、一機ずつなら決して負けていません。けれど、倒しても倒しても、後ろから次の部隊が出てくる。弾が減り、燃料が減り、少しずつ押し戻されていく。物量で戦う連邦の怖さを、読者の皆さまにも感じていただけたなら嬉しいです。
そして、後退する《暁》を追って、旗艦が前へ出たところで、岩に隠れていたヤザンが飛び出します。
「動くなよ。そこの大将ごと、吹っ飛ばすぞ」
ヤザンが銃口を向けた、その相手こそが――。
仮面の下から現れたのは、シュウでした。
敵の総司令官に成り代わり、敵の旗艦に乗り込んで、自分たちを追わせる。そして、《暁》の艦長席にいたシュウは、クワトロでした。
「敵を欺くには、まず味方から」。何も知らされず、全力で自分の大将に銃を向けていたヤザンには、少し気の毒なことをしました(笑)。それでもシュウは、ヤザンだからこそ任せたのだと言います。本気で引き金を引ける男だからこそ、連邦も信じた。第36話で「お前が必要だ」と言ったシュウの言葉は、ここでも変わっていません。
ガランの「見事に、大将を連れて帰ってきたではないか」と、ヤザンの「どっちの大将だ!」には、書いていて思わず笑ってしまいました。
題名の「勝利の号令」。
連邦の誰もが、それを勝利への号令だと信じていました。大将が自らの命を差し出し、最後の号令をかける。その号令が、本当は誰のための勝利だったのか。読み終えた今、もう一度読み返していただくと、大将の台詞の一つひとつが、まったく違って見えるかもしれません。
ただし、シュウは笑っていませんでした。
この勝利の陰で、多くの連邦兵が傷つき、命を落としています。それを承知の上で、シュウはこの作戦を選びました。必要とあれば、迷わずそれを選べる男。それもまた、シュウという人物です。
そして、物語の最後の一文。
あれだけの艦を失っても、連邦には、まだ艦がある。
今回の勝利で、シュウたちは大きな戦果を挙げました。けれど、連邦との物量の差まで消えたわけではありません。
では、本物のバレンタイン大将は、今どこにいるのか。
そして、ここまでの屈辱を受けた連邦は、次にどう動くのか――。
次回も、どうぞよろしくお願いいたします。