GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

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 いつも『GUNDAM TRIANGLE』をお読みいただき、本当にありがとうございます。

 第44話「リーンホース、発進」をお届けします。

 前回は、シュウたちのもとへ押し寄せた連邦の大艦隊との戦いを描きました。たくさんの感想をいただき、本当に嬉しかったです。

 今回の舞台は、月の裏側のグラナダです。
 ロロがムーン・ムーンへ旅立ったあとも、グラナダに残った仲間たちは、それぞれの場所で次の戦いに備えていました。

 題名のとおり、今回は一隻の艦が主役の回です。
 どんな艦なのか、そこに乗る人たちが何を背負っているのか。メカの好きな方にも、人物の好きな方にも、楽しんでいただけるように書きました。

 そして、ガンダム作品をよくご存じの方には、少しだけ懐かしい名前も登場します。どこで「おや?」と思っていただけるか、作者としても楽しみにしています。

 詳しい中身は、あえて伏せておきます。ぜひ本編でお確かめください。

 それでは、第44話をお楽しみください。



第44話 リーンホース、発進

 

 

 

 ロロたちを送り出したあとも、グラナダの建造ドックでは、作業が続いていた。

 

 窓の向こうに、小さな艦が浮かんでいる。

 前へ突き出した二本の甲板。その根元に収まる船体と、中央に乗った艦橋。

 後部は左右へ膨らんでいたが、隣のドックにいる巡洋艦と見比べると、ひどく細く見えた。

 

「あれに、乗るんですね」

 

 ハサンが、窓へ近づいた。

 背後から来たアークは、窓枠に手を置いた。

 

「リーンホース。今度の我々の艦だ」

「名前は聞いていましたけど……思っていたより、小さいです」

「君も、そう思うかね」

 

 アークの声に、ハサンが慌てて振り返る。

 その向こうから、レオナージが歩いてきた。

 カロッゾと、図面を抱えた女性が一緒だった。

 

「小さいと言っていただけたなら、設計した側としては成功ですね」

 

 レオナージは、女性へ手を向けた。

 

「紹介します。サナリィから来ていただいた、モニカ・アノーさんです。研究所のあるコロニーから、わざわざ足を運んでくださいました」

「艦の小型化について、図面のやり取りを続けていたんです。今日は、実物を見せていただきに」

 

 モニカは、窓の向こうの艦を見た。

 

「同じ仕事ができるなら、小さい方が身軽です。造る費用も、動かし続ける費用も抑えられます」

「そこは、大いに助かりました」

 

 レオナージが頷いた。

 カロッゾが、抱えていた別の図面を持ち上げた。

 

「ただし、何もかも積めるわけではない」

 

 レオナージの笑顔が、わずかに止まった。

 

 

     ◇

 

 

 開発室の端末に、艦の断面図が映った。

 

「人が乗る場所は確保した。だが、機体を収める場所が足りない」

 

 カロッゾの指が、格納庫を示す区画を囲んだ。

 艦の図の中で、それは小さく押し込まれていた。

 

「蒼天も、ここへ入るんですか」

 

 ハサンが、画面へ身を寄せた。

 

「そのほかの機体もだ。整備の場所と、交換部品も要る」

「それじゃ……」

「この一艦だけでは、全部は積めない」

 

 カロッゾが、あっさり言った。

 ハサンは、困ってアークを見た。

 

「出した機体が帰ってこられんのでは、話にならんな」

「そこは、心配しなくても大丈夫だ」

 

 カロッゾが、図を切り替えた。

 別の船体が、リーンホースの後ろへ重なる。

 

「格納庫を、艦ごと足すんですか」

 

 エイデンが聞いた。

 

「その通りだ。本体自体を大きく造り直すよりも、部隊の数によって、ここの部分を大きくも小さくもできる」

 

 モニカが、付け加えた。

 

「つなぐ場所の形をそろえておけば、中身は同じでなくても使えるでしょう」

 

 レオナージが、図の上を指でなぞった。

 

「痩せ馬に引かせる、馬車というわけですね」

「《キャリッジ》だ」

 

 カロッゾが言った。

 

「格納庫から前の甲板まで、機体を送り出す通路もつながる」

 

 アークは図を自分の方へ寄せた。

 格納庫から伸びる線を追い、二本の甲板で指を止める。

 

「帰ってきた機体と、次に出す機体がぶつからんようにしろ。整備中の機体も、通り道へ置くな」

「承知している」

 

 

「Gビットは、どこに積むのですか」

 

 ルチルが入ってきたのは、そのときだった。

 カロッゾが、端末へ三隻目の艦を映した。

 

「こちらだ。キャリッジの上につなぐ」

 

 平たい船体が、後ろへ伸びた格納庫の上に重なる。

 

「格納庫と一緒には、しなかったんですね」

「機体を整備する場所と、君がGビットを操る場所では、必要な設備が違う」

 

 カロッゾは、艦の内部を拡大した。

 

「役目ごとに分けてつなぐ。ブラッド・レイで使った仕組みを、この大きさに収め直す」

 

 ルチルは、画面の中央を見た。

 一つの座席を囲むように、装置が並んでいた。

 

「私の席ですか」

「ええ。そこは、私が担当しました」

 

 モニカが答えた。

 

「バイオセンサーと、バイオコンピューターを使います。あなたの感覚を、もっと鋭く引き出したいの」

「この組み合わせで実機へ積むのは、初めてだ」

 

 カロッゾが付け加える。

 それから、画面を全体図へ戻した。

 

「Gビットを操る馬具。《ブライドル》だ」

 

 アークが、三隻を並べた図を見た。

 

「これで、ようやく一隻分か」

「一隻の中へ押し込まなくても、同じ仕事はできます」

 

 モニカが答える。

 レオナージは、手元の予算表へ目を落とした。

 

「小さい艦は、安く済むのではなかったんですか」

「本体は」

 

 カロッゾが、静かに答えた。

 アークの口元が、少しだけ緩んだ。

 

 

     ◇

 

 

 格納庫の足場へ上がったハサンは、白い顔を見上げた。

 

 これまでのGBガンダムとは違う。

 胸も肩も形が変わり、背中には、折り畳まれた大きな板が四枚あった。

 その横に、長い砲身が収まっている。

 

「君の新しい機体だ」

 

 カロッゾが、後ろから声をかけた。

 ハサンは振り向き、それから、また機体を見た。

 

「これに、僕が乗るんですか」

「ほかに誰がいる」

 

 足場を上がってきたエイデンが言った。

 

「GBガンダムを、さらに改良した機体だ」

 

 カロッゾが付け加えた。

 

「すごい!」

 

 ハサンは、機体の胸へ手を当てた。

 まだ塗料の匂いがする。

 

「名前は」

「ガンダムX。背中のリフレクターを開けば、分かる」

 

 カロッゾが、端末に展開図を映した。

 四枚の板が、背中で大きなXを作る。

 収まっていた砲身が起き上がり、肩越しに前を向いた。

 

「これが、サテライトキャノンだ」

 

 ハサンは、図へ顔を寄せた。

 

「こんなに大きな砲を、機体の力だけで撃てるんですか」

「出来んだろうな。これは、月面基地のマイクロウェーブを受け止めるものだ」

 

 カロッゾの指が、開いたリフレクターを示した。

 

「受け取ったエネルギーを、キャノン砲の威力に転換し、照射する」

 

 ハサンの目が、砲口へ戻った。

 月の空に浮かんでいた、あの巨大な兵器がよみがえる。

 

「ブラッド・レイシステム……」

 

 カロッゾは、少し間を置いて頷いた。

 

「その通りだ」

 

 エイデンも、画面の砲口を見ていた。

 

「ただ、勝手には撃てない」

 

 ハサンが顔を上げた。

 

「今まで通り、上層部と艦長の決定により、発射許可を得なければならない」

「……はい」

 

 返事をしてから、ハサンはもう一度、白い機体へ目を戻した。

 

 

     ◇

 

 

 開発室では、カロッゾとレオナージが、接続試験の手順を詰めていた。

 

 端末に、着信の灯がついた。

 カロッゾが通信を開くと、画面に女性の顔が映った。

 

「今夜も、遅くなるの?」

「すまない、ナディア。試験が終わったら帰る」

 

 画面の端から、少女が顔をのぞかせた。

 

「お父様、また同じこと言ってる」

 

 カロッゾの口元が、わずかに緩んだ。

 通信が切れると、隣で図面を見ていたレオナージが顔を上げた。

 

「お子さんですか」

「ああ。娘だ」

 

 カロッゾはくるりと振り返って、作業を続けた。

 

 卓上の小さな作業用の腕が、指の代わりについた二本の爪で、部品を挟む。

 持ち上げ、隣の印の上へ置く。

 カロッゾは、自分の手を動かしていなかった。

 

 頭には、モーションリンクシステムのヘッドギアがある。

 ロロが権利をアナハイムへ譲ったあとも、試験は続けていた。

 

 爪が、もう一度部品へ伸びた。

 途中で止まり、わずかに引き返す。

 

 カロッゾが、端末へ目を向けた。

 考えた動きと、実際に腕が動いた時刻が、二本の線で示されている。

 

「まだ、少しずれるな」

 

 調整値を変え、再び部品を見た。

 

 爪が開く。

 そのとき、つながれたコンピューターが、小さな音を立てた。

 

 プチッ。

 

 カロッゾは顔を上げた。

 画面には、いつもどおりの表示が流れている。

 部品は、爪の間に収まっていた。

 

 しばらく待っても、音はしなかった。

 

「……気のせいか」

 

 部品を持ち上げさせる。

 爪が、隣の印の上へ動いた。

 

 こめかみが、かすかに痛んだ。

 カロッゾは指で押さえ、肩を回した。

 それから、次の記録を開いた。

 

 

     ◇

 

 

 接続試験の日、ドックの作業灯が外側から消えていった。

 

 足場が退き、最後の作業員を乗せた艇が離れる。

 リーンホースの後方には、格納庫艦キャリッジが待っていた。

 その上に、ブライドルの平たい船体がある。

 

「各艦、準備を報告」

 

 艦長席から、アークが呼びかけた。

 答えが返るより先に、通信席で音が鳴った。

 

「艦長。連邦軍司令部から、入電です」

「読め」

 

 通信士は、文面へ目を走らせた。

 その途中で、声が止まった。

 

「どうした」

「……シュウ一派を攻撃した討伐艦隊が、戦闘の継続は困難と。旗艦ゼネラル・レビルは、敵に拿捕されています」

 

 艦橋から、話し声が消えた。

 

「本艦に、敵艦の迎撃命令が出ています。《暁》、および拿捕されたゼネラル・レビル。現在、二隻で移動中」

 

 画面に、二つの印が映った。

 艦橋の後ろで、カミュが《暁》の名を見ていた。

 

「……あれだけ集めても、止まらなかったか」

 

 アークは、肘掛けへ置いていた手を離した。

 

「試験は中止だ」

 

 一度、言葉を切る。

 

「……いや。試験は、実戦の中でやる。つなぎながら、出撃の準備に入れ」

 

 管制室のレオナージが、回線へ入ってきた。

 

「アーク艦長。まだ一度も、つないだことがないんですよ」

「分かっている。だから、技術班の回線は、そのままつないでおいてくれ」

 

 カロッゾが、記録の画面を切り替えた。

 

「こちらで、確認を続ける」

「頼む」

 

 アークが、カミュたちを振り返った。

 

「各機、キャリッジの格納庫へ。つながり次第、発進してもらう」

 

 カミュは、もう出口へ向かっていた。

 エイデンが続き、ハサンもそのあとを追った。

 

 

     ◇

 

 

 ブライドルの操縦席に、モニカが乗り込んできた。

 ルチルの座席の横へ、身をかがめる。

 

「ブライドルは、本当なら、あなたの感覚だけで艦ごと動かすこともできます。でも今回は試験的なものなので、艦の接続は手動で行います。あなたには、Gビットの方に集中してほしいの」

 

 ルチルは、座席を囲む装置を見た。

 

「Gビットは、これまでと同じように動かせばいいんですか」

「一機ずつ、命令を出す必要はありません」

 

 モニカは、装置の一つを指で示した。

 

「どこへ行かせたいか、何をさせたいか。その感覚を伝えてください。それを機械の方で読み取って、一機一機の動きに振り分けます」

「……手を伸ばすように?」

「そう。あなたが手を伸ばせば、Gビットがその先まで届く」

 

 回線の向こうで、カロッゾが記録を確かめていた。

 

「読み取る力は、上がっている。どうだ、ルチル君」

 

 ルチルは、少し考えてから答えた。

 

「遠くのものが、近くにあるように感じます」

 

 目の前にないはずの機体の位置が、以前よりはっきりする。

 無理に探って掴むより先に、そこにあると分かった。

 

「行けます」

 

 

     *

 

 

「艦尾、開放」

 

 アークの声を受け、操舵席の乗員が操作した。

 

 リーンホースの後部中央に、細い隙間が走った。

 外装が、左右へ分かれていく。

 丸い推進器の間に、奥へ続く接続口が現れた。

 

「キャリッジ、進入開始」

 

 格納庫艦の船尾で、短い光が瞬いた。

 四角い船体が、ゆっくりと前へ動き出す。

 

 キャリッジの中では、ハサンが手すりを握っていた。

 目の前のガンダムXは、固定具に支えられている。

 少し先に、蒼天とエイデンのヘビーガンも並んでいた。

 

「接続時、振動があります。足場から離れないでください」

 

 放送が流れた。

 ハサンは、機体の足元の留め具を見下ろした。

 

「これだけのものが、後ろから入るんですね」

「入ったあとで、出られなくなるなよ」

 

 エイデンは、先の隔壁を見ていた。

 カミュも、そちらへ目を向けている。

 その目は、隔壁の向こうの、まだ見えない宇宙を見ているようだった。

 

 

「距離、二十。十五。十。五……」

 

 先端が、奥の接続口へ入った。

 船体が、かすかに沈む。

 

 鈍い音が、艦橋の床まで伝わった。

 

「接触。位置、合っています」

「固定しろ」

 

 太いアームが、両側から伸びた。

 接続部を挟み、もう一度、重い音を立てる。

 開いていた外装が戻り、二隻のつなぎ目を覆っていった。

 

「キャリッジ、接続完了。艦内の電源、通信、ともに接続を確認」

 

 

 格納庫の前の扉が、開いた。

 

 ハサンは、手すりから身を乗り出しかけた。

 隣からエイデンに肩を押さえられる。

 

「まだだ」

「でも、つながりましたよ」

 

 扉の向こうに、別の扉が見えた。

 それも開くと、照明のついた通路が前へ伸びていた。

 

「リーンホースまで、一本になったんだ……」

 

 

     *

 

 

「次は、ブライドル。接続位置へ」

 

 ルチルは、キャリッジの背中を見下ろした。

 四つの誘導灯に囲まれて、取付部が見える。

 

 ルチルは、操縦桿を握った。

 モニカの読み上げる数字に合わせて、少しずつ高度を下げていく。

 

 端が、少しずれる。

 右へ寄せると、誘導灯の線がそろった。

 

「そのまま。ゆっくり」

 

 モニカの声が聞こえた。

 ルチルは息を吐き、座席の背へ肩を預けた。

 

 触れた。

 

 足元から、二度、三度と固定の音が響いた。

 

「ブライドル、固定を確認しました」

 

 ルチルは、操縦桿から手を離した。

 指先に、少し汗をかいていた。

 

「……本当に、これだけでつながったんですね」

「上手に、降ろしていただきました」

 

 モニカの声が、少し弾んでいた。

 カロッゾが、横から回線へ入る。

 

「次は、君の移動だ。座席から手足を出さないようにしてくれ」

「分かりました」

 

 

 足元の床が、左右へ開いた。

 

 ルチルは、思わず息を止めた。

 座席が、周囲の計器ごと、ゆっくりと下がっていく。

 降りきったところで向きが変わり、今度は前へ滑り始めた。

 

 左右に、キャリッジの内部が見えた。

 窓の向こうを、格納庫の足場が通り過ぎていく。

 

 機体の足元に、ハサンがいた。

 こちらへ気づいて顔を上げ、口を開く。

 

「ルチルさん?」

 

 手を上げようとして、ルチルはやめた。

 ベルトを握ったまま、小さく頷く。

 ハサンは窓へ近づこうとし、またエイデンに肩を押さえられていた。

 

 格納庫が後ろへ流れていった。

 壁の色が変わり、前方の扉が開いた。

 

「移動席、入ります」

 

 艦橋だった。

 後ろの壁際から入った座席が、床のレールに沿って進む。

 艦橋後部の定位置へ収まり、足元で固定具の音がした。

 

 ルチルの前に、艦長席があった。

 アークが振り返っている。

 

「無事に着いたか」

「はい」

「接続は」

「完了。Gビット、いつでも出せます」

 

 アークは、通信の画面へ顔を向けた。

 

「よくもまあ、ここまで運ぶ仕掛けを考えたものだ」

 

 ブライドルに残ったモニカが、画面の中で笑った。

 

「同じ艦に乗っている間は、顔を見て話せた方がいいでしょう」

 

 ルチルは、艦長席の背中を見た。

 あの大きな兵器の中では、ここまで近くに、皆の声はなかった。

 

「そうですね」

 

 小さく答えて、操作盤へ手を戻した。

 

「モニカ君。ここまでで十分だ。艦を降りてくれ」

「……はい。ルチルさん、あとはお願いね」

「はい」

 

 モニカを乗せた連絡艇が離れるのを待って、アークは正面へ向き直った。

 

「リーンホース、出るぞ。係留、外せ」

 

 

     ◇

 

 

 リーンホースを押さえていた係留具が、外れた。

 

 三隻をつないだ船体が、ドックの中を動き出す。

 艦尾の噴射が、少しずつ強くなった。

 

「後部、通過。ブライドル上方も、接触ありません」

「進め」

 

 前方の扉が、大きく開いていた。

 その向こうへ、月の地平が続いている。

 

 リーンホースは、ドックを出た。

 

 

     *

 

 

 ガンダムXの足元を、誘導灯が流れていった。

 

 格納庫から、つながったばかりの通路へ。

 さっき開いた扉の先を、今度は自分の機体で進んでいく。

 

 扉が開いた。

 

 前へ突き出した甲板の向こうに、宇宙があった。

 固定具が機体の足を捉え、発進位置へ送る。

 

「ハサン君。聞こえるか」

 

 カロッゾの声だった。

 ドックの管制室から、回線がつながっている。

 

「はい」

「サテライトキャノンは、まだ発砲できない状態だ。手持ちのビームライフルも、かなり強力だから気をつけてくれ」

 

 ハサンは、背中の装備を示す表示を見た。

 

「分かりました」

 

 答えて、正面へ目を戻した。

 遠くで、誘導員が退避した。

 

「ハサン、ガンダムX、出ます!」

 

 機体が前へ走った。

 甲板が足元から消え、白い機体が艦首の先へ飛び出した。

 

 後ろから、青い機体が続く。

 

「蒼天のカミュ。参る」

 

 ハサンの隣を抜け、蒼天が翼を広げた。

 もう一方の甲板から、ヘビーガンが発進する。

 

「エイデン・クロウ、出るぞ」

 

 三機が、リーンホースの前へ並んだ。

 

 

「ルチル君、聞こえるかね」

 

 カロッゾが、別の回線を開いた。

 

「はい」

「Gビットを、起動してくれたまえ」

「分かりました」

 

 ルチルは、目を閉じた。

 

 そこにある。

 一つずつ確かめなくても、機体の位置が分かった。

 出撃前に感じたときより、ずっと遠くにあるハサンたちまで感じ取れる。

 

 ブライドルの格納口が開いた。

 無人の機体が、一機、また一機と船体を離れていく。

 

 ルチルが、そっと指を伸ばした。

 光の列が向きを変え、ガンダムXたちの後方へ回る。

 

「Gビット、展開完了」

 

 艦橋の画面に、味方の印が増えた。

 

 アークは、遠ざかっていく機体を見ていた。

 航路図の先へ、敵艦の位置が重なる。

 

 艦長席へ、深く腰を下ろした。

 

「さて。敵のお手並みを、拝見しようか」

 

 誰に言うでもない、小さな声だった。

 

 

                          (つづく)





 第44話「リーンホース、発進」、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 今回は、ロロ陣営の新しい艦、リーンホースのお披露目の回でした。

 リーンホースは、隣の巡洋艦と比べると、ひどく細く見えるほどの小さな艦です。
 サナリィから来てくださったモニカ・アノーさんの助言で、同じ仕事を小さな船体でこなせるように造られました。F91をご存じの方は、お名前を見て「おや?」と思っていただけたでしょうか。
 けれど、小さいぶん、何もかもは積めません。そこで、足りないものを外からつなぐ。格納庫の《キャリッジ》と、Gビットを操る《ブライドル》です。

 実は、この三隻の名前は、すべて馬にちなんでいます。
 リーンホースは「痩せ馬」。キャリッジは、馬が引く「馬車」。ブライドルは、手綱をつなぐ「馬具」。
 痩せた小さな馬が、馬車を引き、馬具をつけて、一頭の立派な軍馬になる。そんな姿を思い浮かべていただけたら嬉しいです。
 ちなみに、レオナージの「小さい艦は、安く済むのではなかったんですか」に、カロッゾが返した「本体は」の一言。書いていて、思わず笑ってしまいました(笑)。

 そして、ハサンの新しい機体、ガンダムX。
 背中に四枚のリフレクターを広げ、月面から送られてくるマイクロウェーブを受け止めて撃つ、サテライトキャノンを持つ機体です。
 「ブラッド・レイシステム……」
 ハサンのこのつぶやきに、カロッゾは「その通りだ」とだけ答えました。あの光の怖さを一番よく知っているのが、ハサンたちロロ陣営です。
 だからこそ、エイデンの「ただ、勝手には撃てない」という言葉が重く響きます。上層部と艦長の許可がなければ、撃つことはできない。ブラッド・レイと同じ扱いの力を手にしたことの意味を、ハサンはまだ噛みしめている途中です。

 開発室では、カロッゾの少し違う顔も見えました。
 モニターの向こうの、奥さんのナディアと娘のベラ。いつも図面と数字ばかり見ている彼が、ほんの少しだけ口元を緩める。
 そして、その後の小さな出来事。何でもないことのように過ぎていきましたが、覚えておいていただけたら嬉しいです。

 後半は、接続試験のはずだった日に、連邦からの命令が届きます。
 前回、シュウたちに敗れた討伐艦隊。その追撃を、リーンホースが命じられました。
 「試験は、実戦の中でやる」
 アークのこの一言で、三隻の初めての合体は、出撃の準備と一緒に行われることになりました。
 後ろから入ってくるキャリッジ。その背中に降りるブライドル。そして、座席ごと艦の中を運ばれて、艦橋へたどり着くルチル。途中の格納庫で、思わずルチルを追いかけようとして、またエイデンに肩を押さえられるハサンも、見逃せないところです。
 「同じ艦に乗っている間は、顔を見て話せた方がいいでしょう」
 モニカのこの言葉に、ルチルがブラッド・レイにいた頃を思う場面も、ぜひ心に留めておいてください。

 ガンダムX、蒼天、エイデンの機体、そしてGビットの群れ。
 すべてを送り出したあと、アークは静かにつぶやきます。
 「さて。敵のお手並みを、拝見しようか」

 リーンホースが向かう先には、《暁》と、拿捕されたゼネラル・レビル。
 そこには、カミュがよく知る男がいます。
 《暁》の名を見つめていたカミュは、その先で何を思うのか――。

 次回も、どうぞよろしくお願いいたします。
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