GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

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いつも『GUNDAM TRIANGLE』をお読みいただき、本当にありがとうございます。

 第55話「高くつく捕虜」をお届けします。

 前回は、ムーン・ムーンでついにあの機体が初陣を迎え、名前を得ました。「月の光」という題名に、たくさんの反応をいただけて嬉しかったです。

 今回は、舞台をリーンホースへ戻します。
 朱麗たちの戦いの記録は、遠く離れた小惑星帯にも届いていました。その映像を、一人だけ違う目で見つめている人物がいます。

 そして、つい先日まで撃ち合っていた相手のもとへ、ある人たちが向かいます。

 題名の「捕虜」とは、いったい誰のことなのか。
 詳しい中身は、あえて伏せておきます。ぜひ本編でお確かめください。

 それでは、第55話をお楽しみください。




第55話 高くつく捕虜

 

 

 

 リーンホースの艦橋の正面に、連邦軍司令部の将校が映っていた。

 

『ムーン・ムーンへの調査団、ですか』

「そうだ。連邦の移転事業局が出したものだと聞いている」

 

 アークは、艦長席から身を乗り出した。

 

『少々、お待ちください』

 

 将校は、手元の端末に目を落とした。

 しばらく、指が画面の上を動いていた。

 

『……該当する調査団の、派遣記録はありません』

「もう一度、確かめてもらえるか」

『ムーン・ムーンへの調査団を送ったという記録は、どこにもありません』

 

 アークは、横の画面へ目をやった。

 そこには、ガレスから送られてきた記録が止めてある。

 港の前に浮かぶ、白い艦。そこに映っているのは、紛れもない連邦の艦であった。

 

「こちらには、連邦の艦が、ムーン・ムーンの港に着いている映像があるのだがね」

『それは、こちらでは分かりかねます』

 

 将校の顔は、少しも変わらなかった。

 

『記録にないものについて、お答えすることはできません。以上です』

 

 通信が、切れた。

 

「……記録がない、か」

「問い合わせ先を、変えてみますか」

 

 通信士が、振り返った。

 

「いや」

 

 アークは、暗くなった画面から目を離さなかった。

 

「このまま同じことをしても、たらい回しにされるだけだ」

 

 

     ◇

 

 

 作戦室の卓に、記録の映像が映し出されていた。

 

 フェニーチェは、その映像から目を離さずにいた。

 

「ずいぶん、熱心だな」

 

 入ってきたジュドが、後ろから画面をのぞき込んだ。

 

「朱麗の戦いっぷりなら、もう十回は見てるんじゃないか」

「残念ながら、私が見ているのは、朱麗さんではありません」

 

 フェニーチェは、映像を止めた。

 

「むしろ、敵方の連邦の方です」

 

 画面の中で、連邦のジェガンが、ジムの肩をつかんで壁へ叩きつけていた。

 ビームサーベルは、腰に下がったままだった。

 

「普通、コロニーの中では人命を優先させるものです。ですが、今回の連邦の動きは、明らかにコロニー内の破壊を極力避けています」

 

 ロロとジュドは、話の中身が分からないまま、ぽかんとフェニーチェの話を聞いていた。

 

「そのうえで、送ったはずのこの調査団を、なかったことにしています」

 

 作戦室の扉が開いて、アークが入ってきた。

 フェニーチェは立ち上がった。

 

「艦長。連邦は、ムーン・ムーンを欲しがっています。それも、できるだけ無傷のままで」

「……私も、同じことを考えていた」

 

 アークは、卓の前で足を止めた。

 

「古いコロニーだ。人も少ない。わざわざ手間をかけて、ごまかしてまで手に入れる理由が分からん」

「何かに、使うつもりなのでしょう」

「何かに、か」

 

 アークは、しばらく黙っていた。

 それから、低い声で言った。

 

「グラナダから、妙な話を聞いている」

 

 ロロが、顔を上げた。

 

「グラナダ?」

「月の工廠から、大型の反射鏡と発振器の部材が、どこかへ運び出されているそうだ。それも、一つや二つではない。行き先は、伏せられている」

 

 ロロの顔から、表情が消えた。

 

「反射鏡と、発振器……」

 

 ジュドが、ロロを見た。

 

「嬢ちゃん、それって」

「その大きさで、その数なら……コロニーレーザーの、部品だよ」

 

 作戦室の空気が、止まった。

 

 フェニーチェは、静かに卓の上の映像を見た。

 港の前に浮かぶ、古いコロニーの姿があった。

 

「古くても、まだ人が暮らせるほど頑丈なコロニー。壊れたものを直すより、ずっと早く、ずっと安く手に入る」

 

 誰も、口を挟まなかった。

 

「……もしかして、連邦はムーン・ムーンを、コロニーレーザーにするつもりなのでは」

 

 ジュドが、拳で卓を叩いた。

 

「ふざけんな! あそこには、朱麗も、村の連中もいるんだぞ!」

「だから、移転させるのです。住民を移してしまえば、残るのは、ただの筒です」

 

 ロロは、画面の中のコロニーを見ていた。

 自分が工場を建てた港が、そこに映っていた。

 

「……ブラッド・レイが、なくなったから」

 

 小さな声だった。

 

「代わりが、欲しいんだ」

 

 アークは、目を閉じた。

 

 

     *

 

 

 艦長室で、アークは一人、星図の前に立っていた。

 

 小惑星帯の一角に、二つの印が並んでいる。

 リーンホースと、シュウの艦隊。

 

 ムーン・ムーンは、星図の端にも映っていなかった。

 

「遠いな」

 

 つぶやいた声に、扉の方から答えが返った。

 

「ええ。今から戻っても、何か月もかかります」

 

 フェニーチェが、戸口に立っていた。

 

「そのうえ、私たちは、シュウとにらみ合っています。ここを離れれば、連邦は背を向けたと見るでしょう」

「分かっている」

 

 アークは、星図から目を離さなかった。

 

「命令は、シュウの討伐だ。それを放り出して、コロニー一つのために戻る理由を、どう説明する」

「説明は、いりません」

 

 アークが、振り返った。

 

 フェニーチェは、星図の前まで歩いてきた。

 二つの印のうち、シュウの艦隊の方を、指先で示した。

 

「一つ、策があります」

 

 

     *

 

 

 作戦室に、もう一度、皆が集められた。

 

「シュウと、手を組みます」

 

 フェニーチェの言葉に、ジュドが椅子から腰を浮かせた。

 

「は?」

「一時的な、停戦です」

 

 フェニーチェは、卓の上に星図を広げた。

 

「シュウの軍には、実際にブラッド・レイを止めた経緯があります。もしムーン・ムーンがコロニーレーザーになれば、一番危険だと考えるのは、まさに彼らでしょう」

「そりゃ、そうかもしれねえけどよ……」

 

 フェニーチェは、確信を持って言った。

 

「シュウは必ず、私たちとの一時的な停戦を認めるでしょう」

「なんで、そう言い切れる?」

「その条件の一つとして、今回、シンギュラリティ・ワンを使います」

 

 バナジが、ぎょっとして顔を上げた。

 

「……一体、どういうことですか?」

 

 フェニーチェは、優しくバナジに笑いかけた。

 

 

     ◇

 

 

 レビルの通信室に、呼び出しの音が鳴った。

 

「リーンホースから……?」

 

 通信士が、戸惑ったように振り返った。

 ちょうど通りかかったリディが、画面をのぞき込んだ。

 

「……つないでください。たぶん、俺に用があるはずです」

 

 画面に映ったのは、アークだった。

 

「久しぶりだな、リディ君」

「……艦長」

 

 リディは、苦笑いを浮かべた。

 

「怒ってますよね」

「その話は、あとだ。シュウに、取り次いでもらえないだろうか」

 

 アークの声は、静かだった。

 

「話がある。こちらから、そちらの艦へ出向く」

 

 

     *

 

 

 連絡艇が、レビルの格納庫へ滑り込んだ。

 

 艇の扉が開いた。

 

 降りてきたのは、三人だった。

 アークと、フェニーチェと、工具袋を抱えたロロだった。

 

 出迎えに立っていたリディが、ロロを見て目を丸くした。

 

「ロロさんまで……」

「えへへ。お邪魔します」

 

 ロロは、格納庫を見回した。

 五人の博士が、作業の手を止めて、こちらを見ていた。

 

「……あの機械の人たち、すごい顔でこっち見てる」

「気にしないでください。たぶん、あなたのことを知ってるんです」

 

 リディは、ロロへ手前の部屋を示した。

 

「ロロさんは、こちらでお待ちください」

 

 それから、アークとフェニーチェを奥へ案内した。

 

 

     ◇

 

 

 通された部屋には、男が一人、座っていた。

 

 深紅の軍服。

 卓の向こうで、指を組んでいる。

 その斜め後ろに、眼帯の女が立っていた。

 部屋の隅の壁には、男がもう一人、腕を組んで寄りかかっていた。

 

「アーク・ノア艦長だな」

 

 男が、口を開いた。

 

「わざわざ敵の艦まで、武器も持たずに乗り込んでくるくらいだ。よほど大事な用と見える」

「話がある」

 

 アークは、勧められた椅子に腰を下ろした。

 フェニーチェが、その隣に座る。

 

 シュウの目が、フェニーチェへ移った。

 

「……そちらは」

「リーンホースの参謀を務めております、フェニーチェと申します」

 

 シュウは、しばらく彼女を見ていた。

 

「金色の機体に、乗っていたな」

「はい」

「ああ、あの作戦を立案したのは君か」

「ええ。すべて、見ておりました」

 

 シュウの口元が、わずかに上がった。

 

「なるほど。俺を裏の出口へ追い込んだのは、君か」

「追い込んではおりません。出てきていただいただけです」

 

 ナナイの眉が、ぴくりと動いた。

 シュウは、声を出さずに笑った。

 

「話を聞こう」

 

 

     *

 

 

 フェニーチェは、順を追って話した。

 

 ムーン・ムーンに、連邦の調査団が来たこと。

 調査団の派遣が、なかったことにされたこと。

 月の工廠から、行き先の伏せられた部材が運び出されていること。

 

 そして、それが何の部材なのか。

 

「……コロニーレーザー、だと」

 

 シュウの声が、低くなった。

 

「ブラッド・レイを失ったばかりで、もう次か」

「そう考えています」

 

 シュウは、組んでいた指をほどいた。

 

 遠く離れた場所から、一方的に人の生き死にを決める光。

 あれを止めるために、この艦隊は宇宙へ上がったのだ。

 

「それで。連邦の艦長が、敵の俺に、何を頼みに来た」

「あなたたちと、一時休戦を申し込みたい」

 

 アークが答えた。

 

「そして、ともにムーン・ムーンへ向かってもらいたい」

 

 ナナイが、割って入った。

 

「何を言い出すんだ、貴様ら」

 

 シュウが、手でナナイを止めた。

 

「まあ待て、ナナイ。最後まで話を聞こうじゃないか」

「では、順にお話しします」

 

 フェニーチェが、口を開いた。

 

「連邦には、こう伝えます。フェネクスを捕らえる任務は、すでに終えた。危険なシンギュラリティ・ワンを解体するため、地球圏へ戻る。あわせて、捕らえたシュウの一味を、捕虜として引き渡す、と」

 

 シュウが、目を細めた。

 

「捕虜、か。そういえば、一度なったことがある」

 

 シュウは、ヤザンを見た。

 ヤザンが、にやけて手を挙げた。

 

 ナナイが、一歩前へ出た。

 

「話としては、筋が通っています。ですが、それだけでは、いつ裏切られるか分かりませんね」

 

 シュウは、背もたれに体を預けた。

 

「やってみるのも、やぶさかではないが」

 

 その先を、言わなかった。

 卓の上を、指で一度だけ叩く。

 

「そのことで、こちらが得られるものは何だ」

「三つ、ございます」

 

 フェニーチェは、すぐに答えた。

 

「一つ目。ムーン・ムーンの件が片づくまで、私自身が、人質としてこちらの艦に残ります」

 

 ナナイの目が、わずかに見開かれた。

 

 アークは、目を閉じたまま言った。

 

「……彼女を残しても、約束の責任は私にある」

 

 シュウの口元が、わずかに動いた。

 

「なるほど。それが保証というわけか」

 

 フェニーチェは、静かに続けた。

 

「二つ目。バンシィは、そちらにお譲りします。連邦には、解体して処分したと報告いたします」

 

 部屋の隅に控えていたリディが、顔を上げた。

 

「三つ目。バンシィをお譲りする以上、NT-Dの、システムの情報もお渡しします」

 

 シュウの指が、止まった。

 

 リディの頭の奥には、小惑星帯で、あの金色の光に呑まれかけた感覚が、まだ残っていた。

 

「……ほう」

 

 シュウの声に、ほんの少しだけ、色がついた。

 

「その情報は、誰が持っている」

「では」

 

 フェニーチェは、扉の方へ顔を向けた。

 

「ロロさんを、呼んでいただけますか」

 

 

     *

 

 

 扉が開いて、少女が入ってきた。

 

 片手に、タブレットを持っている。

 

「失礼しまーす。NT-Dのデータなら、ここに全部……」

 

 顔を上げたロロの足が、止まった。

 

 卓の向こうに、深紅の軍服の男が座っていた。

 見覚えのある顔だった。

 

「……シラカワ、先生?」

 

 シュウの目が、わずかに見開かれた。

 

「君は……」

 

 砂漠の街。油と金属の匂いのする修理屋。

 奥の作業場から顔を出した、作業着の娘。

 

「アルフレッドの店の」

「やっぱり先生だ! なんで先生がここにいるの!?」

 

 ロロは、懐かしい顔に会えた嬉しさで、前へ出てきた。

 

「しかも、その格好! 軍服みたいなの着て、こんな大きな艦の、一番奥に座ってて……」

 

 そこまで言って、ロロの口が止まった。

 ゆっくりと、アークを振り返る。

 

「……艦長。もしかして、シュウって」

「そうだ」

「先生が、シュウ?」

「そうだ」

 

 ロロは、もう一度シュウを見た。

 それから、口を開けたまま固まった。

 

 リディが、横を向いて口を押さえていた。

 

「……知り合いだったんですか」

「知り合いっていうか……先生だよ! 街の!」

 

 ロロの声が、部屋に響いた。

 

 その間、ナナイは何も言わなかった。

 

「……ナナイ」

 

 シュウに呼ばれて、ようやく顔を上げる。

 

「はい」

 

 返事が、一拍遅れた。

 

 ナナイは、少女へ軽く頭を下げた。

 ナナイは、焦っていた。

 あの時の少女は、村へ預けてきたはずだった。それなのに、なぜ、ここにいるのか。

 ある意味、運命のようなものを感じて、ナナイは恐怖した。

 

 シュウは、少女の顔を見ていた。

 

 ふくれた頬。よく動く目。

 タブレットを持つ腕の、細さ。

 

 話し方も、口にすることも、ミリアではない。

 それに、ミリアは死んだはずだ。

 だが、横に立つ少女は、まさにミリアであった。

 

 シュウは、目を逸らした。

 

「……データを、見せてもらおう」

「あ、うん! じゃなくて、はい!」

 

 ロロは、慌ててタブレットを卓の上に置き、画面を開いた。

 

 ナナイが、シュウを見た。

 いつもなら、何か言うはずだった。

 

 ナナイは、何も言わなかった。

 ただ、手元の通信機を取り、短く告げた。

 

「格納庫の博士たちを、こちらへ。見てもらいたいものがあります」

 

 

     *

 

 

 五人の博士は、すぐにやってきた。

 

 ゴーグルを額に上げた長い髪の男が、まず画面をのぞきこんだ。

 その後ろから、前髪で目の隠れた男、眼鏡の男、ネクタイを締めた男、頭を剃り上げた男が、順に身を乗り出した。

 

「どれどれ」

 

 ヨハネスが、画面を指でたどっていく。

 ほかの四人も、それぞれ別の図を開いて、黙りこんだ。

 

 しばらく、誰も口をきかなかった。

 

「……本物だな」

 

 最初に言ったのは、ヨハネスだった。

 

「反応の記録だけじゃない。どういう順番で制御しているのかまで、ちゃんと解いてある」

「俺たちが、まだ手をつけていないところまでな」

 

 眼鏡の男が、画面から目を離さずに言った。

 ネクタイの男は、にこにこしたままロロを見た。

 

「これを、君が一人で?」

「え、うん……。ユニコーンを組み直すときに、ついでに」

「ついで、か」

 

 頭を剃り上げた男が、口ひげの下で小さく笑った。

 

 ヨハネスは、シュウへ向き直った。

 

「シュウ。これは、使える」

 

 ナナイは、黙ってそれを聞いていた。

 

 シュウは、それを見ていた。

 しばらくして、背もたれから体を起こした。

 

「アーク艦長」

「何だ」

「その話、乗ろう」

 

 シュウは、フェニーチェへ目を向けた。

 

「……捕らえたことにしてやる、か」

 

 口元に、笑みが浮かんだ。

 

「随分と、高くつく捕虜だな」

 

 シュウは、普段は見せない優しい目で、ロロを見守っていた。

 ナナイは、ただそれを見ていることしかできなかった。

 

 

                          (つづく)





 第55話「高くつく捕虜」、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 まずは、連邦司令部とのやりとりから。
 「ムーン・ムーンへの調査団を送ったという記録は、どこにもありません」
 連邦の印をつけた艦が、はっきり映っているのに、です。アークのほうが格上の相手でも、将校は丁寧な言葉のまま、門前払いを続けました。
 「このまま同じことをしても、たらい回しにされるだけだ」
 何かが隠されている。アークがそう感じた瞬間でした。

 作戦室では、フェニーチェが一人、映像を見つめていました。
 「残念ながら、私が見ているのは、朱麗さんではありません」
 「むしろ、敵方の連邦の方です」
 人には遠慮しないのに、コロニーそのものは壊さないように動いている。小さな違和感を拾い上げるのは、さすが孔明役といったところです。

 そこへ、アークがグラナダから聞いた話が重なります。
 「その大きさで、その数なら……コロニーレーザーの、部品だよ」
 技術屋のロロだからこそ、すぐに分かってしまった答えでした。
 「……ブラッド・レイが、なくなったから。代わりが、欲しいんだ」
 自分が工場を建てた港を見つめながらの、小さなつぶやき。ロロにとって、ムーン・ムーンはもう他人事ではありません。

 とはいえ、ムーン・ムーンは遠く、目の前にはシュウの艦隊がいます。
 星図の端にも映らないほど遠い場所を前に、アークは悩みました。
 そこでフェニーチェが出したのが、「シュウと、手を組む」という策です。
 「その条件の一つとして、今回、シンギュラリティ・ワンを使います」
 ぎょっとしたバナジに、フェニーチェはただ優しく笑いかけるだけでした。

 そして、敵の艦ゼネラル・レビルへ。
 「わざわざ敵の艦まで、武器も持たずに乗り込んでくるくらいだ。よほど大事な用と見える」
 頼む側が、こちらから出向く。それが、アークの示した誠意でした。

 53話でシュウをはめたフェニーチェとの、初めての顔合わせ。
 「なるほど。俺を裏の出口へ追い込んだのは、君か」
 「追い込んではおりません。出てきていただいただけです」
 この掛け合いは、書いていて一番楽しかったところです。

 フェニーチェが示した条件は、三つでした。
 自分自身が人質として残ること。バンシィを譲ること。そして、NT-Dの情報を渡すこと。
 「……彼女を残しても、約束の責任は私にある」
 「なるほど。それが保証というわけか」
 人質は、シュウが安心して共闘に乗れるよう、フェニーチェが自分で用意してきた条件でした。連邦に「捕虜を引き渡せ」と言われても、リーンホースの参謀がシュウの手元にいる。そこまで読んだうえでの一手です。
 ちなみに、シュウの「捕虜、か。そういえば、一度なったことがある」で、にやけて手を挙げたヤザン。第5話でシュウを捕まえて取り調べたのは、ほかでもない彼でした。覚えていた方は、にやりとしていただけたでしょうか。

 そして、NT-Dの情報を持っている人物として呼ばれたのが、ロロでした。
 「……シラカワ、先生?」
 第1話の砂漠の街で、ロロが知っていたのは「先生」としてのシュウです。今まで追いかけてきた敵の大将が、あの先生だった。ロロにとっては、それが何よりの驚きでした。

 けれど、本当に揺れていたのは、ロロを迎えた側の二人です。
 ナナイは、焦っていました。なぜ、この少女がここにいるのか。
 シュウは、目の前の少女から目を離せませんでした。
 「だが、横に立つ少女は、まさにミリアであった」
 同じ少女を見ていても、知っている者と、知らない者とでは、映るものがまったく違います。

 博士たちが「本物だ」と認めたあと、シュウは手を組むことを決めました。
 「……捕らえたことにしてやる、か」
 「随分と、高くつく捕虜だな」
 書類の上で捕虜になるのは、シュウたち。本当に人質として残るのは、フェニーチェ。題名の「高くつく捕虜」には、その両方を込めています。

 最後に、普段は見せない優しい目でロロを見守るシュウと、それをただ見ているしかないナナイ。
 敵同士が手を組んだ回でありながら、三人の過去が、少しだけにじんだ回にもなりました。

 次回も、どうぞよろしくお願いいたします。
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