第59話「光る腕」をお届けします。
前回は、連邦の新しい顔ぶれが一度に登場しました。そして、トールギスに乗ったあの男。「小生」の一言で、誰の血筋か気づいてくださった方も多かったようで、とても嬉しかったです。
今回は、ムーン・ムーンの朱麗たちの番です。
「俺たちが行く」と立ち上がった朱麗と、ムーン・ムーンの仲間たち。
彼らの出撃を、どうか最後まで見届けてください。
詳しい中身は、あえて伏せておきます。
それでは、第59話をお楽しみください。
ムーン・ムーンの格納庫に、夜の明かりがともっていた。
台車の上に、四つの金属の箱が並んでいる。
モンドが、その一つに手を置いた。
「中身は、工事で使ってた発破用の爆薬だ。全部まとめりゃ、送電の設備くらいは吹き飛ぶ」
「外側は?」
「岩のかけらを貼りつけてある。遠くから見りゃ、ただのごみだよ」
ビーチャが、箱を軽く叩いた。
「宇宙のごみに化けて、ごみみたいに流れて近づく。かっこ悪いけど、確実だな」
「かっこ悪いは余計よ」
エルが、ビーチャの腕をつねった。
サルガが、星図を広げた。
隣の古いコロニーの外側に、送電の設備が並んでいる。シュウたちが送ってきた記録に、はっきり映っていたものだった。
「狙うのは、ここだ。レーザーそのものは、外からでは壊せん。だが、電気が届かなければ撃てない」
「爆薬を仕掛けるまで、守りに見つからなければ、だけどな」
「見つかったら、俺が引き受ける」
朱麗が言った。
ムーンライトガンダムの足もとで、ロロが最後の点検をしていた。
工具を片づけると、朱麗を見上げる。
「腕も脚も、ばっちり! 今度も、腕が何本にも見えるやつ、見せてよね」
「ああ」
「帰ってきたら、記録、全部見せてもらうからね!」
ロロは、得意げに胸を張った。
朱麗は、その頭に軽く手を置いて、操縦席へ上がっていった。
格納庫の入り口に、セラが立っていた。
「必ず戻ってきてください」と言った人は、今は何も言わなかった。
ただ、朱麗の乗った操縦席を、まっすぐに見上げていた。
『師匠。セラさん、眠れていないみたいです』
――分かっている。だから、帰る。
ドモンは、操縦席の扉を閉めた。
格納庫の隅では、ジュドが腕を組んで、その背中をにらんでいた。
「艦長の許しが出りゃあ、俺だってすぐに行くってのによ」
「やめておけ、ジュド」
カミュが、静かに言った。
「艦長が、上に話を通している。許しが出るまで待て」
「分かってるよ。分かってるから、腹が立つんだ」
ジュドは、壁を拳で一度だけ叩いた。
カミュは何も言わず、出ていく五機を見送っていた。
◇
暗い宙域を、岩のかけらがいくつも流れていた。
そのうちの五つだけが、ほんの少しずつ、隣のコロニーへ近づいている。
岩の陰に、五機のモビルスーツが身を縮めていた。
「噴射は、まだ使うな。流れに任せろ」
サルガの声が、近距離の回線から届いた。
「……分かってるって。息まで止めたくなるな」
ビーチャが、小声で返した。
操縦席の中で、朱麗はじっと前を見ていた。
立体映像のハロが、膝の上で耳をぱたぱたさせている。
「ハロ、静かにしていろ」
「ハロ、シズカ! ハロ、シズカ!」
「……それが静かなのか」
『師匠、ハロに言っても無理ですよ』
内側の朱麗の声に、ドモンは心の中で答えた。
――分かっている。
コロニーの外壁が、近づいてきた。
足場が組まれ、その奥に、巨大な装置の影が見える。
外側には、太い管が何本も伸び、四角い設備へつながっていた。
送電の設備だった。
その周りを、連邦のジェガンが何機も巡回している。
シュウたちが攻め込んだときの記録より、ずっと数が多かった。
「……増えてるわね」
エルが、つぶやいた。
画面の上で、巡回の機体の数を指で数えている。
「十二、十三……まだ奥にもいる」
「数えるな。数えたら、怖くなる」
ビーチャの声も、いつもより小さかった。
「一度攻められたあとだ。当然だろう」
サルガは、巡回の間を読んでいた。
ジェガンが背を向ける、その一瞬。
「今だ。モンド、行け」
「おう」
モンドの機体が、岩の陰から滑り出た。
爆薬の箱を抱え、送電の設備の裏側へ回り込んでいく。
一つ目の箱が、管の根もとに取りつけられた。
二つ目。
三つ目を抱えたところで、巡回のジェガンが、ふいに向きを変えた。
「何だ、今の岩は」
ライトが、モンドの機体を照らした。
「敵だ! 設備に取りついている!」
警報が、宙域に響き渡った。
*
コロニーから少し離れた宙域に、一隻の艦が浮かんでいた。
赤と砂色の船体。
艦首から長く伸びた甲板。
上へ持ち上がった、変わった形の艦橋。
リュー・ブー艦だった。
その格納庫には、形も年代もばらばらのモビルスーツが、ずらりと並んでいた。
どれも磨き上げられ、まるで宝物のように飾られている。
その真ん中で、一人の男が、警報を聞いて顔を上げた。
「ほう。また客か」
ギンガナムは、手元の画面を開いた。
監視の映像に、岩の陰から飛び出したガンダムが映っている。
ギンガナムの口元が、大きくゆがんだ。
「あれは……あの港で、連邦の機体を四機まとめて叩き伏せたというガンダムではないか」
前に見た記録を、ギンガナムは覚えていた。
腕が何本にも見えた、と連邦の兵が叫んでいた機体。
「面白い。実に面白い客が来た!」
ギンガナムは、周りの整備兵たちに声を上げて指示を出した。
「トールギスを出せ!」
*
警報が鳴ると同時に、サルガが叫んだ。
「ビーチャ、エル! モンドを守れ!」
三機が岩の陰から飛び出し、ジェガンの群れへ突っ込んだ。
「数が多すぎるって!」
「泣き言はあとよ!」
その中に、肩に装甲を増やしたジェガンが一機いた。
その一機の指示で、ほかのジェガンたちが、まるで糸でつながったように動く。
「三番、四番、上を押さえろ。設備には撃たせるな」
ボッシュの声だった。
サルガたちは、たちまち押し返されていった。
朱麗は、モンドの前へ出た。
向かってくるジェガンの銃を蹴り上げ、その胴を拳で突く。
一機、また一機と、敵の機体が弾き飛ばされていく。
だが、倒しても倒しても、次のジェガンが穴を埋めに来る。
指揮官機の声が届くたびに、隙間が閉じていった。
「モンド、急げ!」
「あと一つだ!」
そのとき、宙域の向こうで、光が弾けた。
『右から、来ます!』
内側の朱麗が叫んだ。
ドモンにも見えていた。
まっすぐこちらへ向かってくる、一機の機体。
トールギスだった。
「ふはははは! 見つけたぞ、拳のガンダム!」
広域の回線に、高笑いが響いた。
ジェガンたちの後ろから、二機の機体が前へ出ようとした。
大きな砲を抱えたガンダムと、上下に分かれる機体。
「待っていたぞ、ネズミども!」
「ホア・シオン。少しは落ち着いたらどうだ」
「二人とも、下がっておれ!」
ギンガナムの声が、二人をさえぎった。
「こいつは、小生の獲物だ。手を出すな」
「なんだと、新参者が偉そうに!」
「……好きにさせておけ、ホア・シオン。どうせ、提督のお気に入りだ」
フー・ヂェンが、冷たく言い捨てて下がった。
ホア・シオンも、舌打ちをしながら砲を下ろした。
*
トールギスが、来た。
推進器が開き、白い光が尾を引く。
次の瞬間には、もう目の前にいた。
ドモンは、下がらなかった。
振り下ろされるサーベルの内側へ、半歩踏み込む。
刃が肩の上を抜けていくのと同時に、ムーンライトの膝が、トールギスの胴を突き上げた。
鈍い音が、機体を震わせた。
「ぬうっ!」
トールギスが、弾かれたように後ろへ流れた。
『左から、回り込みます!』
――ああ。
ドモンは、振り向きざまに蹴りを放った。
回り込んできたトールギスの盾に、まともに入る。
盾ごと押し返されたトールギスが、宙で体勢を立て直した。
「ふははははっ!」
ギンガナムの笑い声が、回線いっぱいに響いた。
「良いぞ、拳のガンダム! 記録で見た以上だ! 連邦の雑兵どもが、腕が何本にも見えたと泣き言を言ったのも、うなずける!」
「笑っていられるのも、今のうちだ」
「なんの! これほど楽しい相手は、久しぶりよ!」
トールギスが、また加速した。
二機は、壊れた足場の間を縫うように、何度もぶつかり合った。
サーベルの光を、ムーンライトの拳が横から払う。
拳の届く間合いに入る前に、トールギスが加速で距離を取る。
離れたと思えば、また光の尾を引いて飛び込んでくる。
『師匠、上です!』
頭上から落ちてくる刃を、ドモンは腕の装甲で受け流した。
そのまま相手の手首をつかもうとする。
トールギスは、つかまれる寸前で推進器を吹かし、手の中から逃れていった。
「速いな」
ドモンは、短く息を吐いた。
――だが、捉えられない速さじゃない。
トールギスが、四度目の踏み込みに入る。
ドモンは、よけなかった。
逆に、前へ出た。
左手が、トールギスの盾の縁をつかんだ。
機体と機体が、がっちりと組み合う。
接触した装甲を伝って、回線がつながった。
「ハロ!」
「シャイニングフィンガーモード、ハツレイ! オンセイパスワード、ドウゾ!」
ムーンライトの右手が、光り始めた。
「俺のこの手が光って唸る!! お前を倒せと、輝き叫ぶっ!!」
接触回線の向こうで、ギンガナムが息をのんだ。
「ほう……その手で、小生をつかむつもりだったか」
「シャイニング、フィンガーッ!!」
光る右手が、トールギスの頭をつかんだ。
次の瞬間、トールギスの背中の推進器が、爆発したように火を噴いた。
盾をつかんでいた左手が、力ずくで振りほどかれる。
つかんでいたはずの頭が、光る右手の中から消えた。
そのときには、もう、トールギスのサーベルが下から上へ走っていた。
光る右腕が、肩の付け根から斬り飛ばされた。
『師匠ッ!』
右腕は、まだかすかに光を残したまま、くるくると宙を舞った。
トールギスの手が、それをつかんだ。
「ほう、これがあの何本にも見えた腕か。……興味深い」
ギンガナムは、手の中の右腕を、宝物でも見るように眺めた。
「小生の蔵に、並べるとしよう」
そして、サーベルの切っ先が、ムーンライトの操縦席へ向いた。
右腕を失った勢いで、ムーンライトの姿勢が大きく崩れていた。
立て直すより先に、刃がそこにあった。
サーベルの光が、ゆっくりと操縦席へ近づいてくる。
*
「朱麗が、やられた!」
ビーチャの叫びが、回線に響いた。
サルガは、ジェガンを押し返しながら、ムーンライトの姿を見た。
右腕がない。
動きが、止まっている。
その操縦席に、光の刃が向いていた。
「モンド! 爆薬は!」
「三つは仕掛けた! でも、まだ設備の真ん中じゃねえ!」
「かまわん、今すぐ使え!」
モンドが、一瞬だけ迷った。
ここまで運んできた爆薬だった。
本当なら、送電の設備を丸ごと吹き飛ばすはずだった。
「……ちくしょう!」
モンドが、起爆の合図を送った。
*
奪った右腕を抱えたまま、トールギスの盾が、ムーンライトの胸に押し当てられた。
装甲と装甲が触れ合い、接触回線がつながった。
「どうだ、そこのガンダムのパイロット」
ギンガナムの声は、驚くほど穏やかだった。
「素直に操縦席から抜け出してもらえれば、この機体を傷つけずに手に入れることができる。そこもとの命までは取らん」
サーベルの光が、操縦席の扉のすぐ前で揺れている。
「どうか、小生のコレクションに加えさせてくれぬか。出てきてはもらえぬか」
「何を……!」
ドモンは、歯を食いしばった。
『師匠……』
――誰が、渡すか。
光の刃が、操縦席の扉に触れた。
装甲が焼け、焦げた線が一本、走った。
そこで、刃が止まった。
「……ふむ。断るか」
ギンガナムは、怒るどころか、楽しそうに笑った。
「それもまた良し。ならば、次は、その手を――」
ギンガナムの声は、最後まで続かなかった。
送電の設備の裏側で、閃光が弾けた。
足場が砕け、管がちぎれ、資材が四方へ吹き飛んでいく。
飛び散った破片と煙が、二機の間をなだれのように埋め尽くした。
ジェガンたちの照準が、一斉に乱れた。
「今だ!」
サルガの機体が、煙の中へ飛び込んだ。
動かないムーンライトの胴を抱えるようにつかみ、そのまま引っぱり出す。
「朱麗、聞こえるか! 返事をしろ!」
「……聞こえている」
かすれた声が返ってきた。
サルガは、それだけで十分だった。
「ロロが作った機体だ。置いて帰れるか」
「エル、ビーチャ、後ろを見ていろ!」
「分かってる!」
五機は、煙と破片の中を、ムーン・ムーンの方角へ全速で逃げていった。
*
トールギスの操縦席に、通信が入った。
「ギンガナム殿。逃げていきます。追いますか」
ギンガナムは、煙の向こうへ消えていく機体の光を見ていた。
手の中には、まだ、あの右腕があった。
「よい」
ギンガナムは、笑った。
「……あの手を、もう一度見たい」
光が消えた右手を、ゆっくりと持ち上げる。
「シャイニングフィンガー……覚えておこう」
言いかけて途切れた言葉を、ギンガナムは通信を切った操縦席でつぶやいた。
「次は、その手を、小生に届かせてみせろ」
◇
連邦の旗艦の、奥の一室で、一人の男が報告を受けていた。
軍服ではなく、地味な背広を着ている。
「接続試験を中断しています。送電の設備が一部壊され、復旧が必要です」
「なら、先にできる工程を進めなさい」
男は、報告書から目を上げなかった。
「ですが、最終試験は復旧後になります」
「承知しています。待たせる作業を減らしなさい」
補佐官、リー・ルー。
部屋を出ていく部下の背中を見送ることもなく、リー・ルーは次の書類をめくった。
◇
ムーン・ムーンの港に、五機が戻ってきた。
先頭は、サルガの機体だった。
その腕の中に、右腕のないムーンライトガンダムが抱えられていた。
ロロが、港の床を蹴って走った。
「朱麗!」
工具も持たずに、ムーンライトの足もとへ駆け寄る。
イーノとラセルが、慌てて足場を寄せた。
ロロは、足場を駆け上がり、操縦席の扉を叩いた。
「朱麗! 朱麗、聞こえる!?」
焦げた扉が、きしみながら開いた。
中から、朱麗が這い出してきた。
額から血を流していたが、自分の足で立った。
「……戻った」
ロロは、何か言おうとした。
言葉が、出てこなかった。
代わりに、朱麗の胸を、両手で一度だけ叩いた。
「……ばか」
声が、震えていた。
セラが、港の入り口に立っていた。
両手を胸の前で握りしめたまま、動けずにいた。
朱麗がそちらを見ると、セラは、やっと一歩だけ前へ出た。
朱麗は、ムーンライトガンダムを見上げた。
機体の右腕は、もうない。
操縦席の扉には、焦げた線が一本、残っていた。
「すまない、ロロ」
朱麗は、ロロへ向き直った。
「こんなふうに、してしまって」
ロロは、首を横に振った。
声には、ならなかった。
港の奥から、ジュドが走ってきた。
右腕のないムーンライトを見上げて、足を止める。
「……ちくしょう。俺が行ってりゃ」
朱麗は、首を振った。
「……お前が来なかったせいじゃない」
ジュドは、何も言い返せなかった。
◇
その夜。
格納庫には、ロロ一人だけが残っていた。
右腕のないムーンライトガンダムを見上げる。
昼間は、朱麗が帰ってきたことだけで、胸がいっぱいだった。
ロロは、足場を上り、操縦席の扉の前に立った。
焦げた線が、一本、走っていた。
指で、なぞってみる。
線は、扉の装甲を斜めに焼いて、朱麗が立っていた場所のすぐ手前で止まっていた。
ロロの指が、止まった。
あと、ほんの少し。
ほんの少し、刃が深く入っていたら。
「……あ」
ロロは、その場に座り込んだ。
自分の作った機体だった。
朱麗の速さに応えられるように、作ったつもりだった。
それなのに、この機体は、朱麗を守れなかった。
膝を抱えて、しばらく動けなかった。
やがて、ロロは顔を上げた。
目をこすって、立ち上がる。
工具箱を引き寄せ、ふたを開けた。
「……もう、こんなふうには帰ってこさせない」
夜の格納庫に、工具の音が響き始めた。
(つづく)
第59話「光る腕」、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、朱麗の初めての大きな敗北の回でした。
出撃前のロロは、いつもどおりでした。
「腕も脚も、ばっちり! 今度も、腕が何本にも見えるやつ、見せてよね」
54話の記録を何度も見て胸を張っていたロロにとって、ムーンライトガンダムが負けるなんて、考えもしなかったはずです。だからこそ、この明るさを最初に置きました。
作戦は、岩のかけらに化けて流れに乗り、こっそり近づくというもの。
狙いはレーザーそのものではなく、電気を送る設備でした。
「数えるな。数えたら、怖くなる」
ビーチャたちの小さな声に、ムーン・ムーンの仲間たちの緊張を込めました。
そして、リュー・ブー艦。
形も年代もばらばらのモビルスーツが、宝物のように並ぶ格納庫。ギンガナムの「蔵」です。
赤と砂色の船体、持ち上がった艦橋。『∀ガンダム』をご覧になっていた方は、この艦の姿に見覚えがありませんか。遠い未来、この艦は土の中から掘り出され、別の名前で呼ばれることになります。それがどの艦なのかは、皆さんのご想像にお任せします。
朱麗とギンガナムの一騎打ち。
「良いぞ、拳のガンダム! 記録で見た以上だ!」
ムーンライトガンダムは、今持てる力をすべて出して戦いました。膝も、蹴りも、ちゃんと届いていた。そして、光る右手は、確かにトールギスの頭をつかみました。
それでも、届かなかった。
「ほう……その手で、小生をつかむつもりだったか」
「シャイニングフィンガー……覚えておこう」
ギンガナムは、勝った相手の技に、すっかり心を奪われてしまいました。∀を知っている方には、この一言の意味が、きっと伝わると信じています。
奪った右腕を抱えて、「小生のコレクションに加えさせてくれぬか」。
命は取らないから、機体を置いて降りてこい。収集家らしい、とんでもない頼みごとです。
「何を……!」
――誰が、渡すか。
断った朱麗に残されたのが、操縦席の扉の、焦げた一本の線でした。
朱麗を救ったのは、仲間たちでした。
本当は送電の設備を吹き飛ばすはずだった爆薬を、モンドは「……ちくしょう!」と、逃げるために使いました。
「ロロが作った機体だ。置いて帰れるか」
サルガの不器用な一言に、どんな気持ちが混じっていたのか。それは、サルガ本人にしか分かりません。
そして、リー・ルー補佐官が初めて顔を見せました。
「承知しています。待たせる作業を減らしなさい」
モンドたちの爆発は、確かに工事を止めました。けれど、その損を淡々と縮めにかかる男がいる。前線には出てこない、静かな怖さを持つ人物です。
港に戻った朱麗は、ロロに頭を下げました。
「すまない、ロロ。こんなふうに、してしまって」
言い訳はしない。壊した機体のことで、作った人に謝る。朱麗らしい負け方だったと思います。
最後は、夜の格納庫のロロ。
昼間は、朱麗が帰ってきたことだけで胸がいっぱいでした。焦げた線が、朱麗の立っていた場所のすぐ手前で止まっていたことに気づいたのは、一人になってからでした。
「……もう、こんなふうには帰ってこさせない」
ここから、ロロの長い夜が始まります。
次回も、どうぞよろしくお願いいたします。