GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

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 いつも『GUNDAM TRIANGLE』をお読みいただき、本当にありがとうございます。

 第61話「父の声」をお届けします。

 前回は、黄金に輝くムーンライトガンダムと、ゴッドフィンガー、石破天驚拳、そしてバタフライモード。朱麗のリベンジを最後まで見届けてくださった皆さん、本当にありがとうございました。たくさんの感想もいただき、とても励みになりました。

 大きな戦いが終わりました。
 今回は、その戦いのあとのお話です。
 勝った者、守れた者、そして、別のものを受け取る者。

 詳しい中身は、あえて伏せておきます。
 それでは、第61話をお楽しみください。



第61話 父の声

 

 

 

 レビルの窓から、光の羽が消えていくのが見えた。

 大きな破片は、もう飛んでこなかった。

 

「先生! バタフライモード、ちゃんと動きました!?」

 

 ロロが、シュウを見上げた。

 シュウの手は、まだ少女の肩にあった。

 

「……ああ。見事なものだった」

「よかったあ。ぶっつけ本番だったから、心配で」

 

 ロロは、大きく息を吐いた。

 それから、自分の肩を見た。

 肩に置かれた手を見て、ようやく男との距離に気づいた。

 

「……あの、先生?」

 

 シュウは、静かに手を離した。

 

「すまんな。助けてもらった礼を、言っていなかった」

「助けた?」

 

 ロロは首をかしげた。

 胸のペンダントには、もう赤い光はなかった。

 

「僕、格納庫にいたはずなんですけど……」

 

 シュウは、少女を見ていた。

 さっきまで泣きながら自分にしがみついていた顔が、今は、本当に分からないという顔をしている。

 

 廊下から、大きな足音が近づいた。

 

「いたいた。嬢ちゃん、迎えに来たぜ!」

 

 ジュドだった。

 扉の前で二人を見つけると、にやりと笑った。

 

「おいおい。嬢ちゃんまで捕虜にすんじゃねえぞ」

「帰りの足なら、用意するつもりだったが」

「だったら借りる。こっちも、帰って修理しねえとな」

 

 ジュドの袖は、肘のところが擦り切れていた。

 ロロが、すぐに手を伸ばす。

 

「ジュド、けがしたの?」

「俺じゃねえ。炎虎の肩だよ。あいつら、遠慮なく削りやがって」

「肩? どっちの?」

「帰ってから、見せてやるって」

 

 ジュドは、ロロの顔をのぞきこんだ。

 

「そんなことより、ロロ。お前、泣いてたのか?」

「ん? いや、泣いてないよ。なんで?」

「目、赤いぞ。腫れてるじゃねえか」

「え、そうなの?」

 

 ロロは、そっと目の下へ指を当てた。

 

 シュウは、二人のやり取りを黙って聞いていた。

 

 ロロは、扉の脇の通信機で、ムーン・ムーンへ連絡を入れていた。

 シュウは、少し声を落としてジュドへ聞いた。

 

「あの娘は、昔から機械いじりを?」

「ああ。会ったときから、油まみれだったぜ。機械となりゃ、飯も忘れるんだから」

「そうか」

「力仕事は、俺の役目だけどな。本人に運ばせたら、部品ごとひっくり返っちまう」

 

 ジュドは、自分の腕をひとつたたいた。

 シュウの目が、その腕へ向いた。

 

「……なるほど」

 

 それ以上は、聞かなかった。

 

 連絡を終えたロロが、ジュドの横へ並ぶ。

 片目をこすり、眠そうにまばたきをした。

 

「ほら、行くぞ」

「あ、先生。それじゃ、また!」

 

 ロロは振り返って、手を振った。

 シュウも、軽く手を上げた。

 

 ジュドは少女の歩幅に合わせて、廊下へ出た。

 二人の声が、遠ざかっていく。

 

「嬢ちゃん、今度の非常ボタンは、自爆じゃねえんだな」

「今度のって、何!」

「いや。聞いただけだって」

 

 シュウは、口もとをわずかに緩めた。

 

 

     *

 

 

 格納庫の扉が閉じ、連絡艇が離れていった。

 シュウの隣に、ナナイが立っていた。

 

「あの子は、生きていたな」

「……はい」

「さっきまでシュウ兄と呼んでいた。それが、急に先生だ」

 

 シュウは、自分の手を見下ろした。

 抱きとめた少女の重さが、まだ残っていた。

 

「不思議なことも、あるものだな」

「……ええ。本当に」

 

 ナナイの目は、連絡艇が消えた扉へ向いていた。

 シュウは、その横顔を一度見た。

 やがて、艦内へ歩き出す。

 

「戻ろう。こちらも、傷ついた機体が待っている」

 

 ナナイはうなずき、半歩後ろへ続いた。

 

 

     ◇

 

 

 ムーン・ムーンの港で、ムーンライトガンダムが膝をついた。

 

 操縦席の扉が開く。

 朱麗は自分の手で縁をつかみ、足場へ降りた。

 

 足場の下で、セラが待っていた。

 朱麗が最後の段を降りると、セラは駆け寄ってきた。

 両手が、袖をつかむ。

 出撃の前に、つかみかけてやめた袖だった。

 

「……戻った」

「はい」

 

 それだけ答えても、セラの指は離れなかった。

 朱麗は、その手に自分の手を重ねた。

 

 港の奥で、拍手が起きた。

 港で待っていたサルガたちが、駆け寄ってくる。

 モンドが機体から降りると、ビーチャとエルが迎えた。

 ガレスたちが走り寄り、肩をたたき合う。

 

「おい、モンド。乗せた客の分、重かったんじゃねえか」

「操縦席が狭くて、たまらなかったよ」

 

 モンドが背中を伸ばすと、ビーチャが笑った。

 

 朱麗も、ようやく息を吐いた。

 内側で、朱麗の声がした。

 

『師匠。帰ってきましたね』

――ああ。

 

 セラは、朱麗の顔を見上げた。

 

「今日は、もう休んでいただきます」

「……そのつもりだ」

 

 そこへ、連絡艇の扉が開いた。

 ロロが飛び降り、その後ろからジュドも降りてくる。

 

「朱麗!」

 

 ロロは駆けてきて、顔を見た。

 額の傷を見て、次に手足を確かめた。

 

「……ちゃんと、帰ってきたね」

「おかげでな」

 

 ロロの目が、ムーンライトの背中へ移った。

 

「あの羽、補充しないと、もう使えないからね」

「そう何度も、頼るつもりはない」

「でも、困ったら言ってよ。帰ってくるために、付けたんだから」

 

 セラの指が、朱麗の袖を握り直した。

 ロロは、それを見て笑った。

 

「じゃあ、点検は明日。今日は、寝る!」

「お前が、一番寝てねえだろ」

 

 ジュドの言葉に、ロロは答えようとした。

 けれど、そのまま、こてんとジュドの腕にもたれた。

 

「おい、嬢ちゃん?」

 

 慌てて支えたときには、もう小さな寝息を立てていた。

 

 

     ◇

 

 

 ドン・ズーオの前で、画面が開いた。

 白髪の将官が、こちらを見ていた。

 

『ボッシュから、報告を受けた』

 

 ベントン元帥の声は、低かった。

 

『私の部隊が射線にいると、何度も伝えたそうだな』

「緊急の事態だった。君も、現場の混乱は理解できよう」

『発射には、こちらの承認が要る。そういう取り決めだったはずだ』

 

 ドン・ズーオは、椅子の背へ体を預けた。

 

「君の承認を待つあいだに、敵を逃がすわけにはいかなかった」

『味方まで焼いてか』

 

 卓の端で、リー・ルーが書類を閉じた。

 ドン・ズーオは、その手元へ目をやった。

 

「……結局、撃たれてはおらん」

『止めたのは、君ではない』

 

 ベントンは、机の上から一枚の命令書を取った。

 

『警備艦隊を引き揚げる。以後、私の部隊を君の指揮には置かん』

「待て。まだ設備の回収がある」

『そちらの部隊で、なさるがよい』

 

 通信が切れた。

 

 窓の外で、艦列が向きを変えていた。

 ボッシュの部隊を収容した艦も、その列に加わっていく。

 裂けたコロニーの周囲に、広い空白ができた。

 

 ドン・ズーオが、机をたたいた。

 

「今になって、責任をよけおって」

 

 リー・ルーは、答えなかった。

 扉の前の兵が、ためらいがちに報告する。

 

「リュー・ブー=ギンガナム殿が、お見えです」

 

 リー・ルーは、また一つ増えた厄介事に、こめかみを押さえた。

 

 返事を待たずに、扉が開いた。

 

「いやあ、見事な戦いであった!」

 

 ギンガナムが、大股で入ってきた。

 ドン・ズーオの顔を見て、足を止める。

 

「さて。小生の蔵を焼こうとした件、まだ説明を聞いておらぬぞ」

 

 口もとは笑っていた。

 ドン・ズーオは、その目を見た。

 

「あれは――」

「通信の乱れでした。ご無礼をお詫びします」

 

 リー・ルーが、横から言った。

 ギンガナムは、その方へ顔を向けた。

 

「通信が乱れると、小生の艦に砲口が向くのか?」

 

 リー・ルーは答えず、卓へ資料を置いた。

 ギンガナムの前へ滑らせる。

 

「こちらを、蔵にお加えいただけませんか」

 

 ギンガナムは、資料を見下ろした。

 初めの一枚をめくり、次の頁で指を止めた。

 

「……ほう」

 

 紙を持ち上げ、顔へ近づける。

 ドン・ズーオは、何も言わなかった。

 

「現物を見てから、ということで」

 

 リー・ルーが言うと、ギンガナムが顔を上げた。

 

「詫びの品として、受け取っておこう」

 

 資料を畳み、懐へ入れる。

 そのまま、ドン・ズーオの前へ戻った。

 

「よい蔵というものは、長く残してこそ価値がある」

 

 指先で、胸元の資料を一度たたいた。

 

「次からは、忘れるでないぞ」

 

 扉が閉まった。

 ドン・ズーオは、しばらく動かなかった。

 

 

     *

 

 

 離れていく警備艦隊の旗艦で、ベントンは報告を聞いていた。

 

「全艦、収容を終えました。負傷者の搬送も、進めています」

「よろしい」

 

 画面の端で、傷ついたジェガンが格納庫へ運ばれていた。

 その向こうに、ドン・ズーオの旗艦が小さく映る。

 

「……あの男に、任せておけるか」

 

 ベントンは、別の書類を引き寄せた。

 日付は、今回の戦いより前だった。

 最初の頁に、都市の名がある。

 

 ダカール。

 

「マーセナスの息子は、リーンホースにいたな」

「以前の記録では。その後は、確認できておりません」

「アーク・ノアに連絡を取れ」

 

 将官は、書類を閉じた。

 

「ローナン・マーセナスの最期について、伝えることがあるとな」

 

 

     ◇

 

 

 リーンホースの艦橋に、ベントン側から通信が届いた。

 

『ローナン・マーセナスのご子息へ、お渡しいただきたい。父上の最期に関わる記録です』

 

 アークは、送られてきた記録の表題を見た。

 

 ダカール。

 

 あの日、アークは月の戦略指令室にいた。

 ブラッドの隣で聞いた通達が、耳によみがえった。

 

 試験運用として実施せよ。

 

 理由は、知らされていなかった。

 アークの指が、画面の前で止まった。

 

『元帥は、ご本人と直接お話しすることを希望されています』

 

 アークは、通信機へ目を戻した。

 

「居場所は、教えられん」

『こちらでお迎えに出ることも――』

「本人へ連絡は取る。話を聞くかどうかは、彼に決めさせる」

 

 返事まで、少し間があった。

 

『それで結構です』

 

 

     *

 

 

 翌日、リーンホースに小さな連絡艇が入った。

 降りてきたリディを、アークが迎えた。

 連絡は、レビルを通して届けていた。

 

 リディは、前の日に聞いたミネバの言葉を思い出した。

 戦いが終わったあと、サダラーンの艦橋で告げられた言葉だった。

 

「リディ。そなたは、シュウの陣営の者だ。レビルへ戻られるがよい」

「サダラーンは、どうするんです」

「連邦の艦が、残骸を拾いに来よう。ここに留まれば、見つかる。我らは、グラナダ近くのコロニーの残骸の陰へ移る」

 

 サダラーンは、その日のうちに、静かに宙域を離れていった。

 リディもレビルへ戻り、そこでアークからの連絡を受けたのだった。

 

 リディは、目の前のアークへ向き直った。

 

「父のこと、と聞きました」

 

 アークはうなずき、艦橋とは別の打ち合わせ室へ案内した。

 卓の上に、端末が一つ置かれている。

 

「ベントン元帥からだ。今、君がどこにいるかは伝えていない」

「元帥が、俺に?」

「ああ。直接、話したいそうだ」

 

 リディは、まだ座らなかった。

 

「なぜ、今なんです」

 

 アークは、撤収した警備艦隊のことを説明した。

 発射を止めるよう求めた、ボッシュの報告にも触れた。

 

「強硬派と、手を切ったということですか」

「少なくとも、部隊は引き揚げた」

「そのあとで、この話が来た」

「そうだ」

 

 リディは、端末へ目を向けた。

 

「艦長は、もう中身を確認されたんですか」

「命令の記録は、見た」

 

 アークは、それ以上言わなかった。

 リディは椅子を引き、腰を下ろした。

 

「……話を、聞きます」

 

 

     *

 

 

 画面に、白髪の将官が現れた。

 

『リディ君。ベントンだ。時間を取ってくれて、感謝する』

「父のことで、お話があると」

『うむ。あの攻撃を、軍の全員が承知していたわけではない。君にも、知っておいてもらいたかった』

 

 画面の隅に、一枚の記録が映った。

 ブラッド・レイへ出された、実射の命令。

 照射する場所には、ダカールの名があった。

 父のいた施設も、その範囲に入っていた。

 

 リディの目が、命令の末尾へ下りていく。

 

 ドン・ズーオ。

 

『この男だ。今回も、私の部隊を残したまま撃とうとした』

 

 リディは、名前を見つめていた。

 あの光を撃たせたのは、誰だ。

 何度も胸の中で繰り返した問いに、答えが出ていた。

 

『私は、あの日、撃たれる直前まで君の父上と通信をしていた。記録も残っている』

 

 ベントンが、手元を操作した。

 

『こちらが再三、増援を要請しているにもかかわらず、送られてくるのは、旧式のジェガンばかりです。これでは、十分な制圧など――』

 

 父の声だった。

 

 リディの指が、膝の上で止まった。

 

『今の我が方の戦力では、旧式を用意するのがやっとなのだ』

 

 父の声のあとに継ぎ足されたベントンの声は、穏やかだった。

 

『君にはつらい思いをさせて、申し訳なく思っている。新型機を回せるよう、こちらも努力している。もう少し、持ちこたえてくれ』

 

 通信が、ぷつりと途切れた。

 

 画面の中のベントンは、姿勢を変えなかった。

 

『聞いてのとおりだ。発射のことなど、私は知らされていなかった。君の父上と同じく、頭越しに撃たれたのだ』

 

 リディは、口を開かなかった。

 

 記録の中のベントンは、父を気遣い、援軍を送ろうとする上官だった。

 画面の中でも、同じ気遣わしげな顔をしていた。

 

『これで、君の敵が分かっただろう』

 

 ベントンが、少し身を乗り出した。

 リディは、ゆっくりと膝の上の手を開いた。

 

「……記録は、受け取ります」

 

 背筋を伸ばし、頭を下げた。

 それ以上は、何も言わなかった。

 

 通信が切れた。

 暗くなった画面に、自分の顔が映っていた。

 

 

     *

 

 

 打ち合わせ室を出ると、遠くで整備員たちの声がしていた。

 リディは、その声が聞こえなくなる角まで歩いた。

 

 足が、止まった。

 

 耳には、まだ父の声が残っていた。

 疲れた声だった。

 それでも、増援を求める言葉を途中で引っ込めはしなかった。

 

 その言葉に返されたのは、新型機を回すという約束だった。

 父のもとへ、その新型機が届くことはなかった。

 

「……父が求めた増援を、旧式機だけで済ませたのは、お前じゃないか」

 

 低い声は、誰にも届かなかった。

 

 リディは、受け取った記録を握りしめた。

 ドン・ズーオの名と、父の最後の声が、そこに一緒に入っていた。

 

 

     ◇

 

 

 今回の共同作戦で使われた中継設備は、ドン・ズーオ側の技術部門が管理していた。

 ベントンの部隊が去ったあとも、設備に残った通信の記録は調べることができた。

 

「提督。ベントン元帥の側から、リーンホースへ私信が出ておりました」

 

 オペレーターの報告に、ドン・ズーオが顔を上げた。

 

「中身は」

「ダカールの、発射命令の記録です。宛先は、ローナン・マーセナスの子息」

 

 ドン・ズーオの手が、肘掛けを握りしめた。

 

「……ベントンめ。裏切ったな」

 

 リー・ルーが、手元の記録をめくった。

 

「面談には、リーンホースの回線が使われています。それより前の呼び出しは、レビルへ中継されていました」

「シュウ・シラカワの艦か」

「はい」

 

 リー・ルーは、オペレーターへ向き直った。

 

「レビルに関わる中継記録を調べなさい。どこへ連絡を取っているか、確かめるのです」

 

 数日かけて記録を照らし合わせるうち、レビルが連絡を取り続けている相手が浮かび上がった。

 リー・ルーは、並べられた通信先の一つを指した。

 

「この、グラナダ方面の相手は」

「定期的に連絡を取っています。内容までは読めませんが、発信された範囲は絞れます」

「その宙域を、偵察させなさい」

 

 偵察の機体が、その宙域へ送り出された。

 

 やがて、報告が届いた。

 

『グラナダ近郊、コロニーの残骸の陰に、艦影を確認』

 

 映像が、画面へ送られてきた。

 折れた外壁と岩の間に、大きな艦が浮かんでいる。

 

『照合しました。サダラーンです』

 

 リー・ルーが、静かに言い添えた。

 

「ミネバ・ザビの艦です。ジオンの残党を討つ名目には、困りません」

 

 ドン・ズーオは、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ダカールのことを、これ以上嗅ぎ回られては困る。ローナンの息子も、その仲間も、まとめて黙らせる」

「ベントン元帥の部隊は、もうおりませんが」

「ならば、こちらの部隊でやるまでだ」

 

 ドン・ズーオは、窓の外の、空いた宙域を見た。

 

「ホア・シオンとフー・ヂェンに、出撃を命じろ」

 

 オペレーターが、通信機へ向き直った。

 ドン・ズーオは、画面の艦影をにらんだまま言った。

 

「目標は、サダラーンだ」

 

 

                          (つづく)




第61話「父の声」、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 まずは、レビルのシュウとロロ。
 さっきまで「シュウ兄」と泣いてしがみついていた少女が、目を覚ますと「……あの、先生?」。
 シュウは問い詰めることも、名前を呼んで引き止めることもしませんでした。ジュドに「あの娘は、昔から機械いじりを?」と、さりげなく確かめただけ。ミリアを失ったと思ってから長い年月を経て、今のシュウは大人になっています。喜びも疑問も胸にしまって、「不思議なことも、あるものだな」。
 隣のナナイの「……ええ。本当に」に、どんな気持ちがこもっていたのか。それは、もう少し先のお楽しみです。

 ジュドの「お前、泣いてたのか?」にも、気づいていただけたでしょうか。ロロ本人は何も知りません。横で聞いていたシュウだけが、その理由を知っています。

 ムーン・ムーンでは、朱麗が今度こそ、自分の足で帰ってきました。
 出撃の前に、セラがつかみかけてやめた袖。今回は、両手でしっかりつかんでいます。
 ロロの「帰ってくるために、付けたんだから」。バタフライモードは、敵を倒すためではなく、みんなで帰るための羽でした。ただし、補充しないと次は使えません。そう何度も頼れる力ではない、ということも覚えておいてください。
 そして徹夜続きだったロロは、ジュドの腕で、こてんと寝落ち。本当にお疲れさまでした。

 一方、連邦。
 「……結局、撃たれてはおらん」
 「止めたのは、君ではない」
 ベントン元帥は、ついに強硬派から部隊を引き揚げました。三つの派閥が組んでいた形が、ここで一つ崩れます。
 ギンガナムは、リー・ルーから詫びの品を受け取りました。でも、許したとは一言も言っていません。「次からは、忘れるでないぞ」。物でつなぎ止められた関係が、いつまで続くのでしょうか。

 そして、リディ。
 50話で、リディはこう問いかけていました。
 「ダカールを焼いた、あの光。あれを撃たせたのは、誰だ」
 その答えが、今回届きました。
 けれど、リディが本当に受け取ったのは、名前だけではありませんでした。増援を求める、父の最後の声。そして、それに穏やかに答えるベントンの声。18話を覚えていてくださった方は、あの日の通信と、今回聞かされた記録の違いに気づかれたかもしれません。
 面談の席では、リディは礼を守り、何も言いませんでした。
 「……父が求めた増援を、旧式機だけで済ませたのは、お前じゃないか」
 誰にも聞こえない場所で、やっとこぼれた一言です。

 ところが、その私信は、強硬派に筒抜けでした。
 たどられた先にあったのは、グラナダ近郊に身を潜めていた、ミネバのサダラーン。
 「目標は、サダラーンだ」
 ずっと隠れてきたサダラーンの人々に、いよいよ危機が迫ります。

 次回も、どうぞよろしくお願いいたします。
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