GUNDAM TRIANGLE   作:カンキ

62 / 62
いつも『GUNDAM TRIANGLE』をお読みいただき、本当にありがとうございます。

 第62話「岩陰を出る」をお届けします。

 前回は、リディが父の最期の真実を知り、そして連邦の強硬派が、ある艦の居場所を突き止めるところで終わりました。
 静かな回でしたが、最後の一行で「次はどうなるの?」と思っていただけていたら嬉しいです。

 今回は、その続きです。
 そして、久しぶりの大きな戦いの回になります。

 ずっと伏せてきた機体たちが、ついに表舞台に出てきます。
 さらに、あの人物も新しい装備を手に入れて……と、これ以上は言えません(笑)。

 新しい顔ぶれも登場します。
 作者としても、書いていてとても楽しい人物になりました。

 詳しい中身は、あえて伏せておきます。ぜひ本編でお確かめください。

 それでは、第62話をお楽しみください。



第62話 岩陰を出る

 

 

 グラナダ近郊。

 サダラーンの窓の向こうで、折れたコロニーの外壁にビームが当たった。

 外壁の端が、砕けて飛び散った。

 

「前方に連邦艦隊! 右側からも、モビルスーツが接近しています!」

 

 ミネバは、すぐに席を立った。

 

「機関始動。ここを出る。敵を艦へ近づけるな」

 

 先頭には、大きな砲を抱えたガンダムと、上下二つに分かれる変わった機体がいた。

 

 ガンダム試作2号機改修型。乗っているのは、ホア・シオンだった。

 もう一機は、フー・ヂェンのバウ。

 

 艦橋の隅で、リディが画面をにらんでいた。

 レビル艦を出る前、シュウに言われていた。

 

「サダラーンに、残してきた機体を取りに行ってこい」

 

 機体を取りに戻ったばかりで、この襲撃だった。

 

「……連邦が、なぜ今になって」

 

 ミネバが、その横顔へ一度だけ目をやった。

 

「リディ。客人に頼むことではないが……力を借りたい」

「頼まれなくても、出ます。俺の機体も、この艦に積んであるんで」

「ハマーン。そなたも出よ」

 

 茶器を下げようとしていたハマーンの手が、止まった。

 

「……承知しました」

 

 声は、かすれていた。

 

「レビル艦へ救援を求めよ。敵の数と、我らの位置を送れ」

 

 

     *

 

 

 格納庫で、リディは足場を駆け上がった。

 

 バンシィ=アナンケー。

 連邦には「解体して処分した」と伝えてあるバンシィを、五人の博士が、外観も内部も作り変えた機体だった。

 

 隣の整備台では、ハマーンがキュベレイ・アンベリールに乗り込んでいた。

 破壊されたキュベレイダムドをパワーアップさせ、さらに強力にした機体であった。

 大きく張り出した肩の下の、モビルスーツをつかみ潰せる手が、それを物語っていた。

 

 コクピットのハッチが閉じた。

 ハマーンの指の、震えが止まった。

 

『……発進路を開けろ』

 

 リディは、思わず隣の機体を見た。

 

「アナンケー、出る!」

 

 

     ◇

 

 

『ジオンの残党ども。隠れ場所は、もうないぞ!』

 

 ホア・シオンのガンダムの大きな砲は、アナンケーへ向いていた。

 リディは砲口ではなく、相手の肩を見ていた。

 

 ガンダムの肩が、ほんの少し沈んだ。

 狙いが、後ろのサダラーンへ移ったのだ。

 

 その瞬間には、アナンケーはもう、砲と艦の間へ飛び込んでいた。

 

「撃たせるか!」

 

 盾が、ガンダムの砲撃を受けた。

 はじかれた砲撃が、サダラーンの艦橋の上を越えていく。

 

『小僧! ……左右から行け! こいつを艦へ戻すな!』

 

 反対側では、フー・ヂェンのバウが上下へ分かれた。

 上半身がライフルでアンベリールを撃ち、下半身が残骸の陰へ消える。

 

『そちらだけを見ていてよいのか!』

『貴様こそな』

 

 ハマーンのファンネルが、残骸の裏へ先回りし、下半身の進路をビームでふさいだ。

 フー・ヂェンが慌てて軌道を変えた隙に、アンベリールの巨大な手が上半身へ迫った。

 指が、ライフルを握り潰す。

 

『何だ、その手は!』

 

 フー・ヂェンはライフルを捨て、上半身を引いた。

 

「主砲、右の敵を押さえよ。左の残骸に沿って進め」

 

 だが、進路の先にも敵艦が回っていた。

 

 

     *

 

 

 レビル艦の艦橋に、サダラーンからの救援要請が届いた。

 

「連邦の部隊です。ただの見回りにしては、数が多すぎます」

「艦を向けろ。全速だ」

「向けます。ですが、この艦では間に合いません」

 

 艦橋の入口に、ヘルメットを抱えたクワトロが立っていた。

 

「私が先行する」

「頼めるか」

「間に合わせてみせる」

 

 ナナイは、もう格納庫への通信を開いていた。

 

「ナイチンゲールに、長距離航行用のブースターを。……それから、リーンホースへも連絡を」

 

 足場の奥に、ナイチンゲールが立っていた。

 以前、シュウが乗っていたカゲロウの面影が、かすかに残っていた。

 張り出した背に、いくつものファンネルを抱えている。

 

 クワトロは、ヘルメットをかぶった。

 

「クワトロ・バジーナ、出る!」

 

 

     ◇

 

 

 救援要請は、リーンホースを通してグラナダにも回されていた。

 

 知らせを聞いたオードリーが、バナジを見る。

 バナジは、もうヘルメットを抱えていた。

 

「行ってくる」

「お願い、彼女を助けてあげて」

 

 エンハンサーが、発進路へ進んだ。

 もともとあったシルヴァ・バレト・サプレッサーを、解体したユニコーンガンダムで改修した機体であった。

 もう、その姿からユニコーンを見つけることはできなかった。

 

 コクピットは、ユニコーンのものを使っている。

 バナジは、懐かしむように操縦席をなでた。

 

「ユニコーン。……また、お前と戦える」

 

 ハッチの脇に置かれたビーム・マグナムを、エンハンサーの右手が取った。

 

「白麟(はくりん)のバナジ、出撃する!」

 

 

     *

 

 

 同じころ、リュー・ブー艦の格納庫で、ギンガナムは新しい機体を見上げていた。

 リー・ルーが差し出してきた、詫びの品だった。

 

「ギンガナム様あ」

 

 足場の手すりに腰かけて、女が足をぶらぶらさせていた。

 白く塗った顔に、目のまわりを丸く囲んだ濃い化粧。

 メリーガジェット。この機体の、もう一つの操縦席の主だった。

 

「ドン・ズーオのとこの大佐が二人、ジオンの残党狩りに出たってさ。グラナダの近く」

「それが、どうした」

「ずっと隠れてたジオンの艦が、見つかったんだって。もしかしたら、見たことのない機体が出てくるかもよ」

 

 ギンガナムの口の端が、つり上がった。

 

「リー・ルーの詫びの品というのも、悪くないものよな! 出るぞ、メリー!」

「はーい。壊しすぎないようにね」

 

 

     ◇

 

 

 敵艦の艦首で、主砲が弾けた。

 

『サダラーン。前を開ける。そのまま進んでくれ』

 

「バナジ!」

 

 エンハンサーが、ビーム・マグナムで次の狙いをつける。

 

『艦を出せ! 後ろは押さえる!』

 

 ハマーンの声で、サダラーンの艦首が外壁の陰を離れた。

 

 その行く手を、とてつもなく太いビームが走った。

 ビームは、進路の正面に浮かぶ残骸を、丸ごとのみ込んだ。

 

「機関、逆噴射!」

 

 艦橋が揺れた。

 あのまま進んでいたら、艦首ごと消し飛んでいた。

 

 

     *

 

 

 逃げ道の真ん中に、巨大な機体が現れた。

 

 前へ長く突き出た、メガ・ビーム砲。

 頭上には、箱のような武装コンテナが二つ、翼のように張り出している。

 下からは大きなクロー・アームが二本伸び、後ろには太い噴射口が並んでいた。

 

 かつて、連邦軍のガンダム開発計画で造られた、試作のモビルアーマー。

 計画ごと記録から消され、存在しないはずの機体であった。

 その名は、オーキス。

 

 その真ん中に、トールギスが収まっていた。

 拳のガンダムに砕かれた頭は、新しいものに取り替えられている。

 

『見よ! トールギス・デンドロビウムである!』

『あーあ、名乗っちゃった』

 

 別の操縦席から、メリーの声が混じった。

 

『はーい、ばらまくよ』

 

 コンテナの扉が開き、ミサイルが一斉に飛び出した。

 狙いは機体ではない。

 サダラーンの進路の前に、壁のように広がっていく。

 

 リディたちがミサイルを撃ち落としている間に、デンドロビウムはサダラーンの行く手へ回り込んでいた。

 

『邪魔だ』

 

 ハマーンは、ファンネルをまとめて巨体の正面へ叩き込んだ。

 ファンネルのビームが、装甲の手前で、ぐにゃりと曲がった。

 

『ワッハッハッハ! ファンネルなど通用せん! Iフィールドである!』

 

 ならば、とハマーンは機体を下へ回した。

 そのとき、クローの先から大型のビーム・サーベルが伸びた。

 巨大な刃が、アンベリールの目の前をかすめる。

 ハマーンは、たまらず機体を引いた。

 

『ホア・シオン! 右へ回れ!』

 

 フー・ヂェンの声が飛んだ。

 ホア・シオンはジェガン隊を率いて、サダラーンの横腹へ迫った。

 

「バナジ、艦を頼む!」

 

 リディとハマーンが、艦の横と後ろへ回る。

『うん。そこが空くなら、次はこっちだね』

 

 別のコンテナから、ミサイルの列が離れた。

 ただ一機残ったエンハンサーが、盾で受ける。

 バナジは、艦の前を離れられなかった。

 

 

     ◇

 

 

 遠くから、一本の長い噴射の筋が近づいてきた。

 

 その先から、ナイチンゲールが飛び込んできた。

 背から散ったファンネルが、サダラーンの頭上のミサイルを次々と撃ち落とす。

 

 アンベリールから、ハマーンの声が飛んだ。

 

『遅いぞ、クワトロ!』

『待たせた』

 

 ギンガナムが、砲身をナイチンゲールへ向けた。

 

『その動き……金色の機体に乗っておった男か!』

『あのときの借りを、取り立てに来た』

 

 クワトロのファンネルが、艦を守る。

 リディ、ハマーン、バナジの手が、ようやく空いた。

 

 ナイチンゲールが、正面からビーム・ライフルを撃つ。

 デンドロビウムが向きを変え、Iフィールドでそれをそらした。

 その間に、リディのビーム・ライフルとバナジのビーム・マグナムが、反対の側から撃ち込まれる。

 メリーは、あわてて巨体をそちらへ向け直した。

 

『ねえ、ギンガナム様。あっちこっちから来られると、向けるのが追っつかないんだよね。……別々にやろうよ』

『よかろう! 小生は、あの男を相手にする!』

 

 中央の接続が外れた。

 トールギスが、ナイチンゲールへ飛び出した。

 

 

     *

 

 

 身軽になったトールギスは、速かった。

 サーベルの一撃が、ナイチンゲールの盾の表面を焼いて滑る。

 

『百式の男か! 今度は、その機体を置いていけ!』

 

 百式改で戦ったとき、クワトロは一度だけ、ギンガナムの癖を見抜いていた。

 加速の直前に、背中の推進器がわずかに開くのだ。

 だが今日のギンガナムは、その癖を見せなかった。

 どちらも、決め手を入れられない。

 

 その後ろで、メリーの巨体が、サダラーンへミサイルを放った。

 ホア・シオンも、それを見ていた。

 

『あの大砲から逃げたところを叩く! 部隊を広げろ!』

 

 ジェガン隊が、ミサイルの壁の外側で待ち構える。

 バウの下半身は、アンベリールの背後を狙っていた。

 

 ハマーンが、機体をひねった。

 巨大な手が、下半身の翼をつかむ。

 アンベリールはそれを横へ振り回し、回り込んでいたジェガンを、まとめて弾き飛ばした。

 

『貴様らの好きにはさせん!』

 

 翼を失ったバウの下半身が、流れていった。

 フー・ヂェンは上半身を引き、味方艦へ退くしかなかった。

 

 

     ◇

 

 

 ギンガナムは、ナイチンゲールの刃を受けながら、横目でメリーの方を見た。

 

『メリー! それだけの砲を、なぜ撃たん!』

『今撃ったら、避けられるよ』

『避ける前に叩けばよい! ええい、その図体で、何をちまちまと! 小生に代われ!』

『……はいはい。じゃ、やってみなよ』

 

 トールギスが、巨体の真ん中へ戻った。

 操縦が、トールギスの席へ渡る。

 

『見ておれ! こう使うのだ!』

 

 さっきまで道をふさいでいた巨体が、まっすぐ斬り込んできた。

 メガ・ビーム砲が、ナイチンゲールのいた場所を焼き払う。

 続いて、クローの大型サーベルが振り上がった。

 

『各機、正面を離れろ!』

 

 リディは、わざと艦とは反対の方へ飛んだ。

 大型サーベルの先が、アナンケーの盾を削り、機体ごと弾き飛ばす。

 それでもギンガナムは、リディを追って、艦から向きをそらした。

 

「今のうちに距離を取れ。主砲、後ろのジェガン隊を近づけるな」

 

 その間に、リディは艦の後ろへ戻っていた。

 ホア・シオンのガンダムが、最後の突撃をかけてくる。

 

『残党の艦ごと、まとめて沈めてくれる!』

 

 ガンダムの大きな砲が、艦へ向く。

 さっきと同じように、肩が沈んだ。

 

 その瞬間、アナンケーのサーベルが、砲身を根元から斬り落としていた。

 

『ば、馬鹿な……!』

 

 リディは、とどめを入れなかった。

 艦の前へ、戻っただけだった。

 

『……回収しろ! 部隊を、艦へ戻せ!』

 

 

     *

 

 

 デンドロビウムの前で、ナイチンゲールがビーム・ライフルを撃ち続けていた。

 ギンガナムは、メガ・ビーム砲を振って追いかける。

 

『その程度では、何度撃とうと同じよ!』

 

 あれだけの巨体を、あの勢いで振り回すなら、癖は隠せないはずだ。

 

 クワトロは、トールギスの背中を見た。

 加速の直前、背中の推進器がわずかに開いた。

 

 クワトロは、ギンガナムが突っ込んでくる方向を読んだ。

 ナイチンゲールを横へ逃がしながら、ファンネルだけを、デンドロビウムの背中の側へ回り込ませる。

 そして、正面からビーム・ライフルを撃った。

 

 メリーの画面に、正面防御の表示が浮かんだ。

 Iフィールドが、ライフルのビームをそらす。

 

 背中の側で、ファンネルが一斉に光った。

 ファンネルのビームが、デンドロビウムの背中の装甲をたたいた。

 

『何っ……! なぜだ、同じファンネルが!』

 

 ハマーンは見た。

 自分のファンネルをはじいた巨体に、クワトロのファンネルが届いている。

 

『……そういうことか』

 

 装甲は、表面が焦げただけだった。

 

『無駄だ! この程度、当てればよいと思ったか!』

 

 ギンガナムが、背後へ振り向こうとした。

 その先へ、ハマーンがファンネルを回した。

 今度は、ナイチンゲールとは別の側から、ファンネルのビームを浴びせる。

 

『おじさーん。囲まれてるよ』

『分かっておる!』

 

 メガ・ビーム砲の砲口が、サダラーンへ戻った。

 

 エンハンサーの警告表示に、赤い文字が重なった。

 ――NT-D。

 バナジが狙いを定めるより先に、機体が射撃の姿勢を取った。

 

「……合わせてくれるのか」

 

 Iフィールドがこちらへ向く前に、ビーム・マグナムの一撃が、長い砲身を横からたたいた。

 砲身が跳ね上がり、砲口が艦からそれた。

 

『リディ、砲が上がった!』

 

 アナンケーが、砲身の下へ入る。

 クローのサーベルが、上から下りてきた。

 アンベリールの巨大な手が、そのアームを横からつかんだ。

 

『早くしろ!』

 

 リディは砲身の付け根へ、サーベルを振り抜いた。

 一度では斬り落とせない。

 噴射を強め、力ずくで押し切った。

 

 メガ・ビーム砲が、巨体から離れた。

 

『ぬうっ!』

 

 アンベリールとアナンケーが、左右へ離れる。

 その間を、エンハンサーのビーム・マグナムが抜けた。

 むき出しになった付け根を撃ち抜かれ、片側のクローが、だらりと垂れ下がった。

 

『はい、おしまい』

 

 操縦が、メリーの席へ切り替わった。

 

『まだだ! 小生のトールギスは――』

『元気だね。だから、帰れるうちに帰ろ』

 

 メリーは、ギンガナムの画面へ映像を送った。

 ホア・シオン隊も、フー・ヂェン隊も、もう退いている。

 そしてサダラーンの前には、四機が立ちふさがっていた。

 

『あれを全部相手にして、今度は誰に拾ってもらうの?』

 

 ギンガナムは、ナイチンゲールを見た。

 

『……百式の男。よい機体を得たな』

『あの金色の残骸は、まだ蔵にあるのか』

『あるとも! 取り返したくば、小生の前まで来い!』

 

 メリーは四機へ正面を向けたまま、デンドロビウムを後退させていく。

 

『次は、あたしのやり方にも最後まで付き合ってよね』

『次は、あの大砲を二本にする!』

『……聞いてないねえ』

 

 

     ◇

 

 

「敵艦隊、後退しています。追撃はありません」

 

 艦への直撃はない。

 ミネバは、艦の周りへ戻った四機を見た。

 

「よく守った。各機、順に帰艦せよ」

 

 リディは、敵艦が去っていく方を見た。

 あの部隊を、誰が差し向けたのか。

 

 エンハンサーの操縦席で、バナジはグラナダへ回線をつないだ。

 

「オードリー。艦は守れた。こっちも無事だ」

『……無茶は、してない?』

「してないよ。ユニコーンが、守ってくれた」

 

 バナジは、操縦席をそっとなでた。

 

 艦橋の扉が開いた。

 機体を降りたハマーンが、壁に手をつきながら入ってくる。

 指は、また細かく震えていた。

 

「……ミネバ様。お茶が、冷めてしまいました」

 

 ミネバは、少しだけ笑った。

 

「落ち着いたら、淹れ直してくれ」

 

 ミネバは、艦長へ向き直った。

 

「この場所は、知られた。もう、岩の陰には戻れぬ。……シュウと合流する。針路を、レビル艦へ」

 

 サダラーンは、こちらへ向かっているレビル艦へ、艦首を向けた。

 

 

                          (つづく)





 第62話「岩陰を出る」、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 今回は、新型機のお披露目の回でした。
 バンシィ=アナンケー、キュベレイ・アンベリール、ナイチンゲール、エンハンサー。そして、トールギス・デンドロビウム。
 一話に五機も新しい機体が出てくる、にぎやかな回になりました。どの機体にも「この機体だからできたこと」を一つずつ持たせたつもりですが、いかがでしたでしょうか。

 まずは、リディです。
 サダラーンにとって、リディはシュウ側から来た客人です。だからミネバは命令せず、「力を借りたい」と頼みました。リディの返事は「頼まれなくても、出ます」。
 戦いの中では、ホア・シオンの肩がわずかに沈むのを見て、砲撃が艦へ向く前に飛び込みました。最後に同じ癖を読んで砲を斬り落としながら、とどめは刺さずに艦の前へ戻る。リディらしい戦い方を描けたのではないかと思います。

 ハマーンは、コクピットのハッチが閉じた瞬間に人が変わります。
 艦の中では茶器を運び、声をかすらせていた人が、乗った途端に「発進路を開けろ」。そして降りれば、また指を震わせて「お茶が、冷めてしまいました」。
 アンベリールの大きな手でバウの下半身をつかみ、ジェガンごと振り回す場面は、作者のお気に入りです。

 グラナダでは、オードリーが「お願い、彼女を助けてあげて」とバナジを送り出しました。
 この「彼女」に込めたものは、今はまだ書かずにおきます。
 バナジのエンハンサーは、見た目からはもうユニコーンだと分かりません。それでも操縦席に座れば、「また、お前と戦える」。そして最後、ほんの一瞬だけ、あの赤い文字が浮かびました。

 クワトロは、ついにナイチンゲールで出撃しました。
 「クワトロ・バジーナ、出る!」
 この一言を書けただけでも、作者は満足です(笑)。
 百式改で戦ったときに見抜いた、ギンガナムの加速の癖。今回はそれが、借りを返す一撃につながりました。正面のライフルでIフィールドを引きつけ、背中へ回したファンネルで当てる。同じファンネルなのに、なぜクワトロのものだけが届いたのか。ハマーンの「……そういうことか」で、伝わっていたら嬉しいです。

 そして、新しく登場したメリーガジェット。
 ギンガナムを「おじさーん」と呼び、慎重に進路をふさぐ戦い方をする彼女と、「なぜ撃たん!」「小生に代われ!」と大きな武器を思い切り振るいたいギンガナム。どちらにも戦いの理屈があるのに、相手のやり方では満足できません。
 最後に「はい、おしまい」と操縦を取り返し、ギンガナムを連れて帰ったのも彼女でした。「次は、あの大砲を二本にする!」「……聞いてないねえ」。この二人のやり取りを、これからも楽しんでいただけたら嬉しいです。
 名前に聞き覚えがある、と思われた方もいるかもしれません。彼女については、これから少しずつ描いていきます。

 戦いのあと、ミネバは言いました。
 「この場所は、知られた。もう、岩の陰には戻れぬ」
 隠れて暮らしてきたサダラーンが、ついに岩陰を出て、シュウたちのもとへ向かいます。
 リディが胸の中でつぶやいた「あの部隊を、誰が差し向けたのか」という問いも、まだ答えは出ていません。

 次回も、どうぞよろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。